僕らのバドライフ

ゆきたん

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中体連地区大会

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1話 1年生中体連地区大会

シングルス1回戦めっちゃ疲れた。
他の学校の人との試合は今回の大会が初めてだし、部活内でだってまともには試合した経験もなかった。

それで急に大会でろなんて嫌がらせとしか思えない。
けどとにかくバドミントンが好きだし、試合でるからには絶対負けたくない。

...そんな勢いだけで1回戦はなんとか勝った。
次は30分後かな?やばい体持たないかも。


「佐藤君?」

トイレ脇の水飲み場で顔を冷やしていると、後ろから声がかかった。
同じ1年の...確か1回戦のさっきの相手だった。

「あ...久保くんだったよね?さっきの試合疲れたね」
「佐藤君さ。たぶん...初心者だよね?」
「4月からね。まともに試合初めてやった」
「初めて?まじで?」
「まだまともにうてなくて・・・よくフレームショットするから全然試合させてもらえなくてさ。僕みんなに嫌われてるみたい」
「そういえば応援誰も居なかったね。」
「・・・」
「ねえ。俺さ。本気でこの大会優勝狙ってたんだ。バドはジュニアで小学からやってるし。」
「うん」
「友達は相手のまぐれ勝ちだとか俺に運ないとか言ってるけど」
「・・・」
「俺そう思わない。お前強い。優勝すると思う。」
「そんな! 僕もう結構足に来てるよほら」
「何言ってんだよ!この俺に勝ったんだから優勝しないと許さないからな!」


これが彼との出会いだった。こいつは隣の中学校の一年久保才悟(さいご)。
小学5年からバドミントンしてて小学校の大会ではそこそこいい成績だったらしい。そんな相手に勝ってしまったらしい僕。たぶん...まぐれだ。


そして2回戦が始まった。シードの相手。
相手はミスも多くてそんなに強くなかったけど、体がでかくてスマッシュがめちゃくちゃ早かった。
相変わらず僕の学校のメンバーの応援はなく、しぶしぶラインズマンが1名いる程度だった(しかもメンバー多いから女子)
けど1回戦とは違ってギャラリーがちょっとだけ増えているように見える。

あ。さいごだ!
応援に来てるのか負けたらいじめるつもりできてるのか・・・
分からないけど試合に集中!

相変わらずフレームショットの連発。
でもなぜかそれが運良く相手コートに落ちるので辛うじて勝ったけど、相手にとってはなんとも後味の悪い試合になってしまったと思う。

「俺は今の試合がだめな試合だとは思わない」

買いかぶりすぎだよさいご!
でもこうやって試合後はなしかけてくれる友達ができたのは満更嫌でもなかった。
僕の学校ではここまでバドミントンに熱中している部員はいない。
顧問でさえ、この試合終わったら呼びに来いと車で休んでいる始末。

「佐藤。お前さ。素直に相手に返しすぎ。それじゃぁ疲れちまうぞ」

そんなアドバイスをもらえるのも嬉しくて涙がでそうだった。
同じバドミントン好きっているもんだなーってね。

そして3回戦。
中々素直じゃない返し方が難しかったけど、さいごのアドバイス通り相手のいないところを狙ってみた。
相変わらずフレームショットが多いけど、打数を少なくして勝つことができた。

「やるじゃん!佐藤!ベスト8だぞ!」

ほんとだ。確かにこれでベスト8。
新人戦とはいえよくここまで勝つことができたなと思った。
もし順調に勝つことができたらあと3試合;:
うえぇぇー

「あと3試合も体持つかな・・・」
「なんだよお前・・・やっぱ優勝狙ってるのかよ」
「あw」

昼はさいごに誘われて相手のメンバーと一緒にご飯を食べた。
いつも一人だった僕にとってすごく嬉しいお誘いだった。
それにしてもこのメンバーのなんともバドに熱い事!
食事中もバド話で盛り上がっていた。

「やっぱり強かったのな。ミス多いからまぐれだと思ってたんだけど」
「コーチは?」
「練習どうやってるの?」

一つ一つ答えていった。
こんな普通の話が嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

そしてベスト8ともなると応援の数が違う。
さすがに自分の学校のメンバーもちらほら応援に来始めていた。
さいご達はもちろん、さっきの僕の対戦相手も何名か見に来ていた。
ミス連発で不思議?と勝つもんだから試合後は別な意味でどよめきが起こる。

「準決勝の相手は山岡中だ。手ごわい。んで対戦表の反対側も全部山中。」
「強いの?」
「見てなかったのか?山中まだ誰も1セットもとられていないぞ。」
「ええ?!!全試合で?」
「ああ。4強がお前と山中3人って事だ。」
「えぇ?!!もう足やばい」
「足止めるな。動いとけ」

負けたくない。
これで勝てばみんなにも認めてもらえる。
もっともっとバドミントンの仲間が増える。
バドミントンの話ができる!
そう思って一生懸命にプレイをした。
その結果。準決勝も山中にストレートで勝ってしまった。

「お前!すごいよ!!!佐藤!」
「なんでお前が泣くんだよ。」
「泣いてない。なんかマジ嬉しいなぁ。絶対優勝しろよ!まけたらコロスw」
 

そして決勝!
ついに優勝の二文字が見えてきた。
新人戦だし相手は同じ中学生。
いくら強いといっても勝てない相手ではない。
そういい聞かせて思いっきりプレイをした。

さいごの悲鳴にも似た叫び声が聞こえる。
...応援っていいもんだな。

...でも相手はやっぱり強い。
あっという間に1セット目11点先取されてしまった。11-3

「素直じゃないところに打ちすぎだよ。たまには素直にさ」
「どっちだよ!」
「だからどっちも織り交ぜるんだよ。体狙ってもいい」

相手強い。でもさ?
どんなに強い相手でも...こっちがいいショット打てなくても...相手のコートに返せば負けないんでしょ?

「なんだよこの試合」
「どんだけラリー続くんだ?」

観客からどよめきが起こる。
僕のフレームショットも相手が頑張って取るもんだからラリーが終わらない。
20打オーバーが何回もあった。
隣のコートの試合してる人もこっちみて一時試合中断する始末。

「佐藤ぉぉぁ!粘れぇぇぉ!」

16-12
ああ。お前の言うとおりに粘ったよ。けどもう足が限界!
練習基礎トレはきちんとしてたけど、実戦ってやっぱり違うな・・・。

18-16
あと2点まで追いついたところでミスを連発。
フレームショットも相手コートに入らなければ意味がない。
1セット目を落としてしまった・・・

「おい。まだ負けてないぞ?どうした?」

コート脇でタオルを持ってうずくまる僕に声をかけるさいご。
その周りを数人のギャラリーが取り囲む。

悔しくて・・・悔しくて。
こんなにみんな応援してくれているのに負けてしまった自分に悔しくて涙が止まらなくて顔を上げれなかった。


そしてまたこれが運命の出会い。

「佐藤君。ラケットもってちょっと来なさい。」

相手チーム、山岡中の監督だった。
相手チームの監督と試合中会話するなんて前代未聞。
試合終った後なら感想やらアドバイスもらうことはあるんだけど。

「佐藤君。ちょっとそのラケットかしてごらんなさい。」

言うとおりにした。


「何だよこのラケット。ふる!」
「スチール製?傷だらけじゃん。」
「ガットフニャフニャ。」
「そう言えばシューズも学校のうち履きじゃんw」

周りは言いたい放題。
どこから聞こえて来たのか知らないけど、僕は観客を睨みつけた。

「佐藤君。いいたい人には言わせておきなさい。」

そういうと監督はカバンからマジックのようなものを取り出して、おもむろに僕のラケットのガットに落書きを始めた。

「あ。ちょっと先生」
「いいかい?佐藤君。これからはここに当てるつもりで打ってごらん。」

僕のラケットの白いガットの中央に直径5cmくらいの赤い円を書かれた。
白いガットに赤い丸。なんか旗振ってるみたいで急におかしくなった。

「どうかしたかい?」
「いえ。なんか旗みたいで」
「そうだね。日の丸だね。君は日の丸を目指しなさい」

日の丸を目指しなさい。
この...先生の言葉が深く深く胸に突き刺さった。


2セット目。
僕は山中の監督の言うとおり、日の丸めがけてシャトルを打った。
あれ?なんだろうこの感覚。楽しい。
さっきよりもラリーがもっと続く。もっと続けたい。

「なんだあいつ。笑ってるぞ。50ラリーこえてるのに」

もっと続けたい!
もっと打ってきて!

相手は2セット目開始後から終止不機嫌だった。
確かに自分の学校の監督が、相手の学校の生徒にアドバイスをしていい気分のはずがない。
調子を乱した相手は僕の粘りによって2セット目、3セット目を落とした。
つまり...僕が優勝した!!

「うおおぉぉー!!よくやったぁ!!佐藤!!」
「だから何でさいごが泣くのさ」
「泣いてないって!でもすごい嬉しいんだよ!」

うち履きの佐藤。
この時ついた僕のはじめてのあだ名がこれだった。  
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