上 下
1 / 2

記憶

しおりを挟む
行きなさい、ベノラ!!」
「行け、ベノラ!!」
「「悔いのない冒険を突き進め!!」」

 「・・・うわぁぁぁ!!!」
 目覚めの悪いものを見た。今のは誰なのかはわからない、とても大事な存在だったはずだ。
でも、思い出せない。自分のことに関わることなのに思い出せないのだ。
そうすると、気づいてしまった。
自分の名前すら分からないのだ。何者なのかも忘れてしまっているようだ。
「私は誰なのだろうか」



 ふと、周りを見るとまるで真っ白な空間にいるようだ。それはとても清潔であり、汚れなんてものが一切感じられなかった。だが私は妙にそれが違和感のように感じた。
何故だろうか?別に何かの臭いもしないのに、とても変だと思ったのだ。

それを考えるのはあとにしよう。今はここが何処なのか、探索をしようじゃないか。自分の中の好奇心にあてられて、考えを放棄した。

 私は不思議な形をしたベッドから出て目の前の扉に行くと、その扉は自動に開いた。だが私はそれに別段驚くこともなく前に進んだ。もしかしたら私はこの場所を知っているのかもしれない。
ということは私が何者なのかも分かるかもしれない!そんなことが頭に浮かび、ワクワクしてきたのだ。もしかしたら、記憶が喪失した状態で知らないところを探索しているからなのかもしれない。わりと私はこういうことが好きなのかもしれない。

色々探索しているうちに、気づくと家族部屋と書かれていた部屋の前に来ていた。早速中に入ることにした。そしてやはりこの扉も自動に開く。他の部屋に入るときも扉が自動に開いたからこれもそうだと思ったが。
入るとすぐ感じたのだが、なんだかとても居心地がいい。別段何か変わった空間ではない、一つ大きな机がありその向こうに大きなテレビがある。他にも様々な家具もあるが、実にシンプルな空間である。だけど、私はこの部屋を見てとても安心を得られたのだ。

そして確信したのだ、ここは私の家なのだと。
ふと、近くに飾ってあった写真立てに目が入った。気になり中を覗いてみた。その写真には人が三人写っておりまるで家族写真のようだ。この中で一番背の低い人物こそが私なのだろう。先程、鏡が置いてある部屋に入ったのだがそこに写っていた人物がこの写真にいる人物、まぁつまり私だ。
とすると、残りの二人は家族写真だと想定するとおそらくは父親と母親の機能を持つ存在だろう。

「・・・父親と母親という言い方は何か固く感じるなぁ」
「何かもう少し言いやすい呼び方があった筈なんだが・・・」
少し考えると二つの呼び名が浮かんだ。
「・・・パパ、ママ。」
そうだ、確かそう呼んでいたのだ。いや、これからもそう呼ぶのだろうな。そう思いもう一度写真を見るとあることに気づいた。
「・・・あれ?もしかしてさっき見た夢に出てきた二人なのでは?」
「とすると、私の名前は・・・べノラだ。」
そうだ。私はべノラだ。とても大切なこと。
もう忘れないようにしよう。
そう私は心に刻むのだった。
しおりを挟む

処理中です...