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1章 普通の兄弟。

1話 小さい頃

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小さい頃の一番最後の記憶は、幼稚園の頃の記憶。


両親と妹達と一緒に広い公園に遊びに行った日のこと。



「あんまり遠くに行っちゃだめよー」
「はーい!行こっ、チヅ!」


弟に手を引かれて、その日はとても調子が良かった俺はそのまま時間も忘れて4人で遊んでいた。



「千月、もっとあっち行こーよ!」
長女の風深乃。いつも正義感が強い。

「………あ、…鳥さん。」
次女の藍花。物静かな末っ子。

「チヅ!見て見てバッタ!」
そして次男の柚鳥。明るくていつも笑顔。



皆大事な妹と弟。
少し体が弱くても俺が守っていく………そう思っていた矢先のことだった。




「ねぇねぇ君達、何してるの?」





これからの俺達の人生を狂わす、2人の男。


両親の目が届かない場所に来た途端、声をかけられた。



「バッタ捕まえてるの!」



人に恐怖心というものがない柚鳥がバッタを小さな手に乗せたまま男のそばに駆け寄る。



「へぇ……そうなんだ。お兄さん達にもよく見せて?」
「うん!ほら………」



興味を持ったのか風深乃も柚鳥の隣まで駆け寄る。

警戒心が強い藍花だけが俺の後ろに隠れた。



「………怖い……」
「…あ、ごめん、そうだよね……、風深乃!柚鳥!あんまり知らない人に………」




そう言いかけた直後の事だった。






「………え」




ふと顔を上げた柚鳥の視界の先に、男の手が伸びてきた。




「………ッむぐ!?」



気付いた時には遅くて………柚鳥は、男の1人に小さな体を持ち上げられてしまった。




「なッ………!柚鳥!!」




咄嗟に手を伸ばしたけど、その次に聞こえてきたのは後ろにいたはずの藍花の悲鳴。




「……っや、やぁぁ…!」




精一杯の怯えた声で藍花は浮いた足をばたつかせていた。



「藍花を離してよ!!」



風深乃が藍花の方を向いて叫んだけど、その隙に柚鳥を抱えていた方の男にもう片方の手で襟首を掴まれて持ち上げられた。



「やッ…やだ、お母さん」



持ち上げられた途端怖くなって泣き出す風深乃。




「助けて……千月………!」




そのまま風深乃が俺の名前を呼ぶと、藍花も柚鳥も同じように俺の名前を泣きながら呼んだ。




「……さて、お前は兄弟を見捨てて逃げるか?」






けど男達にそう言われて………従わない余地がなかった。






ーーー



「おら、さっさと車乗れ!!」
「やだ…、やだぁ……!お父さん、お母さん」



両親のところへ声が届くはずもなく4人まとめて後部座席に無理矢理乗せられた。



鍵がかけられて逃げ出すことも出来なくて、そのまま山の奥に………途中から無理矢理飲まされた睡眠薬で眠ってしまって、気が付けば森の奥にいた。




そこにあった1軒の家に運ばれて………目が覚めた時には既に地獄は始まっていた。


「怖いよ……千月………」
「大丈夫だよ……俺が、何とかするからね。」



本当は泣き出しそうなくらい怖かった。



さっきの2人以外にも複数の男達に囲まれて、小さい子供が怯えないはずが無い。



けどそのうち、それ以上の恐怖が俺達を襲った。





「じゃあ俺はこっちの子使おっかなー」
「きゃ……っ、やめ」


太った男が風深乃を掴んで、



「ひッ……あ、」
「この子可愛いねぇ……この子にしよう」



背の高い男が柚鳥を掴んで、





「いっぱい調教してあげるね………首輪付けよっか……」
「……え………?」 



痩せ型の男が藍花を掴んだ。





「さて……君は俺たちと遊ぼっか」
「やめてくださ………」




どれだけ抵抗しても小さな体じゃどうすることも出来なくて、




「や"…ッ!いや"ぁ"ぁぁ"!!!」

風深乃の苦しそうな悲鳴。


「チヅ…!チヅ、やだ、やだ!!」

必死に俺の名前を呼んで泣き叫ぶ柚鳥。


「……っあ"、ぉ"……」

だんだん壊れていく藍花………






この地獄は、10年も続いた。








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