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不可思議物語
~デビルバイト~
しおりを挟む【プロローグ】
営業職に就職してから5年が経った
拓也は今年で25歳になり、あの「選択の案内人」に決められた人生を送り続けていた
営業の仕事は相変わらず辛かったが、何とか続けることができていた
しかし給料は安く、毎月ギリギリの生活を送っていた
「もっとお金があれば」
そんなことを考えながら、拓也は今日も残業をしていた
【友人からの誘い】
ある金曜日の夜、拓也のスマホに久しぶりの連絡が入った
それは高校時代の同級生、健太からだった
健太「拓也、久しぶり!元気?」
拓也「健太か!久しぶりだな。元気だよ」
健太「実はさ、めっちゃいいバイトあるんだけど、興味ない?」
拓也「バイト?俺今仕事してるし」
健太「いやいや、これ土日だけの単発バイトなんだ。
しかも日給5万円」
拓也「5万!?それマジ?」
健太「マジマジ。ただちょっと変わった仕事なんだけどね」
拓也「変わったって、どんな仕事?」
健太「詳しくは会って話すよ。明日の昼、例のカフェで会おうよ」
日給5万円は魅力的だが、何か怪しい気もした
でも健太は高校時代からの友人だ。
悪いことをするはずがない
拓也「わかった。明日行くよ」
健太「よっし!じゃあ明日ね!」
電話を切った後、拓也は不安と期待が入り混じった気持ちになった
【カフェでの密談】
翌日の昼、拓也は約束のカフェに向かった
店内に入ると、健太はすでに席に座っていた
しかし健太の様子がおかしかった
顔色が悪く、目の下には深いクマができていた
拓也「健太、大丈夫か?なんか疲れてない?」
健太「あ、拓也!いや、最近ちょっと忙しくてさ」
拓也「で、そのバイトって何なの?」
健太は周りを見回してから、小声で話し始めた
健太「実は、清掃の仕事なんだ」
拓也「清掃?それで日給5万?」
健太「うん。でもただの清掃じゃなくて、特殊な場所の清掃なんだ」
拓也「特殊な場所?」
健太「誰も住んでない古い建物とか、事故物件とか、そういう場所」
拓也は背筋が凍った
「事故物件?」
健太「でも大丈夫!俺も3回やったけど、何も起きなかったから!」
拓也「本当に大丈夫なのか?」
健太「大丈夫大丈夫!それに人手不足だから、拓也も働けるか聞かれてさ」
拓也「人手不足ってことは、みんな辞めちゃったの?」
健太「いや、そういうわけじゃなくて、ただ忙しいだけだよ」
健太の目は泳いでいた。明らかに何かを隠している
でも拓也は5万円という金額に目がくらんでいた
拓也「わかった。やってみるよ」
健太「マジ!?ありがとう!じゃあ明後日の日曜日、
朝8時に駅前集合ね」
拓也「了解」
健太「あ、それとさ」
拓也「ん?」
健太「何があっても、絶対に途中で帰らないでね」
拓也「え...?」
健太「いや、ちゃんと最後まで仕事しないと給料もらえないからさ」
健太は無理やり笑顔を作っていた
その笑顔が、どこか不自然に見えた
【不気味な場所】
日曜日の朝8時、拓也は駅前で健太と待ち合わせた
健太「おはよう!じゃあ行こうか」
拓也「現場ってどこなの?」
健太「車で1時間くらいの山の中だよ」
拓也「山の中?」
健太の運転する車は、どんどん街から離れていった
周りの景色は徐々に森に変わり、人の気配がなくなっていった
拓也「ねえ、本当にこんな場所に建物あるの?」
健太「もうすぐ着くよ」
そして車は、鬱蒼とした森の奥にある古びた洋館の前で止まった。その建物は、まるで廃墟のようだった
窓ガラスは割れ、壁は崩れかけ、玄関のドアは半分開いたままだった
拓也「ここ、マジで清掃するの?」
健太「うん。じゃあ入ろうか」
拓也は嫌な予感がした
でも5万円のために、勇気を出して建物の中に入った
【血の水道】
玄関を入ると、そこは想像以上に荒れていた
床には埃が積もり、壁には黒いシミがいくつもあった
空気は重く、何か腐ったような臭いが漂っていた
健太「じゃあ拓也、まずは1階のトイレと洗面所を掃除してくれる?」
拓也「わかった」
拓也は掃除道具を持って、洗面所に向かった
洗面台は錆びていて、鏡は割れていた
「まずは水を出して」
拓也は蛇口をひねった
すると、水道から流れてきたのは透明な水ではなく、真っ赤な液体だった
拓也「うわっ!何これ!?」
それは明らかに血だった
ドロドロとした赤い液体が、洗面台に溜まっていく
拓也は慌てて蛇口を閉めたが、血は止まらなかった
それどころか、血の量はどんどん増えていった
拓也「健太!健太!」
慌てて健太を呼んだが、返事はなかった
拓也は洗面所から飛び出した
【ナイフの部屋】
廊下を走っていると、開いている部屋が目に入った
その部屋を覗くと、拓也は言葉を失った
部屋の床一面に、無数のナイフが並べられていたのだ
包丁、果物ナイフ、サバイバルナイフ、出刃包丁
様々な種類のナイフが、まるで展示されているかのように整然と並んでいた
そしてそのナイフの多くには、茶色く変色した何かが付着していた
拓也「これって、血?」
部屋の壁には、大きな文字で何かが書かれていた
「次はお前の番だ」
拓也の体は震え始めた
「ここやばい場所だ!」
すぐに逃げようと振り返ると、そこに健太が立っていた
拓也「健太!ここヤバいよ!逃げよう!」
健太「拓也」
健太の表情は無表情だった
まるで別人のような冷たい目で、拓也を見つめていた
拓也「健太?」
健太「ごめんね、拓也。でも俺も生きるために必要だったんだ」
拓也「何言ってるんだよ」
健太「ここは『処理場』なんだ。色々なものを処理する場所」
拓也「処理場?」
健太「人間もね」
その瞬間、拓也は理解した
この建物は、何か恐ろしいことが行われている場所だと
【死臭の部屋】
拓也は健太から逃げようと走り出した
しかし建物は迷路のように複雑で、どこに向かっているのかわからなくなった
そして拓也は、地下へと続く階段を見つけた
「ここから逃げられるかも」
階段を降りていくと、さらに強烈な臭いが鼻を突いた
それは腐った肉の臭い、死んだ人間の臭いだった
拓也は吐き気を堪えながら、地下室に入った
そこには、いくつもの黒いビニール袋が積まれていた
袋からは、赤黒い液体が漏れ出していた
拓也「これって、まさか」
恐る恐る袋の一つを開けようとした時、背後から声がした
健太「見ちゃダメだよ、拓也」
振り返ると、健太が包丁を持って立っていた
拓也「健太、お前」
健太「俺もね、最初は君と同じだったんだ。友達に誘われて、ここに来た」
拓也「じゃあ」
健太「そう。あの友達は今、その袋の中にいるよ」
拓也は絶望した
「俺も殺されるのか」
健太「でもね、俺は選んだんだ。殺されるより、殺す側になることを」
健太はゆっくりと近づいてきた
拓也「待ってくれ!俺たち友達だろ!?」
健太「友達か。でも友達より、自分の命の方が大事だよね」
拓也は必死に逃げ道を探した
【墓場の真実】
地下室の奥に、外へと続く扉を見つけた
拓也は全力で扉を開け、外に飛び出した
そこは建物の裏側で、小さな墓地があった
無数の十字架が立ち並び、新しい土が盛られた場所もあった
拓也「ここに、埋められてるのか」
その時、十字架の一つに名前が書かれているのに気づいた
「田中 誠 2025年5月23日」 「佐藤 美咲 2025年7月5日」 「山田 大輔 2025年9月13日」
そして最後の十字架には、まだ名前が書かれていなかった
その横には、スコップと空の木箱が置かれていた
拓也「これって、俺のための」
背後から足音が聞こえた
健太だけではなく、他にも数人の男たちが近づいてきた
男A「新しい作業員候補か」
男B「でも逃げようとしてるな」
男C「じゃあ、あっち側だな」
健太「拓也、本当にごめん」
拓也は走った。必死に走った。
でも森の中で迷い、どこに向かっているのかわからなくなった
そして拓也は、崖の前で立ち止まった
後ろからは男たちの足音が近づいてくる
前は深いガケ
拓也「どうすれば」
【選択】
男たちが拓也を囲んだ
男A「選べ。俺たちの仲間になるか、死ぬか」
拓也「仲間?」
健太「そうだよ拓也。俺たちと一緒に働けば、月に数百万稼げる」
男B「この仕事は需要があるんだ。世の中には、消したい人間がたくさんいる」
男C「そういう依頼を受けて、ここで処理する。それだけの簡単な仕事だ」
拓也「そんなこと、できるわけない」
健太「じゃあ、お前もあの墓に入るしかないね」
男たちが一斉に近づいてきた
拓也は崖の縁に立った
「飛び降りるか、それとも」
その時、遠くからサイレンの音が聞こえた
パトカーのサイレンだ
男A「クソ!警察か!」
男B「誰か通報しやがったな!」
男たちは慌てて建物の方へ走っていった
健太は拓也を見て言った
健太「拓也、もし生き延びたら、俺のこと忘れてくれ」
そう言って、健太も走り去った
【エピローグ】
数時間後、拓也は警察に保護された
建物からは、15人分の遺体が発見された
健太を含む犯人グループは、全員逮捕された
拓也は警察署で事情聴取を受けた
刑事「よく生き延びましたね。あと少し遅れていたら」
拓也「なんで、なんでこんなことに」
刑事「あなたの友人、健太さんですが、彼も元々は被害者だったんです」
拓也「え?」
刑事「3年前、彼も友人に誘われてあの場所に行った。そして選んだんです。殺される側ではなく、殺す側になることを」
拓也は何も言えなかった
刑事「人間は追い詰められると、何でもするんですよ」
その夜、拓也は自分の部屋で一人考えた
「もし俺があの時、健太の立場だったら」
答えは出なかった
そして拓也のスマホに、不明な番号からメッセージが届いた
「お前は運が良かったな。でも次はないぞ」
拓也は震えながら、スマホを床に落とした
窓の外を見ると、街灯の下に黒いスーツの男が立っていた
あの「選択の案内人」だった
男は拓也を見て、不気味な笑顔を浮かべた
そして闇の中に消えていった。拓也は理解した
自分の人生は、まだ終わっていないことを
そしてこれからも、何度も「選択」を迫られることを
拓也は、選択肢を間違えてしまったため、「職業の案内人」に殺されてしまった
職業の案内人「私の名は、拓也の父親だ こんなふうに育てた覚えはない。それなら始末してしまえばよいのだ」
といい終わった【完】
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