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Ⅴ.形を変えても愛は変わらず【海誓山盟、青天霹靂】

On n'a qu'une vie.

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 ――――かしこまりました。


ジャリ、と砂を踏みしめ立ち上がったオオトリが
剣を一度振り払う。



その距離を詰められる母様の無様なこと。



足をもつれさせ、
地に腰をついた彼女をオオトリは見下ろして。


二人の構図が、まさにさっきの私と憲兵のようだ。



「……アリア、様……!?」



 そう思ったら、動かなかったはずの足が勝手に動いて。

母様の前に立ちはだかっていた。



「……やめて、オオトリ」



 彼の目を見て、弱々しくも
意の強い言葉で彼に制止をかければ、
オオトリはぐうっと押し黙った。



「殺すなら、私を殺して」

「それ、は……」



 躊躇うオオトリの声に、
いつの間にか直属の憲兵達に囲まれていたレオが
振り返り眉を顰め私を見た。


ただならぬ圧力に、押し潰されそうだ。


 足に力は入らず、体の震えが止まらない。

それでも怯まず、彼を見つめ返した。



「そいつが、何をしたか。
忘れた訳ではあるまいな貴様」

「……いえ」

「なら、何故庇う?
その女は、この俺様を愛玩具として扱うだけでなく
実の娘であるお前すら躊躇いなく殺そうとしたんだぞ」

「……それでも、」



 それでも、私の母様なことに、変わりはありません。


迷いなく静かに声を落とし、告げた。



――――だから、どうか私を。



 一瞬、その圧力が消え去り
驚いたようにも見える表情を浮かべた彼は
少しだけ視線を落として再び私を見据えた。



「……それが、お前の望みなんだな」



 その言葉に、目を瞑ってゆっくりと頷く。



「そうか。ならば、望み通り。その首切り離してやる」



 介錯は、お前に任せる。オオトリ。


そう言って踵を返した彼の背中を、
静かに開いた瞳に焼き付けて。

目を開いた拍子に落ちた涙は、
無惨にも地に吸い込まれていった。






【人生は一度だけ】
On n'a qu'une vie.

(願わくば、来世では結ばれますように)
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