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XIV.パンドラの匣を開く【暗中飛躍、秘中之秘】

L'habitude est une seconde nature.

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「俺の生い立ち……?」

「ええ。貴方がどこで生まれて、いつレオに出会ったのか。
そして、何故貴方のご両親が処刑を預かったのか」



 ハッキリと物を申すと、
オオトリは声を殺して目を見開いた。


きっと、どこまで残酷なことを聞くんだと
思っているでしょうね。

でもきっと、私が知りたい事実は、
そこにヒントがある。


流石に、レオに直接聞くのは気が引けてしまって。

悪いけど、貴方にはここで罪を清算して貰うわよ。オオトリ。



「……それを聞いて、どうしたいんです」

「いいから話しなさい。時間が無いの」



 こっちには、五分しかないんだから。

無駄口を叩いている暇は無いのだ。


出来るだけ簡潔に述べよと命を下すと、
彼は嫌そうにしながらもその身に染み付いた執事癖なのか。

小さく数回頷き言葉に出し始めた。



「俺は、ニホンのトウキョウで生まれました。
俺の父はヘイジュウロウ・オオトリ。
ニホンでは知らぬ者はいないほど、有名な国学者だった」

「国学者……? 国学者って、歌学とか、神学とかの?」

「ええ。俺の父はその中でも『有識の学』を極めていたんです」

「有識の、学……?」



 聞きなれない言葉に首を傾げる。

そんな私を見て、頭のいい彼は視線を宙に浮かせ、
一瞬考える素振りを見せながらも、すぐ答えを導き出した。



「所謂、ニホンにおける、儀式や律令の掘り下げですよ。
それだけでなく、西洋の法やしきたりとの比較もしたいと
一緒に父について来たのが、ここ。フランスのローマです」



 すごいお人だったのね、彼の父は。


オオトリではないが、何度か頷くと
彼は話を続けた。



「父は、フランス皇帝と繋がりがありまして。
宮に置いてもらって、それはもう熱心に研究を重ねてました」

「……なるほど」

「その時俺はまだ五歳でほとんど記憶なんかなかったんですけどね。
そこで出会ったのが彼。第一王子である、レオ様です」



 オオトリの生い立ちから派生して出たレオの名に
少しだけ胸が跳ねた。


そう。

私が聞きたいのは、ここから。



「彼はその時十三歳。
これは言った通り、父が研究に勤しんでいる間、
よく遊び相手になって頂いてました」

「……それで、貴方の両親が殺された理由は?」

「……罪状は、不敬。
両親に罪はなかったのに
要らないところまで踏み込んでしまった、
と認識されたんです」



 罪状を告げた瞬間、オオトリの目が変わって。


あの日、殺意を顕にしたオオトリに成り代わった。






【習慣は第二の天性】
L'habitude est une seconde nature.

(本当に、心の底から恨んでいるのね)
 
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