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XIX.心無い人間はいない【翻邪帰正、呑刀刮腸】

On reconnaît l'arbre à ses fruits.

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「体は良くなったのか」

「ん?」



 オオトリの牢を離れた夜、部屋を訪れたレオに言われて。


部屋に来るや否や、放たれた心配のような気遣いのような言葉に
思わず聞き返してしまった。



「部屋に籠りきりだっただろう」

「……えぇ。もう平気よ」



 あぁ、また夜伽の心配か。

彼が脱いだジャケットを
クロークにしまうところを見て嘲笑う。


まぁそもそも体調など崩していないのだから、
平気も何もないのだけれど。


 そんなこと、露知るはずもないレオは
私のベッドに腰をかけて。



「そうか。あまり無理はするなよ」

「……え?」



 さらりと私の黒髪を攫いながら告げられた言葉に
またもや聞き返してしまった。

それどころか、触れるだけのキスをしてきただけで
私の頭を撫でる彼の目は酷く優しい。


まるで、キースが私に向ける眼差しそのもの。


流行り病だなんて言ったせいで、
手を出すことを躊躇しているのだろうか。

だったら、キスを寄越してきた意味はなんだ。


 あまりにテンパりすぎて言葉を返すことを忘れ、
彼の顔を見つめたまま呆然としていると
レオが不思議そうに首を傾げる。



「どうした?」

「い、や……なんでも、ないわ」



 急いでレオから視線を逸らしたものの。

やけに暖かく感じる手を頭の上で受け入れ続けた。






【木は実によって知られる】
On reconnaît l'arbre à ses fruits.

(一瞬、キースかと思ったわ)
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