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二人のなれそめ編
策略
「若、今日はどちらまで?」
運転席の松浦が、バックミラーに映る彰吾に言った。
「決まってるだろ、例の店だ」
「今日もですか?気分転換に他の店に顔を出されても…」
「いいから行け」
彰吾の命令に、松浦は目的地に向かって車を進めた。
「まだ首を縦に振らないんですね、その子は」
「ああ」
彰吾はぶっちょう面で答えた。
その子とは、高地柚子。
槇村組の組員であり、彰吾の教育係であった高地隆成の娘。
母親はすでに亡く、昼間は大学に行き、夜は学費等を稼ぐため、水商売のバイトをしている。
彰吾が、そんな彼女に資金援助を申し出て、断られたのは一か月前のことだ。
「…少し怖がらせましょうか」
松浦はいつもの穏やかな顔で言った。
「やめろ、相手はあの男の娘だぞ」
「でも本人は、そのことを認める気はないんでしょう?」
温和なサラリーマン風に見えるが、松浦もこの世界の人間。
彰吾の面子を潰されたら、ただでは済まさない。
そんな気持がひしひしと伝わってくる。
「余計な事をするな」
「わかりました」
松浦はあっさりと引き下がる。しかし、油断はできない。
さっさと何とかしないとな、と彰吾は決心した。
「いらっしゃいませ、槇村様」
彰吾が店に入ると、柚子ではない、派手なホステスが出迎えた。
そして、その女に席に案内される。
「柚子、いや、ユズカは?」
「さあねえ」
そのホステスは、首を傾げた。
「あんな子供っぽい子ほっといて、楽しく飲みましょうよ」
品を作り、彰吾に胸元の谷間をアピールするような角度で、すり寄ってくる。
「麗美ちゃん」
ママである瑞樹が、そっと窘めた。
「ユズカちゃん、今日は遅くなるみたい。もうすぐ来ると思います」
「でも以外。槇村様みたいな方が、あんな子に入れ込むなんて。そういうご趣味?」
麗美が探るような眼で彰吾を見た。
麗美は、彰吾と柚子ーユズカーの本当のいきさつを知らない。
彰吾が来店した時は、ユズカ以外、近よらせなかったからだ。
「お前には関係ない」
彰吾は冷たく言った。しかし麗美はひかない。
「私、槇村様みたいな男性が好みなの。槇村様は私のこと、お嫌い?」
やっぱりそう来たか。彰吾は心の中でため息をついた。
彰吾も男だ。そう言われて嬉しくないわけではない。
しかし、生まれた世界が特殊なせいか、こういう女性のことはよくわかっていた。
とくに、綺麗な顔で、男から全て搾り取ろうという女性のことは。
「悪いが女に不自由していない。他をあたれ」
彰吾が言うと、麗美は一瞬眉根を寄せたが、すぐに笑顔になった。
「私もその一人に立候補したーい!ねえ、今度一緒にご飯行きましょうよ」
麗美は諦めず彰吾にアタックしてくる。
「麗美ちゃん。いい加減に…」
瑞樹がそう言った時、店の玄関が開き、柚子が姿を現した。
「お、遅くなりました!」
大きなリュックを背負い、息を切らせている。
「ユズカちゃん、槇村様が来てるから早く支度して」
瑞樹は柚子に言った。
柚子は彰吾を一瞥すると、眉根を寄せ、すぐに控室に向かった。
「何度来ても、私の意見は変わりません」
柚子は彰吾の席に着くなり言った。
麗美と瑞樹は席を外している。
「それが客に対するマナーか?」
彰吾が言うと、柚子ーユズカーはぎこちなく笑った。
「ま、槇村様が来てくださって、う、嬉しい、です」
相変わらず、嘘をつけないガキだ。
作り笑顔も出来ない子供にとって、この世界は傷つくだけなのに。
「もう少し愛想笑いの練習しとけ。それにしてもその服、なんとからないのか」
「えっ、変ですか」
ユズカのドレスは黒一色で、おびただしいラメがついており、一昔前の古臭さがあった。
「母が昔使っていた服を、着てるんですけど…」
「似合ってない。ちゃんとした服を買え」
ユズカはしゅんと肩を落とした。
そう言えば、こいつには服を買うような余計な金はなかったのだ。
もったいない。
確かにこいつは子供っぽいが、顔立ちは悪くない。磨けば光るというのに。
ふと、彰吾の頭にある考えが浮かんだ。
そしてニヤリと笑う。
この世界で生きていくというのはどういうことか、コイツのカラダに教えてやろう。
彰吾は、自分を睨んでいる柚子の顔を見ながら、ウイスキーを一気に飲み干した。
運転席の松浦が、バックミラーに映る彰吾に言った。
「決まってるだろ、例の店だ」
「今日もですか?気分転換に他の店に顔を出されても…」
「いいから行け」
彰吾の命令に、松浦は目的地に向かって車を進めた。
「まだ首を縦に振らないんですね、その子は」
「ああ」
彰吾はぶっちょう面で答えた。
その子とは、高地柚子。
槇村組の組員であり、彰吾の教育係であった高地隆成の娘。
母親はすでに亡く、昼間は大学に行き、夜は学費等を稼ぐため、水商売のバイトをしている。
彰吾が、そんな彼女に資金援助を申し出て、断られたのは一か月前のことだ。
「…少し怖がらせましょうか」
松浦はいつもの穏やかな顔で言った。
「やめろ、相手はあの男の娘だぞ」
「でも本人は、そのことを認める気はないんでしょう?」
温和なサラリーマン風に見えるが、松浦もこの世界の人間。
彰吾の面子を潰されたら、ただでは済まさない。
そんな気持がひしひしと伝わってくる。
「余計な事をするな」
「わかりました」
松浦はあっさりと引き下がる。しかし、油断はできない。
さっさと何とかしないとな、と彰吾は決心した。
「いらっしゃいませ、槇村様」
彰吾が店に入ると、柚子ではない、派手なホステスが出迎えた。
そして、その女に席に案内される。
「柚子、いや、ユズカは?」
「さあねえ」
そのホステスは、首を傾げた。
「あんな子供っぽい子ほっといて、楽しく飲みましょうよ」
品を作り、彰吾に胸元の谷間をアピールするような角度で、すり寄ってくる。
「麗美ちゃん」
ママである瑞樹が、そっと窘めた。
「ユズカちゃん、今日は遅くなるみたい。もうすぐ来ると思います」
「でも以外。槇村様みたいな方が、あんな子に入れ込むなんて。そういうご趣味?」
麗美が探るような眼で彰吾を見た。
麗美は、彰吾と柚子ーユズカーの本当のいきさつを知らない。
彰吾が来店した時は、ユズカ以外、近よらせなかったからだ。
「お前には関係ない」
彰吾は冷たく言った。しかし麗美はひかない。
「私、槇村様みたいな男性が好みなの。槇村様は私のこと、お嫌い?」
やっぱりそう来たか。彰吾は心の中でため息をついた。
彰吾も男だ。そう言われて嬉しくないわけではない。
しかし、生まれた世界が特殊なせいか、こういう女性のことはよくわかっていた。
とくに、綺麗な顔で、男から全て搾り取ろうという女性のことは。
「悪いが女に不自由していない。他をあたれ」
彰吾が言うと、麗美は一瞬眉根を寄せたが、すぐに笑顔になった。
「私もその一人に立候補したーい!ねえ、今度一緒にご飯行きましょうよ」
麗美は諦めず彰吾にアタックしてくる。
「麗美ちゃん。いい加減に…」
瑞樹がそう言った時、店の玄関が開き、柚子が姿を現した。
「お、遅くなりました!」
大きなリュックを背負い、息を切らせている。
「ユズカちゃん、槇村様が来てるから早く支度して」
瑞樹は柚子に言った。
柚子は彰吾を一瞥すると、眉根を寄せ、すぐに控室に向かった。
「何度来ても、私の意見は変わりません」
柚子は彰吾の席に着くなり言った。
麗美と瑞樹は席を外している。
「それが客に対するマナーか?」
彰吾が言うと、柚子ーユズカーはぎこちなく笑った。
「ま、槇村様が来てくださって、う、嬉しい、です」
相変わらず、嘘をつけないガキだ。
作り笑顔も出来ない子供にとって、この世界は傷つくだけなのに。
「もう少し愛想笑いの練習しとけ。それにしてもその服、なんとからないのか」
「えっ、変ですか」
ユズカのドレスは黒一色で、おびただしいラメがついており、一昔前の古臭さがあった。
「母が昔使っていた服を、着てるんですけど…」
「似合ってない。ちゃんとした服を買え」
ユズカはしゅんと肩を落とした。
そう言えば、こいつには服を買うような余計な金はなかったのだ。
もったいない。
確かにこいつは子供っぽいが、顔立ちは悪くない。磨けば光るというのに。
ふと、彰吾の頭にある考えが浮かんだ。
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