負け犬令嬢日本探遊記

那珂田かな

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一章

令嬢と夕食

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アンリエットは夕食を一口食べ、ため息をついた。
夕食は、硬いパンと具のないスープ、ドロドロに煮込んだ野菜、そして冷えて硬い肉。
美味しいとはお世辞にも言えない。
いや少し前は、ただ栄養が摂取できればそれでいい、としか意識していなかった。
ーあの、ウドン、を食べた後ではどうしても美味しいと思えない。
ユーリの作った鶏卵うどん。
白く長いものと、キレギレになった卵、そしてトロミのついたスープ。
肉など一切入っていないのに、風味が豊かで、心から美味しいと思えた。
ー食べ物のことばかり考えていてはいけない、ってわかてるのに
「はあ」
アンリエットはまた、ため息をついた。
ここにいれば、うどんのことばかり考えてしまう。気持ちを切り替え、勉強しないと。
アンリエットは夕食を無理やり胃に詰め込むと、一人、部屋に戻る。
その姿を、多くの学生がみていた。
「ねえ、あの姿を見まして?」
「本当に、ため息ばかり」
「王太子殿下が他の女性にご執心なんだから、気が気じゃないんでしょ」
「天下のスカーレル家もどうなることやら」
「本当ねえ。私たちも付き合いを考えなくっちゃ」
学生達は、美味しくない食事のスパイスとして噂話を楽しんだ。

そんな学生を横目で見ながら、野菜を弄んでいる男がいた。
「だいぶ、噂が流れているようだな」
フェルナン王太子がほくそ笑んだ。
「はい、王太子殿下がアンリエット様を見限ったと、学園中に広まっています」
隣にいる学友が囁いた。
「ただ、噂が広まるだけではだめだ。アンリエットが次の試験でまた負けてくれなければ、婚約を正式には破棄できない」
「今の状況ではアンリエット様は勝てる見込みは少ないでしょう」
「アンリエットは名誉挽回に向けて勉強しているようだが…」
「それはもう、昼夜問わず勉強されているそうです。しかし、マリエ様の呪文は特別です。それがわからぬ限り、アンリエット様が勝てる見込みはないでしょう」
「アンリエットにはせいぜい無駄な努力をしてもらうとするか」
フェルナンはニヤリと笑った。

ー本当にガキだな、コイツ。
ユーリはフェルナンの近くで、硬いパンを噛みしめながら思った。
自分は高みの見物をしながら、アンリエットとマリエを戦わせ、そしていいところを持っていこうとする。
この男が、いずれ国を治めると思うと、この国の将来が心配になる。

ーだからこそ、アンリエットにはシナリオを書き換えてもらわないといけない。
そのために伝説の魔女マリー、祖母の真里に合わせたのだから。
あとはどれだけアンリエットが異世界の言葉を習得し、呪文を会得できるかにかかっている。

ー五〇年前の悲劇を繰り返さないために、俺はなんでもする。
ユーリは硬いパンを噛みちぎった。
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