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「葉加瀬太郎氏」について(前編)
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平成七年十二月、街はクリスマス前の明るいムードに沸いていた。
当時は、都内のいろいろな所につくられた、こだわりのツリーが話題を呼んでいた。
なかでも原宿駅近くの「ドリカム」プロデュースのツリーなるものは特に人気があった。
そのようななか、とある休日に、私は家族と一緒に恵比寿ガーデンプレイスに遊びに行った。
学生の頃、私は二年間、恵比寿の隣の目黒で過ごした。よって、渋谷を含めてこの辺一帯は「かつて知った馴染みの場所」だった。但し、あの当時はまだ古びたサッポロビールの工場が残っていていたために、恵比寿駅の山手線内側は学生が歩き回る様な場所ではなかった。
そのビール工場跡地が、私が就職して福岡にいる間に、再開発されて、お洒落な都市型総合ショッピング&ホテルゾーンに生まれ変わった。
私たちが訪れたその時は、当時では珍しいクリスタル製の大型シャンデリアが呼び物になっていた。それはきらびやかで、生まれ変わった「新生・恵比寿」を象徴していた。
ウエスティンホテル、三越、オフィスタワー、そして定番の専門店モール街・・・。
ガーデンプレイス以降、六本木ヒルズや東京ミッドタウンなど多くの再開発が港区あたりにお目見えしたが、このようなコングロマリットはここ恵比寿がはしりだったように思う。
クリスマス一色で多くの人が行き来するショッピング街を歩いた・・「何か面白い文房具でもあればなぁ」と思いながら。
その時、たまたま付設のギャラリーの前を通りがかった。それは、ちょっとした展示会を開く時のための小規模のホールだった。
入り口に「葉加瀬太郎 絵画展開催中」のインフォメーションがあった。
「へえ、音楽だけではなく、幅広く芸術活動をやっているんだぁ」と感心しつつ、興味津々、なかに足を踏み入れた。
絵は全体的にカラフルな感じだった。総数は十点ほど。畳半分くらいの大きさの物もあった。
写実を離れ、ややデザイン画風な作品が中心だった。素晴らしかった・・・プロの芸術家的な作風だと感じた。
葉加瀬太郎と言えばバイオリン。
このバイオリンと言う楽器は古今東西ポピュラーなものだ。
クラシックのみならず、カントリーミュージックそしてロックでと、世界中の人が様々なシーンでその音色に触れている。
学生の頃、私はFMから流れてくるムードミュージックを良く聞いた。
フランク・プールセルやレーモン・ルフェーブルなど、読者にもなじみがあるあの音楽である。
今日ではバイオリンの室内楽のCDを、BGMのようにして自宅で聞いている。曲名は問わずにボリュームを落として流している。
年齢が積み重なることによって、聴く曲もシンプルな心休まるものが多くなった。
バイオリンが前面に出るコンサートには、東京にいる間には一度だけ、それもひょんなことで行ったことがある。
場所は赤坂サントリーホール・・・。
その時わたしは、国際金融のシンクタンクで三年間仕事をしていた。そのオフィスは溜池山王にあった。
ある日の仕事帰り、気分転換にと、ただ散歩をする気持ちで溜池交差点から六本木の方に上りの坂道を歩いていた。
途中、赤坂アークヒルズの中庭に、なにげにフラリと足を向けた。ここはオープンスペース、よって仕事を終えた人たちがあちこちでくつろいでいた。奥にはそのサントリーホールがある。
何やら演奏会が開催されているのが見えた。
ヘンリー・マンシーニ オーケストラの東京公演だった。
入り口付近の人はまばら・・・・それもそのはず、開演寸前の時間だったためだ。
チケット窓口で聞いてみた「満席でしょうね?」
「いいえぇ、若干ありますよ。S席だけですけれど・・・」と。
名ホールとして名高いサントリーホールに一度は行きたかったこと、それに、ヘンリーマンシーニと言えば、私でもソラでいくつかの映画のタイトルを言えたほどの数々のスクリーンミュージックを世に送り出した作曲家だったこと、それらが私の背中をつんと押した。
会場に入った。ステージに近い席だった。そのために、舞台の楽団の皆の顔や、指の動きがすぐそこに見えた。演奏者たちの衣装は白や黒を基調としていたものの、各自少しずつデザインが違っていてどこかお洒落だった。そして表情も終始にこやかだった。それが、かしこまらない、会場全体がくつろげる自由な音楽会の雰囲気を出していた。
演奏が始まった。ヘップバーンのあの「ムーンリバー」、それに彼女がジェームズ・コバーンと共演したサスペンス映画「シャレード」、ピーター・フォークの「刑事コロンボのテーマ」、ピーター・セラーズの「ピンクパンサー」、映画ハタリから「小象の行進」、戦争の悲哀を描いたソフィア・ローレンとマストロヤンニの「ひまわり」など・・・。
いままでは映画の中で、もしくはCDで、そしてFMでしかきいたことのない馴染みのメロディーが続いた。どれもが最高だった。
見たことがある映画の曲であれば、その一場面が次々に脳裏に浮かんだ・・・。
当時は、都内のいろいろな所につくられた、こだわりのツリーが話題を呼んでいた。
なかでも原宿駅近くの「ドリカム」プロデュースのツリーなるものは特に人気があった。
そのようななか、とある休日に、私は家族と一緒に恵比寿ガーデンプレイスに遊びに行った。
学生の頃、私は二年間、恵比寿の隣の目黒で過ごした。よって、渋谷を含めてこの辺一帯は「かつて知った馴染みの場所」だった。但し、あの当時はまだ古びたサッポロビールの工場が残っていていたために、恵比寿駅の山手線内側は学生が歩き回る様な場所ではなかった。
そのビール工場跡地が、私が就職して福岡にいる間に、再開発されて、お洒落な都市型総合ショッピング&ホテルゾーンに生まれ変わった。
私たちが訪れたその時は、当時では珍しいクリスタル製の大型シャンデリアが呼び物になっていた。それはきらびやかで、生まれ変わった「新生・恵比寿」を象徴していた。
ウエスティンホテル、三越、オフィスタワー、そして定番の専門店モール街・・・。
ガーデンプレイス以降、六本木ヒルズや東京ミッドタウンなど多くの再開発が港区あたりにお目見えしたが、このようなコングロマリットはここ恵比寿がはしりだったように思う。
クリスマス一色で多くの人が行き来するショッピング街を歩いた・・「何か面白い文房具でもあればなぁ」と思いながら。
その時、たまたま付設のギャラリーの前を通りがかった。それは、ちょっとした展示会を開く時のための小規模のホールだった。
入り口に「葉加瀬太郎 絵画展開催中」のインフォメーションがあった。
「へえ、音楽だけではなく、幅広く芸術活動をやっているんだぁ」と感心しつつ、興味津々、なかに足を踏み入れた。
絵は全体的にカラフルな感じだった。総数は十点ほど。畳半分くらいの大きさの物もあった。
写実を離れ、ややデザイン画風な作品が中心だった。素晴らしかった・・・プロの芸術家的な作風だと感じた。
葉加瀬太郎と言えばバイオリン。
このバイオリンと言う楽器は古今東西ポピュラーなものだ。
クラシックのみならず、カントリーミュージックそしてロックでと、世界中の人が様々なシーンでその音色に触れている。
学生の頃、私はFMから流れてくるムードミュージックを良く聞いた。
フランク・プールセルやレーモン・ルフェーブルなど、読者にもなじみがあるあの音楽である。
今日ではバイオリンの室内楽のCDを、BGMのようにして自宅で聞いている。曲名は問わずにボリュームを落として流している。
年齢が積み重なることによって、聴く曲もシンプルな心休まるものが多くなった。
バイオリンが前面に出るコンサートには、東京にいる間には一度だけ、それもひょんなことで行ったことがある。
場所は赤坂サントリーホール・・・。
その時わたしは、国際金融のシンクタンクで三年間仕事をしていた。そのオフィスは溜池山王にあった。
ある日の仕事帰り、気分転換にと、ただ散歩をする気持ちで溜池交差点から六本木の方に上りの坂道を歩いていた。
途中、赤坂アークヒルズの中庭に、なにげにフラリと足を向けた。ここはオープンスペース、よって仕事を終えた人たちがあちこちでくつろいでいた。奥にはそのサントリーホールがある。
何やら演奏会が開催されているのが見えた。
ヘンリー・マンシーニ オーケストラの東京公演だった。
入り口付近の人はまばら・・・・それもそのはず、開演寸前の時間だったためだ。
チケット窓口で聞いてみた「満席でしょうね?」
「いいえぇ、若干ありますよ。S席だけですけれど・・・」と。
名ホールとして名高いサントリーホールに一度は行きたかったこと、それに、ヘンリーマンシーニと言えば、私でもソラでいくつかの映画のタイトルを言えたほどの数々のスクリーンミュージックを世に送り出した作曲家だったこと、それらが私の背中をつんと押した。
会場に入った。ステージに近い席だった。そのために、舞台の楽団の皆の顔や、指の動きがすぐそこに見えた。演奏者たちの衣装は白や黒を基調としていたものの、各自少しずつデザインが違っていてどこかお洒落だった。そして表情も終始にこやかだった。それが、かしこまらない、会場全体がくつろげる自由な音楽会の雰囲気を出していた。
演奏が始まった。ヘップバーンのあの「ムーンリバー」、それに彼女がジェームズ・コバーンと共演したサスペンス映画「シャレード」、ピーター・フォークの「刑事コロンボのテーマ」、ピーター・セラーズの「ピンクパンサー」、映画ハタリから「小象の行進」、戦争の悲哀を描いたソフィア・ローレンとマストロヤンニの「ひまわり」など・・・。
いままでは映画の中で、もしくはCDで、そしてFMでしかきいたことのない馴染みのメロディーが続いた。どれもが最高だった。
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