それでもあなたは銀行に就職しますか 第3巻~彰司と佳奈子の勉強会~「連帯保証人」

リチャード・ウイス

文字の大きさ
26 / 26
26

仲の良い二つの影

しおりを挟む
 手にしていたグラスをゆっくりまわしながら、カクテルの表面の揺らぎを佳奈子はしばらく見つめていた。
「この件が無事に着地を見たところで、そういえば東郷さんには何がメリットだったのかなぁなんて思っていました。最初の田山敦子邸の訪問の時の後味の悪さと言い、荒木ご主人からの『超ド級』のクレームと言い・・・損な役目ばかりしていらしたようだったんですけど。・・・でも、わたし思いました。田山敦子さんからのこの感謝の手紙が、東郷さんの高谷支店時代の、一つの記念碑というかマイルストーンになった感がありましたね・・・なんて、すいません、なまいき言いました・・」

「いや・・、それでいいんだよ」
彰司は、心の底から納得した表情でそうつぶやいた。
二人の会話に七秒ほどの沈黙が流れた・・・。
彰司はスーツの左側内ポケットを(ん?)と言いながら押さえた。
「あれ?」
彰司は取り出して画面を一瞥するや、けげんな表情をした。
スマホに広報部長からメールが入ったのだった。
「ん?何だろう」
そしてそのメールに目を通して『くすっ』と笑った。

佳奈子が振り向いた。
「どうしたの?へんなメール?」
「いやいや。笑っちゃうんだけど、あさっての午後二時に、毎朝新聞の営業部長がウチに来るってさ。どうせ面倒くさい用事なのだろうなあ・・・・・・え なになに・・・『おい、お前一人で会っておけ。よろしく』だって、なんだよこれって!?」
佳奈子もくすりと笑った。
「ウチのどこかの支店で、ひょっと、まだ毎朝新聞を取ってない所ってありましたっけ」
彰司も笑いながら佳奈子を見て、首をかしげながら答えた。
「さあ、どうだろう、あったっけなぁ」
その話で五分ほど盛り上がった後、彰司は腕時計を見た。

「あ、こんな時間だ。そろそろ行こうか、二時間半も飲んじゃったな。長く引き留めて悪かったね」
佳奈子は、いいえぇと言いながら帰り支度に入った。そしてにっこり微笑んで
「割り勘にしましょうね」 と。
そうして二人は、席を立ち、レジに向かった。

 店のドアがカラカラ~ンと閉った。
「美味しかったよ、さすが君が選んだ店だね」
「そう、ありがとう。そう言っていただくと嬉しいわ」
 
 店を出て八歩ほど行ったところだった・・・佳奈子がふと足を止めて彰司にゆっくりと振り向いた。
そしてなにげなく、かわいらしく包装された小箱を差し出した。
「ん、なにこれ」
「東郷さんへのお誕生日プレゼント。ふふっ、遅くなりましたけど・・先月でしたよね。コロンなの」
「えっ、そんな・・・・で どこの?」
「ブ・ル・ガ・リ」
「そんな高いものを」
「いえいえ、免税ものよ、この前行った旅行の」続けて言った
「彰司さん・・・お願いですから私に恥をかかせないでね」
・・・三越のラップだった。

「そっか、ありがとう。気持ちよくいただきます」
ニコリと微笑んだ。そして
「じゃあちょっと待って」と、外側を破り小瓶を取り出すや、スーツの上着の左右内側に四度スプレーした。

「ありがとうございます」
そう小声で言うと、佳奈子は少しばかり体を寄せてきた。
彰司は思わず両手で優しく抱きしめた、髪からは甘い大人の香りがした。

「駅まで今日は歩くんじゃなくて、ここからもうタクシーに乗っていきません?・・・・私の帰り道は彰司さんの帰り道、でしょ」そう言って少し小悪魔的な表情をした。

路地を右折してこっちに向かってくる空車のタクシーに佳奈子は手を挙げた。
「私が先に乗りますね、・・・一応」

とりあえず中白金駅方面を運転手に告げた。
「わかりました」そう言うや運転手は信号待ちでいったん停車していた車を発車させた。

車はすぐに夜の闇に消えて行った。
後ろの席には仲の良い二人の影があった。

それは・・・いつもより寄り添っているように見えた。


                          (了)
                           
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...