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仲の良い二つの影
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手にしていたグラスをゆっくりまわしながら、カクテルの表面の揺らぎを佳奈子はしばらく見つめていた。
「この件が無事に着地を見たところで、そういえば東郷さんには何がメリットだったのかなぁなんて思っていました。最初の田山敦子邸の訪問の時の後味の悪さと言い、荒木ご主人からの『超ド級』のクレームと言い・・・損な役目ばかりしていらしたようだったんですけど。・・・でも、わたし思いました。田山敦子さんからのこの感謝の手紙が、東郷さんの高谷支店時代の、一つの記念碑というかマイルストーンになった感がありましたね・・・なんて、すいません、なまいき言いました・・」
「いや・・、それでいいんだよ」
彰司は、心の底から納得した表情でそうつぶやいた。
二人の会話に七秒ほどの沈黙が流れた・・・。
彰司はスーツの左側内ポケットを(ん?)と言いながら押さえた。
「あれ?」
彰司は取り出して画面を一瞥するや、けげんな表情をした。
スマホに広報部長からメールが入ったのだった。
「ん?何だろう」
そしてそのメールに目を通して『くすっ』と笑った。
佳奈子が振り向いた。
「どうしたの?へんなメール?」
「いやいや。笑っちゃうんだけど、あさっての午後二時に、毎朝新聞の営業部長がウチに来るってさ。どうせ面倒くさい用事なのだろうなあ・・・・・・え なになに・・・『おい、お前一人で会っておけ。よろしく』だって、なんだよこれって!?」
佳奈子もくすりと笑った。
「ウチのどこかの支店で、ひょっと、まだ毎朝新聞を取ってない所ってありましたっけ」
彰司も笑いながら佳奈子を見て、首をかしげながら答えた。
「さあ、どうだろう、あったっけなぁ」
その話で五分ほど盛り上がった後、彰司は腕時計を見た。
「あ、こんな時間だ。そろそろ行こうか、二時間半も飲んじゃったな。長く引き留めて悪かったね」
佳奈子は、いいえぇと言いながら帰り支度に入った。そしてにっこり微笑んで
「割り勘にしましょうね」 と。
そうして二人は、席を立ち、レジに向かった。
店のドアがカラカラ~ンと閉った。
「美味しかったよ、さすが君が選んだ店だね」
「そう、ありがとう。そう言っていただくと嬉しいわ」
店を出て八歩ほど行ったところだった・・・佳奈子がふと足を止めて彰司にゆっくりと振り向いた。
そしてなにげなく、かわいらしく包装された小箱を差し出した。
「ん、なにこれ」
「東郷さんへのお誕生日プレゼント。ふふっ、遅くなりましたけど・・先月でしたよね。コロンなの」
「えっ、そんな・・・・で どこの?」
「ブ・ル・ガ・リ」
「そんな高いものを」
「いえいえ、免税ものよ、この前行った旅行の」続けて言った
「彰司さん・・・お願いですから私に恥をかかせないでね」
・・・三越のラップだった。
「そっか、ありがとう。気持ちよくいただきます」
ニコリと微笑んだ。そして
「じゃあちょっと待って」と、外側を破り小瓶を取り出すや、スーツの上着の左右内側に四度スプレーした。
「ありがとうございます」
そう小声で言うと、佳奈子は少しばかり体を寄せてきた。
彰司は思わず両手で優しく抱きしめた、髪からは甘い大人の香りがした。
「駅まで今日は歩くんじゃなくて、ここからもうタクシーに乗っていきません?・・・・私の帰り道は彰司さんの帰り道、でしょ」そう言って少し小悪魔的な表情をした。
路地を右折してこっちに向かってくる空車のタクシーに佳奈子は手を挙げた。
「私が先に乗りますね、・・・一応」
とりあえず中白金駅方面を運転手に告げた。
「わかりました」そう言うや運転手は信号待ちでいったん停車していた車を発車させた。
車はすぐに夜の闇に消えて行った。
後ろの席には仲の良い二人の影があった。
それは・・・いつもより寄り添っているように見えた。
(了)
「この件が無事に着地を見たところで、そういえば東郷さんには何がメリットだったのかなぁなんて思っていました。最初の田山敦子邸の訪問の時の後味の悪さと言い、荒木ご主人からの『超ド級』のクレームと言い・・・損な役目ばかりしていらしたようだったんですけど。・・・でも、わたし思いました。田山敦子さんからのこの感謝の手紙が、東郷さんの高谷支店時代の、一つの記念碑というかマイルストーンになった感がありましたね・・・なんて、すいません、なまいき言いました・・」
「いや・・、それでいいんだよ」
彰司は、心の底から納得した表情でそうつぶやいた。
二人の会話に七秒ほどの沈黙が流れた・・・。
彰司はスーツの左側内ポケットを(ん?)と言いながら押さえた。
「あれ?」
彰司は取り出して画面を一瞥するや、けげんな表情をした。
スマホに広報部長からメールが入ったのだった。
「ん?何だろう」
そしてそのメールに目を通して『くすっ』と笑った。
佳奈子が振り向いた。
「どうしたの?へんなメール?」
「いやいや。笑っちゃうんだけど、あさっての午後二時に、毎朝新聞の営業部長がウチに来るってさ。どうせ面倒くさい用事なのだろうなあ・・・・・・え なになに・・・『おい、お前一人で会っておけ。よろしく』だって、なんだよこれって!?」
佳奈子もくすりと笑った。
「ウチのどこかの支店で、ひょっと、まだ毎朝新聞を取ってない所ってありましたっけ」
彰司も笑いながら佳奈子を見て、首をかしげながら答えた。
「さあ、どうだろう、あったっけなぁ」
その話で五分ほど盛り上がった後、彰司は腕時計を見た。
「あ、こんな時間だ。そろそろ行こうか、二時間半も飲んじゃったな。長く引き留めて悪かったね」
佳奈子は、いいえぇと言いながら帰り支度に入った。そしてにっこり微笑んで
「割り勘にしましょうね」 と。
そうして二人は、席を立ち、レジに向かった。
店のドアがカラカラ~ンと閉った。
「美味しかったよ、さすが君が選んだ店だね」
「そう、ありがとう。そう言っていただくと嬉しいわ」
店を出て八歩ほど行ったところだった・・・佳奈子がふと足を止めて彰司にゆっくりと振り向いた。
そしてなにげなく、かわいらしく包装された小箱を差し出した。
「ん、なにこれ」
「東郷さんへのお誕生日プレゼント。ふふっ、遅くなりましたけど・・先月でしたよね。コロンなの」
「えっ、そんな・・・・で どこの?」
「ブ・ル・ガ・リ」
「そんな高いものを」
「いえいえ、免税ものよ、この前行った旅行の」続けて言った
「彰司さん・・・お願いですから私に恥をかかせないでね」
・・・三越のラップだった。
「そっか、ありがとう。気持ちよくいただきます」
ニコリと微笑んだ。そして
「じゃあちょっと待って」と、外側を破り小瓶を取り出すや、スーツの上着の左右内側に四度スプレーした。
「ありがとうございます」
そう小声で言うと、佳奈子は少しばかり体を寄せてきた。
彰司は思わず両手で優しく抱きしめた、髪からは甘い大人の香りがした。
「駅まで今日は歩くんじゃなくて、ここからもうタクシーに乗っていきません?・・・・私の帰り道は彰司さんの帰り道、でしょ」そう言って少し小悪魔的な表情をした。
路地を右折してこっちに向かってくる空車のタクシーに佳奈子は手を挙げた。
「私が先に乗りますね、・・・一応」
とりあえず中白金駅方面を運転手に告げた。
「わかりました」そう言うや運転手は信号待ちでいったん停車していた車を発車させた。
車はすぐに夜の闇に消えて行った。
後ろの席には仲の良い二人の影があった。
それは・・・いつもより寄り添っているように見えた。
(了)
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