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ひとつの銀行の消滅
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東郷彰司は熊本の方の支店から広報部に送られてきた「熊本中央新聞」の記事を読んだ。
そこには、有罪判決の記事が大きく出ていた。熊谷銀行、そこに司法の鉄槌が下されていたのだった。
『耐震偽装発覚で債務と預金を相殺した 熊谷銀に預金の返還命令下る』
- 約十三億円 木室建設側一部勝訴 ・・東京地裁判決 -
続く記事にはこうあった。
中村裁判長は債務と預金の相殺について『銀行は相殺に必要な、木室建設への“意思表示”をしていない。よってそのためその時に拘束した、当座預金約十二億円と定期預金一億円を、自分の銀行の融資返済に充てることは違法』と判断した。
新聞を読んで彰司は呟いた
「(あの時、熊谷銀行は、木室社長に色々と説明はしているものの、保身のために小切手をだまし取ったに等しい・・・っていう判決だ)」
しばらくして、九州内に銀行再編の動きが出てきた。
そうしたなか熊谷銀行は、九州最大手の福富銀行グループに、事実上吸収された。『熊谷』と言う銀行も・・・その日をもって消滅した。
周辺からは、
『このところの金利の極端な低下で、中小の金融機関の収益力も落ちていたのだろう。生き残るための経営統合か・・・?!』
と、もっぱらの話だったが、それだけではなく、実はこの銀行の『経営体質に関する懐疑的な見方』も熊本経済界からは上がっていた。
それは、本件だけではない、監督官庁がこれまでに目をつけていた過去の熊谷銀行のコンプライアンス違反のそれぞれが、この決定に至らしめたとの話だった。
◇
「そういう判決が出てたんだ・・知らなかった。でも、木室建設はすでにつぶれちゃった後だったのよね、そんな判決が出たところで」
「ああ、そうなんだ」
カウンター越しに声が響いた。
「はい、西村さんこれね」
「あ、ありがとうございます」
佳奈子はおかわりをしていたジン&レモンを和泉から受け取りながら続けた。
「で、一方では銀行が法令違反をしてたってことね・・ひどい・・・今回の事実上の吸収も、その影響があったってことかしら」
「何とも言えないが、おそらくそうだろう」続けて
「金融当局は、経営の体質に大きな問題があるとした銀行には、権限を行使してくるからね。ここのところは、我々も十分に気を付けておかねばいけない、絶対に」
「そうね、覚えておくわ・・・」
時計は午後九時近くになろうとしていた。
「お、そろそろ行こうか」
「そうですね。二時間も飲んじゃいました。帰りましょうか(・・・マスター、お勘定を)」
二人は会計を済ませて店を後にした。薫風のころ、風が気持ちよい夜だった。
店を出て夜風に吹かれながら中白金駅方面に歩いた。
ふと、佳奈子が足を止めた。そして、
「彰司さん、あそこの100m先の信号まで、手をつないでいきません」
「(えっ)」という顔をして彰司は佳奈子を見た。
佳奈子は『うふっ』と笑うような表情していた。彼女がこんなことを言い出すのははじめての事だった。
その交差点で佳奈子はタクシーを拾い、彰司は駅への階段を上るのがいつものルートだった。
「いいよ、はいっ」彰司は左手を出した。
「ありがとうございます」
そういって二人は学生がするように夜の街を手をつなぎ、しばしの時間歩いたのだった。
ライン
ラインの着信が鳴った。それは東郷がマンションに帰りついて、酔いを醒ますためにペリエに軽くレモンを絞ったものを飲んでいるときだった。佳奈子からだった。
「勉強会をしてもらった後は、(毎回そうなんだけど)なんかぁ、いろいろ考えさせられて悲しくなっちゃいます。結局、木室社長って、そんなに悪いところは無かったような気がする・・。
正直にまじめに生きて来た人だったんだなって。・・・リッキー、元気かなあ・・・」
彰司は既読スルーしようと思った。が、一言返した・・・・「きっと元気さ」。
終わり
※西村佳奈子から皆さんにお知らせ
「第二巻まで読んでいただきましてありがとうございました。次の(第三巻)『連帯保証人』でまたお会いしましょうね。
そこには、有罪判決の記事が大きく出ていた。熊谷銀行、そこに司法の鉄槌が下されていたのだった。
『耐震偽装発覚で債務と預金を相殺した 熊谷銀に預金の返還命令下る』
- 約十三億円 木室建設側一部勝訴 ・・東京地裁判決 -
続く記事にはこうあった。
中村裁判長は債務と預金の相殺について『銀行は相殺に必要な、木室建設への“意思表示”をしていない。よってそのためその時に拘束した、当座預金約十二億円と定期預金一億円を、自分の銀行の融資返済に充てることは違法』と判断した。
新聞を読んで彰司は呟いた
「(あの時、熊谷銀行は、木室社長に色々と説明はしているものの、保身のために小切手をだまし取ったに等しい・・・っていう判決だ)」
しばらくして、九州内に銀行再編の動きが出てきた。
そうしたなか熊谷銀行は、九州最大手の福富銀行グループに、事実上吸収された。『熊谷』と言う銀行も・・・その日をもって消滅した。
周辺からは、
『このところの金利の極端な低下で、中小の金融機関の収益力も落ちていたのだろう。生き残るための経営統合か・・・?!』
と、もっぱらの話だったが、それだけではなく、実はこの銀行の『経営体質に関する懐疑的な見方』も熊本経済界からは上がっていた。
それは、本件だけではない、監督官庁がこれまでに目をつけていた過去の熊谷銀行のコンプライアンス違反のそれぞれが、この決定に至らしめたとの話だった。
◇
「そういう判決が出てたんだ・・知らなかった。でも、木室建設はすでにつぶれちゃった後だったのよね、そんな判決が出たところで」
「ああ、そうなんだ」
カウンター越しに声が響いた。
「はい、西村さんこれね」
「あ、ありがとうございます」
佳奈子はおかわりをしていたジン&レモンを和泉から受け取りながら続けた。
「で、一方では銀行が法令違反をしてたってことね・・ひどい・・・今回の事実上の吸収も、その影響があったってことかしら」
「何とも言えないが、おそらくそうだろう」続けて
「金融当局は、経営の体質に大きな問題があるとした銀行には、権限を行使してくるからね。ここのところは、我々も十分に気を付けておかねばいけない、絶対に」
「そうね、覚えておくわ・・・」
時計は午後九時近くになろうとしていた。
「お、そろそろ行こうか」
「そうですね。二時間も飲んじゃいました。帰りましょうか(・・・マスター、お勘定を)」
二人は会計を済ませて店を後にした。薫風のころ、風が気持ちよい夜だった。
店を出て夜風に吹かれながら中白金駅方面に歩いた。
ふと、佳奈子が足を止めた。そして、
「彰司さん、あそこの100m先の信号まで、手をつないでいきません」
「(えっ)」という顔をして彰司は佳奈子を見た。
佳奈子は『うふっ』と笑うような表情していた。彼女がこんなことを言い出すのははじめての事だった。
その交差点で佳奈子はタクシーを拾い、彰司は駅への階段を上るのがいつものルートだった。
「いいよ、はいっ」彰司は左手を出した。
「ありがとうございます」
そういって二人は学生がするように夜の街を手をつなぎ、しばしの時間歩いたのだった。
ライン
ラインの着信が鳴った。それは東郷がマンションに帰りついて、酔いを醒ますためにペリエに軽くレモンを絞ったものを飲んでいるときだった。佳奈子からだった。
「勉強会をしてもらった後は、(毎回そうなんだけど)なんかぁ、いろいろ考えさせられて悲しくなっちゃいます。結局、木室社長って、そんなに悪いところは無かったような気がする・・。
正直にまじめに生きて来た人だったんだなって。・・・リッキー、元気かなあ・・・」
彰司は既読スルーしようと思った。が、一言返した・・・・「きっと元気さ」。
終わり
※西村佳奈子から皆さんにお知らせ
「第二巻まで読んでいただきましてありがとうございました。次の(第三巻)『連帯保証人』でまたお会いしましょうね。
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