とある公爵令息の恋語り

紗華

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始まりの6歳

3:初めての友人

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ソル爺様に見送られて、再び王都へ……そこで、初めての友人が出来た。

スナイデル公爵家の息子のコーエンと、その従兄弟でキリング侯爵家の息子のカインだ。

母の学園時代の先輩とかいう、先生の次くらいに?敬う人だと教えられて、緊張しながら向かったのは、スナイデル公爵家。

「久し振りね、ノエリア」

「ディアンヌ様…ご無沙汰しております」

「…もう直ぐね…あらっ、動いたわ!ほら、フランも、触ってごらんなさい」

「おっ…おお~…なにか入ってます。母上」

「だから、赤ちゃんよ…教えたじゃないの…」

「産月に入ってからは動かなくなったのだけど…賑やかで嬉しいのかしらね」

夫人にベッタリのコーエンの弟は、夫人のお腹から生まれたけど、コーエンは、母親がローザの貴族だった事で、俺と同じ様に心ない言葉や視線を浴びている…が、そんなものは些末事と鼻で笑った。

「俺が恐怖するのは、義母と、義叔父の拳骨だけだ。人の目も、言葉も…俺の膝を着かせる程の痛みにはならない」

カッコ悪い事を、カッコつけて言ってるが、まさか…継子いじめ…?

物語で読んだ事がある。
ご飯を食べさせてもらえなかったり、屋根裏部屋に住まわされたり、汚れた服しか着させてもらえなかったり…

コーエンの話に衝撃を受けた俺は、コーエンの肌のツヤツヤにも、夫人に甘えるコーエンの幸せそうな笑顔にも気付く余裕もないまま、悩んだ。

その心配や悩みは、全て必要なかったと知ったのは直ぐだったけれど…


ーーー


調度品を壊した、遊びが喧嘩に発展した、生意気な口をきいた…色んな理由で、カイン、コーエン、フランの3人に、拳骨が落とされていくのを見守り続けて半年になる。

「「~~~っ………」」

「カイン、コーエン…服を破らない様に遊びなさいと、何度言ったら分かるのかしら?」

今日はカインとコーエンか…

床に転がる黒と金の頭を見つめながら、木登りが出来なかった事で、夫人の拳骨の犠牲にならずに済んだフランと、おやつを食べている。

「ノエリアが、オレリアを連れてアレンを迎えに来ているけれど?貴方達は…会えないわね…?」

「「何で?!」」

「お客様の前に出られる様な姿じゃないでしょう?」

「会いたい!会わせてっ!!」

「叔母上、僕はオレリアに会いに来たんです!」

俺じゃないのかよ…

半年前に産まれ来た赤ちゃんは、ソル爺様の言っていた通り、俺と同じ色をした妹だった。

顔をクシャクシャにして泣く声は弱々しく、身体はクニャクニャで、起きてる時間より寝てる時間の方が全然多い…おくるみに包まれて転がってる姿は、カインの屋敷で見た繭玉みたい。

可愛いとは程遠い、弱っちい姿に心配したけど、毎日毎日、どんどんどんどん可愛くなってきて、大きな声で泣く様になって、目を開けてる時間も長くなって……俺を見て笑った妹を見た時は、可愛すぎて膝から崩れた。

そんな可愛い妹に、コーエンとカインも夢中になるのは当たり前で…

「2人共、下ろしたての服を破った罰よ。しっかり反省なさい。さあ、アレン、行きましょう?が待ってるわ」

「叔母上は、性格が捻じ曲がってます!」 

「その顔!悪女顔です!」

ーーゴッ…ゴツッ…

「…もう一度、落としましょうか?」

落としてから言うんだ…

「……お大事に…カイン、コーエン…フランも、またね…」 

継子いじめだと思っていた拳骨は、今日も、ちゃんと、平等に落とされている。


ーーー


デュバルを馬鹿にしているくせに、宰相の伯父上とは縁を繋いでおきたい様で、産後の母の体調が回復した頃から、お茶会の招待状が届く様になった。

社交シーズンが終わって油断してたけど、貴族夫人というのは、お茶会で情報交換をして夫を助け、着飾って家の力を示すのが仕事らしい…

教えてくれたカインに、だったら、子供を連れて行かなくてもいいじゃないかと返したけれど、子供には、将来の為の人脈を広げる任務があると言われてしまった。

だからと言って…

「外れ者と半端者か?…プハッ…いい組み合わせだな」

この人脈、必要か…?

親の複雑な事情を知らない子供達は、今日もこうして、俺とコーエンの侮辱に勤しんでいる。

妹の為に強くなれというソル爺様の言葉と、可愛い妹、そして、カインとコーエンという心強い友人も出来て、前みたいに陰でコソコソ時間を潰す事はなくなったし、傷付く事もなくなったが、言い返せないのは悔しい…

「カイン!こっちに来いよ!」

「何故?」 

「何故って…この2人はーー」

「公爵家の子息だが?お前達の様な格下の礼儀のなっていない者が、無礼を働いていい相手ではないのだが?」

首を傾げたコーエンの黒髪がサラリと流れる。

「な、何だよ急に…」

「子供同士の事だからと、これまで静観してきたが……馬鹿な親の元で馬鹿を増長させている様だから、教えてやってるのさ」

俺は優しいからなと言った口はニヤリと上がり、昼の嵐の空みたいな灰色の目は意地悪く光っている。

子供同士と言ってるけど、カインだって俺達と一歳しか変わらない立派な子供。
なのに、俺とコーエンを庇う背中がすごく大きく見える。

「馬鹿って言ったな!」

「父上に言い付けてやるからなっ!」

「それは願ってもいない提案だ。こちらから抗議文を送る手間が省ける…その代わり、正確に告げ口しろよ?して、の俺に、返り討ちにされたとな……行くぞ、コーエン、アレン」

スゴい…けど、怖い…

目を丸くする俺達の手を引いて、スッキリしたと空を見上げたカインの目は…やっぱり昼の嵐の空みたいな灰色。

「コーエン、アレン。お前達は、王家の次に高位の家柄なんだ。あんな馬鹿に侮辱される様な事はあってはならない」

「でも…向こうの言ってる事も、間違いじゃないし…」

「身分を笠に着せるなって言われてるだろ…義母上の拳骨が落ちるぞ…」

「身分の意味を理解してない奴の前では、存分に着ろ。お前達が侮られるという事は、両親や家も侮られるという事…与えられた権利を使ってねじ伏せろ、潰す勢いで行け」

「カイン…」

「それは横暴だろ…」

「礼儀を欠く相手には横暴で返せ。お前達が言われている血だの歴史だのは、人によって解釈が変わる。自分に都合よく悪と捉えるか、善と捉えるか…若しくは何の価値も見出さないか…だから、人の都合に振り回されるな。振り回される前に、身分を持ち出せ。脆弱なお前達が使える唯一の対抗手段だ」

「言葉が難し過ぎるよ…」

「カインが怖いよ…」

「怖がらせるつもりはなかったが…すまない…お前達に合わせて、分かり易い様に、ゆっくり

それは、俺とコーエンが腹黒と呼ばれる様になる、始まりの言葉。























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