とある公爵令息の恋語り

紗華

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始まりの6歳

8:秘密兵器 アレン&グレン

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「………」

「………」

「あうっ…だぁ~ん~…ん~…まっ…」

「だぁ…あうっ?…ん~…っぱ!」

「………」

「………」

「あ~あうっ…?」

「ん~…まっ?」

カインとコーエンが見たら、可愛いを連発するだろうな…

俺の膝の上に座る銀と、アリーシャ嬢の膝の上に座る金が、手を振り、足をバタつかせて、会話にならない会話を楽しんでいる。

俺も、こんな風にアリーシャ嬢と話したいのに…

俺も、アリーシャ嬢も俯いたまま…
互いの腕に抱えた小さな頭を、見るともなしに見ながら、妹達の会話を聞き流している。

「っだあっ!あ~…んまっ…」

「あ~あ~!…んんん~…っまっ!」

ーーベシンッ……トサッ…

「?!っ痛った……い…」

「アレン様?!オレリア様もっ!大丈夫ですか?!」

何に興奮したのか、声と共に大きくなった妹の動きは、力任せの裏拳となって俺の顔面に直撃した。

「……だ、大丈夫……オーリアは?大丈夫?」

「あぅっ…う?」

ソファに仰向けに倒れた俺のお腹の上で、ひっくり返った虫の様に手足をパタパタ動かす妹の拳は、無事だったらしい…

「……油断した…」

「フフッ…私も、よく髪を引っ張られました。すごい力で急に引っ張るから、頭がカクンて…一度、首を痛めてしまって…それからは、髪を結い上げる様にしているんです」

「だから、今日は結んでいるんですね。初めて見たけれど、とても可愛いから…余計に、緊張しました」

「あ…ありがとう、ございます…」

高い位置で結んだ髪型は、小さくて丸い可愛い顔がよく見える。

このままずっと見ていたいけど、その前に言わなくちゃいけない言葉があるのだと、気持ちを切り替えて大きく深呼吸をした俺は、チャンスをくれた妹を抱え直して、起き上がった。

「……顔は痛かったけど、アリーシャ嬢と話すきっかけが出来てよかったです。領地に帰るまでに、謝りたかったから……アリーシャ嬢、ごめんなさい。あんな風に、君を傷付けるつもりはなかったんです。僕は、家の事も、親の事情も関係なく、アリーシャ嬢が好きです。だから、僕と結婚して下さいっ!」

「だぁっ…ば~ぶっ!」

「けっ、結婚?!」

「あうっ…?」

「?婚約の次は結婚ですよね?」

「あ~…んまっ…?」

「…そ、そうですが…そこまで、考えていませんでした」

「ん~…ぶぅっ…」

「僕と結婚するのは嫌ですか?絶対に幸せにします。君を泣かせる様な事はしないから、毎日、好きって言うから、君を守れるくらい強くなるからっ!」

「だあっ!あぶぅっ!」

「……ア、アレン様…」

「何?アリーシャ嬢」

「……フッ…フフフッ…アハッ…ックッ…」

「アリーシャ…嬢?」

「ご、ごめんなさいっ…フハッ……でもっ…オレリア様と…ヨランダが…ックク…」

気付いていた…小さな2人が割り込んできていたのは、ずっと気付いていた。

「オーリア…ヨランダ嬢……ちょっと、静かに…」

「あう…?」

「んま…?」

うん…無理だよね…


ーーー


もどかしい空気に、頭を掻き毟りたくなるのを堪え、小さな主の頼りない背中を眺めながら小さく息を吐く。

聞こえてくるのは意味不明な喃語ばかりだが、本人達は通じ合っているのだろう、会話が弾んで止まらない。


『きっかけを作る、秘密兵器よ』


空気を読まない存在というのは、時に大きな救いとなる…という様な説明を受けながら、奥様から秘密兵器を手渡された主は、同じ様に秘密兵器を抱えて来たアリーシャ嬢を出迎えた。

社交界の女王の片鱗を見せる、今は可愛い2人のご令嬢は、与えられた使命を全う出来るのか……

先に動いたのは、我がデュバルの姫様。

鳩尾に喰らう蹴りも痛いが、あの裏拳は本気で痛い…

後ろに倒れ込んだ主が、鼻を押さえて痛みに耐える姿を眺めながら、痛いきっかけを逃すなよと念を送る。

結果は、半分成功…

「……グレン、2人をお願い…」

「……御意に」

涙を流して笑うアリーシャ嬢と、少々不貞腐れ気味の主から、役目を終えた天使達を受け取って暫く…

「アリーシャ嬢、僕はここで待ってるから」

「いえ、待って頂く必要は…すぐに追い付きますから…」

「そう言いながら、どんどん離れて行きますよね?もしかして…これが、プロポーズの返事ですか?」

「違います!だって!この賽の目、同じ数しか出ないんだもの!」

宰相閣下に頂いたボードゲームの前で、賽の目を一緒に振ろうと微笑む主に、頬を膨らませてたアリーシャ嬢が勝負にならないと横を向く。

ボードゲームで喧嘩は勘弁してくれよ…その為の犠牲なんだから…

溜め息を飲み込んで、腹の上に乗っかる金と銀に視線を戻すと、期待に満ちた瞳で見つめ返された。

「……坊っちゃまは、好調ですね…」

「あ~ぶぅっ!」

「んばっ…あ~だぁっ…」

「そうですね。今日はお嬢様方のおかげです……ところで、お嬢様方…そろそろ終わりにしても、よろしいでしょうか…」

ーーぺチッ…パチンッ…

「……御意に」

「ほぅ~…」

「ふぉっ…ふ~…」

仰向けから起き上がる度に動く腹筋の上で、満足気な溜め息を吐く天使達。

きっかけは、胡座の上に乗せたオレリア様に、鳩尾への蹴りを喰らって倒れた事だった。

最近やたらと足を突っ張るので、そろそろ掴まり立ちかもしれないと、奥様と宰相夫人が嬉しそうに話していたが、可愛い踵の被害者は多数。

それにしても、妙な遊びを覚えさせてしまったな…

ーーパシパシッ…ペシンッ…

「申し訳ありません、お嬢様方……考え事をしておりました」

「ほふぅ~…」

「ふぉっ…ふぉ~…」

こんな遊びに満足して頂けるのは、いつまでだろうか…

「……プハッ…ハハハッ…ック……ハハッ…」

世界広しと言えど、騎士の腹筋運動に喜ぶ公爵令嬢などいないだろう。

そう思ったら、笑いが吹き出してしまったのだが…

「ああああぅっ…?」

「ううううっ…だっ…」

ーーパチッ…ペシペシッ…

「……お嬢様方…笑い続けるのは、無理です……そんな顔をしても無理です」

俺の腹筋も、限界です。

















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