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34 リコがこの世界に来た意味②
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「竜王様の母にあたる、前の王妃様もそうでした。王妃様と結婚する前の竜王様は、それはそれは粗暴で気分屋、思いやりの欠片もない、強さだけを追い求める者だったのです。それが王妃と出会ったとたん、思いやりをもち民への支援を始めました。以前の王を知っている者からしたら、ものすごい変わりようで別人かと思うほどでしたよ」
(リュディカのお父さんは、お妃様の存在でそんなに変わったんだ……)
「竜王様の隣に立つ女性は、心が強くあらねばなりません。私は常々、淋しい思いをした彼を支えてくれる女性が必要だと思っておりました。だからあなたがこの世界に現れたことが、奇跡のように思えます」
ルシアンさんはまるで、リュディカの父親のような笑顔で私を見ている。彼の隣に私がいることで、安心してくれたのだろうか。そうであるならば、とても嬉しい。
「さ、儀式を始めましょう。まあ、あなたにとっては儀式よりもバルコニーの挨拶のほうが大変だと思いますが」
「うう! なるべく考えないようにしていたのに! ひどいです!」
そう、儀式はほとんど聞いているだけで、誓いの言葉もない。だけど、その後の王宮のバルコニーでの挨拶がものすごく恥ずかしいのだ! だって大勢のお祝いに集まった人たちの前でキスしないといけない。そのうえ国民が入れ替わるたびに、何回もする……。
「竜王様の結婚式は、挨拶がメインですから。みんな竜王様が幸せであることを、この目で確かめたいのですよ。頑張ってくださいね」
「なんだ? 俺とのキスになんの不満があるんだ?」
「わっ!」
いつの間にか私の隣には、不機嫌そうな顔のリュディカが睨んでいた。
「そこが不満なわけじゃ――」
「まあ、いい。リコにはまだ俺の愛が足りないってことなんだな。そうか、そうか」
「あ! ちょっと、待って!」
(あのニヤッとした顔は、絶対、私に意地悪しようと思ってる!)
案の定、儀式の後は大変だった。バルコニーに出て集まった人々に手を振って、お祝いの言葉に応える。そのあとはお決まりのキスなんだけど……
(一回のキスが長い!)
軽くチュッて感じなのかなと勝手に思ってたけど、全然違った。しかもリュディカのキスはどんどんエスカレートしていき、まわりも盛り上がって歓声が止まらない。
「ほら、騎士団や竜たちも、挨拶に来たぞ」
『リコ様! ご結婚おめでとうございます!』
『おめでと』
『僕と結婚するはずだったのに~』
目の前にはずらりと竜騎士団のみんなが飛んでいて、私たちに手を振ってくれている。先頭には赤いリボンをつけたヒューゴくん。背中にはもちろんクルルくんも乗っている。その後ろでキールくんがこっちに飛んでこようとするのを、相棒のゲイリーさんが必死に止めていた。
「みなさん、ありがとう! ヒューゴくんもクルルくんも、キールくんもありがとね!」
手を振って皆に応えると、今度は騎士団のみんなが集まってくれた国民に向けて、赤い花びらを散らし始める。
「わあ! きれい!」
「これは王族から幸せを分け与えるという意味があるんだ。この花びらは縁起物として、乾燥させてお守りにする者も多いぞ」
「素敵ですね!」
澄み切った空の下、竜騎士が降らすたくさんの赤い花びらは、とても華やかで幻想的だった。この時ばかりは短気な竜人たちも喧嘩せずに、楽しそうに花びらを取ろうと笑っている。
「みんなも楽しんでるようで、良かっ……んう!」
今日というおめでたい日は、私に和んでいる暇はないらしい。すぐにリュディカの熱いキスが再開し、みんな大盛りあがりで祝福の言葉をかけてくれている。
なんとか唇を離しジロリと睨むと、リュディカはフンと鼻で笑っていた。
「こんなことで、赤くなってどうするんだ? 今夜はもっと――」
「あーあー聞こえなーい!」
「まったく、今夜は覚えておけよ。今以上に赤くしてやるからな」
「うう……」
そうして私はリュディカの宣言どおり、たっぷりと甘い夜を過ごし、しばらくは彼を見るだけで顔を赤くしてしまうのだった。
(リュディカのお父さんは、お妃様の存在でそんなに変わったんだ……)
「竜王様の隣に立つ女性は、心が強くあらねばなりません。私は常々、淋しい思いをした彼を支えてくれる女性が必要だと思っておりました。だからあなたがこの世界に現れたことが、奇跡のように思えます」
ルシアンさんはまるで、リュディカの父親のような笑顔で私を見ている。彼の隣に私がいることで、安心してくれたのだろうか。そうであるならば、とても嬉しい。
「さ、儀式を始めましょう。まあ、あなたにとっては儀式よりもバルコニーの挨拶のほうが大変だと思いますが」
「うう! なるべく考えないようにしていたのに! ひどいです!」
そう、儀式はほとんど聞いているだけで、誓いの言葉もない。だけど、その後の王宮のバルコニーでの挨拶がものすごく恥ずかしいのだ! だって大勢のお祝いに集まった人たちの前でキスしないといけない。そのうえ国民が入れ替わるたびに、何回もする……。
「竜王様の結婚式は、挨拶がメインですから。みんな竜王様が幸せであることを、この目で確かめたいのですよ。頑張ってくださいね」
「なんだ? 俺とのキスになんの不満があるんだ?」
「わっ!」
いつの間にか私の隣には、不機嫌そうな顔のリュディカが睨んでいた。
「そこが不満なわけじゃ――」
「まあ、いい。リコにはまだ俺の愛が足りないってことなんだな。そうか、そうか」
「あ! ちょっと、待って!」
(あのニヤッとした顔は、絶対、私に意地悪しようと思ってる!)
案の定、儀式の後は大変だった。バルコニーに出て集まった人々に手を振って、お祝いの言葉に応える。そのあとはお決まりのキスなんだけど……
(一回のキスが長い!)
軽くチュッて感じなのかなと勝手に思ってたけど、全然違った。しかもリュディカのキスはどんどんエスカレートしていき、まわりも盛り上がって歓声が止まらない。
「ほら、騎士団や竜たちも、挨拶に来たぞ」
『リコ様! ご結婚おめでとうございます!』
『おめでと』
『僕と結婚するはずだったのに~』
目の前にはずらりと竜騎士団のみんなが飛んでいて、私たちに手を振ってくれている。先頭には赤いリボンをつけたヒューゴくん。背中にはもちろんクルルくんも乗っている。その後ろでキールくんがこっちに飛んでこようとするのを、相棒のゲイリーさんが必死に止めていた。
「みなさん、ありがとう! ヒューゴくんもクルルくんも、キールくんもありがとね!」
手を振って皆に応えると、今度は騎士団のみんなが集まってくれた国民に向けて、赤い花びらを散らし始める。
「わあ! きれい!」
「これは王族から幸せを分け与えるという意味があるんだ。この花びらは縁起物として、乾燥させてお守りにする者も多いぞ」
「素敵ですね!」
澄み切った空の下、竜騎士が降らすたくさんの赤い花びらは、とても華やかで幻想的だった。この時ばかりは短気な竜人たちも喧嘩せずに、楽しそうに花びらを取ろうと笑っている。
「みんなも楽しんでるようで、良かっ……んう!」
今日というおめでたい日は、私に和んでいる暇はないらしい。すぐにリュディカの熱いキスが再開し、みんな大盛りあがりで祝福の言葉をかけてくれている。
なんとか唇を離しジロリと睨むと、リュディカはフンと鼻で笑っていた。
「こんなことで、赤くなってどうするんだ? 今夜はもっと――」
「あーあー聞こえなーい!」
「まったく、今夜は覚えておけよ。今以上に赤くしてやるからな」
「うう……」
そうして私はリュディカの宣言どおり、たっぷりと甘い夜を過ごし、しばらくは彼を見るだけで顔を赤くしてしまうのだった。
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