これは私が望んだ復讐です

四葉美名

文字の大きさ
31 / 45

30話 シャルロットの誤算

 
「オーエン様! わたくしは他の男性とそのようなことしておりません! シモン様は嘘をついていますわ! わたくしのことだけを信じてください!」


 華奢で儚げなシャルロットが涙をためてそう言うと、本当に信じてしまいそうな気になる。オーエン様もどちらを信じるべきか判断できず、オロオロと目を泳がせていた。


 しかしそんなシャルロットの小芝居が通用するシモン様ではない。私だけに聞こえる声で「食いついたな」と呟くと、妹にも負けないほどの芝居がかった態度で話し始めた。


「ほう? 私が嘘をついていると言うのかい? では数日前にオーエン殿下の護衛騎士と王宮の部屋で何をしていたのだろうか? 他にも君と夜会から抜け出した男性を数人知っているが、全員の名前を言ったほうがいいかな?」

「な、なに! それは本当か! シャルロット!」

「そ、それも嘘ですわ! きっとお姉様がシモン様にお願いして、わたくしを作り話でいじめているのです!」


 ワアワアと泣きながらオーエン様の腕にすがるシャルロットは、まるで被害者みたいだ。この場だけを見たら同情する人もいるだろう。でも私は妹の嘘を暴く方法を知っている。私は大騒ぎするシャルロットの肩にそっと手を置き、話しかけた。


「ねえ、シャルロット。わたくしはあなたに意地悪なんてしていないわ。それにあなた、オーエン様の子を妊娠しているのでしょう? そんなに泣いてはお腹の子に良くないわよ」


 私のその言葉に、シャルロットは弾かれたように顔を上げる。


「ええ! ええ! そうよ! わたくしはオーエン様の子を――」
「黙りなさい。まだ話は終わっていないわ」


 私はにっこりと微笑んで、妹の言葉を手で遮る。シャルロットは普段と違う私の態度に、ビクンと肩を揺らした。


「シャルロット、これは妃教育を受けた者だけが知っているのだけど、王族の子は魔術具で血を調べるの。本当に王家の血を引いている正統な後継者なのか、証明するためにね。だからあなたは心配する必要ないわ。だってお腹の子があなたが正統な妃だという証拠になるのだから」

「え……生まれた子を調べる……?」


 私の言葉で一瞬にして顔を青白くしたシャルロットを、オーエン様は見逃さなかった。私がサッとシモン様のもとに戻ると、殿下は顔を真っ赤にしてシャルロットに詰め寄り始める。


「シャルロット! おまえは他の男ともあんなことをしていたのか!」
「ち、違います! なにかの間違いです! わたくしは――」
「では子供が生まれたら、本当に私の子だと証明できるのだな?」
「は……あ……それは……」
「な、なんて女だ! 私の護衛騎士と関係を持つとは! おい! 私の騎士を全員呼び出せ! それにシャルロットが出席した夜会のリストも持ってこい!」


 いつも自分のそばにいる護衛騎士に裏切られたのがそうとう不愉快なのだろう。ううん。もしかしたら殿下には肉体的な悩みがあるのかもしれないわね。オーエン様の苦手なシモン様も騎士の訓練をしているから、男らしい体つきだもの。


(それにしても自分だって私という婚約者がいる身だったのに、女の浮気は許さないなんて自分勝手ね)


 あまりにも愚かな言い合いに、私は大きなため息を繰り返してしまう。今では陛下や侯爵、それに宰相様まで巻き込んで大騒ぎだ。きっとこの騒ぎはすぐに城中に広がるだろう。


「さあ、行こうか。スカーレット」
「ええ」


 誰ももう、私たちのことに気を止めない。罵ったり泣き叫んだりと騒がしいおかげで、部屋を出ていっても誰も見向きもしなかった。


「婚約は解消だ!」
「殿下! なんて酷いことを! 娘のお腹には殿下の子がいるのですよ!」
「私の子かわからないではないか!」
「わ、わたくしはそんな不貞を働いておりません! 信じてください! あああ……!」


 三人の叫ぶ声は扉が閉まった後も、絶え間なく聞こえてくる。何事かと駆けつけてきた王宮の人達は、興味津々の顔で様子をうかがっていた。そんな中、誰かの「大変なことになったぞ」と呟く声が耳に届き、私はクスッと含み笑いをする。


(大変なことになるのは、これからですわ)


 シモン様も同じことを考えていたのだろう。私の顔を見るとニヤリと笑った。


「いい悪女っぷりだったな」
「シモン様だって、悪い顔をしていましたよ?」
「はは! そうだな。スカーレットに怖がられてないといいと思ったが、嫌いになっていないか?」


 そう言って私を見つめる瞳は、不安そうに揺れている。さっきまで陛下に対して威圧感丸出しだった顔とは違い、これじゃあまるで子犬だ。


「そ、そんなことはありませんわ!」
「そうか、それなら良かった」


 少年みたいに無邪気に笑うシモン様を見ていると、くすぐったくて、私の顔も思わずにやけてしまう。私はそんな浮ついた顔を見せないよう、そっと視線をそらした。きっと顔だって赤くなってるはず。


(はあ……、これがシモン様の演技だとしても、恋愛未経験の私にこの魅力には抗えないわ)


 だって彼は私の味方になってくれて、つらい毎日から救ってくれた。そのうえ私に対する態度は他の人とは違って、甘く優しい。少し子供みたいな表情が、なおさら私の心をくすぐっていて、嫌でも自分の気持ちに気づいてしまう。


(そういえば、彼にはカリエントに婚約者がいるって言ってたけど、その女性とも契約をしているのかしら? も、もしかして! カリエントって一夫多妻制!?)


 悪女になってやるって気持ちが強すぎて、その事に気づいていなかった。私は彼に確かめようと、あわてて振り返る。


「シモン様!」
「ん? どうしたんだ?」


 しかし次の瞬間。急に王宮の門のほうから私の名を呼ぶ大勢の声が聞こえてきて、私は思わず足を止めた。

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

これからもあなたが幸せでありますように。

石河 翠
恋愛
愛する男から、別の女と結婚することを告げられた主人公。彼の後ろには、黙って頭を下げる可憐な女性の姿があった。主人公は愛した男へひとつ口づけを落とし、彼の幸福を密やかに祈る。婚約破棄風の台詞から始まる、よくある悲しい恋の結末。 小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

お望み通り、消えてさしあげますわ

梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。 王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。 国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの“役立たずの聖女”だと噂されるほどだったから。 彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。 この国はより豊かになる、皆はそう確信した。 だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) ※この調子だと短編になりそうです。

聖力を奪われたので、まぁいいかと力を上げたら文字通り弾け跳んだ話

ラララキヲ
ファンタジー
 私は先代聖女様に見つけられて聖女になった。その時から村から出て王都の教会で暮らしている。  聖女は代々王族と縁付く決まりがあり、歴代で初となる『平民』の聖女の私ですら王族の婚約者にされてしまった。そのことに一番反対したのは婚約者に選ばれた第二王子様。  そしてそんな私の元に同じ村出身で『自称私の親友』と言い張る女が押しかけて来た。  なんだか周りが面倒臭いけど、何を言われようとも『私が聖女なのは変わらない』ので問題ないです。 ◇テンプレ聖女モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

惨殺された聖女は、任命式前に巻き戻る

ツルカ
恋愛
惨殺された聖女が、聖女任命式前に時間が巻き戻り、元婚約者に再会する話。