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30話 シャルロットの誤算
「オーエン様! わたくしは他の男性とそのようなことしておりません! シモン様は嘘をついていますわ! わたくしのことだけを信じてください!」
華奢で儚げなシャルロットが涙をためてそう言うと、本当に信じてしまいそうな気になる。オーエン様もどちらを信じるべきか判断できず、オロオロと目を泳がせていた。
しかしそんなシャルロットの小芝居が通用するシモン様ではない。私だけに聞こえる声で「食いついたな」と呟くと、妹にも負けないほどの芝居がかった態度で話し始めた。
「ほう? 私が嘘をついていると言うのかい? では数日前にオーエン殿下の護衛騎士と王宮の部屋で何をしていたのだろうか? 他にも君と夜会から抜け出した男性を数人知っているが、全員の名前を言ったほうがいいかな?」
「な、なに! それは本当か! シャルロット!」
「そ、それも嘘ですわ! きっとお姉様がシモン様にお願いして、わたくしを作り話でいじめているのです!」
ワアワアと泣きながらオーエン様の腕にすがるシャルロットは、まるで被害者みたいだ。この場だけを見たら同情する人もいるだろう。でも私は妹の嘘を暴く方法を知っている。私は大騒ぎするシャルロットの肩にそっと手を置き、話しかけた。
「ねえ、シャルロット。わたくしはあなたに意地悪なんてしていないわ。それにあなた、オーエン様の子を妊娠しているのでしょう? そんなに泣いてはお腹の子に良くないわよ」
私のその言葉に、シャルロットは弾かれたように顔を上げる。
「ええ! ええ! そうよ! わたくしはオーエン様の子を――」
「黙りなさい。まだ話は終わっていないわ」
私はにっこりと微笑んで、妹の言葉を手で遮る。シャルロットは普段と違う私の態度に、ビクンと肩を揺らした。
「シャルロット、これは妃教育を受けた者だけが知っているのだけど、王族の子は魔術具で血を調べるの。本当に王家の血を引いている正統な後継者なのか、証明するためにね。だからあなたは心配する必要ないわ。だってお腹の子があなたが正統な妃だという証拠になるのだから」
「え……生まれた子を調べる……?」
私の言葉で一瞬にして顔を青白くしたシャルロットを、オーエン様は見逃さなかった。私がサッとシモン様のもとに戻ると、殿下は顔を真っ赤にしてシャルロットに詰め寄り始める。
「シャルロット! おまえは他の男ともあんなことをしていたのか!」
「ち、違います! なにかの間違いです! わたくしは――」
「では子供が生まれたら、本当に私の子だと証明できるのだな?」
「は……あ……それは……」
「な、なんて女だ! 私の護衛騎士と関係を持つとは! おい! 私の騎士を全員呼び出せ! それにシャルロットが出席した夜会のリストも持ってこい!」
いつも自分のそばにいる護衛騎士に裏切られたのがそうとう不愉快なのだろう。ううん。もしかしたら殿下には肉体的な悩みがあるのかもしれないわね。オーエン様の苦手なシモン様も騎士の訓練をしているから、男らしい体つきだもの。
(それにしても自分だって私という婚約者がいる身だったのに、女の浮気は許さないなんて自分勝手ね)
あまりにも愚かな言い合いに、私は大きなため息を繰り返してしまう。今では陛下や侯爵、それに宰相様まで巻き込んで大騒ぎだ。きっとこの騒ぎはすぐに城中に広がるだろう。
「さあ、行こうか。スカーレット」
「ええ」
誰ももう、私たちのことに気を止めない。罵ったり泣き叫んだりと騒がしいおかげで、部屋を出ていっても誰も見向きもしなかった。
「婚約は解消だ!」
「殿下! なんて酷いことを! 娘のお腹には殿下の子がいるのですよ!」
「私の子かわからないではないか!」
「わ、わたくしはそんな不貞を働いておりません! 信じてください! あああ……!」
三人の叫ぶ声は扉が閉まった後も、絶え間なく聞こえてくる。何事かと駆けつけてきた王宮の人達は、興味津々の顔で様子をうかがっていた。そんな中、誰かの「大変なことになったぞ」と呟く声が耳に届き、私はクスッと含み笑いをする。
(大変なことになるのは、これからですわ)
シモン様も同じことを考えていたのだろう。私の顔を見るとニヤリと笑った。
「いい悪女っぷりだったな」
「シモン様だって、悪い顔をしていましたよ?」
「はは! そうだな。スカーレットに怖がられてないといいと思ったが、嫌いになっていないか?」
そう言って私を見つめる瞳は、不安そうに揺れている。さっきまで陛下に対して威圧感丸出しだった顔とは違い、これじゃあまるで子犬だ。
「そ、そんなことはありませんわ!」
「そうか、それなら良かった」
少年みたいに無邪気に笑うシモン様を見ていると、くすぐったくて、私の顔も思わずにやけてしまう。私はそんな浮ついた顔を見せないよう、そっと視線をそらした。きっと顔だって赤くなってるはず。
(はあ……、これがシモン様の演技だとしても、恋愛未経験の私にこの魅力には抗えないわ)
だって彼は私の味方になってくれて、つらい毎日から救ってくれた。そのうえ私に対する態度は他の人とは違って、甘く優しい。少し子供みたいな表情が、なおさら私の心をくすぐっていて、嫌でも自分の気持ちに気づいてしまう。
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悪女になってやるって気持ちが強すぎて、その事に気づいていなかった。私は彼に確かめようと、あわてて振り返る。
「シモン様!」
「ん? どうしたんだ?」
しかし次の瞬間。急に王宮の門のほうから私の名を呼ぶ大勢の声が聞こえてきて、私は思わず足を止めた。
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