これは私が望んだ復讐です

四葉美名

文字の大きさ
53 / 57

51話 追い詰めるシモンの策略

 
「実の家族?」
「そんなことあるのか?」
「本当ならひどすぎるわ……!」


 シモン様の発言に周囲はざわざわと騒ぎ始める。他人である教会や王族が虐げていたというのはまだ理解できても、まさか家族から虐められているとは思いもよらなかったのだろう。


 しかし数人の男性があることに気づき、ハッと顔をあげた。


「そういえばオーエン殿下の浮気相手は、スカーレット様の妹だ!」
「しかし妹が姉の婚約者を奪うなんて、まともな父親なら許さないだろう?」
「もしかして、それを許したのか?」


 その声はすぐに周囲に届き、シモン様が話す前に私の家族の所業が広まっていく。それでもまだ父がしたことはその噂よりひどいのだ。シモン様は最初に気づいた男たちの前に行くと、にっこり笑って話しかけた。


「いいところに気づいてくれたな。しかしスカーレットにしたことは、もっと残酷だ。彼女の父親は本来の当主であるスカーレットから侯爵家を乗っ取り、あそこにいる姉の婚約者を寝取った妹のシャルロットに譲る気だったのだ。聖女であるスカーレットを、貴族から平民の孤児にさせてまでな」


 シモン様が睨みながらシャルロット達を指差すと、妹は突然の展開にビクリと体を震わせた。一気に自分に敵意が向けられ、妹はオロオロと目を泳がせる。


「ち、ちが……」


 しかしそこはシャルロットだ。父親が言い訳を作る前にポロポロと大粒の涙を流し、民衆に訴えかけ始めた。


「違いますわ! わたくしはただ、オーエン様に求婚されただけです! お姉様は殿下を嫌っていました! だから私とオーエン様こそが真実の愛で結ばれているのです! 侯爵家のことも、わたくしは何も知りません!」


 ドレスは薄汚れているけれど、それがいっそう可憐で儚げに見える。それを理解しているのだろう。シャルロットはワアワアと大きな声で泣き始め、周囲の同情を買うつもりらしい。


「え? そうなのか? たしかにスカーレット様と殿下は政略結婚が目的らしいけど……」
「聖女様とは十歳で婚約してるしな」
「じゃあ、殿下と妹は愛し合ってしまっただけか?」
「妊娠して強行突破したってことかもしれんな」


 貴族と違い自由恋愛の彼らにとって、真実の愛だと言われればそちらのほうがわかりやすいのだろう。チラホラと「それならしょうがないか」という声も出てきた。


「わたくしは本当になにも知りません! お姉様がもっとオーエン様を愛してあげていれば、わたくしだってぇ……」


 ひっくひっくとしゃくり上げながら泣くシャルロットの手の隙間から、ニヤリと笑う顔が見える。すると突然オーエン様が妹の手を取り、二人で前に飛び出してきた。


「そうだ! 私たちは浮気などではない! スカーレットはいつも私に冷たく、むしろ浮気をしていたのは彼女のほうだ! シモン殿下とすぐ婚約するなどおかしいと思わないか? 二人は私を裏切り通じ合っていたのだ!」


 目をギラギラさせオーエン様はそう言うと、ニヤリと笑った。どうやらシャルロット側について、自分の悪い噂を塗り替えるつもりらしい。妹も切り替えが早い。どうやらオーエン様が味方につけば、また王妃の座につけると思ったようで嬉しそうにしている。


(本当に調子が良い二人ね。それに自分の都合の良いことしか覚えてないから、後で大変なことになるって学習しないのかしら?)


 二人の幸せそうな姿に、集まっている人達は少しずつ真実味を感じてきたらしい。今度は「お似合いの二人に見えるわ」「そうだな。無理やり結婚させられるのはつらいからな」など、二人の作戦通り同情を買っていた。


 私は「はあ……」と大きくため息を吐き、シモン様に視線を送った。彼もここまで予想通りの行動をすると、かえって申し訳ない気になるのかもしれない。しばらく複雑な顔で二人を眺めていたが、すぐにどこかに合図を送った。


 するとその合図をきっかけに、十人ほどの女性達が舞台に上がってきた。皆、どことなく品があり、見覚えのある顔だ。


 そして先頭の女性がオーエン様とシャルロットを指差し、民衆に向かって大きな声で話し始めた。


「わ、私は、王宮の侍女をしていたキルムです! 私は何年も前から夜にこのお二人が同じ部屋に入るのを見ています!」


 緊張しているのだろう。顔を真っ赤にしてそう叫ぶと、ヨロヨロと後ろに下がっていく。そしてその発言に続くように、今度は別の女性たちも前に出てきた。


「私もです! 二人が庭で抱き合ってキスしているのを見ました!」
「それにシャルロット様は、他の男性とも関係を持っています!」
「お二人はそのことで大喧嘩をし、殿下は復讐のためシャルロット様を牢屋に入れています! 真実の愛なんかじゃありません!」


 あわてたのはオーエン殿下だ。女性たちを止めようと前に出たが、すぐにカリエントの騎士に捕まり止めることができない。


「な、何を言って……! ち、違う! こんなやつらは王宮にはいない! 皆! 信じないでくれ!」


 しかしその後も続々と王宮に勤めていた人達からの証言が集まっていき、もう先ほどの殿下達の話を信じる者はいなくなっている。むしろ堂々と国民に嘘をついたことで、呆れ返っていた。


「ち、違う……これは、その……違う……」


 殿下はあっという間に自分たちの作戦が失敗に終わり、真っ青な顔でなにかモゴモゴと言っている。その隣でシャルロットは血で赤く染まるほど唇を噛み締め、悔しそうに地面を睨んでいた。


(さっさと罪を認めて謝罪してくだされば、ここまで暴露しなかったのですけど……)


 もちろんこの証言もシモン様の作戦だ。最近まで王宮で働いていた職員を探し出し、証人として発言してほしいと手配したのだ。もちろんこの後、彼女たちはカリエントの王宮で働くことになっている。


「うまくいったな」
「ええ。後はあの二人だけですわ」


 そう言う私の視線の先には、実の父親と陛下がいる。シモン様は彼らに向かってニヤリと笑うと、軽快な足音で近づいていった。そしてくるりと二人に背を向けると、広場に向かって話し始める。


「皆、これでわかっただろう。王族やスカーレットの家族がどれだけ自分勝手な者たちか。そしてその中でもこの二人、彼女の実の父とこの国シャリモンドの王は、二人で結託し聖女から貴族の身分を奪った!」


 鋭い眼光で二人を睨みつけるシモン様は、一歩彼らに近づく。ジャリッという砂を踏んだ足音が聞こえるほど広場は静まり返り、みな固唾を呑んで見守っていた。


 その静かな怒りを含んだ威圧感に父は悔しそうに一歩下がり、シモン様は追い詰めるようにさらににじり寄る。そのままあと少しで舞台から落ちてしまうのではないかと思った瞬間。


 わめき散らすような叫び声が、広場に響いた。

あなたにおすすめの小説

聖力を奪われたので、まぁいいかと力を上げたら文字通り弾け跳んだ話

ラララキヲ
ファンタジー
 私は先代聖女様に見つけられて聖女になった。その時から村から出て王都の教会で暮らしている。  聖女は代々王族と縁付く決まりがあり、歴代で初となる『平民』の聖女の私ですら王族の婚約者にされてしまった。そのことに一番反対したのは婚約者に選ばれた第二王子様。  そしてそんな私の元に同じ村出身で『自称私の親友』と言い張る女が押しかけて来た。  なんだか周りが面倒臭いけど、何を言われようとも『私が聖女なのは変わらない』ので問題ないです。 ◇テンプレ聖女モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。 ※女性向けHOTランキング☆2位☆入り!!!ファンタジー☆1位☆入り!!ありがとうございます!!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。 一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。 今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。 人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。 一度目の人生は何が起っていたのか。 今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。

「今更、あなたの娘のふりなどできません」〜ずっと支えていた手を、そっと引っ込めただけです〜

まさき
恋愛
父が死んだ日から、私は屋敷の「異物」になった。 継母は新しい夫に夢中で、義姉たちは私を使用人のように扱い、継父は三年経っても私の名前を覚えない。 気づいていなかったのだ、あの人たちは。 私の「静寂の手」がずっと、この家を守り続けていたことを。 ある夜、私は静かに荷物をまとめた。 怒りもなく、涙もなく、別れの言葉すら残さずに。 三ヶ月後、屋敷に原因不明の病が広がり始める。 「リーナを探せ」 今更、ですか。 私はもう、別の場所で別の名前で——ちゃんと生きています。