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シーズンⅡ-24 敗北が引き金

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 五十三歳になる美枝子が二十歳前の娘にときめくなど考えたこともなかった、いったい自分はどうしたんだろう。

 冷静になれっ。

 落ち着いて考えれば原因も対処法も分かるはずだ。

 声に惹かれたという一言で舞い上がってしまった、あの年頃の子供は後先を考えずに言葉を発するのは百も承知している、お願いされた内容にしたって遊び半分なのだろう。

 しっかりしろっ、美枝子。

 スマホを開いた。

 SNSアプリに宮藤朝美から長文が届いている。

 長文が書かれている吹き出しを長押しして出てきたメニューからコピーを選択してアプリを閉じる、メール機能を立ち上げて貼り付けてから自分宛に送る。

 送った先は自宅の美枝子の部屋にあるパソコンで、いま目の前にある。

 立ち上げてあるパソコンにメールが届いたことを確認し開く、マウスを使って文面をコピーしてワードを立ち上げて貼り付ける。

 読みやすいぐらいまで文字を拡大して一連の作業を終えた、保存するかどうか迷ったが「マリン」ホルダを作り保存すると決めた。

 スマホのSNS無料通話・メールアプリにはボイスメッセージ機能が付いていて、いまパソコンのワードに貼り付けた文面を見ながら声に出して読んでボイスメッセージで送ることになる。

 それが宮藤朝美からのお願いだった。

 ボイスメッセージは一度も使ったことのない機能なので不安もあるが、使い方は宮藤朝美が教えてくれたしネットでも調べたのでたぶん大丈夫。

 問題は、宮藤朝美から届いた文面そのものにある。

「神尾真凛、真凛ちゃん、いつも頑張っているね。知らないところでずっと努力していたのは知ってるよ。大丈夫、自分を好きになっていいんだよ、甘えたっていいんだから。えっ、甘えるときは朝美がいいの?そうなんだ、朝美って呼び捨てにされて甘えたいんだね、わかったわ、朝美。だれよりも綺麗な朝美、さぁ、こっちへ来てちゃんとご挨拶するんだよ、できるよね、朝美」

 挨拶の丁寧語の「ご挨拶」はそれだけで尊敬語になる、美枝子は自分が紹介される時に何度か使われたのを覚えている、「それでは工藤理事からご挨拶を頂きます」、北部学園職員の研修開始の時もそうだった。

 だが、朝美が送ってきたのはそれとはまったく違う意味合いなのだと分かる。

 イヤラシイ匂いがする。

 朝美の顔が浮かぶ。

 私の声を聞きながら何をするのかはだいたい想像がつく。

 そう思うと、こんな文面を声に出して送るのが躊躇われる、どうしよう、最後の部分は省いて送るか。

 迷った挙句、遊びに付き合うと決めて朝美から依頼された文面をすべて声に出して送ることにした。

 これは遊びなのだ。


****


 事件は十二月第三週の初めに起きた。

 その日、十五時過ぎに美枝子は理事長室に呼ばれた。

 部屋に入るとすぐに「揃ったな」の一言が理事長から発せられ、健将様と太田素子は既に来ていて張り詰めた雰囲気で何かが起きたと感じた、紗耶香様抜きということは最高機密に属する何かが現理事長と次期理事長の間で話し合われるということだ、いったい何が起きたというのだろう。

「今しがた北部銀行で異変が起きた、前田頭取が解任された」

 理事長を見るとさすがにぐったりと肩を落としている、北部栄心のこんな姿を目にしたこは一度もなかったと思う。

 三ヵ月近くにのぼる北部銀行役員への締め付け工作が失敗に終わったということだが、絶対権力を持つ北部宗家が身内から見放される事態がなぜ起きたのか美枝子には皆目見当もつかない。

 何が起きてこんなことになったのだろう。

「緊急動議が成立してしまった」

「そんなっ」

 健将様の発した言葉は悲鳴に近い。

「完全にやられた。新頭取は浅野専務だそうだ、それにしても・・・」

「えっ、子会社に出されるはずの人が頭取にですか?」

「そうだ」

 九月の時点では中野常務側が四人、前田頭取側が二人だった。

 切り崩しを開始して北部銀行経営陣十一名のうちの社外取締役三名を除く八名の中から二名を前田頭取側につけたので四対四になり互角まで盛り返している、これでやっと一息ついて年を越せるはずだったのに。

 年明け以降に中野派への締め付けを強めて離反者を出させる計画が練られていたが、実行に移す前に敗北を喫してしまった。

 北部宗家が完敗した。

「今しがた前田頭取から連絡が入った」と理事長が言い「そこでは」と続けてきた。

「今朝の取締役会で報告事項が終了したあとで浅野専務から前田頭取に対して勇退勧告が提案された。前田頭取は当然それを蹴ったそうだ、そこから十四時過ぎまでの四時間にわたって休憩を挟んで出席者全員で議論がなされたが前田頭取が一歩も引かなかったことで、緊急動議が出され投票の結果、解任が決まった」

「日本で、しかもこの北部で銀行頭取解任劇が起きるなんてっ、まさか現実になるとは」

 健将様の言う通りだ、そんなことは聞いたこともない。

「地銀頭取の解任劇がないわけでもない、十年ほど前だが山陽地方でも起きている。投票は前田頭取と議長を除く九名で行われ、賛成五、反対一、白票三。白票三は三名いる社外取締役だ」

「なんで五対一なんですか、おかしい」

「議長はこちら側から出しているし前田頭取も投票できない、四対四が四対二になり小柴《こしば》が裏切ったのだ。投票前に小柴が裏切る素振りを見せたそうだ、それがなければ社外取締役もこっち側についてくれたらしい、もしそうなっていれば五対四で勝っていたのに、何たることだ。投票方式は無記名ではなく記名式だったそうだ、議事録に誰が賛成し誰が反対したかをしっかりと残したかったんだろう」

「ま、まさかっ。この場、今まさに我々が居るこの理事長室で忠誠を誓った者ですよ。信じられません」

 健将様の落胆ぶりも半端ない、小柴が忠誠を誓った時にその場にいた美枝子も今の話は俄かには信じがたい話だ、その場には北部一族の人間も何名かいたのに、あの人当たりの良い小柴次郎《こしばじろう》が裏切るなんて。

「あいつは誓いの場で震えていた、最年少の役員だからあの震えは主君の前に出たことでの緊張だと思っていたがこうも日和見だったとは」

「どうなさいますか」

「決まったものは覆せないだろう、明日の朝に緊急の記者会見を開くそうだ。もうすでに前田頭取は代表権の無い取締役に降格されてしまっている」

「森下常務はどうなるのでしょうか」

「分からん。分からんが五月の決算取締役会までだろう、その時に発表される浅野新体制の下では前田君も森下君も外に放り出されるはずだ。明日になれば二人がここにやってくる、今後のことはその時に話し合う。それよりも、紗耶香をここに呼ばなかったのには聞かせたくない話をしたいからだ」

「はい」

 三人同時だった、理事長は何を紗耶香様に聞かせたくないのだろう。

「小柴へ報復する相談をしたい。宗家に忠誠を誓った者が裏切った場合の末路が分かるようにせねばならない、小柴の宣誓を何人もの一族の人間も見ている。いっそ死んでしまいたいぐらいの末路にせねば北部宗家が侮《あなど》られたままになる、それは次の世代の健将に従う者の中からまた裏切者が出ることを意味する」

「・・・・・・」

「健将と工藤理事にやってもらう。いいな」


****


 その日、終業時まで美枝子はまったく仕事が手につかなかった。

 やったことと言えば、SNSアプリを開き宮藤朝美に「一昨日のお願いの件で会いたいんだけど、今日の都合はどう?」と連絡を入れたぐらいだ。

 勤務時間が終わり美枝子は車を郊外に向けた。

 大型ショッピングモールの広大な駐車場にハイブリッド搭載のステーションワゴンを止める、跳《は》ね上げ式のハッチバックなので雨の日や今日みたいな雪がちらつく日の荷物入れも楽でお気に入りの車だ。

 冬の十八時は真っ暗、このあと本格的な雪にでもなれば音もかき消される。

 コンコン。

 横を見るとバスでやってきた宮藤朝美が立っていた、北部駅とモールを結ぶバスの運行本数は実に多い。

 助手席のドアを開けた朝美に「後ろに乗って」と一声掛け、乗り込んだのを確認してから車を駐車場の端っこまで移動させた、車種と色、ナンバーと駐車場所を教えただけだったがこの広大な駐車場にもかかわらず朝美は探し出してくれた、そんなことを思いながら車を移動させ停車しライトだけ消した、暖房したままだがハイブリッドなのでエンジン音も消えた車内は静寂に近い。

「朝美、あの内容は本当なの? 間違いだったら間違いだといま言って」

 前を向いたままで美枝子はそう切り出した。

 出会ってからまだ二週間足らずなのに一昨日まで一日も欠かさず電話し合っている、次の日はどちらから掛けるかを決めて電話を切るのが常だ、一日おきぐらいにお願いされるボイスメールの内容は回を重ねるごとに際どくなっている。

 そして一昨日。

 電話が終わった後で届いたアプリを見て言葉を失った。

 そこには遊びの範囲を超えた決定的なお願いが入っていた。

 これを入れて送ってしまえば後戻りできない気がする。

 放っておくか諫めるか迷う。

 昨日は美枝子から電話することになっていたが出来なかった。

 なのに、今日の私はどうかしている。

 ・・・呼び出すなんて。

 今日の解任劇で何もかもがいたたまれない気持ちになっているからだ、それしか考えられない。

 朝美っ、頼むから間違いだと言って。

「ごめんなさい、美枝子さん。間違いではありません」

「・・・どうして」

「自分でも悩みました、送ったあとで後悔するかとも思いましたがそうはなりませんでした」

 夕方に呼び出してすぐに来ると分かった時点でそうだとは思っていたが、やっぱり。

「自分で言って自分で興奮してるってこともあるから。熱にうなされてるだけなんじゃないの?」

 お願い、いまならまだ戻れる。

「そうじゃないんです、本心だと分かっています。ごめんなさい」

 そうなんだ、だったらもう、どうなっても知らないから。

 私のせいじゃない、ぜんぶ朝美のせいだからね。

 美枝子は運転席の背もたれに左腕を掛けて後ろを振り向いた。

「べつに謝らなくても、だったらここで送った内容を朝美の口から直に聞きたい。言ってくれるよね」

「はい」

 すぐには言葉が出てこないようだ。

 待つしかない。

「朝美、お前を私のモノにするから声を聞きながら犯されなさい、とお願いしました」

「そうボイスメールに吹き込めば満足するの、どうなの?」

 呼び出しておいていったい自分は何を言っているんだろう、こんなことを言うのなら呼び出さない方がよっぽどマシなはずなのに。

 ズルい自分がいる。

 朝美だけのせいにして「自分は悪くない」ってポジションを作って、結局、三十四歳差という絶望的なハンデが怖いだけんなんだと思う。

「・・・・・・」

 えっ、泣き出すなんて。

 困った、どうしよう、私が泣かせた?

 迷ったが、美枝子は運転席のドアを開けて外に出た。

 後部ドアに手を掛ける、どう朝美に接したらいいのか対処の仕方が分からない。

 中に入った。

 下を向いていた朝美がこちら側を見てきた、思わず美枝子は左手を伸ばして抱きしめていた、考えるより先に躰が動いていた。

 身長差がたぶん十センチくらいある。

 最初は寄りかかってくれたのでよかったのだが、いちど離れて、躰を密着させて抱きしめようとすると美枝子の目線の方が朝美より下になる、それでも構わない、そのまま上目遣い状態で抱きしめる。

「悪かったわ」

 悪気はなかった、ごめんなさい。

「美枝子さんっ」

 泣きながらこっちを見てくる。

 美枝子は朝美の肩甲骨あたりに置いていた左手を後頭部に回し開いた手のひらを使って押さえつけ朝美を上に見ながら唇を重ねていった、奪ったといってもいい。

 ためらいは無かった。

 抵抗される不安がよぎったが朝美はされるがままで動いてこない。

 絶望的なハンデなんてクソくらえっ、そう思いたいのに年齢のことばっかりが頭に浮かんでくる、すごく卑屈な気持ちになる。

 左手に力を入れて引き寄せを強めながら唇をこじ開けにかかった、下から上に向かって口元から出せる武器を思う存分に突き刺してやった。

 「卑屈」とは「いくじがない」ってことと同じだ、自分はそうじゃないって思いたい。

 こんなことをするのはいつ以来だろう、記憶にすらないくらい久しぶりでドキドキが止まらない。

 うっ、なにこれ。

 唇を離して分かった、鼻水が垂れている。

 思わず舐め上げて飲み込んでしまった、二度も。

「そんなぁ汚いのに、恥ずかしいです」

「飲んじゃった、朝美が中に入ったって感じ」

「やだっ、そんな言い方されたら」

「されたら?」

「いっぱい可愛がってください」

 泣き止んだ顔も可愛い。

「うち来る?」

「いいんですか」

「部屋、寒いけど」

 思わず見合って笑ってしまう。

 助手席に移らないかと聞いてみたが「このままでお願いします。外から見えにくいいから」と返された。

 後座窓は黒く着色されたプライバシーガラスになっている、万が一を考えてくれている、まだ若いのに。


****


 運転席に戻りライトを点けたところで少し冷静になったがどうにも熱量が下がらない、この後のことを期待しているんだと自分でも分かる。

 家に着くまでの二十分あまりの時間に話したことと言えば、ちらついている雪がこのあとどうなるかってことぐらい、たぶん本格的な雪にはならないだろうって天気予報通りの見通しのやり取りをしただけで、そのあとの会話が続かない。

 運転席と後部座席ってこんな感じだったっけ、いや、お互いがこの後のことに思いをはせて口数が少ないだけなんだと思う。

 自分がリードしないとダメなのは分かっているが、そればっかり考えると何もできない気がする、どうすればいいのか考えがまとまらないままで美枝子は車を停止させた。

「着いたわよ、車で待ってて」

「わかりました」

 朝美を車に残して美枝子は家の中に入った、エンジンは切ったがしばらくは車内は暖かいはずだ。

 リビングに入り壁に設置してある暖房のスイッチを入れる、外気を取り込み排気も外に出すので灯油式だがクリーンで温かい優れモノだ。

 次に寝室のエアコンを入れ、思い立ったのでキッチンに置いてある反射式石油ストーブも寝室に持ち込んだ、点火を確認してからベットメーキングをおこない、他には片付ける物とかないか確認してハッと気が付いた、ティッシュ箱を取り上げたら空に近いほど軽い、急いで洗面所にむかう。

「さぁ、入って」

「お邪魔します」

「コーヒーでいい?」

「はい」

 キッチンで時計を見ると十九時半を回ったところだった、一瞬だけ迷ったが時間は掛かるが豆を挽くことにした。

「美味しいです」

「よかった、味わってね。朝美さん、何時ぐらいまで大丈夫なの?」

「できれば二十二時《じゅうじ》前に戻れれば、すみません」

 えっ、それだと余裕をもって送っていくには二十一時《くじ》過ぎには出ないと、あと一時間半あるかどうかしかないって。

 急に呼び出したんだからこういうこともある、そんなことは分かっているが美枝子の中の何かが切れた。

 朝美のせいじゃないのは分かっているが少しムッとしている。

「こっちきて」

 寝室に向かう。

「さぁ、入って」

 朝美の手を取って寝室へ入った。

「美枝子さんらしいお部屋ですね」

「殺風景でしょ、あんまりモノを置かないから」

「ベットって言うのはちょっと意外でした」

「そおぅ」

 部屋の中はもう十分に暖かくなっている。

 美枝子はエアコンを切り、続けて部屋の明かりを消した。

 朝美は黙ったままだ。

 二人だけの時間が始まるのを朝美は拒否していない、そう受け取る。

 反射式石油ストーブからの灯りだけが今は二人を照らしている。

「朝美、絨毯《じゅうたん》に座って」

 朝美が座るのを見て美枝子はスカートに手を掛け、スカート、パンスト、ショーツを同時に一気に脱いでベットに腰を下ろした。

「こっち来て」

 膝立ちになった朝美が動く、二歩だけ、目の前で正座してきた。

 美枝子は後ろに回してベットに置いた両腕で躰を支えながら右脚を朝美の顎に向かわせ、足先を使って顎を上に向かせた。

「どうするか分かるよね朝美っ、私を満足させなさい。可愛がるのはそれからよ」

 足先を外すと僅かだが朝美の首が項垂《うなだ》れた、すかさず美枝子は顎から外した右脚を朝美の後頭部に回して引き寄せた、逃がすもんか。

「丸一日洗ってない私のはどう?」

「嫌じゃないです」

「好きでもないってこと?」

「そんなぁ」

「別に隠さなくてもいいのよ、ほらっ」

 右脚をそのままで美枝子は腰を突き出してやった。

「やりなさい」

 朝美の武器が美枝子の中心部で動き出した。

「言葉を掛けてもらいながら犯されたいんなら、やりながら自分ですべて脱ぐのね。それぐらいできるでしょ」

 正座した膝に置かれていた朝美の腕が片方ずつセーターの袖を抜いてきたのを見て美枝子は右脚を緩めてやる、その隙に朝美が両腕を上げて首からセーターだけでなくインナーも一緒に抜き去った。

 残されたブラに手を掛け外したと思ったら朝美はジーンズとショーツを一緒に脱いできた、それを見て美枝子も上を全部脱ぐ。

 肉付きの良い娘で筋肉も若い、美枝子の筋肉もまだまだ若さを失っていないと思いたい、もう肉の塊なんかじゃない。

 遠慮がちだった朝美の武器が本領を発揮している、うそっ、来るかもしれない。

「いい動きするのね」

「ありがとうございます」

「続けなさい」

 
 ****


「よかったわ。こっちへ」

 朝美をベットに上げて寝かせる。

 靴下を脱いでベットに上がってくる。

「ほらっ、膝を立てるのよ。今度は私が嗅いであげる」

「汚いです」

「わたしだって、さっきは嫌われるんじゃないかと思うほど恥ずかしかったんだから。臭かったでしょう?」

「大丈夫です」

「正直ね」

 顔を見合わせて笑ってしまう。

 あれっ、笑顔はともかく笑い声が出るなんてことがあることを美枝子は初めて知った、女性同士だからなのか、興奮しながらほっこりするなんて信じられない。

 朝美のはキツイ匂いではなかった、口元から出せる武器だけでこのままイクのを朝美は望んでいない。

 美枝子は朝美を横抱きにして右手を中心部に使うことにした。

 十五分後。
 
「可愛かった」

 中心部にはまだ二本が入ったままだ。

「気持ちいいです」

「もう一回、イッとくか」

「はい」

「そこは素直なんだ」

「いつも素直です」

「ふんっ、どうかな。もう一本追加するけど」

「追加ですか、嬉しいです」

「嬉しいんだ、わたしの指太いから三本はムリなんじゃないの、ダメなら言ってね」

「はい」

「どうなの?」

「大丈夫そうです」

「朝美っ、ぶっといのを三本も咥えて喜ぶなんて、美人のくせに。呆れるんだけど」

「そんなこと言わないで下さい、恥ずかしいです」

「スムーズに動き出したよ、その綺麗なお顔からは想像できない。ほらっ、もう近いんじゃないの?」

「もうすぐです、ごめんなさい」

「拳《こぶし》が入るまで」

「えっ」

「調教すれば入りそう」

「怖いです」

「だからじっくり調教する、わかったわね」

「はい。調教お願いします、朝美はマゾです、朝美はメス豚です」

「メス豚って」

「そう呼んでください、もう、イッてもいいですか」

「勝手にイケばっ、このメス豚が」

「イキます、おか・・・・・・」


****


 夜中に朝美から電話が入った。

「時間、大丈夫だった?」

「はい。二十一時半過ぎには着いていたので余裕でした、送ってもらってありがとうございました」

「そんなこと、気にしなくていいの」

「はい。また会っていただけますか」

「考えておくわ」

「えっ」

「ウソっ、すぐにでも会いたい」

「嬉しいです」

「嬉しいんだ、今日はありがとう。もう遅いから、明日は私の方から電話入れますね、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

 たとえ一回だけだったとしても、今日で終わるにしても美枝子には悔いがない。

 ほんとうに良い子だ、傷つけたくない。

 右手を見た。

 美枝子は終わるまで一度も指を抜かなかった。

 一度抜いたらそこで終わってしまいそうで怖かったからだが、本数を増やすうちにあり得ないほどの興奮に襲われた、天使のような朝美に全部ぶち込んだらもっと興奮できる、興奮したい、気が付いたら拳《こぶし》という単語が飛び出していたのだ。

 こんな発想をしてしまう、しかも口に出すなんて、自分が信じられない。

 ふと、娘の顔が浮かんだ、有佳の顔が。

 この親にしてあの娘あり、か。

 朝美が言い掛けた言葉はきっと君子さんだったはず、まだ乳離れできない小娘なんだと思うとイキまくる躰とのアンバランスにふっと笑いたくなる。
 

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