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what is normal?
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人それぞれが持っている感情って何だと思う? 生きたいって気持ち? 食欲? 誰かから称賛されたいって気持ち? 僕はね全部そうだと思うんだ。だた、唯一違うといったら、それのどこに重点を置き、何を最も大切にするか。だと思うんだよね。
人によっては、君が自分を大切にしてくれるならそれでいいって人だっているはず。でも、それと正反対の、自分が君を大切出来たらいいってこともあると思うんだ。つまりは、自己中心的な欲求ってやつだね。どっちも人間らしくて僕は好きなんだけど、後者の方が僕の考えに近いのかな。そんなこと関係ないか。仕方ない、人間っていうのは心の中では自分より幸福な人を憎んでるんだから。
そこでね、僕の昔話をしようと思うんだ。君はこの話を聞いてどう思うのかな。自分は自分かな? 自分を作れるのは自分だけなのかな? 誰でも作り変えられるんじゃないかな? どう思ってくれてもかまわないよ。それは人それぞれ違うんだから。ただ、これを聞いてくれたみんなにはひとつ守ってほしいことがある。自分はやっぱり自分なんだよ。
これは数年前の出来事。僕が中学生のころの話。僕の友達に、少し変わった子がいてね、女の子なんだけど女性じゃない、男の子がいたんだ。分かりやすく言えばトランスジェンダーって今は言うのかな。髪も長くて、胸もある程度膨らんでて、そして、異常なほどに華奢だったんだ。
でもね、やっぱりみんなから少し敬遠されていたね。おかしい人を受け入れたくないっていう気持ちの表れかな。普通こういうのって隠すものなのに躊躇に出てたんだ。彼の周りを故意に避ける人たちがね。ただ、幸いにも暴力によるいじめは受けなかったそうだけど。
でも、僕は彼に妙に心惹かれたんだ。女性としてというか、人としてね。まあ本心を言えば、思春期ってこともあったから、女の子と喋れるっていうのは陰気な僕からすれば嬉しかったんだ。男の子なんだけど。
だから、僕は彼に話をしようと近づいた。そしたらね、何か言葉にしにくいオーラが出ていたんだ。悲しみや悲壮的な感情ではないんだけど、ただ殺意や攻撃的な感情とは大きくかけ離れた何かをね。
一瞬で僕は分かったよ。これは関わってはいけない人なのかもしれないってね。ただ、それでも僕の欲求ってやつには敵わなかったようだね。知的好奇心いや、これはただの思春期特有の怖いもの知らずって奴なんだと思うよ。
そして、僕は放課後、自席から結構離れたところにある、彼の席に向かった。やっぱり、奇妙な空気は彼の周りにはあった。いろいろと不思議なことはいっぱいあった。けれど、それを聞くのはちょっと野暮な気がしてね。だから適当な話題を振ることにしたよ。
「ねえ、君って好きなこととかある? ぼ、僕はゲームすることが好き、なんだ」
これでも僕の精一杯だったよ。頭の中はもう真っ白だし、やめときゃ良かったっていう後悔だけしか残ってなかったよ。
「好きなことかあ、好きなことって言えるか分からないけど、誰かを笑顔にすることが好きかな。人の笑顔って、見てて幸せになるしね」
彼は、僕と目を合わせずに呟いた。ただ、この言葉を言うときに少し僕と視線をそらした気がするんだ。気のせいかもしれないけれど。
「誰かのために動きたいって思えるってすごいよね。僕には難しすぎて出来そうにないよ」
「すごいことかな? 人のために動けることって当たり前のことだと思う。ただ、私の考えがおかしいっていう人もいるのは普通のことなんだと思うよ」
おかしい考え。普通。この二つが僕の脳裏に執拗に残った。おかしさと普通。これらはどこまで行っても、交わらない。逆の方角に進む言葉。ただ、この言葉が交差したらどうなるのだろう。ふとそんな考えを思いついたんだ。なぜか、言葉に何か違和感を持ったんだ。
「そうかもね。ただ、当たり前も普通もないんじゃないかな」
そこで少し反論を入れてみた。意地の悪いことをしているのは分かっている。ただ、彼の言葉に違和感を抱いたんだ。なにかこう、話がおかしいというか、なんというか。
交わらないことは交わるということがあってこその、交わり。つまり、存在はするけれど僕の考えが及ぶ範囲ではなかったんだよ。つまり、千円札が10枚あっても、一万円札は出来上がらない。ただ、場合によっては存在するともいえる。つまりそういうこと。
「当たり前も普通もない? なんで、そう言えるの? それがなくて、どうやって生きるってのさ」
彼は混乱したように聞いた。少し興奮して、声色があれている。自分の主となる考えを批判されたからだろう。ただ、焦り方がどうもおかしいようにも見えた。
普通や当たり前。自分の弱さを隠すために彼はそう言ったんだ。ただそれは、受け入れがたい物事は何か絶対的な指標があれば緩和される。一時的にでもね。
「当たり前や普通っていうのは生き方じゃないでしょ? あくまでも、生きるための指標に過ぎないんじゃないかな。僕もおかしいのかもだけど」
「自分いや、私自身か、がね、おかしいことは知ってる。普通じゃない。でもね。おかしいけど、普通って言ってくれる友達がいたんだ。普通だから大丈夫だって」
普通でいたい原因。普通であるべき理由。彼女が普通の否定をされていやがった理由。それは、著しく低い自己肯定感だったんだと思うよ。トランスジェンダーで、家族とも上手くいっていなかったそうで、だからこそ普通を求めたのかもしれないね。さらに言えば、友達から普通であると認められたことによるおかしな自己肯定手段を見つけたからなのだろうね。
一般的な普通だけでなく、自分自身にある普通という概念を作り出して、自分の砦を築き始めていた。普通であることが自分を認めてもらう方法だと思い込んで。ただ、彼女の場合は真逆に出たようだけどね。
普通であろうとするあまり、余計に自分を、一番分かっていると思い込んだ自分自身で普通を通した結果が異常を生み出してしまったんだ。つまり、普通は普通じゃない。けれど、どこまで行っても普通は普通なんだ。
「面白い人だね。こういうことすぐ言ってくれるって」
「言う人がいなかった。聞いてくれる人捜してたからかな。普通な人じゃなかったけれど」
少し皮肉交じりの、笑顔を僕に見せた。いつの間にか、彼は僕の方を向いて喋っていたんだ。笑顔はやはり素敵で、少々見とれてしまったよ。
「普通はないからね。あるのはマニュアル化された面白くない人か、好き放題やってる変人ばかりだよ」
話はこれで終わりじゃないし、もっと違う、おかしな話はいっぱいあるんだけど、いったんこれは終了。君はこの話をきいて何を感じただろうか。
変人同士の会話のように見えたかもね。間違ってないから否定はしないけどね。ただ、僕と彼の共通点は分かっただろうか。
あとね、普通は間違いを作るんだ。そして、間違いは何も生み出さないか、悪を生み出すんだ。この意味が分かるかな。
人によっては、君が自分を大切にしてくれるならそれでいいって人だっているはず。でも、それと正反対の、自分が君を大切出来たらいいってこともあると思うんだ。つまりは、自己中心的な欲求ってやつだね。どっちも人間らしくて僕は好きなんだけど、後者の方が僕の考えに近いのかな。そんなこと関係ないか。仕方ない、人間っていうのは心の中では自分より幸福な人を憎んでるんだから。
そこでね、僕の昔話をしようと思うんだ。君はこの話を聞いてどう思うのかな。自分は自分かな? 自分を作れるのは自分だけなのかな? 誰でも作り変えられるんじゃないかな? どう思ってくれてもかまわないよ。それは人それぞれ違うんだから。ただ、これを聞いてくれたみんなにはひとつ守ってほしいことがある。自分はやっぱり自分なんだよ。
これは数年前の出来事。僕が中学生のころの話。僕の友達に、少し変わった子がいてね、女の子なんだけど女性じゃない、男の子がいたんだ。分かりやすく言えばトランスジェンダーって今は言うのかな。髪も長くて、胸もある程度膨らんでて、そして、異常なほどに華奢だったんだ。
でもね、やっぱりみんなから少し敬遠されていたね。おかしい人を受け入れたくないっていう気持ちの表れかな。普通こういうのって隠すものなのに躊躇に出てたんだ。彼の周りを故意に避ける人たちがね。ただ、幸いにも暴力によるいじめは受けなかったそうだけど。
でも、僕は彼に妙に心惹かれたんだ。女性としてというか、人としてね。まあ本心を言えば、思春期ってこともあったから、女の子と喋れるっていうのは陰気な僕からすれば嬉しかったんだ。男の子なんだけど。
だから、僕は彼に話をしようと近づいた。そしたらね、何か言葉にしにくいオーラが出ていたんだ。悲しみや悲壮的な感情ではないんだけど、ただ殺意や攻撃的な感情とは大きくかけ離れた何かをね。
一瞬で僕は分かったよ。これは関わってはいけない人なのかもしれないってね。ただ、それでも僕の欲求ってやつには敵わなかったようだね。知的好奇心いや、これはただの思春期特有の怖いもの知らずって奴なんだと思うよ。
そして、僕は放課後、自席から結構離れたところにある、彼の席に向かった。やっぱり、奇妙な空気は彼の周りにはあった。いろいろと不思議なことはいっぱいあった。けれど、それを聞くのはちょっと野暮な気がしてね。だから適当な話題を振ることにしたよ。
「ねえ、君って好きなこととかある? ぼ、僕はゲームすることが好き、なんだ」
これでも僕の精一杯だったよ。頭の中はもう真っ白だし、やめときゃ良かったっていう後悔だけしか残ってなかったよ。
「好きなことかあ、好きなことって言えるか分からないけど、誰かを笑顔にすることが好きかな。人の笑顔って、見てて幸せになるしね」
彼は、僕と目を合わせずに呟いた。ただ、この言葉を言うときに少し僕と視線をそらした気がするんだ。気のせいかもしれないけれど。
「誰かのために動きたいって思えるってすごいよね。僕には難しすぎて出来そうにないよ」
「すごいことかな? 人のために動けることって当たり前のことだと思う。ただ、私の考えがおかしいっていう人もいるのは普通のことなんだと思うよ」
おかしい考え。普通。この二つが僕の脳裏に執拗に残った。おかしさと普通。これらはどこまで行っても、交わらない。逆の方角に進む言葉。ただ、この言葉が交差したらどうなるのだろう。ふとそんな考えを思いついたんだ。なぜか、言葉に何か違和感を持ったんだ。
「そうかもね。ただ、当たり前も普通もないんじゃないかな」
そこで少し反論を入れてみた。意地の悪いことをしているのは分かっている。ただ、彼の言葉に違和感を抱いたんだ。なにかこう、話がおかしいというか、なんというか。
交わらないことは交わるということがあってこその、交わり。つまり、存在はするけれど僕の考えが及ぶ範囲ではなかったんだよ。つまり、千円札が10枚あっても、一万円札は出来上がらない。ただ、場合によっては存在するともいえる。つまりそういうこと。
「当たり前も普通もない? なんで、そう言えるの? それがなくて、どうやって生きるってのさ」
彼は混乱したように聞いた。少し興奮して、声色があれている。自分の主となる考えを批判されたからだろう。ただ、焦り方がどうもおかしいようにも見えた。
普通や当たり前。自分の弱さを隠すために彼はそう言ったんだ。ただそれは、受け入れがたい物事は何か絶対的な指標があれば緩和される。一時的にでもね。
「当たり前や普通っていうのは生き方じゃないでしょ? あくまでも、生きるための指標に過ぎないんじゃないかな。僕もおかしいのかもだけど」
「自分いや、私自身か、がね、おかしいことは知ってる。普通じゃない。でもね。おかしいけど、普通って言ってくれる友達がいたんだ。普通だから大丈夫だって」
普通でいたい原因。普通であるべき理由。彼女が普通の否定をされていやがった理由。それは、著しく低い自己肯定感だったんだと思うよ。トランスジェンダーで、家族とも上手くいっていなかったそうで、だからこそ普通を求めたのかもしれないね。さらに言えば、友達から普通であると認められたことによるおかしな自己肯定手段を見つけたからなのだろうね。
一般的な普通だけでなく、自分自身にある普通という概念を作り出して、自分の砦を築き始めていた。普通であることが自分を認めてもらう方法だと思い込んで。ただ、彼女の場合は真逆に出たようだけどね。
普通であろうとするあまり、余計に自分を、一番分かっていると思い込んだ自分自身で普通を通した結果が異常を生み出してしまったんだ。つまり、普通は普通じゃない。けれど、どこまで行っても普通は普通なんだ。
「面白い人だね。こういうことすぐ言ってくれるって」
「言う人がいなかった。聞いてくれる人捜してたからかな。普通な人じゃなかったけれど」
少し皮肉交じりの、笑顔を僕に見せた。いつの間にか、彼は僕の方を向いて喋っていたんだ。笑顔はやはり素敵で、少々見とれてしまったよ。
「普通はないからね。あるのはマニュアル化された面白くない人か、好き放題やってる変人ばかりだよ」
話はこれで終わりじゃないし、もっと違う、おかしな話はいっぱいあるんだけど、いったんこれは終了。君はこの話をきいて何を感じただろうか。
変人同士の会話のように見えたかもね。間違ってないから否定はしないけどね。ただ、僕と彼の共通点は分かっただろうか。
あとね、普通は間違いを作るんだ。そして、間違いは何も生み出さないか、悪を生み出すんだ。この意味が分かるかな。
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