愛猫

Huniao

文字の大きさ
上 下
3 / 3

出自不明品と猫のいる生活

しおりを挟む
 さらに一週間以上が経った頃、両親はホームセンターで高級キャットフードを買い付け、俺は猫砂のネットレビューを参考にし、彼女はよく家でゴロゴロするようになった。ときたま猫じゃらしで遊んでやったり、俺がパソコンを使っているとキーボードの上に座ってきたりしてくる。ウィンドウに表示されている猫耳美少女には欲情するものの、やはり彼女は彼女なのでただ可愛らしいだけだった。そういえば、以前よりも体格がスマートになった気がする。食事が良くなったからかもしれない。
 いつまでも手元に居座る彼女を諦めたように撫でてやると、満足気に喉を鳴らして応え、素直に脇に退いてくれた。
 以前まで感じていた社会からの疎外感や無力感は、彼女を愛でることによって考えないでいられるようになった。彼女が俺を必要としてくれているから。


 台風の脅威が過ぎ去り、夏には俺の気力まで吸い取っているんじゃないかと思われた木々植物も枯葉を落とす頃、我が家には緊急会議を開く必要が生じた。
 その議題は、「物置部屋にある若い女性用と思われる衣服」。その部屋の隣にいる俺は、真っ先に女装趣味があるのかだとか性自認を告白してみなさいだとか、そんな感じで問いただされたが、正直俺にもまるで覚えがない話だったし、秘蔵していたコスプレ衣装は一度開封したっきり(いつだったっけ)恥ずかしくなって捨てたので、疑われることも含めてまるで関係のない話なのは明白だった。思えば、あの部屋は隣なのに普段まるで開けないし、古い記憶にはどうもぬいぐるみが多かったような気がする。俺にはそんな趣味はなかったはずだが、貰い物だろうか?
 結局、結論は謎のまま会議はお開きになり、二階へ上り自室へ戻ろうとすると、その例の部屋の前でうちの猫が爪を研いでいた。
「ダメだよ、ドアで研いじゃ.......」
 抱き抱えて移動させ、自室で爪研ぎ用の木片を渡すも無視し、にゃあにゃあ鳴きながら俺の部屋のドアを引っ掻いた。
 ドアの真ん中には、いつか誰かからもらったらしいが趣味が合わなくて掛けておいた、ネコのぬいぐるみのキーホルダーがぷらぷらと揺れていた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...