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(次世代)お嬢様と彼の関係
2)お菓子につられるヒロイン
しおりを挟む「「おはようございます、寧々お嬢様」」
私が椅子に座るのに合せて発した二人の執事の息はぴったりでさすが、一緒に城野宮家で働いているだけのことはある。
「ごきげんよう、黒川・・・・さん達」
途中で首を傾げたのは二人をなんと区別するべきか迷ったからだ。二人も私の疑問に気付いたのだろう、史貴の方が名前の方で呼んでくだされば結構ですと言う。もう一人の壱岐が心配そうに目配せしているのが見えたので、本当にいいのかと気になったが、最終的に史貴がにこりとしただけで、壱岐が直立不動になったので、いいと思うことにした。しかし、本当に仲がいい二人だ。
(はっ、まさか今はやりのBLというものでは・・・?)
先日、従姉妹にBLの同人誌を見せられたこともあり、ちょっと脳内が危なくなっている。
いかんと気を取り直して、もうこの二人の関係は考えまい・・・と首を振っていると、担任が入ってきた。
慌てて、鞄を片付けて整理して机へと向かった。ちなみに執事の二人は両隣に座っている。私のように執事が複数付くこともあるので、机の配置は各自で自由に座ることになっている。一度座ったところがずっと自分の席になるという暗黙の了解もあるので、教科書などをおきぱなしにしても問題ない。
食堂はあるが、執事に頼んで用意してもらうこともできる。今日は初日ということで食堂では食べながらそのあたりを相談しようと思う。
今日は、授業初日ということもあり、クラスの中では自己紹介よろしく執事のアピールが盛んにおこなわれている。寧々も挨拶されたら(しょうがなく)紹介することにしている。そうこうしている内に昼休みとなり、食堂のテラス席に座ることにした。ふうとため息をついていると、見知った顔から声を掛けられた。
小学校の時からの友人の一人なので気心も知れている。それだけに会話もフランクなものになっていた。
「寧々さん、こんにちは。朝はなかなか挨拶できなくてごめんなさいね」
「こちらこそ。有海さん、海藤さんもどうぞお気遣いなく」
「失礼いたします、森野のお嬢様」
「やはり海藤さんが執事になられたのですね。そうそう、私も執事をつけていただきましたの」
「ええ、良かったわね。でもどこかで顔をお見かけしたことがある気がするわ。もしや・・・」
やはり黒川家は有名なのだなと口を開こうとしたとき、なぜか壱岐が慌てた様子でかぶせて挨拶をしてきた。
「初めまして、黒川です!!どうぞよろしくお願いいたします」
「え、ええ・・・」
いきなりの紹介にびっくりしてか、有海が訪ねようとした動作を止めた。それに気づいた海藤がちらっと史貴の方に目を向けるが、史貴は視線を気にした様子もない。それどころか、他人事とばかりにお茶の用意を始めた。
「時に、ランチになさいませんか。まずは紅茶からどうぞ」
「あ、僕が食事を運ばせていただきます。海藤さんも一緒に!」
「え、あ、はい・・・失礼します」
できる執事達はあっという間にそれぞれが仕事分担を決めて動き始めた。釈然しないものの、友達である有海に迷惑をかけるわけにはいかない。流されるまま、史貴がひいた席に座ることにした。美味しい紅茶に気分を良くすると、話題はいつの間にか勉強のことになっていた。その間にも次々と食事が運ばれてくる。
「ところで、寧々さんに執事さん達が付いたのは喜ばしいことだけれど、裁縫の方は大丈夫なの」
「・・・・考えないようにしていたのに」
「相変わらず刺繡の腕はアレなのね…単位制になっているから、一歩間違えれば補習よ」
「うっ・・・」
「まずは材料と裁縫道具を用意するようにって言われているわね。課題として授業初日に持ってくるようにと」
「そうなのよね。材料一式っていうけれども、課題のプリントを見てもさっぱりで」
「だろうと思ったわ。お姉さま方は?」
「もうとっくに働いているから、お忙しいの。迷惑はかけられないでしょう」
「そうなると、執事さん達に頼むしかないわよね」
ランチに舌鼓を打ちながらちらっと史貴や壱岐を見た有海の言うことももっともだ。寧々としてはできるなら頼るのは必要最低限にしたかったがそうもいかない。食べ終わったムニエルを下げさせた後、史貴に口を開いた。
「話を聞いていたと思うけれど、材料を用意することはできるのかしら?」
「そうですね。今日の放課後にでも買いに行くことはできます。刺繡糸の色は自分でお選びになりますか?もし、お嬢様が行かれるならお共いたしましょう」
「いえ・・・特にこだわりはないのでお任せしてもよろしいかしら?サイズはこちらに」
「寧々さん!」
「だって、刺繡といってもイニシャルぐらいでしょう?それなら別に大したものではないもの」
「あの、寧々お嬢様・・・」
史貴が助言するものの、寧々は首を振る。それに驚いていると友人の有海が慌てふためくが、なんとか宥める。しかし、壱岐の声によって寧々は一気に青ざめた。
「どうしたのかしら、壱岐さん」
「壱岐で結構です。それより、できあがった刺繡ハンカチは執事である我々がいただくことになっていると課題の説明書に書いてあった気がするのですが」
「えっ・・・」
「こちらでございます」
壱岐の言葉に促されてプリントを見れば間違いなく目的がちゃっかりはっきりと書かれていた。なるほど、刺繡を入れたハンカチを作るのはこれから卒業するまでともに一緒にいる執事達への労いのためなのね・・・ってそういうことはおいておいて!
「ということは、私は二人分刺繡しなければならないということだわ!なんてこと。史貴さん、やっぱり私も参りますわ」
「・・・解りました。それと、史貴でけっこうですよ、お嬢様」
ぐっと拳を突きあげたまま史貴に告げると、くすっと微笑んだ後、了解しましたと頷かれた。そんなおかしい行動だろうかと思っていると、有海が相変わらずねーと笑い、海藤さんが頷いていた。だから、一体何故・・・と思っても誰も笑っている理由を教えてくれない。
(・・・・いいもん、私は私だもの!)
その後は特に問題もなく、ちゃっかり史貴特製のデザートまでごちそうになった。
「わぁ、いいなぁ。チーズケーキまで作れる執事さんがいるなんて」
「私もここまでとは思ってなかったわ。お近づきの印にもらえることが恐れ多いぐらいよ」
「お褒めの言葉をいただきありがとうございます。昔からお菓子を作っていたのでわりと得意な方なんですよ」
「良かったらまた作っていただけるとありがたいです」
あまりのおいしさにスプーンを頬張ってしまう。ちょっと遠慮気味に頼んでみると、意外にも「もちろんでございます」と返事が返ってきた。
「そういえば、壱岐さんは何がお得意ですの?」
「あ、自分はお菓子作りとかは苦手で、どちらかというとカクテルを作ったり、マジックしたりすることの方が得意ですね。壊れたものの修理とかも得意です」
「なるほど。そういう意味では二人で丁度良かったわけですね」
「そうでございますね」「あ、まぁ、そう、ですね」
・・・また壱岐が史貴の意思を窺うような行動をしていることに気付いたが、理由がわからないので、深い意味はないのだろうと忘却の彼方へと突っ込んだ。
とりあえず、これからは史貴の作るデザートを食べられるというだけでもう涎が。
(本当、できる執事達で助かった・・・・!!)
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