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番外編
番外編1)マシューの災難(マシュー視点)
しおりを挟む確然というか、唖然というか、顎が外れるってのはこういう時のことを言うのかと、マシューは目を見開き、口をぱかーんと開けて、当の人物を眺めていた。
(ぅ、嘘だろ、なんでここにあの男が・・・。)
いつもの兵団集会。今日も隊長達の長くもありがたくない訓示を聞く羽目になるんだろうなと思いながら仲間達と一緒に列になって並んでいた。その時、突然ざわめきが起こり、何事かと隊長達が慌てて門の所へ集まるのを眺めていた。
「何があったんだ?」
「よくわからんが、総隊長が視察に来られたらしいぜ」
「げっ、この兵団に?」
「そうらしい。しかも、皇太子殿下もご一緒だとか」
ひそひそと交し合っている声を聞きながらも、マシューはどうでも良さそうにあくびをした。
(へぇ、皇太子様は当然として、滅多に現れない総隊長がいらっしゃるとはな。確か、皇弟ザン殿下のお子で、ケイト・トーリャ様だとか。あれ?ケイト・・・どっかで・・・・)
なかなか思いだせなかったが、しばらくして、隊長達が倣ってお辞儀をして迎えた総隊長の顔を見てようやく思いだした。
司会をしていた隊長の一人が全員に向かって敬礼をするようにと声を荒げる。反射神経で周りに合わせて敬礼した自分を褒めたいとさえ思った。それほどに衝撃だったのだ。
誰が思いもしなかったであろう。
魔法のランプで働いているあの店長がまさかここに現れるとは。
しかもどうも、隊長との会話を聞く限り・・・彼は、とんでもない人物だった。
マシューは混乱する頭を抑えることで精いっぱいだった。
だが、絶対に見間違いではありえない。
あれは間違いなく、皇太子殿下の従弟にあたるケイト・トーリャ王子殿下だ。
茶色の目に髪。黒いフードを羽織るも、下の方に鎧が見え隠れしている。長い睫毛を伏せながらも、皇太子と肩を並べて歩いている姿はサマになっており、皇族の一員としての貫禄を見せつけている。
並み居る団長達でさえ、一歩下がり、表情を押し殺し、畏怖を抑えるのだけでも精一杯の様子だった。
(な、なんでここに店長がいるんだよっ!?もしかしなくとも、俺って不敬罪に問われる?いや、でも、普通あそこで店長やってるとか思わないし、ありえないだろう?)
冷や汗を流しながらも、平然を装ったが、内心では阿鼻叫喚状態だった。
皇太子殿下は従弟であせられるケイト様とも仲が良いと噂で聞いたことがある。その2人が揃って視察にきたとはこれいかに。
色々と頭が追い付かない状態だったが、我に返ったのは皇太子殿下が口を開かれたからだ。
「突然視察に来てすまない。実は、従弟が警護に一人兵士を欲しいというものでな、それならば、第4班1部隊から選ぼうということになってね」
(確かにここに集まっているのは、第4班の面々だが、よりによってここ!)
「店の手伝いをしてほしいもので、兵士であり貴族の出で庶民にも理解がある人間が望ましい。それならばと調べたところ、うってつけな人間がいることに思い当たったもんで、彼に頼もうと思ってきたんだ」
皇太子の言葉を引き継ぐように王子が説明し出した。隊長が冷や汗を垂らしながら、その人物とは一体と口を開いたところ、王子は何故か、マシューがいる方向に目を向けてくる。
まさかとマシューが真っ白になっていたところに、王子は当然とばかりにマシューの名前を出した。
「いろいろと話を聞くと、マシュー・ギルバード=ブライアンが適任かと思いますね」
「ああ、マシューですか!確かに彼であればうってつけだと思います。しかし、派閥については、その・・・」
「本人の意思を尊重しますので、ご心配なく」
(何が心配無用だ!!こっちは全くもって傍目迷わ、く・・・で。)
思わず声を出しそうになったが、茶色の目が不敵にこちらを射止めてきた。その間わずか数秒だったが、体感としては一時間ほどにも感じたほどの強烈な殺気が襲った。自分でも真っ青になって震えているのが解るぐらい恐ろしいと感じた。
(父上曰く、ケイト王子のことをバケモノと罵りながらも、最近温和になったとか。冗談じゃねぇ、ありゃ、どう見たって猫かぶりだろう!)
「マシュー、前にでなさい」
隊長の言葉に我に返って、渋々と前へと進む。歩くたびに周りから同情や驚きの目が上がる。それもむりなからぬことだ。父が皇太子派であり、皇弟殿下を敵視していることは誰もが知っている周知の事実。もちろん、王子もさっき隊長と話し合っていたように、知らないはずがない。
緊張した面持ちで、王子に向かってお辞儀する。表面上は誰もが笑顔でいるこの中、マシューは緊張していた。
(王子がおれを選んだのは間違いなく・・・店でのことが原因だろう。)
「ここでは初めまして、かな。改めてケイト・トーリャだ」
「初めまして、第4班1部隊に所属しているマシュー=ブライアンと申します」
「先ほどまでの会話を聞いていただろう?無理強いはしないが、俺の下につく気はある?」
「ありがたいお言葉でございますが、父が何と言うか」
「ああ、君の父親についてなら心配いらない。火の粉ぐらいは自分で振り払えるしね。今夜、君の転属の手続きをしたいから執務室に来てくれ」
「決定事項というわけですか」
「あはは、どうやら、マシューはケイトのお眼鏡に適ったようだね。あいつは好き嫌いが激しいから心配していたが、大丈夫そうだ。君の父君には私からも話しておくから、ケイトをよろしく頼む」
「はい・・・・・・」
皇太子殿下にここまで言われては拒否などできない。拳を握りしめながら内心で舌打ちした。2人が退場した後は、誰もがマシューの傍に寄ってきて、イロイロと話をされたが、それどころじゃないマシューは全てを無視して訓練にと集中した。そうでもしなければいろいろと考えてしまいそうだったからだ。
(手続きだけじゃなかったのかよ!!)
夜に言われた通りに執務室に来たとたん、転移魔法で原っぱに連れていかれて唖然とした。だが、驚く間もなく、王子は攻撃を繰り出してくる。
「っ、なにを!!」
「ふん、それなりに反射神経は良さそうだね。答えろ、あそこにいたのは、父親の命令か?」
「違います。王子がいると知っていたら絶対に行きませんでしたよ!」
「だろうね。っていうことは、純粋にアリエッタを見に来たということか。運のないヤツだな」
そう言いながら王子はいきなり雷を繰り出してきた。
「なっ、詠唱もしてないのに!?」
「俺も両親も無詠唱で魔法が出来るぜ。さすがに、精霊を呼び出す時は詠唱が必要だが」
そう言いながら王子は指を指揮棒のように動かした。それと同時に風が俺の頬を薙いでくる。
「もしや、属性も複数持ち、ですか」
「正解だ。五大元素は一通り扱える。へぇ、結構判断力もあるし、なかなか冷静じゃないか」
「くっ!どこ、がです。防戦一方ですよ、こっちは!一体、なぜこんなことを?」
「憂さ晴らし」
王子はけろりとした表情で次は人差し指を上へと上げていく。それと同時に地面から土が突き出し、俺の身体が宙に舞った。地面にたたきつぶされたは起き上がれなかったが、王子はその間一ミリたりとも動かなかった。それどころか、楽し気な表情で立ったままだ。
訝しく思いながらも、ふらふらと立ち上がるとまた攻撃を受ける羽目になった。何度目になるか解らない攻撃を受け、もう立ち上がれないと思った時、王子はようやく満足したのか、攻撃を止めた。
「くっ」
「ふーん、これだけ身体が頑丈ならいけそうだな。いいだろう、お前にはこれから護衛を命じる。精々俺のために働け」
言い終えた王子はフードを外して不敵に笑った。
顔を見上げながら、俺が目を見開いたのは彼の目と色の変化に驚いたからだ。
「そ、の髪に、目の色は?」
「ああ、こっちの方だと父親譲りだってはっきりわかるか。普段は魔力を抑えているが、魔力を使う時だけ本来の色に戻る。なんだ、その顔は。喜べよ、これは皇族と皇族に仕える使用人以外は知るよしもないトップシークレットだぜ。それを知れたんだからお前としては満足だろう?」
「トップシークレット」
「もちろん、お前の父親に告げ口をって考えても無駄だぜ。その前にお前の息の根を止めればいいだけだからな。俺の噂は知っているだろう?」
「ええ。父から聞いています。あなたは、魔王を凌ぐ・・・残虐なバケモノだと」
「最近は温和になったってよく言われるな。まあ、好きに呼べ。但し、アリエッタの前では隠せよ」
紫色の目に紫紺の髪。
それはまごうことなく、ザン殿下譲りの色で。
マシューは、否が応でも認識せざるを得なくなった。
(父の言うことは本当だったってことか。この、分だと・・・人間を焼き殺して遊んでいたとか、魔法の実験台にしていたとか・・・っていう噂は・・・)
「ああ、懐かしい、そんなこともしたなぁ。安心しなよ、今はこれっぽちもやってやしない」
「?!」
「あはは、なんでって顔をしているな?この本来の姿でいると魔力が高いあまりに、人の感情や思考が勝手に入り込んでくるっていう難点があるんだよなぁ。でも、敵か味方を判別するには充分役に立つ」
(つまり俺がこうしている間にも)
「そう、お前がそうやっている間も、俺はお前の考えていることが解る。・・・これもバケモノと呼ばれる所以だ。だけれど、そんな俺でも3人読めない人間がいるんだぜ?」
「誰ですか?」
「俺の父上と母上、そしてアリエッタだよ」
あの子を気に入っているのはまさにそれもあるんだよね。と加えつけた王子の言葉にようやく納得した。膨大な魔力を纏ったこの王子にとっては、そういう人間は貴重ということだ。
だからこそ、王子は・・・アリエッタを手に入れようとしている。
「結婚は皇族の義務。それならば、ちょっとぐらいは俺が気に入るような人間を妻に選びたいだろう?形だけの結婚は気を遣わなきゃいけないからまっぴらだ。かといって、父上のように本気になるのも怖い。だけれど、あの子なら気を使わなくても済む。俺にうってつけの存在だと思わないか」
「そこに、アリエッタの意志は!?」
「アリエッタは嫌がるかもしれないが、最終的には受け入れざるを得ないように仕向けるよ」
「王子、それだけは。アリエッタの意志だけは尊重してください!」
「俺に捕まったばっかりに可哀そうなアリエッタ。安心しろ、バケモノの俺でも恋愛感情はなくとも、彼女を慈しんで大事にすることはできる。少なくとも、人間らしい感情を教えてくれたのはアリエッタだ」
王子はしばらく月を見上げ、数分の間をおいてから再び俺の顔を見た。
「だけれど、バケモノの俺はいつアリエッタを壊すか解らない。忘れるな、間違えるな。お前は俺を警護するんじゃない。俺からアリエッタを警護する側だ」
痛みでぼんやりする脳裏で聞こえた冷たい声とは裏腹に、最後に見た王子の表情は何故か・・・泣いているように見えた。
(夢かと思ったら夢じゃなかった!!)
身体のあちこちに痛みを感じながらも起き上がったのは、いつもと違う見知らぬ部屋の天井。痛みを堪えて起き上がり、鏡を見ると、顔は怪我だらけで、口元も切れて血がついていた。
「いたっ・・・!」
服を見ると昨日の服のままだった。荷物は・・・と振り返った時、ベッドの傍にトランクがあるのが見えた。どうやら、寝ている頃に届いたらしい。その荷物から替えの服を取り出し、着替える。頬をさすりながら、廊下をでると、そこは見覚えがある皇宮の廊下だった。
門番をしている頃に覚えた道を歩きながら、城へ向かうと、父親とばったり会うことになった。
「げ」
「げっとはなんだ、お前は!聞いたぞ、何を血迷って、あのバケモノの護衛なんぞに!!」
「父上。バケモノじゃなくてケイト王子と呼んだ方が。ここは城の中ですよ、滅多な口は聞かないほうが」
「ばかもん、そういう問題ではないわい!あんな化け物を祭り上げようとする人間の気がしれん。今のまま、順当にいけば温和で穏やかな皇太子殿下が即位される。この流れを変えるわけはいかんのだ。わかるな?」
「父上、一応言っておきますが、あの王子に即位の意志はないですよ?」
「本人にその気がなくとも周囲の貴族が挙って祭り上げるわい。とにかく、お前は大馬鹿者だ。皇太子殿下の御意思でもあるから逆らえんが、肩入れをするんじゃないぞ」
「確かにあの王子はバケモノかも知れない。でも、少なくとも、感情はある方だ。せめて、人として尊重して皇族の一人として敬う義務が俺達にはあるのではないでしょうか」
「お前は時折、耳が痛いことを言う。そういうところは祖父に似たな」
最後に小さく、検討しようと呟いた父親にほっとしたマシューは頭を下げてすれ違った。
(・・・親父は生真面目すぎるあまりに、ケイト王子殿下を真っすぐに見ることができていない。そこは良くも悪くも貴族であり、あの人の欠点でもある。確かにバケモノなのは昨夜で十分思い知った。でも、なんでだろうな・・・)
頭の中に、店の中で店長を務めていたケイト王子の顔が過ぎる。
アリエッタと会話していたケイト王子の顔はとてもいい笑顔をしていた。
握手した時だって、結構感情がこもっていたし。
「少し、様子を見ようかな。でも、アリエッタは諦めて欲しい」
(いや、無理かもしれないな・・・)
例え砕かれるとはわかっていても希望は持ちたいと思い直したマシューはため息をついて、今度こそ、店の方へと向かった。どうせ、門番はもうできないのだし、店にケイト王子とアリエッタがいることは解っているのだからそっちに行った方が絶対に合理的だ。
「とにかく、警護担当になったからには、嫌ですが、お役目を全うさせていただきますよ」
こんな時こそ、俺のボジディブさを発揮しなくてはな!!
だが、この後、マシューの決意は打ち砕かれることになる。
ケイト王子がアリエッタに迫り、それに満更じゃない表情を見せたアリエッタを見たがために。
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