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23)傍目には気付かない小さな変化
しおりを挟む騒がしい格闘を終えた後、服を着た二人はビビから話を聞いていた。
「えっと、今から皇族のみんなに報告しに行くってってこと?え、早くないですか?」
「俺たちの話は昨夜で知れ渡ってるからね、形だけの報告になると思うよ」
「そんなことが必要なんですか…」
「こういうのは面倒だけれど大事なことなんだよ。少なくとも、公式な場では役に立つ」
似非笑みを浮かべたケイトと、にっこり微笑んでいるビビを見比べ・・・えげつない・・・と思ったのはアリエッタだけだろうか。
そうこうするうちに、ケイトに連れられて、皇族が並ぶ大広間へと向かっているアリエッタはあまり乗り気しない様子でいた。
「店長、面倒です」
「うーん、婚約者になったんだし、呼び方も変えようか。ケイトって呼んでみて?」
「まだ婚約者の身としては恐れ多いので百歩譲って、王子とさせてください」
「ふふふ、調教をお望みのようだね、アリエッタは」
彼の背中から禍々しいオーラが渦巻いた気がする。顔を引きつらせ・・・これで妥協してくれることを願って、口を開いてみた。
「だ、妥協して、ケイト王子と。それで譲歩してください」
「はぁ。まぁ、慣れもあるだろうし、最初はそれで妥協するよ」
ため息をつかれてしまった。解せぬ。
しかも、最初はっていうことはいつかは呼べってことだよね?
「その代わり、手つなぎでね」という彼の条件にアリエッタは首を傾げた。「あれ?」と思う間もなく、ケイトに引っ張られて大広間の中へと入っていった。
アリエッタの目の前にある王座に座っているのは当然ながら、皇帝、皇后のお二人。
そして、座っている横にはケイト。段上に並んでみえるのは、皇太子殿下と、ザン殿下と妃であるアリア様だ。
(・・・うわぁ・・・ザン殿下の雰囲気がすっごく柔らかくなってる!アリア様がいるだけでこんなにも場の雰囲気が変わるの?!)
以前は重苦しかった空気も一変しているし、貴族たちもほっとしているようで和やかな雰囲気になっている。そう考えると、この国ではアリア様の存在はすごく大きいのかもしれない。おそらく、聖女云々など関係なく、ザン殿下を制御するためとしても必要な存在なのだろう。
そうこうしているうちに、皇帝に報告を済ませていたケイトが肘をつついてきた。
「ほら、皇帝陛下が呼んでいらっしゃる」
「あっ、も、申し訳ございません」
「問題ない。この雰囲気にびっくりするのも当然のことよ。改めて、そなたのおかげでこの国はいろんな意味で救われた…感謝する」
「あ、いえ。もったいなきお言葉でございます」
「しかも、ケイト王子と婚約までなしたとか。大丈夫であるか?」
「それはどういう意味ですか?」
「そう睨むな、ケイト王子よ。そなたはザンにそっくりゆえ、心配でならぬのだ」
「おっしゃる意味が解りませぬが、強制的にしたわけではありません。・・・そうですよね?」
最後の方はアリエッタを見て確認してきた。アリエッタとしては肯定すること以外に何ができようか。曖昧に頷くことでなんとか誤魔化した。が、彼らは私の浅い演技に騙されはしなかった。
「ふぅん。完全に強制だね、これは」
面白そうに声を挙げたのは、今まで発言を一切しなかったプリム皇太子。ケイトの眉間に皺がよったのは気のせい・・・じゃなさそうだ。ケイトが嫌そうな顔を見せるとは新鮮である。
「何をおっしゃりたいのやら、プリム皇太子殿下」
「ふふふ、まぁいいよ。僕だって君の成長を喜ばしく思ってるんだからさ。アリエッタ殿、これから長い付き合いになりそうだし、よろしくね?」
「はぁ、こちらこそよろしくお願いします、プリム皇太子殿下」
ちらっとケイトを横目に見ながらも、皇太子に対して一礼する。間髪入れずに、ケイトがぼそっと囁いてきた。
「皇太子殿下を信用しすぎないでね。俺以上に魔窟を潜り抜けた猛者だから。しかも…」
「しかも?」
「父上の一番弟子だよ」
「あ。察しました…それは油断しないほうがよさそうですね」
納得とばかりに縦に首を振るアリエッタは気を引き締めた。皇太子はというと、呆れた様子でケイトに話しかけていた。
「君たちね、僕にも聞こえるような声量でひそひそと話をするんじゃないよ。内緒の意味がないでしょうが」
「心外ですね、俺は事実を述べただけでございますよ」
はははと笑いあっている二人だが、なぜだろう、アリエッタからすれば、腹の探り合いとしか思えなかった。皇帝のほうに目を向けると・・・微笑ましい視線を向けている。ザン殿下やアリア様のほうも見てみると・・・ああ、うん、呆れてはいるけれど、慣れた様子の雰囲気だ。つまり、この二人のやりとりは日常的なことなのだと理解した。
(つまり・・・これも、私を試す場ってことですか。うわぁ、スパルタ教育!!)
少し考え込んだ後、アリエッタはケイトの袖をつんと引っ張った。このやり取りを止めなければ退出できないと考えたためだ。
「ケイト、そろそろ出たいです」
「……君はたまにずるい。はぁ、わかりましたよ。出ましょうか」
なぜか、一瞬固まったケイトだったが、素直に退出してくれたため、ほっとした。アリエッタが退出した後、皇族の面々はというと、おもしろそうだといわんばかりに顔を見合わせていた。
「ふーん。あの様子だと、ケイトのほうが熱をあげているみたいだね。無自覚のようだけれど」
「ザン、やはりケイトはお前の血が濃いのだな。かつての姿にそっくりだぞ」
「そんなことを言われて喜ぶとでも思いですか、兄上」
「うーん。昔のザンを見てるようで複雑だったわ。はぁ…」
「あ、アリア?」
「まぁまぁ、ケイト王子にとっても勉強になるからよいのではないかしら」
「そうだといいんですけどねぇ」
ため息をついたアリアの隣ではザンが考え込んでいる。ザンの考えていることが、アリアの機嫌取りだと見抜いた皇帝はため息をついた。
「本当に親子揃って似たような行動をするのう。だが、アリエッタ殿がどう動くかは読めぬ。アリア殿はどう見る?」
「おそらくですけれど、ケイトとは何らかの取引をしたのでしょうね。おそらく婚約することによって、異世界絡みで何かを得るためだとは思いますが。ザン?」
「あ、ああ。思い当たるとしたら、あれしかない。あの『異世界の魔鏡』だ」
「って、まさか、あれなの!?」
ザンの発言で驚いたのはアリアだけではない。皇帝や皇太子でさえ目を見開いている。
「でも、ケイトなら取引の材料にすることはあり得そうだ。何しろ、唯一アレを使えた人間だしね」
「プリムっ!!」
「申し訳ございません。このことはタブーでしたね。しかし、考えうる限り、最悪の手ですよ。これは」
「うむ。ザン、場合によっては阻止も考えねばならぬぞ?」
「そんな面倒ごとはことわ…」
「我が君、お願いしますね?」
「……たまには息子と戯れることも必要かもな。検討しよう」
ザンの言葉を聞いた全員の思いは確実に一つとなっていたことだろう。
(・・・相変わらずだな、この夫婦どもがっ!!!!)
大広間でそんな会話が繰り広げられていたことにも気づいていないアリエッタはというと・・・ケイトにキスされていた。
逃げ場のない壁へと押し付けられ、顎を掴まれ、腰も固定されて動けない。
「んっ…やぁ、ん、んんっ―――――!!」
時々、息継ぎのために離してくれるが、すぐに塞がれてしまう。隙を見せれば、舌まで絡めてくるからたちが悪い。荒い息遣いとともに、ケイトの鋭い視線と声が降りかかってくる。
「いいね?プリムには本当に気を付けるんだよ?」
「ん・・な、んで…?」
「いいから、約束だよ。絶対に二人きりにはならないように。あとは、これだ」
ケイトは深いキスをした後、アリエッタの項を舐めた。ひやっと驚いたアリエッタだが、ケイトの視線からは目をそらせなかった。
「お、王子?」
「……ケイト」
「え?」
「名前を呼ばないと終わらないからね」
にっこりと微笑んでいるケイトに対して不可解ながらもアリエッタは呼吸を整えてから、小さく名前を呼んだ。
「ケイト王子…?」
「違う、敬称はいらない」
「えと、ケイト?」
「………うん、今はそれでいいよ。我慢するから」
名前を呼ぶことでようやく解放されたアリエッタだが、ケイトの意図をつかめず?マークを浮かべていた。
まぁ、実のところ・・・ケイトのたんなる嫉妬なのだが、それには一生気付くことはないだろう。何しろ、当のケイトがアリエッタに言うつもりがないのだ、それは仕方がないことだろう。
「一体何かなんだかわからない」
「もうそのままでいいよ、わからないままで。いっそそのままのほうが害がないかも知れないね」
「王子、一体何をおっしゃりたいんです!?」
「また、戻ったし…ふうん、遠回しにもう一回して欲しいっていう要求だね?」
「ぎゃああああ、いやいや、もうっ、結構ですっ!!」
王子と呼んだ瞬間、ケイトが再び禍々しいオーラを出したと気付いたアリエッタはすぐに逃げ出そうとした。しかしながら、城の中ではケイトのほうに利があるわけで。
結局その夜、アリエッタは何度もケイトの名前を呼ぶはめになった。
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