【R18】たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情

巴月のん

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33)結局似ている二人

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たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情








アリエッタは昨夜のことを思い出していた。涙目になっていたケイトを散々弄ったのでやっと満足したのだが、元凶の彼女に対してはいろいろと言いたいことがあった。幸いにも、この時間帯なら大抵中庭にいると解ったのでさっそく向かうことにした。
やはりというか、彼女は静かに水晶の前に座って祈りを捧げていた。彼女は自分よりも年上のはずなのだが、聖女ということで魔力がかなり高いため、この世界に来た頃とほとんど変わらぬ姿を保っていると聞いたことがある。アリエッタとて、こんな出会い方をしなければ、いや、昨夜のことがなければ、尊敬できると思えるほどに素敵な人だと思う。

(でも、この人も魔窟で渡り合ってきた人なんだと思うと・・・油断はできないのよね)

「あら、莉愛りあちゃんじゃない、身体はもういいの?」
「ええ、幸いにして、ケイト王子が介抱してくださいましたので」
「へぇ、あの子もやるじゃないの」
「何故、あんな真似をなさったんですか」
「あの子に落ちなかったのが残念だわ~」
「私は、日本に帰りたいんです」
「・・・昨夜は結構ギリギリまで楽しんだようだけれど?そんなにあの子は魅力ないのかしらね」
「~~~そ、そういうことじゃないです!」

アリアはふふふと笑っているが、目だけは笑っていない。それなのに私は言葉に翻弄されてる。確かに昨夜はとんだ醜態をさらしてしまった。彼に対しても後ろめたくて謝ったが、彼は役得だったと微笑んできたので思わず鳩尾をねらってしまった。うん。後悔はしていない。

「と、とにかくもうあんなことは止めていただけませんか」
「日本に戻りたい理由は解るわよ。でも、この世界を拒絶する態度はいただけないわね」
「だって・・・」
「私は貴方じゃないから貴方の苦しみは完全には解ってあげられない。でも、同じ日本人としてこの世界に突然召喚されてしまった時の戸惑いや寂しさは解るつもりよ。それでも、私は覚悟を決めた。この世界であの人と共に生涯を暮らすことをね」
さっきの笑みとはまた違う優しい微笑みを浮かべたアリア様を見て気付いた。この人もいろいろと悩んだ末に覚悟を決めたのだと。

「悩まない人間はいないわ。歴代の聖女様でもそうでしょうね。貴方の場合はなまじ帰る手段があるだけに決断しきれないところがあるのだと思うけれども」
「そう、それです。初めて会った時もそういうことを言っていましたね。でもあなたの口からは言えないと。ならば、誰に聞けばいいのです」
「・・・その先を考えて行動できないのは貴方の弱いところね・・・そうね、媚薬のお詫びに一つだけヒントをあげる」
「どういう・・・」
「この国では聖女が結界の要になっているわ。そして結界を張れるのは聖女のみと思われている」
「・・・おも、われているということは実際は違うんですか?」
「ええ、聖女の血を引く第一子で魔力が高いことが条件になっているわ。つまり、聖女とほぼ同じぐらいの力の持ち主であれば、男であろうが女であろうが一子相伝で次代につなぐことが可能なの」

アリアがそこまで言えば、とある人物が頭に浮かぶ。その時点でもう答えはわかったようなものだ。
最後まで聞くことなくバタバタと走り出したアリエッタの後ろ姿をみたアリアは小さく呟いた。

「・・・聖女ばかりがフォーカスされているけれど、一応聖人も少なからず存在していたのよ」





ケイトの執務室を見つけてドアを勢いよく開けたその時、ケイトは目を丸くしてポカーンと固まっていた。走っている間にもいろいろと思い当たることがたくさん頭に浮かんでいた。今思えばあれもこれもそういうことかと納得できる。

本当にどこまでもこの人はずるい人。

「ど、どうしたの?」
「・・・あなたが、前に・・・・話してくれたこと・・もっと嚙み砕くべきでした」

息を整えながら、ケイトに近づく。ケイトも私の言い方に何かあると気付いたのか真顔でこちらを見つめてきた。

「母上と何か話をしたんだね。それで、どうしてここへ?」
「アリア様が・・・いない間も、うっすらとですが結界は保たれていました。その時点で、誰かが結界を張っている人がいると・・・気付くべきだった。」

そう、だから、国民たちはアリア様を病気だと思い込んでいたのだ。結界が薄くなっているものの、消えているわけではなかったから。

「そしてあなたの存在が世間一般に隠されている理由・・・」

五大属性を持っているということが大きな要因ではなかった。大事なのはあの二人・・・いや聖女の血を継ぐ者であるということ。つまりそれは結界を張れる人間であることを意味するから。

「ああ、そこにたどり着いたんだ。もうちょっと時間がかかると思っていたよ」
「媚薬のお詫びだそうですよ!」
「はは・・・母上らしいな」

ここまでいえばケイトにもアリエッタが何を言いたいのかようやくわかってきたようだ。お互いに一瞬ながら空気が緩む。しかし、それを良しとしないのがアリエッタだ。

「貴方が聖人だからこそ、精霊とも話ができたというわけですか」
「噓は言っていないよね」
「ええ、そうですね!確かに噓じゃなかったです」

そう、聖女の血が流れているからこそできたこと。何故あの時に気付かなかったのか。今思えば、他国よりこの国で聖女の存在が強く根付いている要因を考えれば気付けたことだった。聖女の血がこの国を守っていたからだ・・・。

『そう、まさにその通りだ、君にはその欲望に充実な愚かで馬鹿な女どもを追い払ってほしい。何、心配ないよ、わが国では、聖女は皇帝と平等の力を持っている。それは他国の聖女であっても同じだ』

「婚約者を決める決定権を持つ皇帝陛下に意見を言えたのも、聖人だからですよね」
「うん、そうだよ。なぜかは君も知っての通りだ。まぁ、俺の場合自分に関わらないことは皇帝の判断に沿うようにしているけれどね」
「皇帝陛下を皇帝と呼び捨てにできる理由はそれでしたか」


本当にこの人はどこまでも腹立たしい人!!
それなのに、私はこの人のことを・・・嫌いになれない。

それが、一番、腹立たしい。
アリエッタは眉間に皺をよせながら自分を落ち着かせるように深呼吸した。

「ふう・・・ならば、聖人としての貴方に教えてもらいたいことがあります」
「日本に帰る方法ならあるよ」
「・・・あなたのそういうところが嫌いだって何度言ったらわかるんですか」
「あるけれど、そのためには俺も命を懸ける必要があるから言いたくなかったっていえばわかってくれる?」

足を組みだしたケイトは軽い口調のわりに重いことを口にした。はっとしたアリエッタは少し間をおいてソファーに座った。じっとそのまま何もいわなくなったアリエッタをみて、ケイトはさらに言葉をつづける。

「・・・昔ね、プリムが鏡を持ってきたんだ。教会にあったって内緒で持ち出してきてさ」
「教会って、もしかして!」
「そう、君にちらっと言ったよね。あの異世界に行ける鏡。あの鏡の力は本物なんだ」
「じゃあ、それを使えば・・・」
「ところが、そううまくいくもんじゃないんだよね。あの頃、俺はね母上から聞かされた日本にずっと行きたくてたまらなかったんだ。大阪のたこ焼き、東京の富士山、東京タワー、動物園。魔力も魔法も存在しない世界。それは本当に未知の世界だった」
「・・・・・・・」
「そんな俺の想いが強かったのか、あの鏡は俺の願いに応えて俺をつれてってくれた。君がいた世界である日本にね。でも・・・」

初めて見る日本はとても冷たく寂しく感じたよ。

「冷たく・・・?」
「今でもうまく表現できないけれど・・・無機質というか、そうだね。俺が落とされたのは大阪だったんだけれど、たくさん人が道を歩いているんだけれどみんな前だけを見てるよね。しゃべりながら歩く人もいるけれど、基本的に自分たち以外は興味ないっていうふうにひたすらひたすら歩き続けるあの様子を見て、俺はコワイって思った」

声をかけようにも通り過ぎる人は自分を一瞥するだけ。
ちらって困ったようにする人もいるけれど、それでも手を差しのばしてくれる人はあの人たち以外にはいなかった。

「あの人たち?」
「・・・あの時、俺は怖くて、路地の細道のところでローブを羽織ってしゃがんでいたんだ。帰りたいそう思って涙が出たその時、おじいさんとおばあさんが俺を見つけて、立ち上がらせてくれた。もし、あの二人がいなかったら俺はたぶん、日本を好きになっていなかったかもね」

そして、俺はそのおじいさん、おばあさんに連れられて、東京へ行った。

「じゃあ、その人達と一緒に暮らしていたんですか」
「そう、3年ぐらいじゃないかな。魔力もない、魔法も使えないことが新鮮だなって感じられるようになったのは余裕ができた3ヶ月そこらぐらい。それまでは不安だったし、面倒にしかおもえなかったからね」
「え、でも、3年って計算するとちょっとおかしくなりますけれど・・・」
「どういう理屈かはわからないけれど、ここへ戻ってくるときに年齢も身長も戻っていたよ。プリム曰く、俺がいなくなったのは3日ぐらいのことだったそうだ」
「・・・次元のずれがあるってことですね。そうだ、どうやって戻ったんですか?魔力もないなら戻れないはずでは?」
「・・・契約、だよ。プリムがもってきた鏡にはね、実は大地の女神様が封じられていた。その大地の女神との契約と引き換えにここへ戻ってくることができた。ただ、その時に大量に魔力をとられてしまってね。今もまだ完全には戻っていない」
「え・・・じゃあ、魔力を使わないのは」
「そうだね、まだ完全には戻っていないっていうことも魔力を抑えている理由の一つかな」

ケイトの説明を聞いて思い当たることは本当にたくさんあった。ケイトが日本に詳しすぎると感じたのも道理、日本で3年間暮らしていたのだからいろいろ知識があるのは当たり前のことだ。

「魔力・・・私の魔力では戻れないぐらい高いということでしょうか」
「いや、日本に行けたのは本当に大地の女神がたまたま俺に興味を持ったからだ。・・・俺はどういうわけか気に入られて、本当はだめだけれど魔力をくれるなら構わないっていわれたな。そして、次に来るときは俺の命をもらうと」
「それ、本当に女神様なんですか?なんか悪役っぽい感じがしますけれど」
「調べたけれど、本当に大地の女神様だったよ。天の女神様にも確認したから間違いない。まぁ、そんなわけで大地の女神様に気に入られてしまった俺は教会の出入りを禁止されてね」
「ああ、確かに聖人の命をとられるとあっては国としては大問題だものね」
「そういうわけで、俺も出入りを許されるのは、婚約の時とか結婚とかの行事ぐらいのものだ」
「それなら、婚約はどう転んでも必要だったわけですか」
「そういうことだ。ほらね、噓は言っていない」
「隠していただけということですね・・・そういうのを屁理屈っていうんですよ、オウジサマ」
「・・・・・・うわぁ、視線が冷たいっ!」
「誤魔化してもダメです。しかし、こういうとき、ビビの存在がすっごく助かります。メイドってこういうことも得意なんですか?」

いつの間にかしれっとテーブルに紅茶をおいていたビビを指さしたアリエッタに対して、ケイトは苦笑いで答えた。

「彼女はね、母上についているメイド長に厳しく指導をうけているからね。それこそ、影で護衛もできるようになれと」
「おお・・・あれですね、くのいち的な」
「忍者だね。折り紙で手裏剣を作るの楽しかったよ」
「・・・・うわーこの異世界で、まさか折り紙とか手裏剣とか・・・くっ、出会いがあんなことでなければ。そして、貴方が王子でなければ気が合ったに違いない!」

苦悩せんばかりに顔をゆがませたアリエッタにケイトは複雑な心境だった。しかし、アリエッタはケイトの心境などお構いなしに紅茶を飲んで心を落ち着かせていた。ケイトは気付いていないが、アリエッタもまた隙を見せたくない一心で話題を振っているだけだった。
そして、今の彼女の心境はというと


(どうしてこういう展開になったーーーーーーーーーーーー!?)


まさにこの一文に尽きる。そんなアリエッタの心境も知らず、ケイトもまた何かを考え込んでいた。この二人の様子を密かに見守っていたビビやラティス(一応いました)は後に語った。


「「あの二人は否定するかもですが、考え方は本当によく似ています(っス・・・)」」




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