【R18】たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情

巴月のん

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37)皇族の負の遺産

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たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情







プリムが口にしたことを脳内で反芻はんすうしたアリエッタは震える声で口を開いた。

「何故、そこまでして・・・ケイト王子を?」
「・・・・・・・」
「聖人というだけでそこまで気にするというのもおかしいですよね、現にアリア様はそこまで縛られているようには見えません」
「そう、だね。まぁ、彼女の場合は叔父がいるということも大きいけれど・・・正直、ケイト様の方が大事だ」
「何故、そこまでしてケイト王子を縛ろうとするんですか?!あの人は・・・絶対に、そんなこと・・・望んでいませんよね?」


そう、見ていたら解る。彼はそこまで拘ってしごといる訳じゃない。
それは、『魔法のらんぷ』の店長として働いている様子を見ればわかること。
客と魔呪符について談議している店長の顔はこの城では見られない笑顔をしている。
たこ焼きを食べている時だって、幸せそうな顔で頬張っている。
それなのに、この城では、魔王の子として、聖女の子として、王子としてのケイトとしてお面を張り付けたように気を張って過ごしている。

その落差に気付いた人間がどれだけいるのだろうか。
少なくとも、ケイトに近い人間は気付いているはず。

プリム王子とて、気付かぬはずがない。そう思っていたのに・・・

「・・・そうだね、ケイト様はそんなことを望んでいない。でも、こればかりは我が一族の悲願として絶対に成し遂げねばならないことなんだ」
「悲願・・・・?」
「それは見てもらった方が早い・・・ついてくるがいいよ」

立ち上がったプリムが腕輪の側面にあるボタンを押すと部屋に隠し階段が現れた。プリムの誘導でそこを通っていくアリエッタの心情としては複雑なものだった。
迷路のような階段や廊下をとおって漸くついたのは、いくつものの墓が並んだ部屋。その中央には、透明の筒のようなものがあり、ピンク色のキラキラした無数の光が上へと昇っていた。よくよくみると筒に幾つものの管が通っていて、墓につながっている。
嫌な予感を感じながらも、アリエッタはプリムに説明を求めた。

「これは・・・」
「ここは歴代の皇帝の墓場。それから、その墓は当然」
「そういうことを聞きたいんじゃないんです!」
「・・・命を魔素(魔力)エネルギーに変換するヤツだよ。簡単に言えばね」
「め、女神様の力があるのでは・・・・?」
「君が他国とはいえ、聖女だったのは幸いだ。君だからこそ、国の恥部を晒せる」

はぁとため息をついたプリムが語ったことは衝撃的なことだった。

「じゃあ、女神様がこの世界を再び守ってくださるまでの間はずっと、こうやって魔素をつくり、魔法が使えるようにしていたということですか」
「そう、この魔素エネルギー吸収装置は暗黒時代の時に、我らが先祖の命と引きかえに完成させた。我が皇族を含めて七賢人達の家系で遠い人間から順にここへ送り出した。賭けに勝てなかったら恐らく・・・もっと多くの人間が犠牲になっていただろうね。いや、下手したら戦争になっていたかもしれない」

女神の怒りを買った代償は高くついたと言い終えたプリムは地上につながっている筒を見上げた。

「今でこそ聖女様が降臨してくれているけれど、この国の償いはまだ終わっていないし、我ら皇族の罪も消えていない。現に、今は皇帝や七賢人が引退した後はここに入るルールになっている」
「そんな・・・」
「ワンダーギフトでさえ、女神様の加護あってこそのものだしね。話がそれたが、一般的にこの世界では骨すら残らなずに死ぬが、我ら皇族や七賢人は違う。死してなお命を捧げ続けねばならない。いわゆる万が一の時の備蓄であり、女神に対しての賠償金のようなものだな」
「だからこれからもずっと続けると?それは違う・・・」
「そう、これまではこれが運命なのだとあきらめていた。だが、今は違う」

アリエッタの震える声にプリムはその言葉を待っていたとばかりに両手を開いた。

「アリア様の血筋が判明した時、先代の皇帝と僕の父上は希望を持った。この負の歴史を終わらせることができるかもとね。だからこそ、ケイト様の誕生の時はそれはもう物凄いものがあったよ・・・ああ、うんやっぱり、様付けの方がしっくりくるね」

ケイト様と突然持ち上げた理由を訝しく思ったアリエッタだったが、プリムはそれを気にした様子もない。むしろそれが当たり前のように何度も繰り返している。何を言おうか迷っているアリエッタの前ではプリムが淡々と言葉を紡いでいる。

「そもそも・・・ケイト様が皇帝と平等の立場に置かれているのは聖人だからじゃない。アリア様のお子であることが一番の理由。それはさっきも言ったよね」
「はい・・・」
「アリア様の父君はリーディン様でこの国の初代皇帝の長兄にあたる」
「・・・さっき言っていた正統な後継者の血筋ということですね」
「その通り。そして、母君は高原絵里様・・・この国に遣わされた初代聖女の弟君の血筋を引いておられる」
「・・・それって!」
「そう、俺達皇族の先祖が殺した初代聖女にもっとも近い方ということでもある。つまりこの国の歴史において、我ら皇族が一番優先し護るべき方こそがアリア様。そしてそのアリア様と今の皇族であるザン叔父上が結ばれた時、皇族が第一に考えたのは、この二人の子を皇帝とすれば、今後は安泰になるのではとね」

――――プリムの目に狂気が宿っていると感じたのは気のせいじゃない。
一歩下がりながらも、アリエッタは目を瞑った。

色々考えた。この負の遺産には同情する。でも、これは違う。
絶対・・・違う。

『アリエッタ、なんでたこ焼きのお替りしちゃだめなんだよぉおおーーーー!』
『あーかわいい。かわいいよね、アリエッタはほんと、馬鹿なんだから。あ、痛い』
『本当だよ?これでも君の中に入りたくてたまらないんだからさ』


思い出の中のケイトの表情が次々と頭に浮かぶ。
私でさえこうなんだから、プリム王子の方はもっとケイトに詳しいはずだ。

そのプリム王子がケイトを縛り付けようとしていることをケイトは知っているのだろうか。
ああでも、彼のことだ、知っていたとしても関係ないと一蹴するだろう。そういう人だ。

でも、これだけは確実に断言できる。きっとプリム王子だって解っているけれど、認めたくないだけだ。これはケイトの意思を無視したものだって。


息苦しさを感じながらもアリエッタは真っすぐプリム王子を見据え、指差した。


「ケイトを皇帝に据えたとして、それでこの負の遺産を終わらせることができると?それは貴方達の願望であり、絶対的な事実ではないですよね」
「―――――うるさい!」
「プリム皇太子殿下、聡明な貴方が解らぬはずはない。こんなのは間違っていると!あなたもきづいているはずです・・・こんなの、ケイトは、望んでいない!」
「黙れ、黙れっ・・・・・やっぱり、君は僕らの敵に回るんだね。できれば、大人しく傀儡になって欲しかったんだけれど・・・来たれ、我が眷属たるウィンディーネ」

プリムの髪が揺れるのと同時に、プリムを中心に青い魔法陣が光り輝き、飛沫が飛んだかと思うと人魚のような精霊が現れた。それは精霊の中でも最上位となる四大精霊の一柱。

「っ・・・・・」
「忘れていると思うけれど、僕はザン叔父上の一番弟子だよ。君が聖女だとしても戦える自信はある」

ましてや、君は戦ったことなんかないはずだよね?


核心をついてきたプリムの言葉に詰まるアリエッタはじりじりと後退した。プリムが呪文を唱えるとともにウィンディーネが魔法を出す体勢へと構えていく。
できる限りギリギリの範囲でバリアを張るしかないとポケットに入れた魔呪符を出そうとしたその時、ウィンディーネの攻撃がアリエッタ目掛けて飛んできた。

間に合わないっ・・・・

目を瞑り、来るはずの衝撃に備えていたが、いつまでたっても痛みがない。恐る恐る目を開くと、目の前には影ができていた。そして、その陰の奥でプリムが叫んでいる。

「・・・っ・・・どうして、ここに!」
「双子が知らせてくれたんだよ。アリエッタが危険だってね」

いつも聞いている声が耳に入ったとき、アリエッタはへたりこんだ。来るはずがないと思っていた彼の声は悔しいことにアリエッタの不安を綺麗さっぱりと拭い去ってくれた。だからか、思わず安心感で彼の背中に飛びついて口にしていた。

「無事で、良かった・・・アリエッタ」
「けい、と、ケイトっ・・・!」



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