【R18】たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情

巴月のん

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番外編

番外編4)お兄ちゃんの苦悩【本編最終話の後】

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たこ焼き屋の娘と紫紺の王子の事情








ずっと行方不明だった妹の莉愛りあが戻ってきたのは喜ばしい。本当に涙がでるぐらい嬉しかった。だからこそ、また行方不明にならないようにと必死に守っていたというのに、妹からは鬱陶しいと言われてショックを受けている。

「お兄ちゃん、さすがにスーパーのトイレ前まで見張るのはどうかと思う」
「り、莉愛が心配だというのに!」
「そこまで子どもじゃありませんから」

家族で買い物に行っている間も気が気じゃないというのに、妹ときたら吞気過ぎて。本当にため息を何度ついたことか。母が言うには気を抜いている状態なのよということだったが。……妹に聞かされた異世界に飛ばされていたという話は正直、信じられるものではないが、背中に焼かれた奴隷の印が証拠と言われれば否応なく信じるしかない。痛々しいやけどの痣が生々しい。消そうにも範囲が大きすぎて厳しい。何より、妹自身がこれは不本意ながらも消せない過去として残しておきたいと言う。……あんな焼き印があってはそうそう嫁にもいけないのではないだろうかと父と心配になったこともある。

だが、それは――別の意味で覆された。目の前にいる…不審者によって。

「んっ!!  ……ど、どうしてここに!?」
「なんでって? そりゃ、たこ焼きを食べに来ていたからに決まってるでしょ?」

たこ焼きコーナーで妹と目を合わせるなり勢いよく抱きしめ、あまつさえ目の前で濃厚なキスまでかましたこの男は一体何者なんだ!
どうやら妹の知り合いらしいが……
妹から引き剝がすついでに顔を拝んでやるといき込んで真正面から見てみれば――

長いまつ毛に深い紫色の切れ目。
柔らかな黒……いや、深い紺色か。
掴んだ肩も意外にしっかりしているし、何より隙の無い身のこなし。
何よりもこんなやつが何故妹の傍に? とさえ思うほどの美形……おい、どうやって知り合ったんだよ、こんなやつと!!

こちらの心を読んだかのように目の前にいた男は妹に俺のことを問いかけていた。妹が兄だと紹介するとわずかに口元が綻んだ。

「初めまして、高原慧斗です。妹さんとは異世界で知り合って恋人に」
「なんなだdふぁ――――――――――?」

お兄ちゃん聞いてないぞ!と妹に言えば、恥ずかしそうにそっと目を逸らされた。だが、母や父はああ、噂のと呟いている。、まて、知らなかったのは俺だけかい!!   真っ先に正気になった母は妹と男を見比べながら探るように口を開いた。

「ひとまずここでは人目につくわ。少し離れるけれど一旦我が家に移りましょうか?」
「ああ。それならば、ぜひ我が家へ。ここから歩いて五分もかかりません。それに、俺は一人暮らしですからどうぞお気兼ねなく」
「あら……そうね。我が家は少し遠いし、申し訳ないけれど甘えさせていただきますわ」

母の言葉で全員が歩いて高原家に向かうことになった。その間にも妹と男のいちゃいちゃは続いていて。妹は人前でのキスにあきれていたけれど拒否することなく手つなぎも受け入れていた。

「そういえば、こちらでの名前は?」
「あ、言ってなかったね。越田莉愛っていうの」
「莉愛か…アリエッタと近い名前だからそんなに違和感ないね」
「ケイトはそのまんまだね」
「ん、おじいちゃんが戸籍を作ってくれていたからね。そのまま使ってるよ」
「ふふふ、変な感じがする。それにスマホを持ってるなんてびっくりした」
「パソコンもスマホも意外と難しくなかったよ」

ジト目になりながらも二人のやり取りに耳を澄ます。父と母は歩く間もずっと何かを話し合っていたが、自分はそれどころじゃなかった。
しばらくするとバカでかい純和風の家が目に見えた。なんだ、この立派な家は!!
祖父が遺してくれたものですと口にしながら玄関を開けて出迎えてくれる。居心地の悪さを感じながらも中へ入ると意外に馴染んでいる空間が広がっていた。
和室へと座らせてもらうと、たくさんの写真が目に入った。ほとんどが祖父母らしき人物だが、その中に交じって、小さな男の子が写っている写真もあった。莉愛が目ざとくそれを指さして、キッチンでお茶を入れていた男に聞いていた。

「ねー、これってケイトの小さいころの?」
「そう、俺が一時期ここにいた時のだね。まだ残っていたことにびっくりだよ。そうそう、ご家族は異世界のことを……?」
「ええ、少し話してあるわ。貴方のことも一応説明してあるのだけれど」

お茶を配ってくれた男はそれを聞いて改めて座って挨拶してくれた。

「改めて、ブラパーラジュ出身のフィトケイラ・シャーウェルシ・トーリャと申します。こちらの世界では祖父が名付けてくれた高原慧斗という名前で生活しています。まだまだこちらに慣れないところもありますが、よろしくお願いいたします」

よどみなくすらすらと流れるように出てきた横文字は、莉愛からも話に聞いたことがある国の名前。父も思い当たったのだろう、震え声ながらも恐る恐る質問している。

「……も、もしかして王子だったという?」
「ええ。父が皇帝陛下の弟に当たります。ただ、母が日本人なので多少日本の知識もありますが」
「では、こちらの家はお母様の…?」
「はい、母の実家ですね」

父や母の質問にも爽やかに答えているあたりが憎らしい。しかもお茶を飲む姿も優雅だ。何なんだ。しかもこのお茶、美味しいじゃないか!!  王子だというわりには庶民的だなと思ったが、日本人の血も流れているということか。だが、見た目は……その、外国人っぽく足が無駄に長い。いや、羨ましいとかじゃないからな……!!

一通り話終わって落ちついたと思ったとたん、男…慧斗から爆弾発言が飛び出した。思わず突っ込んだ俺は悪くないはずだ!

「ねぇ、莉愛。約束通り結婚したいんだけれど、いつぐらいがいいかな?俺としてはもう今すぐでもいいぐらいなんだけど?」
「まて、待て待て――――い!! それを俺達の前で言うとかいい度胸だなっ、おい!?」
「心配せずとも、結婚資金はちゃんと貯めてありますからご心配なく。もちろん、お義兄さんも今まで通りでけっ……」
「俺はお前にお義兄さんと呼ぶことを許した覚えはないっ?」
「でも、未来的にはお義兄さんになりますよ」
「誰が許すと思うか!  どこのだれかわからん男にやる気はないっ!  そもそも仕事や大学は……!」

懸念事項をくだくだと並べ立てると慧斗は目を丸くした後、にっこりと微笑んだ。

「一応大学には入っています。仕事はまだですが、たこ焼き屋を経営する予定ですし、株もいくつかは。なので、心配無用ですよ……ああ、大学ならこちらです」

そう言って財布から取り出した学生証を見せられた時、父は顎が外れたように驚いていた。

「こ、これは…偏差値がかなり高いと言われているあの大学じゃないか!」
「他にも受かった大学があったんですが、ここが一番やりがいがありそうだと感じまして」

他の大学の名前もかなりの有名校だった。普通に高校へ行ったぐらいでは絶対に合格できないほどの名門。家族全員が驚いているが、妹だけは驚かなかった。何故だと聞けば、あっさりと言ってきた。

「だって、ケイトは皇太子殿下と一緒に家庭教師から国でも最先端の教育を受けていたもの。これぐらいはできるだろうなと思ってた」
「ふふふ、莉愛は本当に俺を解ってくれているよね。ということで結婚しよう?」
「ここでそんなあっさりとプロポーズするとはおもわなかったけれどね」

甘い空気になりかけたので再び妹を引っぺがし、慧斗を睨みつけた。

「だから許さんと言っているだろう! どうしてもというのなら、俺を倒してからにするがいい!」
「へぇ……?」

こう見えても柔道と空手、合気道の段持ち!
体育の教師としての意地も自負もある!
見るからにほそっこい男に負けるものか!

きりっと指さしたとたん、目の前の男の目が鋭く光った。その瞬間、一気に寒気を感じたのは気のせい……と思いたい。決して、にっこりと笑みをうかべたその口元が恐ろしい、だなんて感じてはない!!
もちろん、目に水が溜まってるのも、足が後ろに下がってるのも気のせいだ!!

「お兄ちゃん……ケイトは国を守る兵士や騎士を束ねる総団長をやってて、他の国とも戦えるほど強いのよ」

妹よ、そういうことはもっと早く言ってくれ――――――――――!!!!!!!

今更はいそうですかと引き下がれず、慧斗に何度も勝負を挑んだその結果、負けたわけだが、それでも何とか食らいつく。母が吞気に莉愛と話している中でもそのやり取りは続いた。しばらくして、俺のあまりのしつこさに負けたのか、慧斗が渋々と譲歩案を口にした。

「これで10勝目。何度負けても諦めないどころか挑んでくるってさすが、莉愛のお兄さんだね~」
「何よ、その言い方っ!!」
「でも、これぐらいの方がやりがいがあるってものだね。いいよ、ここはお義兄さんに免じて条件を聞こう。どうしたら結婚を認めてくれますか?」

息を切らしながらへたりこんでいる俺と目線を合わせてしゃがんでいる男に苦々しく吐き捨てた。

「い、1年だ…!! その間に1回でもどんな手を使おうとも俺が勝利したら1年ごと延長してもらうぞ!」
「なるほど。最速で結婚するには、お義兄さんとの勝負に1年間勝利し続けたらいいわけですね。面白い、受けましょう」

ニヤリと笑う顏もイケメンだな……と思いながらもよろよろと立ち上がる。慧斗は父に対しても質問していたが、なんというか……父の方が上手だった。そうか、そういう手もあったのか。

「お義父さんの方も何か条件はおありで?」
「……デートや外泊する際には事前に我々に連絡してもらう。そして、結婚は莉愛が就職するまで待ってもらおう。そうでなければ認められん」
「莉愛?」
「あ、うん。高校を卒業できるかまだ怪しいところだから、何年かかるかわからない」
「警戒するべきはこちらのほうでしたか……わかりました」

おい、舌打ちが出てるぞ!! 
そして、父よ……俺に向かってドヤ顏を作るな!! 
俺が悲しくなるからっ!!”

……父の機転もあって、今すぐ結婚されることは免れたが身体を鍛え直さなくては話にならん。家に帰って早速以前やめていたジムに再登録。それからは筋トレに励んではヤツに挑む日々が始まった。

……何度も負け続けていたらいつの間にか家の周りでは名物となってしまっていた。以前なんて、たこ焼きを食べながら俺の攻撃を躱していたのを周りがかっこいいー!! と、囃し立ててたし。解せぬ。妹からも恥ずかしいからやめてと言われているが、今更引き下がれるか!

お兄ちゃんはすごくすごくお前のことが心配なんだぞ!
だが、妹はそんなこと知ったことないとばかりにばっさりと俺のハートをぶった切ってくれた。


ヒドイ、お兄ちゃんはこんなにお前を愛してるのに!!




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