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3)与えられた快感

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佳音は完璧に油断していた。サークル以外であれば会う機会もないだろうと思っていたし、食堂だって、先日がイレギュラーで、そうそうあの男が来ることはないと麻友がいっていたから余計に。

「なんでここにいるのよ、右京先輩」
「つれないね~榊ちゃんも佳音も」
「呼び捨てはやめてもらえます?」
「犬山ちゃんって呼ぶのもなんだかなーって。それに佳音って呼ぶ方がしっくりくるし。あ、もちろん、敬語もナシでいいよ」

なぜか私達は食堂で同じからあげランチセットを食べていた。本当は逃げ出したいというのに、から揚げを残していけないし何より、周りの目が、目が!!

「先輩がいると周りの目がきっつい。麻友、サークルでは大丈夫なの?」
「サークルの仲間は慣れているみたいでこいつになびくバカはいなかったなー。ただ、一年生はさすがにね。私は彼のお蔭で無駄に耐性があるから大丈夫だけれど」

そうだった。麻友には高校生の時から付き合っている人がいるんだった。先輩もそれを知っているらしく口説くといったような行動はしていない。・・・いや、違うな。少なくとも、今日の彼は、だ。

「しっつれいだなー。仲間を食うつもりはないよ。そんなんしたら後から気まずくなるだけじゃん。それに彼持ちに手を出すほど飢えてないし~」
「当たり前の行動を威張られても」

なるほど、一応ルールはちゃんと設定してあるわけかと納得した佳音は最後の唐揚げを食べ終えた。この分だと、色々と情報が洩れてそうでコワイ。さっさと逃げよう。

「美味しかった。ごちそうさまです」

手を合わせた佳音はそのまま立ち上がろうとしたが、それより早く彼の方が佳音の右手首を掴んでいた。

「放してください」
「この後は別に予定なんかないはずだよね。じゃ、俺と話そうよ」
「え、ま、麻友も一緒に!」

顔をひきつらせた佳音はせめて友達と一緒にと思ったが、無常にも、麻友は無理だと湾曲的に言ってきた。

「あ~ごめん。サークルの打ち合わせがあるんだ」

ごめんと拝まれては何も言えない。何より、麻友に対して昨日の先輩とのやり取りをまだ説明していないかった。それだけに佳音としてはそう、がんばって・・・としか言えず、やむなく先輩と一緒に食堂を出ることにした。さすがに彼が傍にいると何も言えないらしく、周りは視線をよこすだけで何も言ってこなかった。ある意味助かったともいえるが、今後も続くようなら嫌がらせとかが出てくる可能性も考えておかねばならないと佳音は考え込んでいた。

「佳音、こっち」
「えっと、どこに?」
「あっちの木陰の方。ちょっと離れているけれど椅子や机もあって雨宿りもできるからかなり便利」

そう言って案内してくれた先は公園にあるような屋根付きの休憩所。しかも、灰皿もコンセントも設置されている珍しい場所。

「わ、スゴイ」
「ああ、たばこを吸うために来てるけれど、割と使いやすくて気に入ってる」
「木陰だからかあまり人も通らないんですね・・・穴場じゃないですか」

彼がタバコを吸いだしたので、少し離れたところにあるベンチに座る。木陰だから、日差しも入らないし、風も心地よい。ぼんやりしている佳音の横に右京が座った。

「ここのことは内緒ね」
「あ、はい」
「その代わり、君も使っていいからさ」
「大学ですよね、ってことは公共施設では?」
「そこでハマらないところがイイよね。で、考えてくれた?」
「何をです」
「一夜限りのお遊びについてに決まってるじゃん」

あっけらんと言う右京に佳音は一拍置いてからため息をついた。

「まさか、そのことについても共有しているとは思いませんでした」
「どういう意味、ソレ?」
「一人目は昨日の先輩。二人目は今日の先輩。本当の右京さんはどっちですか?」
「何をもって判断したの?」

隣にいた先輩は目を細めて質問には答えずに質問で返してきた。それについて佳音は彼の眼鏡を指さした。

「わずかではありますが、厚みが違っています。貴方の方が度数が高いですよね、それにタバコのメーカーも違います」

昨日彼がタバコを吸っているのを見た時にメーカーも覚えていたことが役立った。煙草をころころ変える人は少ないと指摘すれば、彼はびっくりしつつも、なぜか拍手をくれた。

「すっげー! 俺と右京を見分けたのって、家族や幼馴染以外じゃ君が初めてだ」
「名前からして兄弟がいるのかもとは思っていましたが、双子とはびっくりしています」
「ううん、三つ子。俺が一番上で、真ん中が妹で、一番下が右京なんで。あ、改めて、佐野左京さのさきょうね」
「えっと、佐野さんも大学生ですか?」
「いいや、俺は仕事をしているから大学生じゃない。でも、大学に籍はあるよ。あ、俺のことは左京でいいからね~」
「はぁ、それでいいのなら」
「というか、それでお願い。ぶっちゃけ、苗字の方がいろいろと面倒なんでね」

改めてよろしくと宣った左京にウンザリした佳音はとりあえずと口を開いた。

「えと、先輩に伝えていただけますか、いい加減平穏な日々に戻りたいから解放してくださいって」
「んー言うのは構わないけれど、多分無理だろうな~」
「何故ですか」
「それは今晩直接聞いたらいいと思うよ。はい、右京からの手紙」
「あの人はこうなることを予想していたと?」
「五分五分とは言っていたけれどね、じゃ、俺は仕事に戻るからごゆっくり~」

手をひらひらさせてまたねーと消えていった左京の後ろ姿が消えた時、ようやく手紙を開封した。そこに書いてあったのは、ホテルの名前と部屋番号に地図。
検索してみるとかなり有名なホテルだった。うわぁ、何コレ。そういえば、苗字が面倒とかなんとか言っていたっけ。ということはそれなりの家なんだ……と何度目になるかわからないため息をついた。時間が書いていないということは、何らかの都合で彼がここにいるということだろう。

佳音は面倒だと思いながらも、頭に過ぎったのは昨日の彼の言葉。

「はぁ、行きたくないけれど、行かなきゃまたいろいろありそうだもんね」

変なところで思い切りのいい佳音は立ち上がって、スマホで検索しつつ歩き出した。





「うわぁ、無駄にでかい。さすが海野ホテル!」

大学終わりの佳音はとりあえず地図を頼りにホテルへとたどり着いた。かなりの高級ホテルにちょっと引いたが、ここまで来たからには入るしかないと無理やり足を前へと動かした。
書いてあった部屋番号についてフロントに問い合わせるとなぜか部屋の前まで案内された。そこまで?と思ったらなるほど、最上階まで行くのかと納得したのと同時に、どんどん不安に襲われてきた。
案内してくれたお姉さんにお礼をいった後、ドアをノックする。すると、どうぞと声が聞こえてきた。恐る恐るドアを開けると、視界一面に夜景が見えた。

「うわ・・・・・・」
「すごいだろう?」

いきなりの声にびっくりして横を見ると、夜景を前にソファーにもたれている右京がいた。

「こんばんは、先輩」
「ああ、こんばんは。ここに来れたってことはあいつに会ったということか」
「左京さんですよね。はい、ほんとそっくりだなぁって」

佳音の声が途中で止まったのは、右京が驚いた表情でこちらを見つめてきたからだ。

「何故、左京の名前を?」
「え、あ、左京さんが苗字は面倒だからって」
「何それ。そういや、あいつも佳音って言っていたな。じゃあ、なんで俺には先輩呼びなわけ?」
「先輩は先輩ですから」

間を置かずにずばっと言い切ったのは条件反射と思いたい。だけれど、瞬時に目を細めた右京が立ち上がってこちらに向かってきたのを見た佳音はあれ?と冷や汗をかいた。もしかして私なにかしたか?と思いながらも少し後ずさりしたが、彼の両手に挟まれて、窓におしつけられる形になった。突然のことにびっくりして鞄を落としてしまったが、それを取ろうにも、右京に頬を撫でられては動けない。しかも、その声はやけに甘く、それでいて妖艶に聞こえるのだから自分の耳が腐ったのかおかしくなったのかと思うほど。

「佳音、何故俺がここに君を呼んだかわかる?」
「試したいって言っていたことを実行するためですよね」
「解ってるじゃないか。じゃあ、どうして逃げなかった?」
「終わらせたいからです」
「ーーは?」
「いい加減すっぱり終わって、平穏な日々を取り戻したいんですよね~って、いたっ!」

幸いにして、セックスが初めてなわけではないですしと佳音が口にしたとたん、右京は佳音の腕を窓へと押し付けていた。

「ほーんと、面白い。佳音はほんとに俺をイライラさせる天才だな」
「はっ、私が?なんで・・・あっ・・・ん・・」

皮肉った声が降ってきたと思ったら、顔が近づいてきて首筋に止まった。柔らかな髪と耳が視界に見えたとたん、首筋にちくっとした刺激を感じた。何をと声にするも、彼は声で反応しなかった。そのかわりに、佳音の首筋を舐め始めた。

「ちょ、ま、やめっ・・・・・・」

顎を掴まれて今度は激しいキスをされる。何を思ったのか、舌まで入れてきた右京にびっくりするも、息苦しくて声を出すことができない。
というか、今気づいたけれど、眼鏡かけていない・・・!やっぱ、だて眼鏡だった!とそんな思考が頭に過ぎるも、彼の舌が口の中を蹂躙し、手首をつかんでいた手がなぜか背中へと回った。その時、佳音は思いだした。今の服がワンピースであることを。空いた手で慌てて彼の胸を押し返そうとするが、それより彼の手が先にファスナーを下へとさげた。内心慌てふためいてると、ようやく彼がキスから解放してくれた。

「ほっんと、イラつく。だから前言撤回だ・・・一回でなんて終わらせてやらない」
「え、は?な?なん、で?」

いらつくというのなら、もう開放してほしいのに、彼はそれを許さないという。一体なんで?訳が分からない。混乱している佳音をよそに、ワンピースを剝いで抱き上げていく彼はなんて手慣れているんだろうか。下着姿で持ち上げられた佳音は真っ赤になりながらも彼に抗議した。

「やっ、どこに?」
「ベッドに決まってるでしょ?ああ、それともこの夜景の前でやりたいっていうならいいよ?」
「っ・・・ど、っちもや・・・・あっ!」

ドアをあけてすぐに目の前に広がる大きなベッドに放り出されたかと思うとすぐに覆いかぶさられた。片手でシャツを脱ぎ、ズボンを下していくその一方で佳音の身体を舐めたり撫でまわしたりと完全に右京のペースで進んでいく。・・・経験はあるものの、一人しか知らない佳音にとって、こんな風にされるのは初めてのことだった。

むかつく、いらつくと言い、荒々しく撫でてくるのに・・・キスだけは優しい。

ナニコレ。これがエッチだっていうのなら、自分の初体験のあれは一体何だというのか。
撫でながら肩にキスして、谷間にまでキスを始めた右京がブラのホックを外していることにも気づいていたけれど、何も声に出せなかった。だって、足を絡めてきて、ショーツまで外そうとしているのに抵抗するのに精いっぱいだったから。ホックが外れる音にびくっと身をすくませたその時、ショーツが引き下ろされるのが解った。

「あっ!」
「ああ、ピンク色で美味そうだな」

思わず普段でないような声が上がったのは、彼が乳首をくわえ込んできたから。身体が火照るのを感じながらも、佳音はさらに身体をすくませた。彼の片手が・・・いや、指が下の茂みの中へと滑り込んできたからだ。

「い、や・っ・・・・・・!」

ぐちゅりと指が入ってくる感覚に体をくねらせるしかない。気付けば自分の息遣いが荒くなっている。それでも絡みとられた身体は右京の口と手によって快感を与えられて、どんどん厭らしくなっていく。
どれくらい経ったかわからない。佳音は悶えながらも、ぎゅっと目と唇を閉じて快感の波が早く過ぎ去っていくことを願った。
だけれど、右京は無情にも佳音の足を掴んで大きく広げた。何をと思う間もなく、グショグショに濡れた谷間の奥から指を引き抜いた。感じていた快感と違和感が一気に亡くなったことにほっとしたのもつかの間、茂みに熱い熱が当てられていることに気付いた。
それが何かなんてもう考えるまでもない。

「佳音、恥ずかしがってないでこっちを見ろ」
「やぁ・・・・・」
「開けないとこのままだぞ」

足を広げられたままなんて嫌だと羞恥心にあおられながらも、佳音が恐る恐る目を開けると彼が汗びっしょりで見詰めてきているのが見えた。・・・そこで舌なめずりとかやめてもらえませんか。

「せん、ぱ・・・い・・・」
「上、見てみ?佳音のいやらしい身体が見えるでしょ?」
「なんで鏡があるんです?」

あられのない自分と右京の姿が天井に広がっていることに驚いた佳音はさっきまでの熱が噓のように真っ青になった。だが、右京がそれを見逃すはずがない。右京はなぜか指を口の中に含んでから、佳音の耳元で囁いた。

「ちゃんと入れるとこ、見ているんだよ」
「ま、って・・・っ・・・」
「待たない」

目を逸らしたら許さないと言い切った彼は唾を付けた指をぐっと茂みの奥へと入れて入り口を広げて勃起しているソレを宛がった。震える佳音は腰を引き寄せられたその瞬間、身体全体に力を入れるが、腰を引き寄せられては先端を飲み込むしかない。
押し寄せてくる快感と痛みに耐えられなかった佳音は喘ぎ声を出した。それが右京をさらに煽っていることにも気づかずに。奥が彼の熱でいっぱいになっていることにようやく気付いた佳音は汗いっぱいに喘ぐことしかできなかった。擦られたかと思うと奥へと突き刺さってくるソレも含めて、右京との性交はあまりにも気持ち良すぎた。

「やあっ。・・だめぇ・・・・・ああん、あっ・・・や、だ・・・!」
「そんなこと言ってるけれど、身体の方は凄く素直だな。こんなにも絡みついてびしょびしょになって、俺を離してくれない」
「ちがっ・・・んっん・・・!」
「初めてじゃない割には、経験に慣れていないようだが?」

意地悪なことを言う右京だが、根本まで埋めているソレを少し引き抜こうとしている。はぁはぁと息を切らせながらも、佳音はぼんやりとした頭で頷いた。

「だ、って・・・こんな、あまく、ない・・・はげし、くて、それで、あまいの・・・はじめてっ・・・」
「へぇ。元カレとはどういう?」
「・・・・痛い、だけだった。入れてきても、快感なんてなかなかなくて・・・・」
「なるほどな。佳音、その元カレに今度会う機会があったら伝えてやれ」

右京がそう口にしたとたん、佳音は下半身がさらに熱を持ったのを実感した。右京は引き抜こうとしたんじゃない。滑りをよくしてさらに奥へ入れるためだったのだと気付いた時には、もう何も考えられなくなっていた。ただ、彼がさらに言葉を重ねながらキスしてきたことは覚えている。



「『お前のセックスはへたくそだ』とな・・・まぁ、会わせる気などないが」





その言葉を最後に、佳音は倦怠感と眠気に負けてシーツに身を投げ出した。





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