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ありえない店員さんとの出会い
しおりを挟む「・・・・・どうしようかな。」
ゲームソフトと睨みっこしながら悩んでいると、傍らで商品を並べていた店員がボソッと呟いた。
「ソレ、ゲームレビューでは☆3の評価だぜ。つまらなくなくはない。かといって、面白いというほどでもない。だから、俺としてはあまりお勧めしないな。」
店員の声が聞こえてたとたん、伸ばしていた手を引っ込めると、ククッと笑い声が聞こえてきた。思わず、横を見やると、黒縁眼鏡をかけた大学生ぐらいの年齢であろう細身の男性が笑っているのが目に入った。髪の色が黒いからといって真面目だとは限らない。
(ぱっと見、癖がありそうな人・・・・って、なんで私が笑われなきゃいけないの!?)
そんなことを考えつつ、何故笑われないといけないのかと顔を真っ赤にさせながら睨めば、はにかんだ笑顔を見せてきた。
「・・・何故笑われているのかわからないんですが。」
「くくっ・・・悪い悪い。」
「絶対悪いと思っていないですよね、わかります。」
ちらっと名札に目を向けると、『佐野』という名前が書かれていた。うちの会社と同じで『さの』と読むのかな?と考えていると、店員がソフトを差し出してきた。
「笑ったお詫びと言っては何だけれど、俺のおススメ。そのゲームより、こっちのゲームの方が楽しめるから、ロールプレ好きな君には良いと思うよ?」
「何故わかるんですか?」
「常連さんの好みぐらい把握してるって~。」
特に君の場合はほぼ毎日来てくれてるしね。と付け加えられ、遙は何も言えなかった。眉間に皺を寄せながらも、店員が差し出してきたソフトを確認する。裏面のあらすじを見ただけだが、確かに遙好みではある。中古だから値段もそう高くないなと思いつつ、ソフトを持ってレジへと向かおうと踵を返した。店員がついてきているのは、レジ打ちのためだろう。
レジにまわった店員にソフトを差し出し、代金を支払うと、店員がおつりやレシートと一緒にメモを差し出してきた。それにきょとんとしていると、店員が忘れていたというように口を開いた。
「え、何ですか、この番号とアドレスは?」
「俺の電話番号とメアド。あ、俺の名前は佐野嵐。そこに連絡くれると嬉しいな、苑宮遙サン。」
・・・何故名前を知っているのかという疑問は一緒に返されたポイントカードで即座に解消された。遙は律儀にも、ポイントカードの裏側にフルネームで名前を書き込んでいたのだ。
名前を知られていたことに悔しさを覚えながらも、表情には出さなかった。
その代り、遙は嵐の前にメモを開いて見せた。それに今度は嵐の方が首を傾げて見せた。一体何をと思う間もなく、遙は嵐の目の前でメモを破る。慌てふためく嵐を見て溜飲が下がったのか、遙は満足そうな笑顔で店を出て行った。
「ああっ!!」
「あいにくと、こういうナンパは受け付けてないんですよ、それでは。」
家に帰った遙はさっそくとばかりに、ジャージ姿に着替えて勧められたゲームを起動させた。
「・・・ナニコレ、普通に面白いじゃないの。」
悔しいけれど!と呟きながらストーリーを進めていく。大きなテレビに映し出されるキャラクターも可愛いし、設定もなかなか凝っている上に操作もしやすい。
(…これを勧めてきたのがあの男というのが癪だけれど!!!)
結局この日はこのゲームに没頭し、夜遅くまで遊んでいた。
次の日の朝、寝不足であるものの、遙は会社へと出勤していた。眠さからくるあくびを抑えていると、同僚が話しかけてきた。
「あんた、また遅くまでゲームやってたの?オンナとしてそれはどうかと思うわよ?」
「朋美・・・別にいいじゃん~私の趣味だし。」
「もー相変わらず、色気のイもないんだから。肌だってあまり外に出ないから色白だし、髪もちょうロングだからもうちょっと飾ればめっちゃ綺麗になるのにもったいない。必要以上に化粧すらしないし、彼も作ろうとしないし・・・遙は絶対損してるよ!」
「だって、興味ないんだもん。彼やオシャレに気を遣うぐらいなら、ゲームのためにお金貯めたい。」
そんな可愛げのない会話をしていると、近くにいた2,3人の女性社員がクスッと笑いながら囁き合っていた。
「クスクス・・・聞いた?あの子達、彼を作らないんじゃなくてできないだけでしょうに。」
「それ言っちゃ悪いわよ。だって、自信がないからああいっているんじゃない~。」
「そうそう、あたしたちの方がよっぼどリア充だし、けっこーモテてるわよねぇ。」
「そうだ、あの子達に紹介しない?・・・おこぼれだからおっさんしか残ってないけれどぉ。」
「きゃはは、酷いよ、あんたら。」
(どう聞いても酷いとは思ってないくせに。それに、厚化粧、香水くさい、お局様体質ってことでどちらかというと・・・・だよね。まぁ、私も人のこと言えないぐらいモテないけれどさ。)
なんにせよ、あからさまにこっちを見て言って大声で言っているんだから、もはや囁きとはいわないだろうなと遙はため息をついた。
朋美の方は怒り狂って立ちあがろうとしていたが、遙が押し止めた。こんなことで言い争うのも馬鹿らしいからというどう聞いてもめんどくさいといわんばかりの理由で。言いにいくのを諦めたものの、怒りが収まらないのか愚痴り続けている朋美を無視した遙はさっさと作業を開始した。
そしてこの日の夜は、いつものお店ではなく、ショッピングモールへと直行した。理由は夕飯のための買い物ということもあるが、いわずとしれたあの店員と会わないようにするために決まっている。なのに・・・
「なんでここにいるんですかね、あなたは。」
「たまにはと思ってココに来てみれば大正解。まさか、昨日の今日で会えるとはラッキー。」
やっぱ日ごろの行いがいいんだなーと呟いたこの男はエプロンこそはつけてないものの、あの時の店員・・・佐野嵐だった。プライベートということもあるのだろう、ざっぱくらんな服装をしていた。ちなみに遙は会社の帰りなので、会社の制服のままだ。げっそりとしていた遙に思い出したように話しかける嵐の顔は超イイ笑顔だった。
「ところで、昨日勧めたゲームはどうだった?」
「・・・悔しいですが面白かったです。」
「おおーそりゃよかった。俺もアレはシリーズでやりこんでるからそう言ってもらえて嬉しい。」
「ああ、だからゲームに詳しいんですね・・・・。」
納得ですと言いながらも、遙は嵐から少しずつ距離を取って離れだした。しかし、嵐も気づいているのだろう、少しずつ間を詰めつつ、話しかけている。
「逃げるなんてひでぇな。こっちはずっと付き合えるチャンスを窺っていたのに。」
「・・・・・どういう意味ですか?」
「いやー俺的には、あんなふうに百面相しながらソフトとにらみ合いっこするの、面白くてずっと見てた。こんな子と家庭を作ったら絶対にぎやかで楽しいだろうなって・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
聞いた自分が馬鹿だったと言わんばかりの表情で遙は即座に嵐の前から消えようとした。もちろん、嵐の話など最後まで聞く気はない。が、嵐が慌てて立ちふさがった。眉間に深い皺を寄せながら遙は低い声で嵐に文句を言うことにした。
「絶対私のことを馬鹿にしてますよね?」
「してないしてない。マジで表情豊かで可愛いなって思ってたんだから。こんな子とゲームを一緒に楽しめたらなとかいろいろ妄想しながらとずっと観察してたんだぞ!!」
「・・・・そんな褒められ方、ちっとも嬉しくないです。」
「とりあえず、一緒にゲームしてみようぜ?なっ?」
「・・・・・・・・。」
「確かクレーンゲームも好きだったよな、はる・・・ゴホン、そ、苑宮さん、二階でやってみない?君の好きなキャラのぬいぐるみとかあるし。」
「・・・・だから本当に何故私の動向ばっかり見ているんですか!!」
一歩間違えればストーカーですよ!と叫んだ遙は悪くないと思う。まぁまぁと興奮した遙を宥めつつ、ゲームセンターの方へと肩を押していった嵐は意外に強引だ。
最初こそは不機嫌だったものの、好きなキャラクターを前にした遙は目をキラキラさせるまでに表情を取り戻し、嵐が慎重に動かしているクレーンの先をじっと見つめていた。
「もう少しッ・・・!」
遙のつぶやきと同時に有名な某茶クマのぬいぐるみが出口へと落ちてきた。ようやく緊張を解いた嵐はそのぬいぐるみを遙へと渡した。迷いを見せつつも、大好きなキャラクターとあって欲求には勝てなかったのだろう、ぼそりとお礼を言ってから受け取り、笑顔を見せた。
その笑顔を見た嵐が胸を抑えつつ照れているのは、遙のかわいさに悶えていたからだということに当の遙本人は気づいていない。
次のゲームは何を・・・と歩き出したとき、嵐は財布に細かいお金がないことに気づき、遙に両替してくると言い残して両替機のある受付の方へ向かって消えた。
それを見送った遙はぬいぐるみを抱えて近くの椅子に座った。すると、見知った三人組とばったり出会ってしまった。あの遙と朋美の会話を聞いてバカにしあっていた人達である。
「あれ・・・やだ、苑宮じゃん。何、そのぬいぐるみ。」
「うわっ、いい年してぬいぐるみ?もしかしてイマドキのオタクとか?やだ、キモーい。」
「そんなんだから、女子力皆無で彼氏できないのよーもうちょっと磨きなさいな。」
ショッピングで散財していたのだろう、大量の紙袋を見せつけつつ、嫌味で盛り上がっている三人組を前に遙は深いため息をついた。こういう人達に対しては言い返すより黙っていた方が被る迷惑も少なかろうと遙は何も言い返さず黙っていた。それに調子づいたのか、リーダーらしい1人が遙の持っていたぬいぐるみを引っ張った。それに慌てた遙だが、他の2人に足止めされてしまった。
「ふーん、よくみればなかなかじゃない。こんなんでも売れるかもしれないわね。あたし達が打ってきてあげるわ。もちろん、売れたお金は手数料がわりにもらうわよ。」
「・・・・・返してください。ソレは貴方たちが手にしていいモノじゃない。」
「あら、生意気にも睨みつけてくるのね。気に入らないわ・・・なによ、こんなもの。」
そういいながらリーダーはぬいぐるみを地面に落とし、ヒールで踏みつけた。
しかもぐりぐりと深めに。そこまでやればぬいぐるみに穴が開くのも当然で。思わず2人を振り切った遙はボロボロになってしまったぬいぐるみを拾った。悔しさで歯ぎしりしている遙を見下ろした3人が笑っていたその時、嵐が戻ってきた。だがその表情は険しく、眉間に皺を寄せている。座り込んでいた遙に近寄って立たせた嵐は3人組に振り返った。3人組はというといきなり出てきたイケメンにテンション高く先ほどまでのことなどなかったようにキャーッと騒いでいた。
「・・・・なー、あんたら、よくこんな酷いことできるな?」
「やだ、かっこいいじゃん。ねーあたしと遊ばない?」
「ちょっと抜け駆けよ。それより私といいことしましょ、可愛がってあげるわ。」
「そこにいるダサい子なんかより私達と一緒の方が絶対いいって。」
冷たい視線をものともせずべたべたと触ってきたり話しかけてくる3人組にイラっとしたのか、嵐は何かを考えた後、名前は?と静かな声で聞き始めた。果然盛り上がった3人組は我とばかりに自ら名前を紹介し出した。遙はというと、穴の開いたぬいぐるみを見て落ち込んでいた。名前を聞き終えた嵐は遙の肩を抱きしめながらスマホを取り出した。
「苑宮さん、悪いけどちょっと待ってて。」
「う、うん・・・?」
遙は不安そうな顔をしていたが、嵐の言い方からして何かあるのだろうと黙っていた。いきなり通話し出した嵐を3人組も怪訝そうな顔で見つめていたが、聞こえてくる会話に表情が変わった。
「・・・うん、俺。あのさ、今すぐ調べてほしい馬鹿3人組がいてさ。いや、佐野の会社で働いてるからすぐに解るよ。森本あかり、鹿野恵、小島良子の3人なんだけれど。」
「なっ・・・・!!!」
「あ、もう解った?随分早かったね?え、評判が悪いからブラックリストに入ってた?ああ、確かに見るからに性格も悪そう。なぁ、そいつらを理由をつけて処分とかできないかな?」
「ちょっと、あんた何様なのよっ!!」
逆上した1人が嵐からスマホを取り上げて相手へと文句を言おうとしたその時、みるみる顔が真っ青になった。それを面白そうに見ている嵐と唖然と見ていた遙。そして不安そうな顔になった2人が見守っていた。
「ちょっと、一体誰なのよ、あたしらを調べるだなんて・・えっ・・・う、嘘・・!?」
「どうしたのよ、あかり?」
「・・・そんな・・っ・・・・ちょっと、あんた・・・一体何者なのよっ・・社長と電話できるなんてありえない!」
「社長・・って、あたしたちの会社の?!ちょっと、嘘でしょ!!」
「・・・っ・・・嘘じゃないみたい。あたし達の部署まで言ってたから・・・多分マジ。」
マジでやばくない?と顔色を一斉に失う3人組に先ほどまでの盛り上がりはなく、嵐の方を恐れて見ていた。震えていたあかりからスマホを取り戻した嵐は再びスマホに話しかけた後、ポケットへと戻した。
「とりあえず、苑宮さんに謝るなら今のうちだよ?」
「・・・っ・・・わ、悪かったわ。い、行くわよ、あんた達。これ以上関わったらマジでヤバいし。」
悔しそうに謝ってから逃げ去った3人組の後ろを呆然と見送っていた遙はやっと我に返ったのか、嵐の方を見て口を開いた。
「あの・・・うちの社長と・・・知り合いなんですか?」
「うん、俺の父の兄貴。つまり、俺にとっては伯父さんにあたる人だね。」
「・・・・・名前が会社名と同じだったのは偶然じゃなかったんですね。」
「苑宮さんの制服を見て伯父さんの会社だってわかったから打てた手だったけれど。とりあえずあの3人組もこれでしばらくは大人しくなるんじゃないかな。あ、そのぬいぐるみ・・・とりあえず直せるかどうか確認してみるからしばらく貸して?」
疲れたように話す嵐に頷いてぬいぐるみを渡すが、手を離せない。どうしたの?と聞いてくる嵐を見上げた遙はためらった後、ボソッと呟いた。小さな声ではあるが、聞こえたのだろう、嵐が嬉しそうに笑った
「・・・助けてくれてありがとう。それに、ぬいぐるみも。」
「ん、どういたしまして。あのさ、ちょっとつけ込むようで悪いんだけれど、敢えていいかな?」
「何ですか?」
「このぬいぐるみを渡すためにも連絡先を聞いていい?」
少し黙った後、遙はしょうがないですねと呟いて鞄からメモを取り出して書き始めた。嵐はそれを嬉しそうに受け取った。
「・・・こちらが私のアドレスです。」
「ありがと。」
「それから、この肩にかけている手を外してください。」
「あ、ばれた?」
「当然です。」
しょうがないなーと遙の肩から手を外した嵐だが笑ったままだ。3人組のせいで少々雰囲気は悪くなったものの、落ち着いた2人は気を取り直して少しゲームを楽しんだ後、解散した。
次の日、遙は帰りにあったことを朋美に報告した。あの3人組がやったことも、嵐が社長に電話して撃退してくれたことも全部話したら、朋美はなるほどねーと頷きながら聞いていた。
「・・・ってことがあってね。びっくりしたわ。」
「ああ、道理であの3人が静かなはずね。今もこっちを見てびくびくしているし。」
「そうなのよね。それにしてもゲーム店の店員がまさかの社長の甥だなんて考えられないからびっくりしたわ。」
「えっ・・・社長の甥ですって?ちょっと待って、どっかで・・・・あった!!」
名前を聞いて慌てた朋美がいきなり机の引き出しから社報を取り出して広げている。何かを確認したように慌てて遙に差し出した。
「これ、これだわ。ほら、会社が発行した1月の社報なんだけれど、佐野カンパニー本社の社長の挨拶のところに家族写真があるの。ほら、ここ!」
朋美が指さした写真を見てみると、その写真には嵐が写っていた。しかし、驚きはそれだけではない。続けて言われた朋美の話を聞いた遙は確然としない様子で固まった。
「これ、彼だわ・・・間違いない。」
「やっぱりね。・・・あのね、社長の甥といえば、佐野カンパニー本社の社長の息子しかいないの。
今の社長はね、本当は佐野家の跡取りだったんですって。でも、いろいろあって婿養子にいったから一番下の弟である輪さんという人が跡を継いだって聞いたわ。」
「その人が・・・この中央に写っている佐野カンパニーを束ねてる社長さんなの?」
「そうよ、そしてその社長の息子が、この写真に写っている嵐っていう人なのよ!」
「なんでそんなすごい人の息子がゲーム店で働いてんのよ・・・・。」
「しらないわよ。あ・・・でも、噂で社長夫人が珈琲専門のカフェを経営しているって聞いたことあるわ。意外に庶民的な生活なのかしら。」
朋美の話を聞きながら、遙は固まった頭と体を動かそうと必死に冷静さを取り戻しつつ、釈然としないまま仕事へ取り組んだ。
「いらっしゃいませ・・・って、そ、苑宮さん・・・なんでそんな険しい顔を?」
「・・・どうしてゲーム店で働いてるんですか?」
入り口から真っすぐに近寄ってきた遙の険しい顔から悟ったのか、座って作業していた嵐はため息をついた。作業している嵐の側に座り込んだ遙は、嵐の説明に聞き入っていた。
「あ―その様子だとバレたみたいだな。なんで・・って、ゲームが好きだからに決まってるじゃん。後は社会勉強も兼ねてってこともあるかな。」
「・・・・私が社員だってわかっていたから近づいたんですか?」
「それは違う。そもそも、最初に苑宮さんを見た時は着ぐるみ姿だったし。ほら、あのぬいぐるみと同じやつの。嬉しそうに鼻歌歌ってゆらゆらと身体を揺らして踊ってて、形のいいお尻や尻尾も一緒に揺れてるのに目がいったワケ。で、顔も見えた時、あ、可愛いなって。その時から俺の観察がはじまった。」
突拍子もないことを言い出した嵐の頭を鞄で叩いた遙だったが、それぐらいは許されるだろう。自分の恥をまさかみられていたとは思っていなかったのだから。
「・・・・ぎゃーーーそ、そんな、だ、誰も見ていないって思ってたのに!それにお尻を眺めて・・・・って変態っ!!」
赤面しながらぜぇぜぇと息を切らせた遙はしどろもどろになりながらも、嵐を罵った。しかし、嵐は叩かれた後頭部をなでながらも動じた様子もなく、平然と言い切った。
「男の性でつい見入ったんだよ。で、それをきっかけに観察を続けている内に百面相が面白くなって・・・あとはもう前に言った通りだな。」
「・・・うう・・・・恥ずかしい・・・もうここには来れない・・・。」
遙は項垂れながら蹲る。羞恥心がよほどすごいのだろう、ロングの黒髪が揺れてその合間に小さく見える耳まで真っ赤に染まっていた。
「うーもうやだ・・・・帰ろう。」
「・・・・・ちょっと待って。」
「何ですか・・・もう私のライフポイントはゼロで・・・わっ、な、何!?」
作業を一通り終えた嵐は胡坐姿のまま振り向き、立ち上がろうとした遙の腕を引っ張った。その拍子に遙の身体が崩れ、胡坐を組んでいた嵐の胸へと倒れこんだ。それに慌てて離れようとした遙だが、嵐にキスされてしまう。思わず固まってしまった遙だが、嵐の唇から伝わる熱は止む気配がない。ようやくキスが止まった時には遙の目も唇も濡れていた。当の嵐はやはり平然と遙を抱え込んだまま胡坐をかいている。
「あまりうるさいと他の客が見にくるから静かに。」
「・・・・ほんっとうに最低!!」
「お買い得だと思うから、俺と付き合ってよ。ゲームの趣味は合うし、ほら、ゲームでも体験版あるっしょ。あれと同じで試しでいいからさ。」
ぎゅっと後ろから抱きしめてくる嵐に遙はせめての抵抗とばかりに皮肉を口にした。だが、嵐はいつもの笑顔を止め、目を細めて不敵な笑みを見せた。
「・・・体験版と同じでって・・・よほど自信ないんですね?」
「あはは・・・むしろ、逆。だって、俺、遙をオトす自信あるから。何しろ、俺の家の家訓は“本気で惚れた奴はなんとしても全力で落とせ”だからさ。」
彼の笑みを見た時、遙は心の中で思った。もしかして、自分はとんでもない人間と出会ったのでは・・・と。(それ、正解です、遙さん。)
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