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番外編

ザンとアリア出会い編③(ザン目線)

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彼女の髪は長くて真っ黒だ。
俺の紫の目と同じぐらい・・・いや、それ以上にかなり深い黒。漆黒と言い換えても良い。


腰まである髪を触ると、さらさらですぐに手のひらから滑り落ちた。思わず、この国のシャンプーはダメだと思ったぐらいだ。
粘々ネバネバとべとつくあのえぐみのあるヤツは香油でも使わなければさらさらにならない。
シャラに命じて、シャンプーを避けてもらったのは正解だと思う。


「・・・第二王子?」


朝いちばんに渡すべき書類があったので、アリアの部屋に向かうと、彼女はドレッサーの前に座っていた。丁度、髪の毛を結ぼうとしていたところらしい。
彼女は髪の毛を下ろす時が多いが、気まぐれに結ぶことがあるようだ。

「・・・結わえるつもりか?」
「あ、はい。今日は暑いので三つ編みにしてまとめようかと。」

アリアはそういいながら髪の毛を持ち上げようとしていた。その動きを止めて櫛を持つと、鏡越しに彼女が驚いてるのが見えた。

「え・・・?」
「みつあみぐらいなら俺にもできるぞ。」
「王子なのに?」
「・・・お前の中の王子とは一体どういうイメージなんだ?そもそも、俺は自分の身の回りのことは自分で全部やるぞ。」

櫛で解かしながら返事をすると、アリアが納得した様子で頷いていた。目の前にあるうなじが綺麗で吸い付くように目がいってしまう。どうしてかはわからなかったが、理性で抑え込める範囲だったのでスルーした。

アリアが納得したのは、俺の髪もまた長いということを思い出したのだろう。
今も後ろで一本にたばねているし。
暑苦しいが、忙しくてなかなか切る余裕がないから放置している。

「そういえば、第二王子の髪の毛も長いですもんね。てっきり女性相手にかと思ってしまいました。」
「女にやったのはお前が初めてだ。良かったな、貴重な体験ができたぞ。」
「・・・王子様って柄じゃないのでなんだか貴重には思えません。」
「お前もはっきり言うな。」

アリアのあけすけな返事にくつくつ笑っていると、アリアの眉間にしわが寄っているのが見えた。
その間にも、髪の毛をするすると三つ編みにしていく。腰まである上に一本一本が細いからかなり長い。手指に絡む髪の毛がなかなかに良い。

途中で入ってきたシャラが啞然としているのが見えたが放置だ。

「アリア様、髪飾りを持って・・・・・え?」
「・・・さっさともってこい。」
「あっ、こ、こちらに。」

幼馴染兼侍女のシャラをせかすと、慌てたようにトレイにのせた髪飾りを差し出してきた。

「アリア、どれでもいいのか?」
「あ、うん。特にこだわりはないよ。」

彩りある飾りの中から、紫色の宝石がついた髪飾りをとって三つ編みをまとめた。パチンと音がしたのと同時に、アリアが髪飾りをじっと見ていた。

「これでいい。」
「あ、うん、ありがとう・・・上手だね。」
「楽しかった。またやらせろよ。」

純粋に会話しながら髪の毛をいじるのは楽しい。これはなかなかに経験がないだけに良い機会だと思った。アリアは目を丸くしたが、すぐに頷いてくれた。


「あ、ああ、うん・・・たまには喧嘩しない時間も必要だよね。」


(いや、それは特許やアイデアの見解の違いについての口論が過ぎるせいでもあるんだが。)


少なくとも、お互いの口調に慣れた今、最初の棘がある喧嘩腰な会話はなくなった。それだけでも十分進歩だと思うが。


そもそも・・・


彼女は聖女ということもあり、俺のそばにいても問題ない。


(普通なら、絶対に・・・傍に置けない。なのに、こいつだけは傍における。ある意味、聖女であることが役立っているといえるか。あとははっきりとした性格も関係あるのかもな。)


「まぁ、そうだな。だから、毎日やるぞ。」
「え?」

驚いた彼女に書類を渡すことを思い出して、顔面に押し付ける。
柔らかい音と同時に彼女がむーと睨みつけてくるが、そんなものが効くも・・・・・ああ、うん、平凡でも上目遣いっつーのは凶器になることがよく分かった。とりあえず、見なかったことにする。

「シャラ、後は勝手にしろ。それから髪飾りが少なすぎる。もう少し増やせ。」
「あ、はい・・・!」
「ふへ?」
「俺は仕事に向かう。お前はその書類をととっと直せ。」
「うがぁあああっ!!!いきなりきて、髪を結わえたかと思うと、急にサドになるとかっ!!振り回すなぁあああっ!!」

ぎゃあぎゃあ喚く声をよそに自室へ戻る。
扉を閉めた後、あいつが言っていたサドとはいったい何だろうかと考え込んでいたら、ポトスの恨みがましい目と目が合ってしまった。そっと目をそらしたが、説教は回避できなかった。

「ザン様・・・・あれほど、お願い申し上げましたのに!!!会議はすでに始まっております。早く準備をなさってください!!!」
「あーはいはい。」
「そもそも、貴方がアリア様のところへ行くとは・・・」
「明日からも毎日行く。スケジュールに組み込んでおけ。それから・・・女の髪型の流行についても調べてこい。アリアの髪結いの参考にする。必要ならシャラも使え。」
「はああ・・ってはいっ?ま、毎日!?髪結い?」

ポトスの驚きをよそにさっさと会議に向かうことにした。資料などなくとも頭に入っているから問題ない。ポトスは優秀だ。なんだかんだ言ってすぐにスケジュールに組み込んでくれるだろう。


「・・・退屈な日常だったが、アリアが来てからは新発見ばかりだな。」


(そもそも、俺が髪を結いたいとか、過去の自分が見たら絶対に鼻で笑うだろうに。)


この日以来、ずっとアリアの髪を結っている。


「あれ、この髪飾りみたことがない。」
「買ったばかりだからな。」
「へぇ、綺麗だね・・・でも、なんだか紺や紫が多くない?」
「明るい色はお前が一人の時に選べ。」
「そこまでこだわりはないから別にいいんだけれど・・・服も自然にこれに合わせる形になるんだよね。」
「・・・・そうか。検討する。」
「いや、もう髪飾りはお腹いっぱいだからいらない。」


時折会話も弾んで、仕事が遅れそうになることもあった。ポトスがさらに早起きを求めてくるようになったが、朝からトレーニングしている自分にはなんら問題はなかった。ポトスはやっぱり恨みがましい視線だったが、アリアが気付いていなければ問題ないので放置。


「団子頭にできる?」
「・・・どうやるんだ?」
「これはね、こうして・・・こう、そう。こんな感じで。」
「ほどけ。俺がやる。」
「意外に負けず嫌いなんだね・・・」
「俺にできないことなどないからな。」
「ああ、うん・・・でも髪結い如きでそんなむきになら・・・いたい、いたい!」
「黙って前を向け。」


次第にそれが当たり前の日常になり、お互いにとめることもなくずっと続いていた。



そう、アリアが突然行方不明になったあの日まで。







※次々回で終わりです。
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