【R18】第二王子と妃の夫婦事情

巴月のん

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番外編

番外編)ラティスの下手な偵察(後編)

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*第二王子と妃の夫婦事情






ラティスはぐったりと机に伏して口から魂を吐いていた。

「ご苦労。これですべて終わりだ」
「へいっスぅううううう~」

ザンが書類を整える音を聞きながら、ふと思い出した。アリア様から頼まれていたことを偵察しなければならないと。すっかり手伝いに集中してしまっていたと慌てて起き上がった。

「ザン様!」
「あっ、ああ、なんだ?トイレならあっち」
「違うっス、あの、アリア様のた・・・・・・」

直球で聞こうとしたとき、アリア様から私が命じたことは黙っているようにと言われたことを思い出す。
あ、これは言えない。思わず途中で止めて無言になった。ラティスの一喜一憂を見て不気味に思ったのか、ザンが珍しく恐る恐る声をかけた。

「アリアがどうかしたか?」
「あーえーと、その、アリア様の誕生日をご存知で?」
「……唐突だな、随分と。まぁ、知っているさ、あれの誕生日ぐらいは」
「えっと、いつっスか?」
「5月5日だ。そういえば、アリアの世界では子どもの健康を願って魚を空に浮かべる日だとか聞いたことがある」

なんとも不思議な風習だなと思う。自分もアリア様から日本という異世界のことをたまに聞いているが、この世界と違って魔法も使えないし、精霊もいないという。当然魔力などコントロールできないと。それは自分にとっては想像つかない世界で……アリア様のように突然そこに放り込まれたらきっと何もできないだろう。
そう思うと、自然とアリア様に対して、気配りしなければと気が張る。お陰で、友人や周りから「お前はあきれるほど聖女至上主義だな」とまでいわれるほどになった。そういうつもりはないけれど、アリア様の護衛が俺の仕事だし。ま、ザン様からダメだしされたわけでもないから別に気にしないっスけれど。

「へぇ、そうなんスね」

頷いていると、すでにザンは書類をしまい、お茶を飲んで寛いでいた。慌てて、任務に戻ろうとすると待てと声がかかる。

「で、何故そんなことをいきなり聞いた?」
「あ、きっかけはなんだったのかと」
「きっかけ?」
「あ。えーと、その、誕生日をどうやって知ったのかと。その、あれだ、前にシャラさんから、最初はそんなに仲良くなかったって聞いたんで」
「ああ……確かに」

過去を思い出したのか、遠い目になったザンにラティスは目を丸くした。この人がこういう表情をするのは本当に珍しいから。

「ど、どうかしましたか」
「いや。いろいろと思いだしてな。……誕生日はたまたま知ったんだ」

ザンの声に思わず食いついたラティスはずいっとザンの傍へと近寄った。

「いや、それはどうやって?」
「やけに食いつくな……近い、近いから離れろ!」

手のひらで顔を覆われ、ぎゅっと掴まれて痛い。が、それどころじゃない。ラティスは必死に何故―なぜーと何度も質問を繰り返した。根気強さに折れたのか、ザンが話し始めるが、ラティスの顔を覆う手はそのままだ。ちょ、待って。息苦しぃいいいいい!!

「ちょ、こ、ごのぁああああ」
「黙れ。でないと喋らんぞ」

ピタッ

「俺の誕生日が終わってから、少々……気まずいことがあってな。機嫌を取るために兄上夫婦に相談した時に誕生日を知った。日にちが近ければプレゼントの理由にでもなるかと思ったが、先だったからこれはまた近くなったら考えようってことで一時保留にしたがな」
「んーーーーーーー?(じゃ、誕生日プレゼントとかあげたんスね!)」
「あ~あげたというか、なんというか。あれに何がいいと聞いたら仕事が欲しいと言ってな。まぁ、それだけじゃなんだから一応花束とお菓子も用意したが」
「ふ~~ん~が~~?(もしかしてアリア様の今やってる仕事がそうっスか?)」
「そうだ…‥‥というか、中途半端にしゃべるな。唾が汚い」

しかめ面ながらもようやく手を離してくれたことで呼吸ができるようになった。ああ、息ができるって素晴らしい。
が、汚いからって、俺の一張羅の袖で拭わんでください。
いやそれよりも、俺は凄く感心しました。

「ってか、よく汲み取ってくださいましたね、俺の言いたいこと」

全く言葉になってなかったのにと驚くと、なぜかそっと目を逸らしながら顔に出るからなと言われた。……ん?なんかおかしいような。

首を傾げていると、もう時間だから出て行けと言われる。確かに目的は達成したので、後はアリア様に報告するだけだ。気を取り直して、了解と敬礼してさっさと廊下へと出た。直前に後ろでため息が聞こえたけれど、一体どういう意味なんだろうか。
気になるが、今は報告を優先だ。きっとアリア様がソワソワとしながら待っているだろうから急がなければ。

「……ま、いいっスか」

部屋に戻ると、アリアがシャラと一緒におやつを食べていた。せっかくだからとご相伴にあずかる。ラッキーとケーキを頬張りながら、偵察もどきの成果を報告。

「……ってことでした」
「はぁ、そっか、あの頃に知ったのね。それは気付かないはずだわ」
「俺は仕事をほしいって言ったことにびっくりしました。なんでっスか?」
「あ~当時はね、一緒にこの世界に来たユナと一緒に聖女としての役目について勉強していたの。で、その時に私達の生活費は税金で賄われるって聞いてびっくりしたのよ。皇族でさえ働いてるって聞いたのに聖女は祈りを捧げて何かあったときだけ出てくるだけなのよ。それが本当に納得いかなかったのよね~」

この国ではなぜか聖女に対して手厚い待遇で保護している。それこそ他国の聖女が羨ましがるぐらいに。
前に父にその理由を聞いたが、なぜかいきなりクローゼットに閉じこもって「今はまだ言えん」と鬱陶しいほど繰り返し震える声で返された。その時、タブー扱いになっていると悟ったのでそれ以来聞いていないが……なんだか嫌な予感がする。(後にその予感は当たることになった)
それはともかく、アリア様はそれが厚遇過ぎて納得いかなかったと。

「で、ワンダーギフト担当と開発に力を入れるようになった訳っスね」
「そういうことね」
「確か、仕事で生活費は大丈夫だからって、税金を奨学金とか学校の運営費に回してくれと提案もしたんスよね? ミーモから聞いてびっくりしました」

ミモはお偉いさんの会議の議事録を記録する文官。幼馴染ということもあって、会う時よくしゃべる。その時にアリア様の話が出るのは自分が護衛ということもあって共通話題になっているためだ。

「あ~うん、有効活用してもらうほうがいいし。正直、ザンと結婚した今では、将来の心配もあまりいらないみたいだし」
「……あ、なるほど。兵士時代に節約!と言っていたのは老後のためだったんスね」

ようやくあの時にアリア様が血走った目で必死に魔獣狩りしていた理由を悟った。あれは衝撃的だったっス。俺が連れてきた獣人の仲間に対して、食べものを提供してくれるの?と涎を垂らしながらフォークを向けていたのを見た時はドンヒキした。(ちなみに仲間はダッシュで逃げていた)

「あの時は切実だったのよ。まぁそれも三カ月ほどでおわったけれどね」
「そら、そうでしょう。ザン様はその間も探していたらしいっスから」

なかなか見つからなかった原因が自分の父親だと知っているラティスは内心で父親を罵倒していた。結果オーライとはいえ、何があったらとてもじゃないがあたり一面血の海に代わっていたと断言できる。……もちろんザン様の怒りで。

(ああ、ほっんとうに良かった。一族が滅びることなく無事で)

万が一の時は父親をヤッて自分もと思ったぐらいだが、これが結果的に昇進のきっかけになるのだから、本当に何が起こるかわからない。

「で、ザン様への誕生日プレゼントは何に決めたんで?」

もう決まっているだろうと本当にそう思ったラティスは、突然固まったアリアにぎょっとした。

「ど、どうしたんスか」
「うう~まだ決められないの。どうしよう」

一瞬にして表情を変えたアリアはお皿を机に置きながら項垂れた。

「うう……」
「だ、大丈夫、まだ時間はあるっスから!」

ラティスはなんとかアリアを励まそうと近寄る。が、間の悪いことに扉が開く。そしてそこにはシャラとその後ろにザンが。

「あら、ラティス。何故アリア様が涙目なの?」
「ちが、これは、その…‥‥!!」

シャラの後ろにいる魔王のオーラにビビるも、項垂れて周りが見えていないアリアをほっとくこともできない。汗びっしょりで固まりながらも、ザン様なら解ってくれるかも!という期待でなんとか念じた。これでもかとばかりに頭の中で祈り続けた。

(ひぃいいいいい、違うんです違うんです、アリア様はザン様への誕生日プレゼントに悩んでこうなっているんスぅうううううう!!!)

祈る。さっきみたいに黙ってても伝わるなら届け!という思いを込めて。(しかし、怒り狂った魔王に心を読む余裕などあるわけもなく……哀れ、ラティス)


「ちょーっと訓練に付き合ってもらおうか」

(なんで、こんな時だけ通じないんスかぁあああああああああああああああ!)


「なんで俺ばっかり、こんな目にぃいいいいいい!」


首ねっこを掴まれ、一瞬にして訓練場に連れていかれた自分の命運は果たしてどうなるのか。涙でぼやけているが、最期に見えたのはとてもきれいな満月だった。








余談

「よし、決めた。ザンへのプレゼントはドラゴンに乗るための特注の鞍にしよう」
「………まぁ、それが無難でしょうね。あとはアリア様がベビードールを着てベッドで待っていれば完璧ですわね」
「シャラ、貴方の提案は最近厭らしくなっていないかしら?」
「失礼な。ザン様が一番最も喜ぶことを予想して提案しているのに」
「そうかな、ザンが喜ぶとは思わないけれど」
「……(何故この夫婦は素直になれないのでしょうね)」
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