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第二話
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この世界において魔法は重要な意味を持つ。
だが、それはありふれたものではなく、かつての魔法使いの末裔たる王侯貴族のみに許された、異界の法である。
代償には対価を。
魔法の行使そのものが魔力を代償とした対価であるが、その内容ですらこれが適用されている。
ーー避妊する魔法がある。
これは精子を殺すことを「対価」としている魔法だが、王族に伝わるそれは似通ったもののようで、その実は違った。
何が違うのか。
精子を殺すことこそが「代償」であることだ。
一般であればそれは対価となり得ていたが、初代国王がこの魔法を生み出したことにより王族となったという逸話が王家の王太子のみに伝わるほど重大なことだとわかる。
俺が習ったのは、それこそつい先日、精通を迎えてからのことだった。
これまでは俺に子をなす能力があるのか不明で、例えいくら優秀であろうと王位を継げないことも考慮して伝えなかったと聞かされた。
あと単純に精通を迎えていない人間には不要ということもあったのだろう。
夢精した時は恥ずかしすぎて朝起こしにきたティアをなんとか追い返したが、一向に布団から出ない俺からベッドメイクをしている婆やが布団を剥ぎ取ったときは絶望したものだ。
昔から顔を知っている婆やに痴態を見られたという羞恥、そして、俺のお漏らしをまるで祝い事のように婆やが言いふらして回ったのだ。今思い返しても地獄である。
そして父上と母上、そしてすでに精通している双子の弟らに俺の初射精が知られるというとんでもなく恥ずかしい目にあったのだが、その後父上に連れ出され、授けられたのが《避妊/リブート》である。
一般に普及する《避妊/コントラセプション》と違い、明確には生活魔法ではなく強化魔法に分類されている。
本来なら魔法行使とは別に魔力を代償として射精される無数の種を死滅させるという単純なギミックだが、《避妊/リブート》の場合は精子を代償に身体能力を強化するという上位互換となっている。
初代国王はこの魔法でのし上がり、そしてそれに続く王もこの魔法によって強く頂点に立つ存在になったらしい。
別にリブートがなくとも父上に勝つくらい目に見えて楽勝なのだが、この魔法は存在を秘匿されるに値する禁術であることもよく理解できていた。
もしこれが王家から漏れる事があれば、王家の威光がかすみ、英雄たちが飽和する時代が来るだろう。それはすなわち王家の威信が失墜することに繋がる。
なので、俺はこのままだと危険だと判断して、教わった側から《避妊/リブート》を改変した。
その内容は、
・王家の血筋でなければ使えないという制約
代わりに王家の者であれば効果を倍増させる
というものだ。
魔法とは頓知であるという気づきがあれば、今まではロックをかけるという認識だったそれも、限定するという見方にしてしまえば容易いことだった。
魔法の改変は現在行われることが少なく難しいため、この改変によって《避妊/リブート》が漏れたとしても使えないことの方が多いだろう。
逆に、使える場合のことを考える。
頭に浮かぶのは弟たちの存在だ。
どちらも12歳にしては優秀だが、その域を出ない。将来は俺の補佐をすると言っている可愛い存在だが、もしものことを考えるとこの魔法に関わる場合は極力会うことを避ける必要がある。
いや、別に弟たちの前で避妊魔法を使う機会なんてないんだろうが、醜い継承権争いをしないためにも一層の注意が必要になるという心構えをしておくべきだろう。
そして、父上にも改良したことを伝えないまま《避妊/リブート》を習得した俺は、すぐに実践の機会が訪れた。
そこで選ばれたのが、訳あって俺の専属メイドをしている平民の少女ティア・ブロンドだった。
平民にしては珍しい家名持ちで、古くは錬金術師の家系だったらしいが、今となってはポーション販売にしか手をつけていなかったためポーションの調合をするくらいしかできないらしい。
だが、メイドとしては優秀で、どこへいくにしても側付きとして仕えてくれる頼れる存在だった。
また、見目も美しく、心根が優しく魅力的だと知っているため本音を語れる数少ない存在だった。
部下よりも友人としての意識が強かったため、はじめ夜伽の相手がティアだと知って混乱したが、彼女を支配するのだと思えば、もうそのことだけしか考えられなくなってしまった。
そして、今に至る。
《避妊/リブート》の効果は偉大だった。昨日までの自分が嘘みたいに、一個体として強くなったという実感があった。思わぬ収穫だったのは精力さえも強くするようなので、出す度にもっと出そうになるという永久機関になりそうなことだ。
だが、出してばかりでは干からびてしまうし、それに精力が強すぎるのもそれはそれで問題である。
現に、二人を相手したというのにどちらも泥のように眠っている。それだけ疲れたという証拠だったが、目覚めたばかりの俺に至っては朝からたいそうお元気な状態になっていた。
それも、ティアの膣内で、だ。
「……すぅ……すぅ」
小さな寝息を立て、呼吸のたびに小さく膨らんだ胸が上下した。今は手にすっぽりと収まるサイズだが、まだまだ成長を感じさせるのでいずれは手に収まりきらないほどの豊満な胸になるはずだ。むしろそうなって欲しい。
そんな魅力的な胸が隠されることなく、その頂点にある桜色の突起がショートケーキの苺のように聳え立っている。
こんなの、食べてくださいと言っているようなものだ。
幸いまだ、ぎりぎり昨日の《避妊/リブート》の効果が残っているので、俺はティアの乳首に舌を這わせ、レロレロと味わうようにして口に含んだ。
「んっ……」
まだ起きないティアに愛おしさを感じて、昨日散々抵抗されたキスに挑戦する。
寝ているティアは無防備で簡単に唇同士が触れ合った。
なら次はと、ゆっくり腰をずらすように動かし始めて、小さな快楽を積み上げていく。
「……ん……んっ」
「……あーもう、可愛いがすぎるぞティア!」
寝たままで吐息をこぼすこの美しい少女は俺のものだ。
だからどう使おうが俺の勝手で、なら、ティアを気持ちよくすればすべて丸く収まるだろう。何がどうなってその結論に至るのかまで導き出せていないが、目の前の御馳走を前にして立ち止まれないほど今の俺は性欲に支配されていた。
ゆっくりと、だが確実に。どんどん腰を打ち付ける距離を離してやがて大きく腰を振るセックスになっていく。
「起きろっ、起きろっ、早く起きろッ!」
「あっ、あっ♡ ん♡ んっ♡♡ ……ぁ、ぇっ、んっ、でっ、殿下ッ、どうし、て♡ ふぐっ♡♡♡」
ティアは一定のリズムで腰を打ちつけられながら、ゆさゆさと揺れる中で目を覚ました。
昨日と同じように快楽を受け取ることが得意なようで、俺が、ずぷっ、ずぷっと抽送を繰り返すたび、喘ぎ声を強くして、楽器のように声を漏らしている。
たまらなく耳心地のいい音色がより俺の肉棒を硬くさせて、まだ新品同然の膣内を深く貫く。
「おはよう、ティア。今日の一発目、今、出すから、なっ!」
「ッ♡ あっ♡ そっ♡ そんなぁッ♡♡ イっ♡ ーーイっ、くぅううううッ♡♡♡♡」
最後にズンっ、と腰を振り下ろして、ティアのナカで遠慮なく吐精した。仰反るティアの腰を捕まえて、すべて中へ注ぎ出すつもりで行き止まり目掛けて雄棒を押し当てる。そしてようやく、出し切ったという実感を得た。
「はぁっ、はぁっ……ありがとうティア。気持ちよかったぞ?」
「はっ♡ はっ♡♡♡♡」
息も絶え絶えで返事できない可哀想なティアへ俺は覆い被さる。寝る前からずっと繋がっていた肉棒を取り出し、そこからは入りきらなかった精子が溢れ出てきた。そのまま柔らかなお腹に抜いたばかりの肉棒乗せてぎゅっと抱きしめる。
虚な緋色の瞳で口をぽっかりと開けたままのティアが愛おしくて、俺は唇を近づけて、今度は触れるだけではないキスに挑戦した。
まだ意識は遠いのか、舌を差し込んでも抵抗はなかった。これ幸いとティアの舌を絡め取って唾を流し込むと、水分を求めているのかこくこくと喉へ通して飲み込んでいた。
「……今日はゆっくりしてろ」
よしよしと頭を撫でて、俺は最後に頬へキスしてから体を起こした。
すると、隣で寝ていたエリノーラもタイミングを見てか体を起こして、恥ずかしそうにシーツで裸体を隠して上目遣いに俺を見遣った。
「悪いな、起こしたか?」
「いえ、そういうわけでは……」
エリノーラは顔をカァーッと赤らめて、視線を下に落とした。あれだろうか、遅れてやってきたテレというやつか。
性欲に支配されていた昨日とはまるで違って、俺が遠目で見ていた清楚な彼女そのものの仕草がある。
「昨日は済まなかった。興奮していたとはいえ、勝手に監視役だった貴女を抱いてしまった」
完全な同意のように見えたが、俺の言葉を否定できる人間はこの国に少ない。命令されたように抱かれたのだとしたら落ち度はこちらにあって然るべきである。
まぁ、この件で責任を取れと言われると願ったり叶ったりだし、というかもうエリノーラは絶対に手離さないと決めているので逃すつもりはないのだが。
「あ、謝らないでください……っ、それに私も嫌だったわけじゃ、ありません、から……」
強く意見してきたと思えば、俺の顔を見るだけで照れてしまう。言葉尻に弱くなる声と、不自然に揺れる視線がかなりの緊張をともなっていることを示している。
「ありがとうエリノーラ」
「あっ……はい♡」
なるほど名前か。今後とも名前呼びするのは決定事項として、エリノーラを俺のものだと理解させるべく、彼女へ近づく。
そのまま逃げなかったエリノーラの持つシーツを剥ぎ取り、瑞々しく柔らかな肢体を目に映した。
俺は背後から抱きしめるようにして座り、背中に雄の象徴を押し当てる。ビクッと震える姿に悪戯心が生まれ、そのきめ細やかな肌を撫でるように背中に舌を這わせてみた。
「ん~~~っ♡」
両胸を揉み解すように少し力強く捏ねる。
快楽を感じ始めたエリノーラに強く俺という存在を意識させるために、ゆっくりと腰をこすりつけるように動かしながら、肩越しに背後から唇を奪った。
「エリノーラ、愛してるぞ」
「んちゅっ、……ふぇんか、わはひも、んぅ、ちゅ、あいひてまふ……♡」
昨日、それもいきなりセックスした相手に愛もへったくれもあるかと思う。だがそれでも俺は愛していると言い切るし、簡単に流されるエリノーラが愛おしくてたまらない。
乳首を摘むとビクッとし、キスの合間に舌を差し込めば愛おしそうに絡めとってくる。股間は痛いほど硬くなっているが、こういう入れない交わりもいいものだと思い、婆やがシーツ交換に来るまで延々とキスを続けることにした。
第一話 婚約者
「まさか、そこまで性豪だったか」
「父上、他に人がいる場でそのような話題出さないでくれますか?」
婆やがシーツ交換に来たところで、俺はその後朝食を取ることになった。
昨日から俺の相手で疲れているだろうティアとエリノーラのため朝食を部屋に運ばせ、3人同じ机で食べることにしたのだ。
「あの、殿下……」
「言わなくてもいい。エリノーラだって反対してないし、何より俺がいいと言っているんだ。他に人目があるわけじゃないから大人しく従っていればいいんだ」
命令だと含ませればティアも納得したようで、王子とメイドと令嬢の、自分でやっていてなんとも奇妙な食卓ができあがった。
エリノーラはすべて俺を立てる姿勢をとっているため、そういうものだと理解したようで、ティアも含めて談笑しながら朝食を取る時間になった。
前、公爵家嫡男のレイモンドが訪れて以来の和やかな時間に癒されていたが、そこでとんでもないことを知ってしまうことになった。
「エリノーラがネクトの婚約者候補?」
ネクトとは双子の弟の、上の方である。
将来はどこかの上級貴族へ入婿となる予定だが、伯爵家のーーそれも乳母兄弟のエリノーラが入っていることはあまりにも予想外すぎた。
「どこでその話を?」
「お父様から。それと、実は……ネクト様からそれらしきこともちらほら聞くようになって」
「なら婚約はまだなんだな」
「それは、はい」
「なら早急に対処する。ティア、父上との面会の約束を取り付けてくれ、急ぎだと伝えればいい」
「……分かりました」
汚れないよう脱いでいたメイドの衣装を見に纏って、ティアが部屋を出て行った。
残された俺とエリノーラもすぐに給仕に食器を下げさせてから、父上がいるだろう政務室へ向かった。
「あ、あの、ティアさんがお返事を貰ってくるまで待っていた方がいいんじゃないでしょうか……?」
「いや、待つ必要はない」
その時、目の前の空間が歪み、いつの間にか黒尽くめの男が跪いていた。
「現在、ブロンズ嬢が面会の了承を取り付けました。バレステッド伯との面談中だったようです」
「ちょうどいいタイミングだったようだな」
「えっ、忍者……えっ!?」
そうして俺たちはそのまま政務室目指して歩み、途中で引き返してきたティアを合流させて、見張りがいるのを無視して扉を引き開けた。
「頼もう!」
「黙らんかバカ息子」
入って早々俺をバカにしてきたヒゲが立派な白髪の王が石の礫を投げてきたので、受け止めてそのままお返しする。
以前なら見切れなかったかもしれない乱暴な挨拶だったが、リブートの強化によって易々とできた。
そこで返ってきたのが先の言葉だ。
「まさか、そこまで性豪だったか」
「父上、他に人がいる場でそのような話題出さないでくれますか?」
《避妊/リブート》を仄めかすようなこと口にしないで欲しい。そしてどうやら父上の予想以上の強化だったみたいで、改変の効果は無事証明できた、と思う。
なにぶんどれだけ上がるのか比較するものがないし、ただ単に父上が言うように性豪なだけかもしれない。正確に証明するなど、父か未来の息子の行為を見ない限り出来はしないのだ。地獄かよ。
「それより、大事な話がある。ちょうどグラノース殿にも関わる話だからこの場を借りで、聞いていただきたい」
「……王太子……貴方まさか……」
この場にエリノーラがいる意味を正確に理解してくれたようで安心する。
「そのまさかだ。昨夜、エリノーラは俺のものとなった。だから、エリノーラをネクトの婚約者にする話は無かったことにしてもらえないか?」
父上は頭を痛そうに手でデコを抑えていた。
エリノーラの父、グラノースもまた、意図したわけではないが娘がお手つきにされたことと王太子を釣れたことに、口をパクパクとさせ驚愕を露わにして俺とエリノーラを交互に見た。
「……まったく、お主のその手の速さはどこからきたものなのか」
「父上もあったその場で婚約を取り付けたと聞いてます」
「なるほど、我譲りか」
ほのぼのとした家族のやりとりをして、改めてグラノースに向き直る。
「正室はまた別の娘になるだろう。第二夫人もなれる保証があるわけではない。だが、エリノーラは俺のものにすると決めた。納得いかないかもしれないが受け入れろ」
上位者の立場として、言葉を贈った。
これはお前の意見を考慮したものではなく、我が儘な王太子が決めたことなのだと。
だが、返ってきたのは少し意外なものだった。
理不尽に対する怒りでも、諦めでもない。
ただ淡々と、貴族として恥じない姿勢で頭を下げた。
「承知いたしました」
「俺が言うのもなんだが、大分理不尽なことをしているぞ?」
「自覚があるなら自重しろ」
父上からの茶々はスルーしてグラノースに問いかけた。
それに対してグラノースは、またしても淡々と答えた。
「たしかに、エリノーラの婚約者はこのままいけばネクト様でしたでしょう。ですが、何より優先されるのは王族の意思であり、家の存続です。なので、エリノーラを側室に、或いは妾とするならば頼み事を聞いていただきたい」
「なんだ?」
「我が伯爵家は子宝に恵まれず、遂にはエリノーラだけとなってしまいました。なにぶん私も若くないので、今から子を授かることも難しく、エリノーラに家督を継がせるつもりで育ててきました」
「ふむ」
「ですが最近、陛下よりネクト様の婚約者候補として話をいただき、王太子もお察しの通り、今日正式に、ネクト様を入婿とする形で婚約いただけると話が纏まるところでした」
「つまりギリギリセーフというわけだな」
「ええ、その通りです。決まってからではどうにもなりませんが、エリノーラはまだ婚約者を決めていません。ネクト様も乳母兄弟として育ち面識があったため強く求めていらっしゃいましたがまさかお手つきを嫁がせるわけにはいきませんから」
背後で、ホッとした空気を感じた。
エリノーラとしても俺のお手つきとなった今、ネクトの婚約者にされると困っていたに違いない。
婚約者の、それも兄と先に寝た妻など、どこかでバレた時エリノーラの評判は地に落ちるはずだった。
「なので、エリノーラを貰っていただけるのならこちらとしては異存ありません。ですが、エリノーラとの間にできた長子は我が伯爵家の人間として扱っていただきたい。お家を存続させるには血筋がなければ話になりません。その点を了承していただけないのなら、不敬とは存じてますがエリノーラは改めて別の人間を入婿に取らせようかと思います」
長い。回りくどい。
「つまり何も問題ないということだな」
「王太子の意思次第でございます」
その言葉で全てが解決した。
俺は後ろに控えていたエリノーラに近寄り、真正面から碧い目を見つめる。
「で、殿下……?」
突然のことで戸惑いを隠せない少女の黄金の髪を撫で、小さな顎を掴み、それを証明とするように深い口付けを落とす。
「っ♡」
目をトロンとさせ、すぐに受け入れたエリノーラの腰に手を回して、俺は再び父上とグラノースへ振り返った。
「突然の訪問、ご迷惑をおかけしました」
「良い。それよりちょうどいい機会だ。また今晩の食事の席で話すことになるが……お主の婚約者候補が決まった」
それはなんともまあ一大事ではないか。
これまで全くその話をしてこなかったからようやくかと思う。まさかこれも精通が原因なのか? 間違えじゃないだろうけど、精通に左右される婚約事情など嫌すぎる。
「……相手は?」
「レイチェル・アゼスト・アクリエス」
息を呑んだ。それはこの場にいる俺以外も同様だった。
俺はその名をよく知っているし、ティアにとってもなじみ深い名だった。
なぜなら、俺が巷で「奔放王子」と言われるようになったお忍びには、必ず彼もいたからだ。
俺と、ティアと、そしてもう一人。
レイモンド・アゼスト・アクリエス。
公爵家嫡男にして、俺が信頼の置く臣下であり、ティアとも長い付き合いの最大の友。
レイチェルとは、その妹だったからだ。
だが、ひとつだけ問題がある。
「ですが、彼女はまだ……」
「戯け。13だが、それのどこに問題がある」
「13であることが問題なのですが」
だって13だぞ。婚約者として紹介すれば、俺の趣味を誤解される恐れがある。名誉に関わる事態である。
「そも、お主より先に大人になったと聞く。それに、婚約者になったからと言っても結婚するまで手を出さなければいい話だ。女を覚えて猿になったか」
「ぐっ」
その通りだ。婚約はあくまでも婚約であって、結婚ではない。エリノーラは例外だった。そして結婚するまで普通は関係を持つことはないので、ただ待てばいいというだけである。というか俺より年下の子が先に大人になったと言われると微妙にショックだ。
「とにかく、この話は以上だ。どちらにせよ断ることはできないと思え。これは王命である」
「了解しました」
俺は深く頭を下げて、エリノーラとティアを伴って部屋を出た。《通信/コール》を使って今日の予定を空白にして、とある場所を目指して目的地に着く。
「あの、いったいどうしてここへ?」
エリノーラのそれはもっともな疑問だったが、答えはひとつだけ。
「この渡り廊下からは中庭がよく見える」
そう言って見下ろした先に、俺の弟たちがいた。
俺と同じ黒色の髪と瞳をもつ双子だ。
それぞれ、ネクトとラレス。容姿も根っこの性格も似ているのに魔法適正においてだけ水と油のように正反対を行く不思議な弟である。
そして、彼らと同じ卓を囲う二人の少女。
俺とは違い、というかまたしても俺の精通が遅かったのを原因として、弟たちは俺みたいにならないようにと引き合わされた弟の幼馴染である。
紫髪のツインテールの少女の方は見覚えがないが、処女しか着られないとされる魔法のローブを羽織っているのがやたらと目立っている。
だが、俺が見にきたのはそちらではなく、俺とティアにとってはなじみ深い光沢のある蒼の髪をもつ少女である。
彼女こそが、件の婚約者。
弟の幼馴染にして友達の妹。
公爵家アクリエスが誇る姫君、レイチェルだった。
「……今度またレイモンドを呼んで色々話をしよう」
「……はい」
最近は何故か忙しそうだったので、学校以外で会うことが殆どなかったが、エリノーラ以外に話したいことがまた一つ増えた。
ティアもレイチェルをじっと見つめて、多分その先にレイモンドを思い浮かべて懐かしんでいるのだろう。
何故か胸の内が騒めくがその感情を知らないため発散する方法もわからず、結局、エリノーラが帰っていった後、抑えきれない性衝動をティアにぶつけることで代償行為とした。
ティアも快楽に慣れ始めたようで、今度からはもっと別のことを試してみようと思い馳せ、今日も一つに繋がりながら抵抗できないティアに長く、そして深い口付けを続けた。
だが、それはありふれたものではなく、かつての魔法使いの末裔たる王侯貴族のみに許された、異界の法である。
代償には対価を。
魔法の行使そのものが魔力を代償とした対価であるが、その内容ですらこれが適用されている。
ーー避妊する魔法がある。
これは精子を殺すことを「対価」としている魔法だが、王族に伝わるそれは似通ったもののようで、その実は違った。
何が違うのか。
精子を殺すことこそが「代償」であることだ。
一般であればそれは対価となり得ていたが、初代国王がこの魔法を生み出したことにより王族となったという逸話が王家の王太子のみに伝わるほど重大なことだとわかる。
俺が習ったのは、それこそつい先日、精通を迎えてからのことだった。
これまでは俺に子をなす能力があるのか不明で、例えいくら優秀であろうと王位を継げないことも考慮して伝えなかったと聞かされた。
あと単純に精通を迎えていない人間には不要ということもあったのだろう。
夢精した時は恥ずかしすぎて朝起こしにきたティアをなんとか追い返したが、一向に布団から出ない俺からベッドメイクをしている婆やが布団を剥ぎ取ったときは絶望したものだ。
昔から顔を知っている婆やに痴態を見られたという羞恥、そして、俺のお漏らしをまるで祝い事のように婆やが言いふらして回ったのだ。今思い返しても地獄である。
そして父上と母上、そしてすでに精通している双子の弟らに俺の初射精が知られるというとんでもなく恥ずかしい目にあったのだが、その後父上に連れ出され、授けられたのが《避妊/リブート》である。
一般に普及する《避妊/コントラセプション》と違い、明確には生活魔法ではなく強化魔法に分類されている。
本来なら魔法行使とは別に魔力を代償として射精される無数の種を死滅させるという単純なギミックだが、《避妊/リブート》の場合は精子を代償に身体能力を強化するという上位互換となっている。
初代国王はこの魔法でのし上がり、そしてそれに続く王もこの魔法によって強く頂点に立つ存在になったらしい。
別にリブートがなくとも父上に勝つくらい目に見えて楽勝なのだが、この魔法は存在を秘匿されるに値する禁術であることもよく理解できていた。
もしこれが王家から漏れる事があれば、王家の威光がかすみ、英雄たちが飽和する時代が来るだろう。それはすなわち王家の威信が失墜することに繋がる。
なので、俺はこのままだと危険だと判断して、教わった側から《避妊/リブート》を改変した。
その内容は、
・王家の血筋でなければ使えないという制約
代わりに王家の者であれば効果を倍増させる
というものだ。
魔法とは頓知であるという気づきがあれば、今まではロックをかけるという認識だったそれも、限定するという見方にしてしまえば容易いことだった。
魔法の改変は現在行われることが少なく難しいため、この改変によって《避妊/リブート》が漏れたとしても使えないことの方が多いだろう。
逆に、使える場合のことを考える。
頭に浮かぶのは弟たちの存在だ。
どちらも12歳にしては優秀だが、その域を出ない。将来は俺の補佐をすると言っている可愛い存在だが、もしものことを考えるとこの魔法に関わる場合は極力会うことを避ける必要がある。
いや、別に弟たちの前で避妊魔法を使う機会なんてないんだろうが、醜い継承権争いをしないためにも一層の注意が必要になるという心構えをしておくべきだろう。
そして、父上にも改良したことを伝えないまま《避妊/リブート》を習得した俺は、すぐに実践の機会が訪れた。
そこで選ばれたのが、訳あって俺の専属メイドをしている平民の少女ティア・ブロンドだった。
平民にしては珍しい家名持ちで、古くは錬金術師の家系だったらしいが、今となってはポーション販売にしか手をつけていなかったためポーションの調合をするくらいしかできないらしい。
だが、メイドとしては優秀で、どこへいくにしても側付きとして仕えてくれる頼れる存在だった。
また、見目も美しく、心根が優しく魅力的だと知っているため本音を語れる数少ない存在だった。
部下よりも友人としての意識が強かったため、はじめ夜伽の相手がティアだと知って混乱したが、彼女を支配するのだと思えば、もうそのことだけしか考えられなくなってしまった。
そして、今に至る。
《避妊/リブート》の効果は偉大だった。昨日までの自分が嘘みたいに、一個体として強くなったという実感があった。思わぬ収穫だったのは精力さえも強くするようなので、出す度にもっと出そうになるという永久機関になりそうなことだ。
だが、出してばかりでは干からびてしまうし、それに精力が強すぎるのもそれはそれで問題である。
現に、二人を相手したというのにどちらも泥のように眠っている。それだけ疲れたという証拠だったが、目覚めたばかりの俺に至っては朝からたいそうお元気な状態になっていた。
それも、ティアの膣内で、だ。
「……すぅ……すぅ」
小さな寝息を立て、呼吸のたびに小さく膨らんだ胸が上下した。今は手にすっぽりと収まるサイズだが、まだまだ成長を感じさせるのでいずれは手に収まりきらないほどの豊満な胸になるはずだ。むしろそうなって欲しい。
そんな魅力的な胸が隠されることなく、その頂点にある桜色の突起がショートケーキの苺のように聳え立っている。
こんなの、食べてくださいと言っているようなものだ。
幸いまだ、ぎりぎり昨日の《避妊/リブート》の効果が残っているので、俺はティアの乳首に舌を這わせ、レロレロと味わうようにして口に含んだ。
「んっ……」
まだ起きないティアに愛おしさを感じて、昨日散々抵抗されたキスに挑戦する。
寝ているティアは無防備で簡単に唇同士が触れ合った。
なら次はと、ゆっくり腰をずらすように動かし始めて、小さな快楽を積み上げていく。
「……ん……んっ」
「……あーもう、可愛いがすぎるぞティア!」
寝たままで吐息をこぼすこの美しい少女は俺のものだ。
だからどう使おうが俺の勝手で、なら、ティアを気持ちよくすればすべて丸く収まるだろう。何がどうなってその結論に至るのかまで導き出せていないが、目の前の御馳走を前にして立ち止まれないほど今の俺は性欲に支配されていた。
ゆっくりと、だが確実に。どんどん腰を打ち付ける距離を離してやがて大きく腰を振るセックスになっていく。
「起きろっ、起きろっ、早く起きろッ!」
「あっ、あっ♡ ん♡ んっ♡♡ ……ぁ、ぇっ、んっ、でっ、殿下ッ、どうし、て♡ ふぐっ♡♡♡」
ティアは一定のリズムで腰を打ちつけられながら、ゆさゆさと揺れる中で目を覚ました。
昨日と同じように快楽を受け取ることが得意なようで、俺が、ずぷっ、ずぷっと抽送を繰り返すたび、喘ぎ声を強くして、楽器のように声を漏らしている。
たまらなく耳心地のいい音色がより俺の肉棒を硬くさせて、まだ新品同然の膣内を深く貫く。
「おはよう、ティア。今日の一発目、今、出すから、なっ!」
「ッ♡ あっ♡ そっ♡ そんなぁッ♡♡ イっ♡ ーーイっ、くぅううううッ♡♡♡♡」
最後にズンっ、と腰を振り下ろして、ティアのナカで遠慮なく吐精した。仰反るティアの腰を捕まえて、すべて中へ注ぎ出すつもりで行き止まり目掛けて雄棒を押し当てる。そしてようやく、出し切ったという実感を得た。
「はぁっ、はぁっ……ありがとうティア。気持ちよかったぞ?」
「はっ♡ はっ♡♡♡♡」
息も絶え絶えで返事できない可哀想なティアへ俺は覆い被さる。寝る前からずっと繋がっていた肉棒を取り出し、そこからは入りきらなかった精子が溢れ出てきた。そのまま柔らかなお腹に抜いたばかりの肉棒乗せてぎゅっと抱きしめる。
虚な緋色の瞳で口をぽっかりと開けたままのティアが愛おしくて、俺は唇を近づけて、今度は触れるだけではないキスに挑戦した。
まだ意識は遠いのか、舌を差し込んでも抵抗はなかった。これ幸いとティアの舌を絡め取って唾を流し込むと、水分を求めているのかこくこくと喉へ通して飲み込んでいた。
「……今日はゆっくりしてろ」
よしよしと頭を撫でて、俺は最後に頬へキスしてから体を起こした。
すると、隣で寝ていたエリノーラもタイミングを見てか体を起こして、恥ずかしそうにシーツで裸体を隠して上目遣いに俺を見遣った。
「悪いな、起こしたか?」
「いえ、そういうわけでは……」
エリノーラは顔をカァーッと赤らめて、視線を下に落とした。あれだろうか、遅れてやってきたテレというやつか。
性欲に支配されていた昨日とはまるで違って、俺が遠目で見ていた清楚な彼女そのものの仕草がある。
「昨日は済まなかった。興奮していたとはいえ、勝手に監視役だった貴女を抱いてしまった」
完全な同意のように見えたが、俺の言葉を否定できる人間はこの国に少ない。命令されたように抱かれたのだとしたら落ち度はこちらにあって然るべきである。
まぁ、この件で責任を取れと言われると願ったり叶ったりだし、というかもうエリノーラは絶対に手離さないと決めているので逃すつもりはないのだが。
「あ、謝らないでください……っ、それに私も嫌だったわけじゃ、ありません、から……」
強く意見してきたと思えば、俺の顔を見るだけで照れてしまう。言葉尻に弱くなる声と、不自然に揺れる視線がかなりの緊張をともなっていることを示している。
「ありがとうエリノーラ」
「あっ……はい♡」
なるほど名前か。今後とも名前呼びするのは決定事項として、エリノーラを俺のものだと理解させるべく、彼女へ近づく。
そのまま逃げなかったエリノーラの持つシーツを剥ぎ取り、瑞々しく柔らかな肢体を目に映した。
俺は背後から抱きしめるようにして座り、背中に雄の象徴を押し当てる。ビクッと震える姿に悪戯心が生まれ、そのきめ細やかな肌を撫でるように背中に舌を這わせてみた。
「ん~~~っ♡」
両胸を揉み解すように少し力強く捏ねる。
快楽を感じ始めたエリノーラに強く俺という存在を意識させるために、ゆっくりと腰をこすりつけるように動かしながら、肩越しに背後から唇を奪った。
「エリノーラ、愛してるぞ」
「んちゅっ、……ふぇんか、わはひも、んぅ、ちゅ、あいひてまふ……♡」
昨日、それもいきなりセックスした相手に愛もへったくれもあるかと思う。だがそれでも俺は愛していると言い切るし、簡単に流されるエリノーラが愛おしくてたまらない。
乳首を摘むとビクッとし、キスの合間に舌を差し込めば愛おしそうに絡めとってくる。股間は痛いほど硬くなっているが、こういう入れない交わりもいいものだと思い、婆やがシーツ交換に来るまで延々とキスを続けることにした。
第一話 婚約者
「まさか、そこまで性豪だったか」
「父上、他に人がいる場でそのような話題出さないでくれますか?」
婆やがシーツ交換に来たところで、俺はその後朝食を取ることになった。
昨日から俺の相手で疲れているだろうティアとエリノーラのため朝食を部屋に運ばせ、3人同じ机で食べることにしたのだ。
「あの、殿下……」
「言わなくてもいい。エリノーラだって反対してないし、何より俺がいいと言っているんだ。他に人目があるわけじゃないから大人しく従っていればいいんだ」
命令だと含ませればティアも納得したようで、王子とメイドと令嬢の、自分でやっていてなんとも奇妙な食卓ができあがった。
エリノーラはすべて俺を立てる姿勢をとっているため、そういうものだと理解したようで、ティアも含めて談笑しながら朝食を取る時間になった。
前、公爵家嫡男のレイモンドが訪れて以来の和やかな時間に癒されていたが、そこでとんでもないことを知ってしまうことになった。
「エリノーラがネクトの婚約者候補?」
ネクトとは双子の弟の、上の方である。
将来はどこかの上級貴族へ入婿となる予定だが、伯爵家のーーそれも乳母兄弟のエリノーラが入っていることはあまりにも予想外すぎた。
「どこでその話を?」
「お父様から。それと、実は……ネクト様からそれらしきこともちらほら聞くようになって」
「なら婚約はまだなんだな」
「それは、はい」
「なら早急に対処する。ティア、父上との面会の約束を取り付けてくれ、急ぎだと伝えればいい」
「……分かりました」
汚れないよう脱いでいたメイドの衣装を見に纏って、ティアが部屋を出て行った。
残された俺とエリノーラもすぐに給仕に食器を下げさせてから、父上がいるだろう政務室へ向かった。
「あ、あの、ティアさんがお返事を貰ってくるまで待っていた方がいいんじゃないでしょうか……?」
「いや、待つ必要はない」
その時、目の前の空間が歪み、いつの間にか黒尽くめの男が跪いていた。
「現在、ブロンズ嬢が面会の了承を取り付けました。バレステッド伯との面談中だったようです」
「ちょうどいいタイミングだったようだな」
「えっ、忍者……えっ!?」
そうして俺たちはそのまま政務室目指して歩み、途中で引き返してきたティアを合流させて、見張りがいるのを無視して扉を引き開けた。
「頼もう!」
「黙らんかバカ息子」
入って早々俺をバカにしてきたヒゲが立派な白髪の王が石の礫を投げてきたので、受け止めてそのままお返しする。
以前なら見切れなかったかもしれない乱暴な挨拶だったが、リブートの強化によって易々とできた。
そこで返ってきたのが先の言葉だ。
「まさか、そこまで性豪だったか」
「父上、他に人がいる場でそのような話題出さないでくれますか?」
《避妊/リブート》を仄めかすようなこと口にしないで欲しい。そしてどうやら父上の予想以上の強化だったみたいで、改変の効果は無事証明できた、と思う。
なにぶんどれだけ上がるのか比較するものがないし、ただ単に父上が言うように性豪なだけかもしれない。正確に証明するなど、父か未来の息子の行為を見ない限り出来はしないのだ。地獄かよ。
「それより、大事な話がある。ちょうどグラノース殿にも関わる話だからこの場を借りで、聞いていただきたい」
「……王太子……貴方まさか……」
この場にエリノーラがいる意味を正確に理解してくれたようで安心する。
「そのまさかだ。昨夜、エリノーラは俺のものとなった。だから、エリノーラをネクトの婚約者にする話は無かったことにしてもらえないか?」
父上は頭を痛そうに手でデコを抑えていた。
エリノーラの父、グラノースもまた、意図したわけではないが娘がお手つきにされたことと王太子を釣れたことに、口をパクパクとさせ驚愕を露わにして俺とエリノーラを交互に見た。
「……まったく、お主のその手の速さはどこからきたものなのか」
「父上もあったその場で婚約を取り付けたと聞いてます」
「なるほど、我譲りか」
ほのぼのとした家族のやりとりをして、改めてグラノースに向き直る。
「正室はまた別の娘になるだろう。第二夫人もなれる保証があるわけではない。だが、エリノーラは俺のものにすると決めた。納得いかないかもしれないが受け入れろ」
上位者の立場として、言葉を贈った。
これはお前の意見を考慮したものではなく、我が儘な王太子が決めたことなのだと。
だが、返ってきたのは少し意外なものだった。
理不尽に対する怒りでも、諦めでもない。
ただ淡々と、貴族として恥じない姿勢で頭を下げた。
「承知いたしました」
「俺が言うのもなんだが、大分理不尽なことをしているぞ?」
「自覚があるなら自重しろ」
父上からの茶々はスルーしてグラノースに問いかけた。
それに対してグラノースは、またしても淡々と答えた。
「たしかに、エリノーラの婚約者はこのままいけばネクト様でしたでしょう。ですが、何より優先されるのは王族の意思であり、家の存続です。なので、エリノーラを側室に、或いは妾とするならば頼み事を聞いていただきたい」
「なんだ?」
「我が伯爵家は子宝に恵まれず、遂にはエリノーラだけとなってしまいました。なにぶん私も若くないので、今から子を授かることも難しく、エリノーラに家督を継がせるつもりで育ててきました」
「ふむ」
「ですが最近、陛下よりネクト様の婚約者候補として話をいただき、王太子もお察しの通り、今日正式に、ネクト様を入婿とする形で婚約いただけると話が纏まるところでした」
「つまりギリギリセーフというわけだな」
「ええ、その通りです。決まってからではどうにもなりませんが、エリノーラはまだ婚約者を決めていません。ネクト様も乳母兄弟として育ち面識があったため強く求めていらっしゃいましたがまさかお手つきを嫁がせるわけにはいきませんから」
背後で、ホッとした空気を感じた。
エリノーラとしても俺のお手つきとなった今、ネクトの婚約者にされると困っていたに違いない。
婚約者の、それも兄と先に寝た妻など、どこかでバレた時エリノーラの評判は地に落ちるはずだった。
「なので、エリノーラを貰っていただけるのならこちらとしては異存ありません。ですが、エリノーラとの間にできた長子は我が伯爵家の人間として扱っていただきたい。お家を存続させるには血筋がなければ話になりません。その点を了承していただけないのなら、不敬とは存じてますがエリノーラは改めて別の人間を入婿に取らせようかと思います」
長い。回りくどい。
「つまり何も問題ないということだな」
「王太子の意思次第でございます」
その言葉で全てが解決した。
俺は後ろに控えていたエリノーラに近寄り、真正面から碧い目を見つめる。
「で、殿下……?」
突然のことで戸惑いを隠せない少女の黄金の髪を撫で、小さな顎を掴み、それを証明とするように深い口付けを落とす。
「っ♡」
目をトロンとさせ、すぐに受け入れたエリノーラの腰に手を回して、俺は再び父上とグラノースへ振り返った。
「突然の訪問、ご迷惑をおかけしました」
「良い。それよりちょうどいい機会だ。また今晩の食事の席で話すことになるが……お主の婚約者候補が決まった」
それはなんともまあ一大事ではないか。
これまで全くその話をしてこなかったからようやくかと思う。まさかこれも精通が原因なのか? 間違えじゃないだろうけど、精通に左右される婚約事情など嫌すぎる。
「……相手は?」
「レイチェル・アゼスト・アクリエス」
息を呑んだ。それはこの場にいる俺以外も同様だった。
俺はその名をよく知っているし、ティアにとってもなじみ深い名だった。
なぜなら、俺が巷で「奔放王子」と言われるようになったお忍びには、必ず彼もいたからだ。
俺と、ティアと、そしてもう一人。
レイモンド・アゼスト・アクリエス。
公爵家嫡男にして、俺が信頼の置く臣下であり、ティアとも長い付き合いの最大の友。
レイチェルとは、その妹だったからだ。
だが、ひとつだけ問題がある。
「ですが、彼女はまだ……」
「戯け。13だが、それのどこに問題がある」
「13であることが問題なのですが」
だって13だぞ。婚約者として紹介すれば、俺の趣味を誤解される恐れがある。名誉に関わる事態である。
「そも、お主より先に大人になったと聞く。それに、婚約者になったからと言っても結婚するまで手を出さなければいい話だ。女を覚えて猿になったか」
「ぐっ」
その通りだ。婚約はあくまでも婚約であって、結婚ではない。エリノーラは例外だった。そして結婚するまで普通は関係を持つことはないので、ただ待てばいいというだけである。というか俺より年下の子が先に大人になったと言われると微妙にショックだ。
「とにかく、この話は以上だ。どちらにせよ断ることはできないと思え。これは王命である」
「了解しました」
俺は深く頭を下げて、エリノーラとティアを伴って部屋を出た。《通信/コール》を使って今日の予定を空白にして、とある場所を目指して目的地に着く。
「あの、いったいどうしてここへ?」
エリノーラのそれはもっともな疑問だったが、答えはひとつだけ。
「この渡り廊下からは中庭がよく見える」
そう言って見下ろした先に、俺の弟たちがいた。
俺と同じ黒色の髪と瞳をもつ双子だ。
それぞれ、ネクトとラレス。容姿も根っこの性格も似ているのに魔法適正においてだけ水と油のように正反対を行く不思議な弟である。
そして、彼らと同じ卓を囲う二人の少女。
俺とは違い、というかまたしても俺の精通が遅かったのを原因として、弟たちは俺みたいにならないようにと引き合わされた弟の幼馴染である。
紫髪のツインテールの少女の方は見覚えがないが、処女しか着られないとされる魔法のローブを羽織っているのがやたらと目立っている。
だが、俺が見にきたのはそちらではなく、俺とティアにとってはなじみ深い光沢のある蒼の髪をもつ少女である。
彼女こそが、件の婚約者。
弟の幼馴染にして友達の妹。
公爵家アクリエスが誇る姫君、レイチェルだった。
「……今度またレイモンドを呼んで色々話をしよう」
「……はい」
最近は何故か忙しそうだったので、学校以外で会うことが殆どなかったが、エリノーラ以外に話したいことがまた一つ増えた。
ティアもレイチェルをじっと見つめて、多分その先にレイモンドを思い浮かべて懐かしんでいるのだろう。
何故か胸の内が騒めくがその感情を知らないため発散する方法もわからず、結局、エリノーラが帰っていった後、抑えきれない性衝動をティアにぶつけることで代償行為とした。
ティアも快楽に慣れ始めたようで、今度からはもっと別のことを試してみようと思い馳せ、今日も一つに繋がりながら抵抗できないティアに長く、そして深い口付けを続けた。
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