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第一章 少女たちの願い(前編)

ガーネットにお仕置を

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「な、なんだったの?」
「え、何……が? ……ん? 結衣、なんで……変身してる……の?」
「……へ?」

 真菜には、黒い影が見えていなかったらしい。

 その影が一体なんだったのか、今となってはわからない。
 だが、その影は今もどこかに潜んでいるのかもしれない。

「いやいやいや! 何言ってんの――!」
「うっふっふ。こういうホラーな雰囲気にこういう口調が会うのですよぉ!」
「意味わかんないし……」

 やっぱりガーネットは馬鹿だ。正真正銘の馬鹿だ。
 少しは空気を読んで欲しい。

「ゆ、結衣……?」

 結衣は地面に突っ伏し――と見せかけて、地面にめり込んでいた。
 ――ガーネットが。

「んむみいへほふぅ~~!」
「ごめん。ちょっと何言ってるかわからない」

 ガーネットの意味不明な言葉――叫びを聞きながら、結衣は変身を解く。

「結衣……気持ちは、分かる……けど…………程々に……して、おきな……よ?」
「ふ、ふふふ…………――うん」

 真菜は本気でガーネットを心配しているようで、チラチラとまだ何かを叫んでいるガーネットに目を向けている。
 結衣はしばらく不気味に笑っていたが、それが落ち着いてきたら、力無く返事をした。

 そんな時、ズボッという音がすると、床からガーネットが這い出る。

「も~~! 結衣様酷いですよぉ!」

 ゴミや埃を纏い、とても魔法のステッキとは思えない姿をしていた。

 ガーネットが動く度に、埃が宙に舞う。
 それには真菜も我慢出来なかったのか。訝しげな、ゴミを見るような目でガーネットを見ている。

「ひいぃ……! 真菜様怖いですぅ……!」

 ガーネットが慌てて結衣の背中に隠れ、プルプルと小動物のように震えていた。

 それは無理もないだろうと思う。
 真菜の氷点下の眼差しは、無機質な殺意を孕んでいるから。

「あー、真菜ちゃん? 私があとでお仕置きしておくからやめたげて……?」
「それもやですぅ~!!」

 ガーネットが何やら抗議していたが、空耳だと結論づける。
 そんなふうにいつも通り、ガーネットで遊んでいると。

「へぇ~、楽しそうですにゃあ。交ぜてもらっても構わないですかにゃ?」

 唐突に、まるで初めからそこにいたように、ごく自然に“ソレ”は溶け込んできた。
 ソレは、温泉旅行に行った時に出会った、あの無邪気な少女だった。
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