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第一章 少女たちの願い(後編)

明葉の内心

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 少しばかり気分がいい。
 力を授かってから、初めて姿になったが……

 どこにでも行けそうなほど、力がみなぎっているのがわかる。
 こんなにも楽しい気持ちになったのは、いつ以来だろうか。

 ここのところずっと、気分が晴れなかった。
 いや、まあ、昔から気分のいい時の方が少なかったが。

「……そろそろやろか……」

 意味深っぽく呟いてみる。
 一回、こういうのをやってみたかったらしい。
 そして、その予想は当たった。

「最近、龍のことばかり聞くから……薄々気づいてはいたよ……」

 突如現れた少女は、そう口にする。
 この少女は、やはり勘がいいらしい。
 いや、頭がいいと言うべきか。

 それとも、他の少女たちと戦ってきた経験から身についたのだろうか。
 まあ、なんにせよ。

「うちのこの姿、見られたからにはただで帰すわけにはいきまへんなぁ……」

 体の底からぐつぐつと煮えたぎる何か。
 それをもう、自分ではコントロールできなくなっている。

 ――ははっ。情けないなぁ……

 少女はそんなことを思い、力に抗うことをやめる。
 諦めた方が、楽だから。
 どうせ“この力”には、どうやっても勝てないのだから。

「うちのこと……本気で倒しにきぃや……」

 本気に倒しに来てくれなければ、多分この力は止まらない。
 低く言い放った言葉に、目の前の少女はため息をつく。

「あはは、そんなの当たり前じゃん。本気じゃなかったら、なんのために戦ってきたのかわからなくなるよ」
「あっははぁ。そうですねぇ~! 私もなんのために結衣様とコンビを組んだかわからなくなりますからねぇ!」

 そんなふうに堂々と宣言できるから、ガーネットに選ばれたのだろうと察しがつく。

「……ふふっ。うふふ……そうやねぇ……」

 とりあえず、もう理性が崩れそうだ。
 そう感じた少女は不意に口角を上げ、涙を流した。
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