上 下
138 / 262
幕間 少女たちの過去(前編)

真菜の過去

しおりを挟む
 最近よく思い出す。
 両親のことや、育ててくれた知り合いの人たち……

 真菜は山奥で一人、物思いにふける。
 燃えるように赤い夕日を見ながら思い出す。

 あの頃もたしか、こんなように赤い――赤すぎる夕日が、山を照らしていた気がする。

 ☆ ☆ ☆

 あれは真菜が小学二年生の時。
 まだ、水無川家が没落する前のこと。

 真菜の両親はとても優しく、真菜のことをとても大事にしていた。
 真菜も、そんな二人が大好きだった。

 だけど一つだけ、どうしても好きになれないところが……

「おお! 見てくれ!」
「わぁ……! やっと、やっとなのね……!」

 両親の声が聞こえる。
 だが真菜は、そんな両親に声をかけることはしなかった。
 今声をかけたら、真菜も巻き込まれるからだ。

 それは――

「幽霊と会話ができる術を、ついに見つけたぞ……!」

 ――そう、これだ。
 お父さんとお母さんはいつも、幽霊の研究ばかりやっている。

 真菜はそのことに辟易していた。
 幽霊は……まあ、たしかに真菜も興味はあるが、なぜ両親がそこまで熱心なのかわからない。

「もう……やめて、よ……」

 幽霊に関心を持つより、自分を――

「……お母さんと……お父さん、なんて……だいっ、嫌い……」

 だけど、そんな思考は振り払い、考えないようにする。
 自分がこんなに悩んでいても、両親がこちらを見てくれることなんてないのだから。

「あれ、真菜? どうしたの?」

 そんなシリアスな思考に浸っていると、急に声をかけられた。
 お母さんが真菜に気づいたようなのだ。

「寝付けないのかしら?」

 お母さんは優しく朗らかに笑う。
 だが、真菜は笑い返すことは出来なかった。
 だから――

「……だい、じょうぶ……」

 そう小さく零して、自分の部屋へと戻っていった。
 その目に大粒の涙を乗せて。
しおりを挟む

処理中です...