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第二章 似すぎている敵

見慣れた光景

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 なんでこんなことになったのか。
 少女は何もわからない。自分の行動も、何を思っていたのかも。

 少女は泣きそうになりながら、起きたての日が照らす空を駆け抜ける。
 蝙蝠の翼のようなマントを翻し、逃げるようにどこまでも飛んでいく。

「……はぁ……はぁ……っ」

 勢いよく飛びすぎたせいか、息があがっている。
 どこか近くで休めるところがかいかと探し、目の前にあった山のてっぺんを目指す。

「まあ、この辺でいいか」

 そう呟いて休もうとすると――

「お~、ここからの眺めは最高ですねぇ」
「うおあっ!?」

 突如背後からかけられた声に、驚いて腰を抜かす。
 その軽快で、どこか信用できないその声は。

「“ガーネット”……なんでついてきた……?」
「ん~、そうですねぇ……あの時話したよしみで少し心配してるだけですよぉ」

 ヘラヘラと、いまいち掴みどころのない笑みを浮かべてそうな声でそう言うガーネット。

 そのガーネットの真意を探るように見つめるも、ガーネットの真意はわからない。
 それとも、本当に心配しているだけなのか。

 普段一緒にいる結衣でさえ、ガーネットの全てを把握しきれていないのに、少女にわかるはずもなかった。

「ふーん……けど、それだけじゃないだろ?」
「……あはっ☆ バレちゃってました?」
「そりゃバレるだろ。善意100パーで行動するやつなんて見たことねーし」
「あははぁ……まあ、そうですねぇ~……」

 少女はなぜかあったベンチに腰掛けながら。
 ガーネットは少女の前を漂いながら話す。
 何気ない会話のように見えるも、その実、無数の思惑が交錯している。
 ――が、表面上は普通に。

「――で、何の用だ?」
「あっははぁ。実はですね――」

 そう。
 殺伐な雰囲気とか関係……ない……と、思いたい。
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