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第二章 似すぎている敵

次の約束

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 魔力を回復した少女は、自分の身体を確かめるように見回す。

 ボロボロだった服は元通りになり、無数の軽い傷や汚れが消えている。
 試しに手を閉じたり開いたりして、ちゃんと正常に動くかを確認する。

「……すげぇ……」

 少女は思わず感嘆の声を零す。
 先程まで激痛に苛まれていた身体が嘘のようだ。

「ふぅ……よかった……」
「あははぁ。危ないところでしたねぇ」

 結衣が安心したようにそう言うと、ガーネットも笑いながら話し出す。
 いつものように、ふざけた感じで。

「結衣様が助けなかったら、今頃は――アレでしたからねぇ~」

 なんでもないことを語るように言ったガーネット。
 だが、少女はそれほど戦慄していないようだ。
 というより、自虐的な笑みを浮かべている。

「……別に、だって俺そもそも……」

 少女が呟いた声はだが、誰にも拾われることはなかった。
 そして、少女は結衣に向き直り、ぺこりと頭を下げる。

「……助けてくれてありがとう。感謝はしてる。だが……」
「……うん。わかってる。いいよ、ちゃんと話してくれるまで待つから」

 少女が気まずそうに言うと、結衣は天使のような笑顔を浮かべる。
 その言葉に、偽りはない。

 そうと分かると、少女は少しだけホッとしたような表情になる。
 それを感じ取った結衣は、満足そうに少女の近くから立ち去ろうとした。
 その時。

「……次こそ、ぜってぇ負けねー」

 健全な殺意を滲ませて、笑顔を浮かべながら呟いた少女。
 その言葉を受けて、結衣は――

「……楽しみにしてる」

 と、不敵に笑った。
 その少女たちにもうわだかまりはなく、お互いを好敵手と認識し始めている。

 そんな二人を見て、お母さんはどこか満足そうにしていた。
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