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第二章 仲良しのその先へ!
それが恋じゃなくてもいい?
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○月○日
やった! ついに、ついに! この日がやって来た!
理沙ちゃんをどうにかせずとも、こんなに簡単に手に入るなんて……信じられない!
でも、だからこそ、少し怖い気もする。
もしさっちゃん先輩が恋心を知って、それを向ける先が自分じゃなかったら……
もしさっちゃん先輩が他の人を好きになったら、私は――
――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。
☆ ☆ ☆
「――と、いうことがあったのですよ」
「……え? え??」
賑やかな食堂の中で、沙友理が昨日起きたことを話す。
華緒は困惑し、この前のようにスプーンを落としそうになった。
今日は二人で甘口のカレーを食している。
「だから、自分の気持ちに素直になることにしたのです。多分、わたしがいっちゃんを助けたのも、自分に素直になったからだと思うのです」
「さっちゃん先輩……」
「わたしは、いっちゃんとずっと一緒にいたいのです。それだけははっきり言えるのです」
沙友理は胸に手を当て、祈るように続ける。
「わたしはふつつか者なのです。それでもよければ……一緒にいてくれませんか?」
それは、告白に近かった。
“好き”という言葉を用いてはいないが、だからこそ、沙友理の心からの言葉だった。
華緒の目には、沙友理が一番眩しく映る。
手に入れられなくても、決して手に入れることなどできないと思っていたから。
手に入らぬのなら、力づくでも手に入れようと考えていたのに、これは予想外だ。
「ま、まさかさっちゃん先輩がそう言ってくれるなんて……」
「あはは……まだ確かなことは言えないので正式なお付き合いというわけにはいかないのが心苦しいのですけど、いっちゃんさえよければ……」
「い、いいに決まってるじゃないですか! むしろこっちからお願いしたいぐらいですよ!」
「それはよかったのです。さぁ、冷めないうちに食べるのです」
「はい! ……あ」
華緒は元気よく返事をするも、何か思いついたような顔と声をさせた。
沙友理が首を傾げていると、華緒はもじもじと指を絡ませてしきりに目を泳がせている。
何か言いたいことでもあるのだろうか。
「えっと、その……あの……ですね」
そう言いながら、沙友理の分のカレーを見つめている。
まだ自分の分もあるというのに。
隣の芝生は青く見えるというやつだろうか。
沙友理がそう思って交換を提案しようとした時、ようやく華緒が内心思っていることを口にした。
「その、せっかく特別な仲になれたので……特別なことをしたいなと思いまして」
「特別……なのですか」
「はい。なので――」
そこまで言って、一旦言葉を切る。
そして、意を決したように大声で言う。
「――“あーん”を、して欲しいです!」
「…………はい?」
華緒の突拍子もない言葉に、沙友理はポカンとした。
“あーん”とは、食べさせてほしいということだろうか。
理沙がもっと幼い頃に理沙にそれをしたことがあったため、沙友理はそれほど特別なものとは思っていなかった。
しかし、華緒がそう言うならと、“ふーふー”をしてカレーを載せたスプーンを華緒に差し出した。
「あーん」
「あ、あーん……」
沙友理は何も考えておらず、華緒は嬉しそうに口を開けている。
沙友理のカレーを口に含むと、華緒は丁寧にそれを噛み砕く。
それは、思い出を一つ一つ噛み締めているのに似ている。
だから沙友理は、華緒のやっていることを少し大袈裟だと感じてしまった。
「美味しいですか?」
しかし、その思いを口にせず、笑顔で訊いた。
別に、その行いが大袈裟に見えようと、そんなものは構わない。
華緒が幸せならば、他は些細なことだ。
「はい! もちろん!」
華緒は満面の笑みで返す。
華緒の花のような笑顔に、沙友理は満足した。
だが、華緒も沙友理がやったようにスプーンを差し出してくる。
「あ、あの、さっちゃん先輩も……」
「あ、なるほどなのです」
理沙にした時は向こうから何もないのが当たり前だったため、もう満足してしまっていたが。
あーんし合えるというところが、特別な仲ということなのだろう。
「あ、あーん……」
「あーん」
これは、華緒が丁寧に噛み砕くのも頷ける。
自分で食べるよりも美味しく感じられたから。
あーんの魅力はここにあるらしい。
「いっちゃんがくれたカレー、すごく美味しいのです」
「え、えへへ……ありがとうございます」
華緒はそう言い、ノートみたいなものを取り出して何やらメモしている。
そのノートの表紙には、『さっちゃん先輩の好きなもの』と書かれている。
見なかったことにした方がいいのか、触れた方がいいのかわからない。
悩んでいるうちに書き終わったようで、もうノートをしまっていた。
沙友理は少し残念に思いながらも、それに触れることはなかった。
「あ、私そろそろ行かないと……! 次移動教室なので!」
「そうなのですか。じゃあ、バイバイなのです」
「はい。あ、今日一緒に帰りませんか?」
「え? いつも一緒に帰ってるのですよね? まあ、今日も予定ないので大丈夫なのですよ?」
「わー! よかった……嬉しいです!」
華緒は本当に嬉しそうに去っていくが、その笑顔が少しだけ怖かった。
何か裏があるような気がしてならない。
しかし、それでも。
そんな華緒のことを愛しいと思うのは、なぜなのだろうか。
やった! ついに、ついに! この日がやって来た!
理沙ちゃんをどうにかせずとも、こんなに簡単に手に入るなんて……信じられない!
でも、だからこそ、少し怖い気もする。
もしさっちゃん先輩が恋心を知って、それを向ける先が自分じゃなかったら……
もしさっちゃん先輩が他の人を好きになったら、私は――
――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。
☆ ☆ ☆
「――と、いうことがあったのですよ」
「……え? え??」
賑やかな食堂の中で、沙友理が昨日起きたことを話す。
華緒は困惑し、この前のようにスプーンを落としそうになった。
今日は二人で甘口のカレーを食している。
「だから、自分の気持ちに素直になることにしたのです。多分、わたしがいっちゃんを助けたのも、自分に素直になったからだと思うのです」
「さっちゃん先輩……」
「わたしは、いっちゃんとずっと一緒にいたいのです。それだけははっきり言えるのです」
沙友理は胸に手を当て、祈るように続ける。
「わたしはふつつか者なのです。それでもよければ……一緒にいてくれませんか?」
それは、告白に近かった。
“好き”という言葉を用いてはいないが、だからこそ、沙友理の心からの言葉だった。
華緒の目には、沙友理が一番眩しく映る。
手に入れられなくても、決して手に入れることなどできないと思っていたから。
手に入らぬのなら、力づくでも手に入れようと考えていたのに、これは予想外だ。
「ま、まさかさっちゃん先輩がそう言ってくれるなんて……」
「あはは……まだ確かなことは言えないので正式なお付き合いというわけにはいかないのが心苦しいのですけど、いっちゃんさえよければ……」
「い、いいに決まってるじゃないですか! むしろこっちからお願いしたいぐらいですよ!」
「それはよかったのです。さぁ、冷めないうちに食べるのです」
「はい! ……あ」
華緒は元気よく返事をするも、何か思いついたような顔と声をさせた。
沙友理が首を傾げていると、華緒はもじもじと指を絡ませてしきりに目を泳がせている。
何か言いたいことでもあるのだろうか。
「えっと、その……あの……ですね」
そう言いながら、沙友理の分のカレーを見つめている。
まだ自分の分もあるというのに。
隣の芝生は青く見えるというやつだろうか。
沙友理がそう思って交換を提案しようとした時、ようやく華緒が内心思っていることを口にした。
「その、せっかく特別な仲になれたので……特別なことをしたいなと思いまして」
「特別……なのですか」
「はい。なので――」
そこまで言って、一旦言葉を切る。
そして、意を決したように大声で言う。
「――“あーん”を、して欲しいです!」
「…………はい?」
華緒の突拍子もない言葉に、沙友理はポカンとした。
“あーん”とは、食べさせてほしいということだろうか。
理沙がもっと幼い頃に理沙にそれをしたことがあったため、沙友理はそれほど特別なものとは思っていなかった。
しかし、華緒がそう言うならと、“ふーふー”をしてカレーを載せたスプーンを華緒に差し出した。
「あーん」
「あ、あーん……」
沙友理は何も考えておらず、華緒は嬉しそうに口を開けている。
沙友理のカレーを口に含むと、華緒は丁寧にそれを噛み砕く。
それは、思い出を一つ一つ噛み締めているのに似ている。
だから沙友理は、華緒のやっていることを少し大袈裟だと感じてしまった。
「美味しいですか?」
しかし、その思いを口にせず、笑顔で訊いた。
別に、その行いが大袈裟に見えようと、そんなものは構わない。
華緒が幸せならば、他は些細なことだ。
「はい! もちろん!」
華緒は満面の笑みで返す。
華緒の花のような笑顔に、沙友理は満足した。
だが、華緒も沙友理がやったようにスプーンを差し出してくる。
「あ、あの、さっちゃん先輩も……」
「あ、なるほどなのです」
理沙にした時は向こうから何もないのが当たり前だったため、もう満足してしまっていたが。
あーんし合えるというところが、特別な仲ということなのだろう。
「あ、あーん……」
「あーん」
これは、華緒が丁寧に噛み砕くのも頷ける。
自分で食べるよりも美味しく感じられたから。
あーんの魅力はここにあるらしい。
「いっちゃんがくれたカレー、すごく美味しいのです」
「え、えへへ……ありがとうございます」
華緒はそう言い、ノートみたいなものを取り出して何やらメモしている。
そのノートの表紙には、『さっちゃん先輩の好きなもの』と書かれている。
見なかったことにした方がいいのか、触れた方がいいのかわからない。
悩んでいるうちに書き終わったようで、もうノートをしまっていた。
沙友理は少し残念に思いながらも、それに触れることはなかった。
「あ、私そろそろ行かないと……! 次移動教室なので!」
「そうなのですか。じゃあ、バイバイなのです」
「はい。あ、今日一緒に帰りませんか?」
「え? いつも一緒に帰ってるのですよね? まあ、今日も予定ないので大丈夫なのですよ?」
「わー! よかった……嬉しいです!」
華緒は本当に嬉しそうに去っていくが、その笑顔が少しだけ怖かった。
何か裏があるような気がしてならない。
しかし、それでも。
そんな華緒のことを愛しいと思うのは、なぜなのだろうか。
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