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番外編
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「結婚?」
「そうなんですよ! といってもパートナーシップなんですけどね。ついに嫩せんぱ……いえ、嫩と家族になるんです!」
「へぇ……それはいいですね」
あたしはとあるカフェで高宮先輩とコーヒーを飲みながら喋っていた。
高宮先輩が渡島先輩にゾッコンなのは知っていたけど、まさかもうそこまで発展しているとは。
幸せそうで羨ましい。
あたしも恋人はいるけど、まだ結婚の話は出ていない。
「ところで、今日はその報告をするためにあたしを呼んだってことですか?」
「えーっと……まあそんな感じですね」
高宮先輩は照れくさそうに頬をかく。
この人は本当に可愛らしい人だ。
きっと渡島先輩もこういうところに惹かれたのだろう。
「おめでとうございます。これからもお幸せに」
「ありがとうございます! あ、そうだ。今度は花恋さんのこと聞かせてくださいよ」
「はい? いや、あたしのことなんていいですよ。特に代わり映えしないし」
「ぜひ聞かせてください」
「うーん……そこまで言うなら……」
それからしばらく、あたしたちはお互いの恋人について語り合った。
お互いに相手の惚気を聞いて恥ずかしくなったりして、とても楽しい時間だった。
高宮先輩とは同じ職場で同じ職業だけど、あまりこういう深い話をしていない。
だからとても新鮮だった。
高宮先輩とのお茶会を終えた後、駅に向かって歩いているとちょうど渚を見かけた。
隣には綺麗なお姉様がいる。
その人は白のニットワンピースを着ていて、長い黒髪をハーフアップにしている。
足が長くてスタイルがよく、モデルのような体型をしている女性だ。
その人と渚は何やら楽しげに会話をしていた。
「あれ…………あの女の人……どこかで見たような気がするんだけど……どこで会ったんだっけ……」
どうにも思い出せない。
だれなんだろうか。
それにしても、あんな美人な人と渚はどんな関係なんだろう。
だれなのかより、どんな関係なのかの方が気になる。
答えによっては渚とその人を血祭りにあげなくては……
「あぁ! 思い出した!」
あたしは思わず大きな声を出してしまい、通行人の視線を集めてしまった。
ヤバい。
こんなところで大声を出すとかなに考えてるんだろう。
あたしはすぐにその場を離れようと早歩きになったのだが、なぜか後ろから追いかけてくる気配を感じた。
「待って、花恋ちゃん!」
「え、な、渚!? なんで追いかけてくるの!?」
「ちょっと話があるの! お願い! 止まって!」
あたしは慌てて逃げようとしたが、腕を強く掴まれてしまう。
振り向くと、そこには必死の形相をした渚がいた。
女子校の王子様だった頃とはすっかり変わって、今では髪を伸ばしている。
前よりも大人っぽくなって綺麗になった。
でも、今はそんなことどうだっていい。
一体なにがあったのかと聞こうとした時、後ろから先ほど見かけた女性がやってきた。
彼女は少し息を切らせながらあたしの前に立つ。
そしてあたし顔を見て言った。
「やっと見つけたわ。ずっと探していたのよ」
「……あなたは」
「あら、忘れちゃった? ひどいじゃない」
女性は口元に手を当ててクスリと笑う。
その仕草はとても色っぽい。
なんだか妖艶な雰囲気の女性だと思った。
彼女はあたしのことをじっと見つめると、すぐに笑顔を浮かべた。
「久しぶりね」
「もしかして……渡島先輩?」
渡島先輩に遮られた言葉の続きをつぶやく。
思い出した。この優しそうな笑顔に色っぽい雰囲気、そして綺麗な声。
高宮先輩の恋人……いや、家族の渡島嫩先輩だ。
高校生の時はショートカットだったけど、渡島先輩も渚と同じようにロングヘアになっていてすぐにはわからなかった。
まさか本当に渡島先輩だとは。
高校生の時も大人っぽいと思っていたけど、大人になってからはさらに色気が増している。
どうなっているんだ。
しかも、なぜ渚と一緒にいたのか。
疑問だらけである。
「……どういうことですか? 説明してくれますよね」
「もちろんよ」
あたしが睨むように見上げると、渡島先輩は余裕たっぷりの顔で笑みを深めた。
あたしは今、渡島先輩に連れられて近くの喫茶店に来ていた。
さっきもここで高宮先輩と喋ってたんだけど。
しかも、一緒に来ている渚はなにも言ってくれない。
「それで? どうして渚と一緒にいたんですか? 渚はあたしのなんですけど」
「もう、そんなんじゃないってば」
「じゃあどんな関係なんですか」
「まあまあ落ち着いてよ」
「これが落ち着けるわけがないでしょう」
「花恋ちゃん……」
あたしの隣で渚が小さく名前を呼ぶ。
まるで子犬みたいな目だ。
あたしはため息をつくと、仕方なく席に着いた。
とりあえず話を聞かないことには始まらない。
「で? どういうことです?」
「実はね、渚ちゃんに相談してたのよ」
「相談?」
渚と渡島先輩には接点なんてなかったはずだ。
なのに、いったいなんで渚に相談なんかするんだろう。
というか、なにを相談したのだろう。
まさか……浮気とか……?
いやいや、まさかね。
渚はあたし一筋だし、渡島先輩は高宮先輩一筋だ。
そんなことあるわけがない。
「沙織ちゃんが可愛いって話♡」
「……は?」
あたしの聞き間違いだろうか。
今、ものすごく意味不明なことを言われた気がする。
はにかみながら照れくさそうにする渡島先輩を見て、あたしは眉間にシワを寄せて首を傾げた。
「えと……つまり、惚気話を……?」
「そうよ。私たち職場が同じだからつい、ね」
「同じ職場……えっ!? 渡島先輩も渚と同じ看護師なんですか!?」
「あれ、知らなかったの?」
渡島先輩はすごく驚いている。
きっと渚からすでに聞いているもんだと思っていたのだろう。
あたしはまったくそんな話を聞いていない。
渡島先輩と渚が知り合いだということにも気づかなかったのに。
まさか渡島先輩が渚の同業者だったとは……まあ、イメージ通りではあるけど。
元王子様の渚とふわふわで優しい渡島先輩は、正反対なようでどこか似ている。
容姿は違うが、性格は同じように思える。
「というか、なんでそんな話になったんですか」
「それは……」
渡島先輩は言葉を濁らせると、チラリとあたしの隣にいる渚を見た。
彼女は視線に気づいて苦笑いをする。
「あのね、花恋ちゃん。私たちは今付き合ってるでしょ?」
「うん」
「そして、ここにいる渡島先輩も高宮さんとパートナーシップを結んだ」
「うん」
「だからまあなんていうか……自然とそんな話に?」
「あー……うん、大体わかった」
要は恋人がいる女子が集まれば自然と恋バナになる、ということだ。
その流れで惚気話が盛り上がったのだろう。
浮気というわけじゃなくてよかったけど、渚があたしをどんな目で見てくれているのかという疑問で頭がいっぱいになってしまった。
「それじゃ、誤解が解けたところで私はそろそろ沙織ちゃんの元へ向かうわね」
「あ、あの……」
「ん?」
引き止めるのもどうかと思ったけど、これだけは言っておきたかった。
「また……会えますよね?」
渡島先輩は一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに嬉しそうな笑顔になって言った。
「もちろん。また会いましょう」
笑顔を浮かべると、渡島先輩はそのまま喫茶店を出ていった。
先輩だからなのか、お金をあたしたちの分まで払ってくれて。
「ふぅ……いや、渡島先輩と話してると自分を保てなくなるような錯覚に陥るよ」
「ははっ、さすが聖女っぽいだけはあるよね。吸血鬼な花恋ちゃんにはつらかったかな?」
「……冗談言ってないであたしたちも帰ろ」
店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
あたしは渚の手を握ると、家に向かって歩き出した。
隣で歩いている渚は、まだなにか言いたげな様子でモジモジしている。
「どうしたの?」
「あー……えっと、私……花恋ちゃんのこと大好きだよ」
「うん、あたしも大好きだよ?」
急に告白された。
けど、あたしたちは昔からずっと付き合っているのだから、今更告白されただけでドキドキしたりはしない。
なんの話だろうと首を傾げると、渚は困ったように笑う。
「だから……花恋ちゃんもさ、昔言ってたじゃん。『渚のお嫁さんになる』って」
「ああ……そういえばそんなこと言ったね。今も思ってるけど」
幼い時からずっと思っていたことだった。
結婚するとしたら、相手は渚しかいないと思っている。
渚以外に考えられないのだ。
「だから、渡島先輩たちに感化されたってわけじゃないけど……私たちも結婚しない?」
あたしは小さい頃からずっと、渚と結婚できると信じていた。
そして今、あたしの夢が叶おうとしている。
あたしは思わず笑みをこぼした。
「こんな街中で、しかも指輪とかなくプロポーズされるとは思わなかったなぁ」
「えっ、ご、ごめん! 今言わなきゃいけないような気がして……」
「冗談だよ」
慌てて謝る渚を見て、あたしはクスッと微笑んだ。
別に嫌だとは言っていない。
ただ、予想していなかった展開だっただけだ。
だってそうでしょう?
いきなり結婚しようと言われたって実感が湧かない。
でも……嬉しい。すごく幸せだ。
「喜んでお受けします」
「本当に!?」
「嘘ついてどーすんの。あたしは渚と一生一緒にいるよ」
嬉しくて、あたしは渚に抱きついた。
渚もまたあたしを抱きしめてくれる。
「ありがとう……私も花恋ちゃんとずっと一緒にいたい」
「えへへ、渚にそういうこと言ってもらえるなんて嬉しいなぁ」
渚と付き合うことになって、もう何年も経っている。
それでもいまだに渚はあたしのことを好きでいてくれた。
それがすごく嬉しかった。
あたしは渚から身体を離すと、彼女の手をギュッと握る。
そして、今までの気持ちを伝えるために口を開いた。
「あたしも……渚が大好きです。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
お互いに頭を下げると、なんだかおかしくなって二人とも吹き出してしまった。
そのあと、家に帰ってからはいつも通りだった。
夕飯を食べて、テレビを見たりゲームをしたり。
いつも渚としていることだ。
そして夜になり、二人でベッドに入る。
「ねえ、花恋ちゃん」
「ん?」
「今日は……その……したい気分なんだけど、いいかな?」
「えっ!?」
突然の提案に、あたしは目を丸くする。
しかし、渚真剣な眼差しを見ると断れなかった。
「わ、わかった……」
「ありがと。じゃあ電気消すね」
「うん……」
部屋の明かりを落とすと、お互いの顔がよく見えなくなった。
暗闇の中で目が慣れるまで待っていると、不意打ちで唇を奪われる。
キスをしている間にも、渚の手はあたしのパジャマの中に入り込んできた。
渚ってこんなに積極的だったっけ。
普段とは違う雰囲気を感じながら、あたしは身を委ねることにした。
こうして、あたしたちの新しい生活が始まった。
「はい、これ。あげる」
「えっ……?」
休日、渚の部屋に行くと唐突に手渡された。
小さな箱に入ったそれを見つめていると、彼女は頬を赤く染めながら言った。
「開けてみて?」
言われるままにあたしは包装紙を取り去り、中身を取り出した。
それは銀色に輝く指輪で……
「婚約指輪。本当はもっと早く渡したかったけど、なかなかタイミング掴めなくて」
はにかみながらも渚は話を続ける。
「私と結婚してください」
あたしの手を取ると、渚は薬指にそっと指輪を嵌めた。
サイズはピッタリで、まるであつらえたかのように違和感がない。
まさかこんな素敵なものを貰えるとは思っていなかったので、あたしは涙目になった。
嬉しい。幸せすぎてどうにかなりそうだ。
あたしは返事をする代わりに、渚に抱きついた。
すると、渚も優しく抱きしめ返してくれる。
「嬉しい……大好きだよ、渚」
「私も花恋ちゃんが好き」
そうしてしばらく抱きしめ合った後、あたしたちは自然と顔を寄せ合い、唇を重ねた。
触れ合うだけの軽いものだけど、それだけでも充分に幸せだと感じた。
「愛してる、花恋ちゃん」
「あたしも……愛してる。ずっとずっと一緒だからね?」
「もちろん。死ぬまでずっと一緒にいよう?」
「うん!」
あたしたちはもう一度だけキスをして、お互いに笑いあった。
「そうなんですよ! といってもパートナーシップなんですけどね。ついに嫩せんぱ……いえ、嫩と家族になるんです!」
「へぇ……それはいいですね」
あたしはとあるカフェで高宮先輩とコーヒーを飲みながら喋っていた。
高宮先輩が渡島先輩にゾッコンなのは知っていたけど、まさかもうそこまで発展しているとは。
幸せそうで羨ましい。
あたしも恋人はいるけど、まだ結婚の話は出ていない。
「ところで、今日はその報告をするためにあたしを呼んだってことですか?」
「えーっと……まあそんな感じですね」
高宮先輩は照れくさそうに頬をかく。
この人は本当に可愛らしい人だ。
きっと渡島先輩もこういうところに惹かれたのだろう。
「おめでとうございます。これからもお幸せに」
「ありがとうございます! あ、そうだ。今度は花恋さんのこと聞かせてくださいよ」
「はい? いや、あたしのことなんていいですよ。特に代わり映えしないし」
「ぜひ聞かせてください」
「うーん……そこまで言うなら……」
それからしばらく、あたしたちはお互いの恋人について語り合った。
お互いに相手の惚気を聞いて恥ずかしくなったりして、とても楽しい時間だった。
高宮先輩とは同じ職場で同じ職業だけど、あまりこういう深い話をしていない。
だからとても新鮮だった。
高宮先輩とのお茶会を終えた後、駅に向かって歩いているとちょうど渚を見かけた。
隣には綺麗なお姉様がいる。
その人は白のニットワンピースを着ていて、長い黒髪をハーフアップにしている。
足が長くてスタイルがよく、モデルのような体型をしている女性だ。
その人と渚は何やら楽しげに会話をしていた。
「あれ…………あの女の人……どこかで見たような気がするんだけど……どこで会ったんだっけ……」
どうにも思い出せない。
だれなんだろうか。
それにしても、あんな美人な人と渚はどんな関係なんだろう。
だれなのかより、どんな関係なのかの方が気になる。
答えによっては渚とその人を血祭りにあげなくては……
「あぁ! 思い出した!」
あたしは思わず大きな声を出してしまい、通行人の視線を集めてしまった。
ヤバい。
こんなところで大声を出すとかなに考えてるんだろう。
あたしはすぐにその場を離れようと早歩きになったのだが、なぜか後ろから追いかけてくる気配を感じた。
「待って、花恋ちゃん!」
「え、な、渚!? なんで追いかけてくるの!?」
「ちょっと話があるの! お願い! 止まって!」
あたしは慌てて逃げようとしたが、腕を強く掴まれてしまう。
振り向くと、そこには必死の形相をした渚がいた。
女子校の王子様だった頃とはすっかり変わって、今では髪を伸ばしている。
前よりも大人っぽくなって綺麗になった。
でも、今はそんなことどうだっていい。
一体なにがあったのかと聞こうとした時、後ろから先ほど見かけた女性がやってきた。
彼女は少し息を切らせながらあたしの前に立つ。
そしてあたし顔を見て言った。
「やっと見つけたわ。ずっと探していたのよ」
「……あなたは」
「あら、忘れちゃった? ひどいじゃない」
女性は口元に手を当ててクスリと笑う。
その仕草はとても色っぽい。
なんだか妖艶な雰囲気の女性だと思った。
彼女はあたしのことをじっと見つめると、すぐに笑顔を浮かべた。
「久しぶりね」
「もしかして……渡島先輩?」
渡島先輩に遮られた言葉の続きをつぶやく。
思い出した。この優しそうな笑顔に色っぽい雰囲気、そして綺麗な声。
高宮先輩の恋人……いや、家族の渡島嫩先輩だ。
高校生の時はショートカットだったけど、渡島先輩も渚と同じようにロングヘアになっていてすぐにはわからなかった。
まさか本当に渡島先輩だとは。
高校生の時も大人っぽいと思っていたけど、大人になってからはさらに色気が増している。
どうなっているんだ。
しかも、なぜ渚と一緒にいたのか。
疑問だらけである。
「……どういうことですか? 説明してくれますよね」
「もちろんよ」
あたしが睨むように見上げると、渡島先輩は余裕たっぷりの顔で笑みを深めた。
あたしは今、渡島先輩に連れられて近くの喫茶店に来ていた。
さっきもここで高宮先輩と喋ってたんだけど。
しかも、一緒に来ている渚はなにも言ってくれない。
「それで? どうして渚と一緒にいたんですか? 渚はあたしのなんですけど」
「もう、そんなんじゃないってば」
「じゃあどんな関係なんですか」
「まあまあ落ち着いてよ」
「これが落ち着けるわけがないでしょう」
「花恋ちゃん……」
あたしの隣で渚が小さく名前を呼ぶ。
まるで子犬みたいな目だ。
あたしはため息をつくと、仕方なく席に着いた。
とりあえず話を聞かないことには始まらない。
「で? どういうことです?」
「実はね、渚ちゃんに相談してたのよ」
「相談?」
渚と渡島先輩には接点なんてなかったはずだ。
なのに、いったいなんで渚に相談なんかするんだろう。
というか、なにを相談したのだろう。
まさか……浮気とか……?
いやいや、まさかね。
渚はあたし一筋だし、渡島先輩は高宮先輩一筋だ。
そんなことあるわけがない。
「沙織ちゃんが可愛いって話♡」
「……は?」
あたしの聞き間違いだろうか。
今、ものすごく意味不明なことを言われた気がする。
はにかみながら照れくさそうにする渡島先輩を見て、あたしは眉間にシワを寄せて首を傾げた。
「えと……つまり、惚気話を……?」
「そうよ。私たち職場が同じだからつい、ね」
「同じ職場……えっ!? 渡島先輩も渚と同じ看護師なんですか!?」
「あれ、知らなかったの?」
渡島先輩はすごく驚いている。
きっと渚からすでに聞いているもんだと思っていたのだろう。
あたしはまったくそんな話を聞いていない。
渡島先輩と渚が知り合いだということにも気づかなかったのに。
まさか渡島先輩が渚の同業者だったとは……まあ、イメージ通りではあるけど。
元王子様の渚とふわふわで優しい渡島先輩は、正反対なようでどこか似ている。
容姿は違うが、性格は同じように思える。
「というか、なんでそんな話になったんですか」
「それは……」
渡島先輩は言葉を濁らせると、チラリとあたしの隣にいる渚を見た。
彼女は視線に気づいて苦笑いをする。
「あのね、花恋ちゃん。私たちは今付き合ってるでしょ?」
「うん」
「そして、ここにいる渡島先輩も高宮さんとパートナーシップを結んだ」
「うん」
「だからまあなんていうか……自然とそんな話に?」
「あー……うん、大体わかった」
要は恋人がいる女子が集まれば自然と恋バナになる、ということだ。
その流れで惚気話が盛り上がったのだろう。
浮気というわけじゃなくてよかったけど、渚があたしをどんな目で見てくれているのかという疑問で頭がいっぱいになってしまった。
「それじゃ、誤解が解けたところで私はそろそろ沙織ちゃんの元へ向かうわね」
「あ、あの……」
「ん?」
引き止めるのもどうかと思ったけど、これだけは言っておきたかった。
「また……会えますよね?」
渡島先輩は一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに嬉しそうな笑顔になって言った。
「もちろん。また会いましょう」
笑顔を浮かべると、渡島先輩はそのまま喫茶店を出ていった。
先輩だからなのか、お金をあたしたちの分まで払ってくれて。
「ふぅ……いや、渡島先輩と話してると自分を保てなくなるような錯覚に陥るよ」
「ははっ、さすが聖女っぽいだけはあるよね。吸血鬼な花恋ちゃんにはつらかったかな?」
「……冗談言ってないであたしたちも帰ろ」
店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
あたしは渚の手を握ると、家に向かって歩き出した。
隣で歩いている渚は、まだなにか言いたげな様子でモジモジしている。
「どうしたの?」
「あー……えっと、私……花恋ちゃんのこと大好きだよ」
「うん、あたしも大好きだよ?」
急に告白された。
けど、あたしたちは昔からずっと付き合っているのだから、今更告白されただけでドキドキしたりはしない。
なんの話だろうと首を傾げると、渚は困ったように笑う。
「だから……花恋ちゃんもさ、昔言ってたじゃん。『渚のお嫁さんになる』って」
「ああ……そういえばそんなこと言ったね。今も思ってるけど」
幼い時からずっと思っていたことだった。
結婚するとしたら、相手は渚しかいないと思っている。
渚以外に考えられないのだ。
「だから、渡島先輩たちに感化されたってわけじゃないけど……私たちも結婚しない?」
あたしは小さい頃からずっと、渚と結婚できると信じていた。
そして今、あたしの夢が叶おうとしている。
あたしは思わず笑みをこぼした。
「こんな街中で、しかも指輪とかなくプロポーズされるとは思わなかったなぁ」
「えっ、ご、ごめん! 今言わなきゃいけないような気がして……」
「冗談だよ」
慌てて謝る渚を見て、あたしはクスッと微笑んだ。
別に嫌だとは言っていない。
ただ、予想していなかった展開だっただけだ。
だってそうでしょう?
いきなり結婚しようと言われたって実感が湧かない。
でも……嬉しい。すごく幸せだ。
「喜んでお受けします」
「本当に!?」
「嘘ついてどーすんの。あたしは渚と一生一緒にいるよ」
嬉しくて、あたしは渚に抱きついた。
渚もまたあたしを抱きしめてくれる。
「ありがとう……私も花恋ちゃんとずっと一緒にいたい」
「えへへ、渚にそういうこと言ってもらえるなんて嬉しいなぁ」
渚と付き合うことになって、もう何年も経っている。
それでもいまだに渚はあたしのことを好きでいてくれた。
それがすごく嬉しかった。
あたしは渚から身体を離すと、彼女の手をギュッと握る。
そして、今までの気持ちを伝えるために口を開いた。
「あたしも……渚が大好きです。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ!」
お互いに頭を下げると、なんだかおかしくなって二人とも吹き出してしまった。
そのあと、家に帰ってからはいつも通りだった。
夕飯を食べて、テレビを見たりゲームをしたり。
いつも渚としていることだ。
そして夜になり、二人でベッドに入る。
「ねえ、花恋ちゃん」
「ん?」
「今日は……その……したい気分なんだけど、いいかな?」
「えっ!?」
突然の提案に、あたしは目を丸くする。
しかし、渚真剣な眼差しを見ると断れなかった。
「わ、わかった……」
「ありがと。じゃあ電気消すね」
「うん……」
部屋の明かりを落とすと、お互いの顔がよく見えなくなった。
暗闇の中で目が慣れるまで待っていると、不意打ちで唇を奪われる。
キスをしている間にも、渚の手はあたしのパジャマの中に入り込んできた。
渚ってこんなに積極的だったっけ。
普段とは違う雰囲気を感じながら、あたしは身を委ねることにした。
こうして、あたしたちの新しい生活が始まった。
「はい、これ。あげる」
「えっ……?」
休日、渚の部屋に行くと唐突に手渡された。
小さな箱に入ったそれを見つめていると、彼女は頬を赤く染めながら言った。
「開けてみて?」
言われるままにあたしは包装紙を取り去り、中身を取り出した。
それは銀色に輝く指輪で……
「婚約指輪。本当はもっと早く渡したかったけど、なかなかタイミング掴めなくて」
はにかみながらも渚は話を続ける。
「私と結婚してください」
あたしの手を取ると、渚は薬指にそっと指輪を嵌めた。
サイズはピッタリで、まるであつらえたかのように違和感がない。
まさかこんな素敵なものを貰えるとは思っていなかったので、あたしは涙目になった。
嬉しい。幸せすぎてどうにかなりそうだ。
あたしは返事をする代わりに、渚に抱きついた。
すると、渚も優しく抱きしめ返してくれる。
「嬉しい……大好きだよ、渚」
「私も花恋ちゃんが好き」
そうしてしばらく抱きしめ合った後、あたしたちは自然と顔を寄せ合い、唇を重ねた。
触れ合うだけの軽いものだけど、それだけでも充分に幸せだと感じた。
「愛してる、花恋ちゃん」
「あたしも……愛してる。ずっとずっと一緒だからね?」
「もちろん。死ぬまでずっと一緒にいよう?」
「うん!」
あたしたちはもう一度だけキスをして、お互いに笑いあった。
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