1 / 1
子どもの約束
しおりを挟む
わたしは、何も知らない子どもだった。
「ねぇねぇ、おっきくなったら結婚しようよ!」
「うん! もちろん! 約束だよ?」
「うん! 約束!」
わたしが幼稚園にかよっていたとき、幼なじみのゆりあとそんな約束をした。
わたしはその時、結婚の意味も、その約束の重要さも……何もわかっていなかった。
わたしは、小学五年生になった。五年生になっても、わたしのそばにはゆりあがいる。
「ねぇりり、今日も手つないで帰ろうよ」
「えー? 恥ずかしいよ……」
帰りの会が終わり、みんなそれぞれ自由にすごしている。すぐ教室から出ていく子や先生とおしゃべりする子、机を向かいあわせて腕相撲をしあっている子たちがいる。そんななか、ゆりあは笑顔でわたしに手をさしだしてきた。
「いいじゃん、いつもつないでるんだから」
「それって家の近くでだけじゃん。ここ教室だし……」
「大丈夫だって。幼稚園の子はみんな手つないでるんだし」
「え……それってなんか違うような……」
幼稚園という言葉が出て、わたしは心の中で少しビクッとした。あの約束のことを、今でも覚えているから。ゆりあはどうなのかわからないけど、わたしは本気で信じている。
でも、うすうすわかっている。その約束は、他の人にはあまり理解されないってことを。それでも、わたしはゆりあのことが……
「おーい、どうしたの?」
わたしがいろいろ考えこんでいたら、ゆりあはわたしの顔の前で手をふった。 その手の動きと声で、わたしの意識はここに戻ってきた。
「なんでもないよ」
そう笑って、わたしから手をつないだ。ゆりあは最初すごくおどろいたような顔をしていたけど、すぐに笑い返してくれた。
わたしはこの時間が永遠に続けばいいと思った。ゆりあと手をつないでいるだけで、自分が最強になった気分になれる。今ならなんでもできそう!
「ずいぶん仲良そうね」
でも、その一言でわたしはどん底につき落とされたような感じがした。さっきまではなんでもできそうだったのに、今は息をすることすら難しくなってしまった。
「……くろえ、なんか用?」
ゆりあがその子の名前を口にする。くろえは、わたしたちと同じクラスの女の子で、みんなのリーダー的な存在。みんなからはすごく信頼されているけど、わたしはくろえが苦手だった。言いたいことはズバズバ言うし、わたしのことをあまりよく思っていないようだから。
「なんか用って、つめたいわね。せっかくあたしも一緒に帰ってあげようと思っていたのに」
「わたしはりりと一緒に帰りたいの。悪いけどまた今度にして」
ゆりあは不機嫌そうに言うと、わたしの手をひいてさっさと去ろうとする。だけど、くろえはそれを許さなかった。くろえもどこか機嫌がわるそうに、いつもより低めの声でつぶやいた。
「あなたたちの約束、バラしてもいいのよ?」
わたしは体が凍りついたように動けなくなった。それはゆりあも同じようで、足がピタリと動かなくなっている。そんなわたしたちの様子を見て、くろえは心の底から楽しそうな笑顔を浮かべる。
実はくろえとも幼稚園が同じで、よく三人で遊んでいた仲でもある。だけど、わたしたちの約束を見てから、くろえはわたしたちと距離をおくようになった。それと同時に、わたしにだけきつい目線を送るようにもなっていた。
わたしは、くろえのことを何も知らない。わたしたちをさけるようになったのも、わたしにだけ怒ったような表情を向けてくることも。なんでわたしたちが手をつないでいるときに悲しそうな顔をするのかも、何もわからない。
だけど、これだけはわかる。わたしたちは、何も間違ったことをしていない。ただ好きな人と一緒にいるだけだ。
「ご、ごめんね、くろえ。くろえがどうしてそんなにわたしを嫌うのかわからない。でも、わたしはゆりあが好き。その気持ちに嘘はない。だ、だから、その……」
「わたしたちの約束、バラしてもいいよ。どうせみんな本気にしないだろうし」
わたしが言葉につまると、ゆりあが言葉を続けてくれた。そして、ゆりあはわたしの顔をチラッと見ると、わたしの手をひいていきなり走りだした。はじめはおどろいたけど、途中から楽しくなって、わたしは笑いながら話しかけた。
「楽しいね、ゆりあ」
すると、すかさずゆりあも「そうだね、りり」と言って笑い返してくれた。ゆりあとなら、どこへだって行けそうな気がした。わたしは気持ちがまいあがって、気がついたらゆりあにずっと聞きたかったことを聞いていた。
「ゆりあも、あの約束覚えててくれてたんだね」
「まあね。けっこう本気だったし。あ、今もだけど」
「そっか。わたしも本気だよ。それが難しいってことはわかってるんだけどさ」
女の人同士の結婚は、いろいろと難しい問題がある。それがわかるほどには大人になってきたのだろうと思う。ずっと、早く大人になってゆりあと結婚したいと思っていたけど、大人になるというのは必ずしもいいことばかりではないようだ。
だけど、ゆりあの気持ちを再確認できたのはよかった。もしゆりあが約束を忘れていたりしたら、わたしはどうなっていただろう。今でもゆりあのそばにいただろうか。
「それならさ、わたしたちのきずながいかに強いか証明しちゃおうよ!」
「え? そんなことできるの?」
「もちろん! 結婚できる年になるまでその約束を覚えてて、その時に二人だけの結婚式をするの!」
「な、なるほど……」
それは、二人だけの証明。二人にしかわからない証明。そのひびきに、わたしは惹かれた。
「うん、いいね。すごくいい!」
さあ、わたしたちが約束を果たせる日がくるまで、あとどれくらいかかるだろう。わたしは今から、その日が待ち遠しくなった。
「ねぇねぇ、おっきくなったら結婚しようよ!」
「うん! もちろん! 約束だよ?」
「うん! 約束!」
わたしが幼稚園にかよっていたとき、幼なじみのゆりあとそんな約束をした。
わたしはその時、結婚の意味も、その約束の重要さも……何もわかっていなかった。
わたしは、小学五年生になった。五年生になっても、わたしのそばにはゆりあがいる。
「ねぇりり、今日も手つないで帰ろうよ」
「えー? 恥ずかしいよ……」
帰りの会が終わり、みんなそれぞれ自由にすごしている。すぐ教室から出ていく子や先生とおしゃべりする子、机を向かいあわせて腕相撲をしあっている子たちがいる。そんななか、ゆりあは笑顔でわたしに手をさしだしてきた。
「いいじゃん、いつもつないでるんだから」
「それって家の近くでだけじゃん。ここ教室だし……」
「大丈夫だって。幼稚園の子はみんな手つないでるんだし」
「え……それってなんか違うような……」
幼稚園という言葉が出て、わたしは心の中で少しビクッとした。あの約束のことを、今でも覚えているから。ゆりあはどうなのかわからないけど、わたしは本気で信じている。
でも、うすうすわかっている。その約束は、他の人にはあまり理解されないってことを。それでも、わたしはゆりあのことが……
「おーい、どうしたの?」
わたしがいろいろ考えこんでいたら、ゆりあはわたしの顔の前で手をふった。 その手の動きと声で、わたしの意識はここに戻ってきた。
「なんでもないよ」
そう笑って、わたしから手をつないだ。ゆりあは最初すごくおどろいたような顔をしていたけど、すぐに笑い返してくれた。
わたしはこの時間が永遠に続けばいいと思った。ゆりあと手をつないでいるだけで、自分が最強になった気分になれる。今ならなんでもできそう!
「ずいぶん仲良そうね」
でも、その一言でわたしはどん底につき落とされたような感じがした。さっきまではなんでもできそうだったのに、今は息をすることすら難しくなってしまった。
「……くろえ、なんか用?」
ゆりあがその子の名前を口にする。くろえは、わたしたちと同じクラスの女の子で、みんなのリーダー的な存在。みんなからはすごく信頼されているけど、わたしはくろえが苦手だった。言いたいことはズバズバ言うし、わたしのことをあまりよく思っていないようだから。
「なんか用って、つめたいわね。せっかくあたしも一緒に帰ってあげようと思っていたのに」
「わたしはりりと一緒に帰りたいの。悪いけどまた今度にして」
ゆりあは不機嫌そうに言うと、わたしの手をひいてさっさと去ろうとする。だけど、くろえはそれを許さなかった。くろえもどこか機嫌がわるそうに、いつもより低めの声でつぶやいた。
「あなたたちの約束、バラしてもいいのよ?」
わたしは体が凍りついたように動けなくなった。それはゆりあも同じようで、足がピタリと動かなくなっている。そんなわたしたちの様子を見て、くろえは心の底から楽しそうな笑顔を浮かべる。
実はくろえとも幼稚園が同じで、よく三人で遊んでいた仲でもある。だけど、わたしたちの約束を見てから、くろえはわたしたちと距離をおくようになった。それと同時に、わたしにだけきつい目線を送るようにもなっていた。
わたしは、くろえのことを何も知らない。わたしたちをさけるようになったのも、わたしにだけ怒ったような表情を向けてくることも。なんでわたしたちが手をつないでいるときに悲しそうな顔をするのかも、何もわからない。
だけど、これだけはわかる。わたしたちは、何も間違ったことをしていない。ただ好きな人と一緒にいるだけだ。
「ご、ごめんね、くろえ。くろえがどうしてそんなにわたしを嫌うのかわからない。でも、わたしはゆりあが好き。その気持ちに嘘はない。だ、だから、その……」
「わたしたちの約束、バラしてもいいよ。どうせみんな本気にしないだろうし」
わたしが言葉につまると、ゆりあが言葉を続けてくれた。そして、ゆりあはわたしの顔をチラッと見ると、わたしの手をひいていきなり走りだした。はじめはおどろいたけど、途中から楽しくなって、わたしは笑いながら話しかけた。
「楽しいね、ゆりあ」
すると、すかさずゆりあも「そうだね、りり」と言って笑い返してくれた。ゆりあとなら、どこへだって行けそうな気がした。わたしは気持ちがまいあがって、気がついたらゆりあにずっと聞きたかったことを聞いていた。
「ゆりあも、あの約束覚えててくれてたんだね」
「まあね。けっこう本気だったし。あ、今もだけど」
「そっか。わたしも本気だよ。それが難しいってことはわかってるんだけどさ」
女の人同士の結婚は、いろいろと難しい問題がある。それがわかるほどには大人になってきたのだろうと思う。ずっと、早く大人になってゆりあと結婚したいと思っていたけど、大人になるというのは必ずしもいいことばかりではないようだ。
だけど、ゆりあの気持ちを再確認できたのはよかった。もしゆりあが約束を忘れていたりしたら、わたしはどうなっていただろう。今でもゆりあのそばにいただろうか。
「それならさ、わたしたちのきずながいかに強いか証明しちゃおうよ!」
「え? そんなことできるの?」
「もちろん! 結婚できる年になるまでその約束を覚えてて、その時に二人だけの結婚式をするの!」
「な、なるほど……」
それは、二人だけの証明。二人にしかわからない証明。そのひびきに、わたしは惹かれた。
「うん、いいね。すごくいい!」
さあ、わたしたちが約束を果たせる日がくるまで、あとどれくらいかかるだろう。わたしは今から、その日が待ち遠しくなった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで
猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。
※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。
※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。
※2026.1.5に完結しました! 修正中です。
【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。
しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。
そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。
そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
ぼくのだいじなヒーラー
もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。
遊んでほしくて駄々をこねただけなのに
怖い顔で怒っていたお母さん。
そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。
癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。
お子様向けの作品です
ひらがな表記です。
ぜひ読んでみてください。
イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる