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クエストの完了を見届けると、シンは眠るように目を閉じ、意識を失ってしまう。
ミアはそんなシンの姿を見つけると、死んでしまったのかと思い、急ぎサラを呼ぶとシンの回復を頼むが、シンが呼吸をしていることを確かめると安堵した。
その後、シン達三人はエリアから強制移動
させられると、地上に戻される。
ミアはシンを抱えながら、サラと共にダステルの村へと戻る。
眼に映る光景は、シンとミアが初めて村の様子を伺った時と同じだった。家屋は焼け崩れ、アンデッド達が徘徊していたダステルの村。しかし、あの時とは違い村には人の気配が戻り、倒れていた人々が‘次々に目を覚ましつつあった。
サラは急ぎ人々に駆け寄り言葉を交わすと嬉しそうにしている。シンとミアをマクブライド家まで案内し、シンを休ませる為、家の中を急ぎ片付けた。
暫くするという、家の物音に気付いたのか、サラの両親が家へと帰ってきた。二人の無事に、今まで抑えていた感情を露わにし、再会を喜ぶサラ。
どうやらサラの両親は意識を取り戻した後、村の人々の様子を見て回っていたようだった。
村の人々には、アンデッド化していた時の記憶はないようで、永い間村を襲われる悪夢を見続けていたのだという。
ミアとサラは、事の経緯を二人に話した。
マクブライド夫妻は、メアを実の子のように接していたので、彼が自分達の為に一人で悩み苦しんでいたことを知ると、戻らぬ彼の姿に悵然した。
村では一丸となり、瓦礫の片付けや、家の整理など、みんなで協力し合い作業をしていた。村の人々には恩人だからと止められたが、ミアもシンが目を覚ますまでの間、村の復興を手伝うことにした。
あれからシンは、丸々二日間眠り続けていた。シンの目覚めにサラが気づくと、外で復興の作業をしているミアを急ぎ呼びに行く。
ミアはシンの無事に安堵すると、あれからのことや、村の状況などの経緯を話した。
シンの怪我は綺麗に無くなっていた。どうやら大きな怪我をしても、こちらの世界では外見の治りは早いようだが、ダメージや疲労は直ぐには治らないようだった。その為、シンは戦闘後、あまりの疲労から気を失ってしまっていたということらしい。
シンの目覚めに、マクブライド夫妻や村の人々も喜んでくれた。村を救った英雄の帰還に、その夜、村総出でお祝いをしてくれることになり、豪華な料理や華やかさはないものの、皆で焚き火を囲い、歌って踊って楽しい時間を過ごした。
しかし、シンは心からは喜べずにいた。
村を救う為に努力し続けた一番の功労者であるメアの姿がここにないことに、本当にこれでよかったのかという気持ちが彼の中に渦巻いていた。
皆が盛り上がる中、少し離れた暗がりで、サラも同じような表情をしていた。
シンはサラに聞いた。
気休めかもしれないが、鉱山のダンジョンへ行ってみるかと。サラは立ち上がり、何をいうでもなく、シンの問いに強く頷いた。
二人は宴をこっそり抜け出すと、ダンジョンの入口へと向かった。
しかし、入口は瓦礫で塞がれており入れなくなっている。とてもじゃないが掘って進めるようなものでもなく、二人は村へ戻ろうとした。
そこへ何者かが近づいてくるかのような、足音が聞こえてくる。モンスターかと思いサラを手で自分の後ろへとやるシン。
しかし、そこへ姿を現したのは、二人の人影だった。一人は動かない様子で、それに肩を貸すようにもう一人が歩いてきた。
人影は、暗がりで何者か分からないくらいの位置で止まると、動かないもう一人をその場にゆっくりと下ろし、立ち去ろうとした。
「ま・・・待て、あんたは一体・・・?」
シンが立ち去る人影に声をかける。
しかし、人影は立ち止まり、振り向きはするものの、何も言わず、そのまま姿を消した。
シンとサラが、置き去りにされたもう一つの人影に近づくと、そこには二人のよく知る人物であり、向き合い対峙していた男の姿がそこにはあった。
「メア・・・なのか?」
「メアッ」
驚きの表情を浮かべるシンとは逆に、一目で彼がメアであると認識したサラは、直ぐに横たわる彼に駆け寄る。そして彼が生きていることを確認すると、少女は涙した。
「メア・・・! よかった、生きてる! メアが生きてるッ!」
戦いの中で最期に見た彼の姿のままではなかった。切り離された部位は元通りに治っており、外傷も綺麗に無くなっている。
まるで、村の人々と同じように、治っている。
シンはメアを背負い、サラと共に急ぎ村へと戻る。帰ってきた二人と、二度と帰らぬと思っていたメアの姿に人々は大いに喜んだ。
メアの帰還に宴は更に盛り上がった。
酒盛りに興じていたミアも、シンとサラに合流すると、マクブライド夫妻と共に、彼を帰るべき家へと送り届ける。
彼は安らかに眠っており、翌日にはめを覚ました。起き上がる彼に抱きつくサラと、それを止めるマーサさんの姿、そしてそれを微笑ましく眺めるハワードさんの光景は、正しく一つの家族の絵そのものだった。
暫しの再会を噛み締めると、サラとマクブライド夫妻は、村の復興作業へと戻っていった。
二日酔いで魘されながら眠るミアと、室内に残ったシンとメアは、漸く落ち着いた場で話をすることができた。
「俺は・・・何故生きているんだ・・・? 黒いコートの男にかけられた呪いによれば、俺に生き残る未来はなかったはず・・・。 それに研究室で全てを話してくれたあの男の交渉にも、俺の命は含まれていないと・・・」
「俺は・・・、俺は正直安心したよ。誰も不幸にならない形でクエストを完了したいと・・・思っていたから」
メアは意外そうな顔をする。
見ず知らずの人達の為に、どうしてそんな気持ちになってくれているのだろうと。
「考える時間も・・・、それを叶える力も俺にはなかったから。優先すべき・・・救える者だけを救うことを決断した・・・」
シンは宴の夜のことを思い出していた。
一人だけ、素直に喜べないでいた自分と、サラへの申し訳なさが、彼を複雑な気持ちにしていた。
「でも本当に良かったのか・・・正しい選択肢を俺は選べたのか・・・。サラの顔を見ると、そんなことばかりが頭の中を駆け回って、村の人達の無事を素直に喜べないでいた・・・」
メアは俯いて話すシンの顔をみながら、かつての自分と姿を重ねたのか、微笑ましく笑った。
「赤の他人にそんなことを思えるのは、お前が人の不幸を思い遣ることのできる”優しい心“を持っているからだよ・・・」
微笑みながら話すメアを、シンは不思議そうな顔で見る。そしてシンは思い出した。彼もまた村の人達の為に苦悩し決断してきたのだということを。
「そう・・・かな? そうだと・・・いいな」
シンは今までそんなことを考えたこともなかったし、そんな余裕もなく、ただ自分が生きていくことに精一杯だった。
そんな自分が”優しさ“を持っていると言われたことに、自分は変われたのかと考えていた。
「もし俺がそうならメア、君もきっとそうなんだろう。君の優しさがあったからこそ、村の人達は君を思い、ウルカノは信じ、サラは救おうとした・・・。 そんな彼らの思いを俺も見てきたから・・・、きっとその思いに報いる結果になったんじゃないかな?」
シンは、最初の彼の疑問に自分なりの考えを伝えた。
「戦いの最期のことを覚えているか・・・?君を最期に送り出したのは・・・サラだった。あんな危険な場所にまで来たのは、最期まで彼女は君を助けたかったからじゃないかな・・・。彼女が君の最期に選んだのが回復というスキルだったのも・・・そういう事なんだと思う。メアとサラの思いが奇跡を起こしたんだよ」
「奇跡か・・・、結局のところそういった言葉でしか説明できないな・・・」
二人とも、奇跡などという言葉を使うことに可笑しさを感じたが、不思議と悪い気分でもない。奇跡としか言えない出来事が、現に二人の前に起きたのだから。
「黒いコートの男達や、交渉しに来たコートの男については何か新しい情報はあったか?」
シンは今回の出来事の発端である者達や、事情を知る者の存在が少し気になった。
もしかしたら、自分やミアに起きたバグに、何か関わりがあるのかもしれない。
「いや・・・、あれ以来どっちも俺の前には現れなかった。 だが今回の一件は、この村だけの出来事とは考えづらいだろうな・・・。 シン、お前がこの先、世界を周っていくつもりなら用心した方がいい。 奴らは別の場所にも向かっている素ぶりだったからな・・・」
メアはシンを心配して言ってくれているのだろうが、シンの中では内心、新しい目的にもなった。勿論、無茶をするつもりはないが、自分の身に起きている異変の手掛かりになるかもしれない。
「・・・病人に少し喋らせ過ぎたかもしれないな・・・。 村の人達を手伝ってくるよ」
立ち上がり、部屋を後にしようとするシン。
「まだ・・・行かないのか?」
立ち去ろうとするシンに、上体を起こし呼び止める。
「まだ何があるか分からない・・・。 戦える者が村にいた方がいいだろう? メアが良くなるまでいるよ」
それを聞くと、メアは再度横になる。
「ふふ、それじゃぁ早く良くならないとな」
「無理しなくていいよ」
シンは笑いながら部屋を後にした。
メアの回復は早く、数日経たない内に召喚を行えるほどの元気を取り戻した。彼はウルカノを召喚すると、復興の手伝いと子供達の相手をさせる。
辛い出来事を乗り越え、また一丸となって歩き始めたダステル村の様子を見届けると、シンとミアも旅立ちの用意をした。
「もう行くのか・・・?」
随分と柔らかい表情をするようになったメア。最初に会った時とは全く別人の様だった。
「いつまでもお世話になりっぱなしも悪いからな。 村の皆さんも、ハワードさんもマーサさんも・・・ありがとうございました」
「お世話になったのはこっちの方だ・・・、ありがとう」
「また、いつでも帰っておいで。 今度はもっとマシな歓迎をしてあげるからね」
いろんな人達からいろんな労いの言葉を貰った。
「お姉ちゃん、また遊びに来てね」
「酒が出るならな」
「この呑んだくれ!」
復興の作業中、仲良くなった子供達を追いかけ回すミア。
「本当にありがとうございました。このご恩を私達は一生忘れません・・・」
改まったマクブライド夫妻のお礼の言葉に、シンは込み上げるものがあった。そして、そんなシンにトドメを刺したのはサラの言葉だった。
サラは今まであった辛かったことが報われたことに涙しながら、シンに言葉を贈る。
「村を助けてくれてありがとう。メアを助けてくれてありがとう。・・・私の話を聞いてくれて・・・ありがとう・・・」
言葉の最後の方は、声が震えていた。そんな彼女を優しく撫でるマーサさん。
「・・・私を助けてくれて、ありがとう。いっぱい・・・いーッぱいッ! ありがとう!!」
シンも、サラの受けていた境遇を知っているからこそ、堪え切ることができなかった。
「なんで二人とも泣いてるのー?」
「へんなのー」
子供達がシンとサラを見て笑い出す。
そんな光景を見て、つられて周りも笑い出す。
「そうだな・・・、変・・・だよな・・・」
和やかな雰囲気の中、シンとミアは村を後にする。きっとまた帰って来ようと心に誓いながら。
道中、馬車に乗るとミアがシンにハンカチを渡す。
「いつまでもメソメソするな、私が泣かしたと思われるだろ」
恥ずかしそうに、慣れないことをするミア。
「ごめん・・・。 俺さ・・・人に心からあんなに感謝されたこと・・・なくて・・・。 感謝されるってこんなに嬉しいことだったんだな・・・。 やってよかった・・・」
ミア自身も、今まで生きてきて、心からの感謝というものに触れたことがなかったからか、シンの言葉が重く彼女の心の中に残った。
そして彼女はシンに伝えた。
「私も・・・、君への態度を改めさせてもらうよ。君と共にこのクエストをできてよかった・・・。 いい事をするって気持ちがいいな」
人間に対して不信感を抱き、距離を取ろうとしていたミアに、シンとの出逢いは今までにない新鮮なものだった。
自分はただ”いい人間“に巡り会えて来れなかっただけで、シンのように感謝に対して嬉しさの涙を流せる者もいるのだということが、少しの後悔と新しい世界を魅せた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドアが開く音がする。
「ただいま」
食事の準備をしていた少女は、声の主が誰だか分かると、直ぐに出迎えに行く。
「メアだ! おかえりー!」
もうすぐ完成する料理を仕上げながら、少女にお皿を運ぶように伝える母親の声がする。
「サラー? もうちょっとだから手伝って」
「はーい」
メアは手洗いを済ませると食卓へ向かう。
「お待たせしました」
食卓には既に父親の姿があり、メアを迎える。
「おかえり。 さぁ、みんな揃ったからご飯にしようか」
料理を机に並べて席につく母親と少女。
「それじゃぁみんなで・・・」
「いただきます!」
ミアはそんなシンの姿を見つけると、死んでしまったのかと思い、急ぎサラを呼ぶとシンの回復を頼むが、シンが呼吸をしていることを確かめると安堵した。
その後、シン達三人はエリアから強制移動
させられると、地上に戻される。
ミアはシンを抱えながら、サラと共にダステルの村へと戻る。
眼に映る光景は、シンとミアが初めて村の様子を伺った時と同じだった。家屋は焼け崩れ、アンデッド達が徘徊していたダステルの村。しかし、あの時とは違い村には人の気配が戻り、倒れていた人々が‘次々に目を覚ましつつあった。
サラは急ぎ人々に駆け寄り言葉を交わすと嬉しそうにしている。シンとミアをマクブライド家まで案内し、シンを休ませる為、家の中を急ぎ片付けた。
暫くするという、家の物音に気付いたのか、サラの両親が家へと帰ってきた。二人の無事に、今まで抑えていた感情を露わにし、再会を喜ぶサラ。
どうやらサラの両親は意識を取り戻した後、村の人々の様子を見て回っていたようだった。
村の人々には、アンデッド化していた時の記憶はないようで、永い間村を襲われる悪夢を見続けていたのだという。
ミアとサラは、事の経緯を二人に話した。
マクブライド夫妻は、メアを実の子のように接していたので、彼が自分達の為に一人で悩み苦しんでいたことを知ると、戻らぬ彼の姿に悵然した。
村では一丸となり、瓦礫の片付けや、家の整理など、みんなで協力し合い作業をしていた。村の人々には恩人だからと止められたが、ミアもシンが目を覚ますまでの間、村の復興を手伝うことにした。
あれからシンは、丸々二日間眠り続けていた。シンの目覚めにサラが気づくと、外で復興の作業をしているミアを急ぎ呼びに行く。
ミアはシンの無事に安堵すると、あれからのことや、村の状況などの経緯を話した。
シンの怪我は綺麗に無くなっていた。どうやら大きな怪我をしても、こちらの世界では外見の治りは早いようだが、ダメージや疲労は直ぐには治らないようだった。その為、シンは戦闘後、あまりの疲労から気を失ってしまっていたということらしい。
シンの目覚めに、マクブライド夫妻や村の人々も喜んでくれた。村を救った英雄の帰還に、その夜、村総出でお祝いをしてくれることになり、豪華な料理や華やかさはないものの、皆で焚き火を囲い、歌って踊って楽しい時間を過ごした。
しかし、シンは心からは喜べずにいた。
村を救う為に努力し続けた一番の功労者であるメアの姿がここにないことに、本当にこれでよかったのかという気持ちが彼の中に渦巻いていた。
皆が盛り上がる中、少し離れた暗がりで、サラも同じような表情をしていた。
シンはサラに聞いた。
気休めかもしれないが、鉱山のダンジョンへ行ってみるかと。サラは立ち上がり、何をいうでもなく、シンの問いに強く頷いた。
二人は宴をこっそり抜け出すと、ダンジョンの入口へと向かった。
しかし、入口は瓦礫で塞がれており入れなくなっている。とてもじゃないが掘って進めるようなものでもなく、二人は村へ戻ろうとした。
そこへ何者かが近づいてくるかのような、足音が聞こえてくる。モンスターかと思いサラを手で自分の後ろへとやるシン。
しかし、そこへ姿を現したのは、二人の人影だった。一人は動かない様子で、それに肩を貸すようにもう一人が歩いてきた。
人影は、暗がりで何者か分からないくらいの位置で止まると、動かないもう一人をその場にゆっくりと下ろし、立ち去ろうとした。
「ま・・・待て、あんたは一体・・・?」
シンが立ち去る人影に声をかける。
しかし、人影は立ち止まり、振り向きはするものの、何も言わず、そのまま姿を消した。
シンとサラが、置き去りにされたもう一つの人影に近づくと、そこには二人のよく知る人物であり、向き合い対峙していた男の姿がそこにはあった。
「メア・・・なのか?」
「メアッ」
驚きの表情を浮かべるシンとは逆に、一目で彼がメアであると認識したサラは、直ぐに横たわる彼に駆け寄る。そして彼が生きていることを確認すると、少女は涙した。
「メア・・・! よかった、生きてる! メアが生きてるッ!」
戦いの中で最期に見た彼の姿のままではなかった。切り離された部位は元通りに治っており、外傷も綺麗に無くなっている。
まるで、村の人々と同じように、治っている。
シンはメアを背負い、サラと共に急ぎ村へと戻る。帰ってきた二人と、二度と帰らぬと思っていたメアの姿に人々は大いに喜んだ。
メアの帰還に宴は更に盛り上がった。
酒盛りに興じていたミアも、シンとサラに合流すると、マクブライド夫妻と共に、彼を帰るべき家へと送り届ける。
彼は安らかに眠っており、翌日にはめを覚ました。起き上がる彼に抱きつくサラと、それを止めるマーサさんの姿、そしてそれを微笑ましく眺めるハワードさんの光景は、正しく一つの家族の絵そのものだった。
暫しの再会を噛み締めると、サラとマクブライド夫妻は、村の復興作業へと戻っていった。
二日酔いで魘されながら眠るミアと、室内に残ったシンとメアは、漸く落ち着いた場で話をすることができた。
「俺は・・・何故生きているんだ・・・? 黒いコートの男にかけられた呪いによれば、俺に生き残る未来はなかったはず・・・。 それに研究室で全てを話してくれたあの男の交渉にも、俺の命は含まれていないと・・・」
「俺は・・・、俺は正直安心したよ。誰も不幸にならない形でクエストを完了したいと・・・思っていたから」
メアは意外そうな顔をする。
見ず知らずの人達の為に、どうしてそんな気持ちになってくれているのだろうと。
「考える時間も・・・、それを叶える力も俺にはなかったから。優先すべき・・・救える者だけを救うことを決断した・・・」
シンは宴の夜のことを思い出していた。
一人だけ、素直に喜べないでいた自分と、サラへの申し訳なさが、彼を複雑な気持ちにしていた。
「でも本当に良かったのか・・・正しい選択肢を俺は選べたのか・・・。サラの顔を見ると、そんなことばかりが頭の中を駆け回って、村の人達の無事を素直に喜べないでいた・・・」
メアは俯いて話すシンの顔をみながら、かつての自分と姿を重ねたのか、微笑ましく笑った。
「赤の他人にそんなことを思えるのは、お前が人の不幸を思い遣ることのできる”優しい心“を持っているからだよ・・・」
微笑みながら話すメアを、シンは不思議そうな顔で見る。そしてシンは思い出した。彼もまた村の人達の為に苦悩し決断してきたのだということを。
「そう・・・かな? そうだと・・・いいな」
シンは今までそんなことを考えたこともなかったし、そんな余裕もなく、ただ自分が生きていくことに精一杯だった。
そんな自分が”優しさ“を持っていると言われたことに、自分は変われたのかと考えていた。
「もし俺がそうならメア、君もきっとそうなんだろう。君の優しさがあったからこそ、村の人達は君を思い、ウルカノは信じ、サラは救おうとした・・・。 そんな彼らの思いを俺も見てきたから・・・、きっとその思いに報いる結果になったんじゃないかな?」
シンは、最初の彼の疑問に自分なりの考えを伝えた。
「戦いの最期のことを覚えているか・・・?君を最期に送り出したのは・・・サラだった。あんな危険な場所にまで来たのは、最期まで彼女は君を助けたかったからじゃないかな・・・。彼女が君の最期に選んだのが回復というスキルだったのも・・・そういう事なんだと思う。メアとサラの思いが奇跡を起こしたんだよ」
「奇跡か・・・、結局のところそういった言葉でしか説明できないな・・・」
二人とも、奇跡などという言葉を使うことに可笑しさを感じたが、不思議と悪い気分でもない。奇跡としか言えない出来事が、現に二人の前に起きたのだから。
「黒いコートの男達や、交渉しに来たコートの男については何か新しい情報はあったか?」
シンは今回の出来事の発端である者達や、事情を知る者の存在が少し気になった。
もしかしたら、自分やミアに起きたバグに、何か関わりがあるのかもしれない。
「いや・・・、あれ以来どっちも俺の前には現れなかった。 だが今回の一件は、この村だけの出来事とは考えづらいだろうな・・・。 シン、お前がこの先、世界を周っていくつもりなら用心した方がいい。 奴らは別の場所にも向かっている素ぶりだったからな・・・」
メアはシンを心配して言ってくれているのだろうが、シンの中では内心、新しい目的にもなった。勿論、無茶をするつもりはないが、自分の身に起きている異変の手掛かりになるかもしれない。
「・・・病人に少し喋らせ過ぎたかもしれないな・・・。 村の人達を手伝ってくるよ」
立ち上がり、部屋を後にしようとするシン。
「まだ・・・行かないのか?」
立ち去ろうとするシンに、上体を起こし呼び止める。
「まだ何があるか分からない・・・。 戦える者が村にいた方がいいだろう? メアが良くなるまでいるよ」
それを聞くと、メアは再度横になる。
「ふふ、それじゃぁ早く良くならないとな」
「無理しなくていいよ」
シンは笑いながら部屋を後にした。
メアの回復は早く、数日経たない内に召喚を行えるほどの元気を取り戻した。彼はウルカノを召喚すると、復興の手伝いと子供達の相手をさせる。
辛い出来事を乗り越え、また一丸となって歩き始めたダステル村の様子を見届けると、シンとミアも旅立ちの用意をした。
「もう行くのか・・・?」
随分と柔らかい表情をするようになったメア。最初に会った時とは全く別人の様だった。
「いつまでもお世話になりっぱなしも悪いからな。 村の皆さんも、ハワードさんもマーサさんも・・・ありがとうございました」
「お世話になったのはこっちの方だ・・・、ありがとう」
「また、いつでも帰っておいで。 今度はもっとマシな歓迎をしてあげるからね」
いろんな人達からいろんな労いの言葉を貰った。
「お姉ちゃん、また遊びに来てね」
「酒が出るならな」
「この呑んだくれ!」
復興の作業中、仲良くなった子供達を追いかけ回すミア。
「本当にありがとうございました。このご恩を私達は一生忘れません・・・」
改まったマクブライド夫妻のお礼の言葉に、シンは込み上げるものがあった。そして、そんなシンにトドメを刺したのはサラの言葉だった。
サラは今まであった辛かったことが報われたことに涙しながら、シンに言葉を贈る。
「村を助けてくれてありがとう。メアを助けてくれてありがとう。・・・私の話を聞いてくれて・・・ありがとう・・・」
言葉の最後の方は、声が震えていた。そんな彼女を優しく撫でるマーサさん。
「・・・私を助けてくれて、ありがとう。いっぱい・・・いーッぱいッ! ありがとう!!」
シンも、サラの受けていた境遇を知っているからこそ、堪え切ることができなかった。
「なんで二人とも泣いてるのー?」
「へんなのー」
子供達がシンとサラを見て笑い出す。
そんな光景を見て、つられて周りも笑い出す。
「そうだな・・・、変・・・だよな・・・」
和やかな雰囲気の中、シンとミアは村を後にする。きっとまた帰って来ようと心に誓いながら。
道中、馬車に乗るとミアがシンにハンカチを渡す。
「いつまでもメソメソするな、私が泣かしたと思われるだろ」
恥ずかしそうに、慣れないことをするミア。
「ごめん・・・。 俺さ・・・人に心からあんなに感謝されたこと・・・なくて・・・。 感謝されるってこんなに嬉しいことだったんだな・・・。 やってよかった・・・」
ミア自身も、今まで生きてきて、心からの感謝というものに触れたことがなかったからか、シンの言葉が重く彼女の心の中に残った。
そして彼女はシンに伝えた。
「私も・・・、君への態度を改めさせてもらうよ。君と共にこのクエストをできてよかった・・・。 いい事をするって気持ちがいいな」
人間に対して不信感を抱き、距離を取ろうとしていたミアに、シンとの出逢いは今までにない新鮮なものだった。
自分はただ”いい人間“に巡り会えて来れなかっただけで、シンのように感謝に対して嬉しさの涙を流せる者もいるのだということが、少しの後悔と新しい世界を魅せた。
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ドアが開く音がする。
「ただいま」
食事の準備をしていた少女は、声の主が誰だか分かると、直ぐに出迎えに行く。
「メアだ! おかえりー!」
もうすぐ完成する料理を仕上げながら、少女にお皿を運ぶように伝える母親の声がする。
「サラー? もうちょっとだから手伝って」
「はーい」
メアは手洗いを済ませると食卓へ向かう。
「お待たせしました」
食卓には既に父親の姿があり、メアを迎える。
「おかえり。 さぁ、みんな揃ったからご飯にしようか」
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「それじゃぁみんなで・・・」
「いただきます!」
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