World of Fantasia

神代 コウ

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降注ぐ恩寵の矢

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シャルロットが向かっているであろう城内に向かう、ミアとツクヨ。

聖都の敷地内では、先程まで戦っていたような上位のモンスターが未だに各地で暴れている。

そんな折り、二人の向かう先にモンスターの強襲に押されている一団が、視界に入る。

「チッ! 急いでいるんだがな・・・」

「それでも、危険に晒されてる人は放って置けないッ! ミア、助けよう!」

ミアは仕方がないという様子で、走りながら銃に弾を込める。

モンスターの攻撃が女性に当たろうかというところで、ミアの放った銃弾がその攻撃を弾く。

「・・・ッ!?」

「銃弾・・・? あッ! ミアさん! 助かったっス!」

モンスターに襲われていたのは、ミアを聖都の城門まで案内してくれたナーゲルと、ルーフェン・ヴォルフの一行だった。

「ナーゲル!? 何でアンタがここに・・・? 聖都へは入らなかったんじゃないのか?」

「緊急事態っスからね・・・。 そんな場合じゃないってやつっス! それにアジトへの通路が軒並み進入不可になってるんスよ・・・」

困った様子のナーゲルに、先程助けた女性が申し訳なさそうに謝る。

「ごめんなさいッ! 私達があんな物を使おうとしたばかりに・・・。 まさかこんな事になるなんて・・・」

「どういうことだ・・・?」

事情を知らないミアが、その女性に問いかけると、ナーゲルが彼女を庇うように話し始める。

「何言ってるんスか、ナーゼさん達は自分達、組織の活動や国のためを想ってやってくれたことなんスから、気にする必要はないっス! 悪いのはそれを悪用した奴なんスから!」

「ナーゲル。 一体何が起きてるんだ? 説明してくれ」

どうやらこの女性は、ナーゼというルーフェン・ヴォルフの幹部だという。

他の組織の隊員がモンスターを食い止めている間に、怪我を負ったナーゼを安全な所に移動させるミア達。

「ミアッ! 私は彼らとモンスターを抑える」

ミアが頷くのを確認すると、ツクヨは剣を構えモンスターに向かっていった。

ナーゼを抱え、ナーゲルは少し困った表情で答える。

「自分も全部を知ってる訳じゃないんス・・・。 ただ、ナーゼさん達が他国から仕入れた移動ポータルを作るアイテムがあるんスけど、それが突然稼働し始めて、モンスターが国中に入って来てるみたいで・・・」

ナーゲルの話を聞いて、ミアは疑問に思うことがあった。

この異常が起きた世界ではどうか分からないが、ミアの知る限り、WoFではアイテムというのは、誰かが使って始めて効果を発揮するものだった。

それは例え人間ではなくとも、野生動物やモンスターの接触などによって発動するアイテムもあるが、移動ポータルを作るというような高度なアイテムは、人間の手によってでないと発動しない。

「待ってくれ。 アイテムが誤作動で稼働したのか? それとも・・・誰かが・・・?」

ミアの言葉にナーゲルは頷く。

「ミアさんの思っている通り・・・だと思うっス。 誰かがアイテムを使ってモンスターを招き入れた可能性があるっス。 それに・・・実はモンスターだけじゃないんスよ・・・。実際、こっちの方が問題で・・・」

表情の曇るナーゲルに、問いただすようで申し訳ないと思いつつも、ミアは知らないその“何か”が気になってしまう。

「何だ、モンスターの他に何かあったのか?」

「・・・毒っス。 それもアジトの階段付近に撒かれていて、中にいた人達はみんな毒に侵されて・・・倒れていったっス・・・。 自分達はちょうど外にいたから助かったっスけど、毒のせいでアジトに入ることも出ることも出来ない状態になってるっス・・・」

「それは・・・アジトに通じる出入り口、全てに起こっているのか?」

ミアの問いに、ナーゲルは頷く。

もしそれが本当だとするならば、甚大な被害になることは免れないだろう。

アジトはそもそも、聖都ユスティーチ国内の地下にある張り巡らされているため、それを全て封鎖され、地下通路に充満しているとなれば、中にいた者達はひとたまりもない。

「ミアさんッ! 自分・・・聞いたっス。 ミアさんは錬金術士なんスよねッ!? なら解毒薬とか何か作れないっスか!? みんなを・・・助けて欲しいっス・・・」

あんなに明るかったナーゲルの、今にも泣き出しそうな震え声に、ミアは胸を痛める。

どんな毒性を持った毒なのかも分からなければ、彼の話を聞く限り、何とか地下から這い出てきた人達も倒れていってるという。

騒動が起きてからそれ程時間は経っていない、それでも既に倒れている、彼は言葉を濁したが、恐らく死んでいるということから、速効性のある毒だとミアは推測した。

「誰に聞いたか知らないが、・・・すまない、状態を見てみない限りは何とも言えない。 それに・・・解毒できる可能性は低いと思う。 だから・・・期待はしないでくれ」

ミアは濁さず、ありのままをナーゲルに伝える。

それが彼らのためでもあり、他ならぬミアのためでもあったからだ。

不用意に安心させるよな言葉をかけるのは、時として人の激しい恨みを買うことになる。

思わず漏れる小さな呻き声をグッと堪え、ナーゲルは再び力強い瞳へと戻る。

「そうっスね・・・。 今はただ、今出来ることをするのが先決っスもんねッ! まだ助けを待つ人達のためにッ・・・スねッ!」

彼の心を強く持とうという意志に、ミアの気持ちも鼓舞されてかのように勇気づけられる。

「ミアッ! 話は済んだか!? 悪いけど手を貸してくれると助かるッ・・・!」

モンスターを抑えていた隊員とツクヨが、押されだした。

ミア達が最初に戦ったモンスターもそうだったが、モンスター自体のレベルが高く、どうしても複数人でなければまともに戦う事すら出来ない状況だった。

「自分達も戦うっス! ナーゼさんッ! 近くに人の気配はないっスか? 出来る限り纏まって戦った方が良いと思うっス!」

ナーゼは広範囲に渡り、生き物の香りを探知することができ、範囲内であればどこに何人、どれくらいの戦闘力を持った者であるかを探ることができる。

「少し前まであった小さな気配は、既に私の範囲を出たわ。 街の人達、上手く避難できたみたいね。 ・・・良かった」

避難しているであろう人々の安否を確認し、無事逃げられたと知り、ホッと胸をなでおろすナーゼが、次に探知したのは、避難した人々とは逆に、こちらへ向かってくる気配だった。

「何か・・・強い力を持った人が、こっちに向かって来てるッ!」

「“人”なんスねッ!? 良かった。 援軍がくるっス!」

気配の存在が人であることを知ると、ナーゲルは援軍だと安心したが、ナーゼはその気配に何か違和感を感じていた。

「でもおかしい・・・。 凄いスピードでこっちに向かって来てるわ。これは・・・“人”の動きなの・・・?」


その時、上空から強い光が放たれると、空から無数の光の矢が降り注ぎ、まるで砲撃でもされているのかと疑う程の衝撃が無数に走る。

モンスターはいくつものの光の矢に貫かれ、声を上げることも出来ず粉砕された。

「すっすげぇ・・・」
「これは一体・・・」
「こんなことが出来るのは、聖騎士隊の隊長クラス以外に考えられない!」
「助かったぁー・・・」

隊員達は、安堵する。

ツクヨも唖然とした後、剣をしまうとミアの元へと歩き出す。





しかし・・・。





ツクヨの表情が急変し、ミアの元へと何かを叫びながら走り出す。

ミアは、急なことで何を言ってるのか分からなかった。

ナーゲルは、次第に明るさを増してくる空の光に、顔を上げる。

彼は目を見開き、咄嗟に頭を抱えながら、前方へと身を投げ出す。

少し遅れて、ミアも空を見上げてみると、今度は数本の棒状の光が、こちらに向かって降ってくる。

光が何なのか、何を狙って降ってきているのかは分からなかった。

ツクヨがミアの元にたどり着くと、走る勢いのまま彼女に飛びかかり、地面へと押し倒した。

それと同時に、数本の光が地面へと突き刺さるのが見えた。


ミアは上体を起こすと、目に入ってきた光景に言葉を失う。





降ってきた光は、ルーフェン・ヴォルフの隊員達の身体に突き刺さると、まるで串刺しにされたかのように固定され、動かなくなっていた。

嫌な予感を背筋に感じたミアは、ゆっくりと後ろを振り返る。






「ナーーーーーゼぇぇぇーーーッ!!」


ナーゲルの悲痛の叫びが、辺り一帯に響き渡る。

ナーゼも隊員達と同じく、光に貫かれ、串刺しの状態で立ったまま固定されていた。

「ぁ・・・あぁ・・・、ナ・・・ゲル・・・」

凄惨な状態にも関わらず、貫かれた者達は誰一人血を流しておらず、身体に損傷も見当たらない。

ただ、皆一様に魂を抜かれた人形のように身体がそこにあるだけだった。

特殊なスキルを持ち合わせていたナーゼだけが、何とか意識を保っているが、それも時間の問題だろう。

瞳から徐々に生気が失われていき、虚ろになっていく。

「ナーゼッ! ダメだッ!! しっかりッ!! ・・・ナーゼッ!!!」

ナーゲルのかける言葉も虚しく、彼女の生命はそこで事切れた。

一体何事なのかと、辺りを見渡すミア。

すると、ある街並みの一角にだけ、スポットライトのように優しい光が降り注いでいるところがある。

羽のようなものがヒラヒラと舞い、そして光を一身に受け、地に降り立った羽を生やした白銀の甲冑姿の人がそこにいた。

そしてゆっくりと立ち上がると、背を向けたまま、その人物は語りかけてきた。

「神の元へ御身を贈って差し上げようというのに・・・。 恩寵は、素直に受け取るものですわ」

聞き覚えのある口調、そしてその者のためにあつらった白銀の甲冑姿に、不気味なまでの愛の包容、全てを見透かしたかのような瞳。

忘れもしない。

その者の名は、聖都ユスティーチが誇る、正義の名の下に悪を裁く、聖騎士隊隊長リーベ。
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