World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
86 / 1,646

迫り来る光

しおりを挟む
シンの周りに現れた光の鎖が、シュトラールの手の動きに合わせて収縮を始める。

「うッ・・・!!」

何か脱出の方法を考えるシンは、光という性質に注視した。

朝孝は、その身体能力を活かし、鎖の包囲網を掻い潜ることができたが、シンはアサシンというクラスにあっても、まだその域には達していない。

そこで彼が思ったのは、自分自身が行動してこの包囲網を抜けることは、今の自分にはできないのだという、選択肢の切り捨てだ。

もしかしたら出来るかもしれない、だが、緊急を要する事態において、可能性にかけるということをシンはしなかった。

否、しなかったのではなく、シンはWoFの中で長くアサシンのクラスについていた為、無茶な賭けは仲間を危険に晒すという教訓が、彼の身体に染み付いている。

それにアサシンというクラスは、無茶が出来るほど耐久力に優れたクラスではない、寧ろ脆い部類に属するクラスの為、ちょっとした判断のミスが、自身の身の崩壊を招き、パーティに人数面においてのデメリットを残すという最悪の展開になりやすい。

故にシンは、朝孝やアーテムのように素早い身のこなしによる回避を諦め、その代わりに、両手に短剣を握ると、彼はシュトラールの生み出した鎖、隣り合わせになる鎖二本の発生源付近に、その短剣を投げつける。

「・・・?」

シュトラールは、彼が単に攻撃を外したのかと思ったが、直ぐにその思惑を悟と、首を横に傾ける。

すると、シュトラールの頭目掛けて光の鎖が二本曲がっていったのだ。

「ッ・・・!? 何だッ・・・?」

驚いたツクヨが、光の鎖が折れ曲がり始めている部分に目をやると、何とシンは短剣の刀身で光を反射させることにより、包囲網に穴を開け、同時にシュトラールへの攻撃も兼ねた反撃をしていたのだ。

「そうかッ! 光の反射を利用して・・・」

檻に空いた穴を通り、朝孝を救出すると、彼を少し離れた位置に寝かせる。

「イデアールが使っていた光のスキルは、相手の視界に異常をきたす補助効果に加え、空中に滞在していたから、反射を利用したところで戦況を変えるほどの効果は得られなかった・・・」

ゆっくりと立ち上がるシンは、シュトラールの方へ振り返る。

「アンタのは光はそれ自体に攻撃としての役割があり、その上、発生源が固定されてるから反射させることが出来た・・・」

「ふん、取り乱さず良く対処したものだ・・・」

そういうとシュトラールは、シンに向けて手をかざす。

「それなら・・・、これはどうだッ!」

シンの足元が僅かに光りだす。

それを見て、シンが咄嗟にその場を離れると、紙一重のタイミングで勢いよく光の鎖が飛び出していくのが見えた。

「ッ・・・!」

その後も次から次へと、シンの足元に光が現れては鎖が飛び出してくるのを、彼は移動し続けることで回避していく。

堪らず飛び上がったシンは、鎖が飛び出す前触れの光に短剣を投げるが、光りの向きが予測出来ず、鎖を曲げることができても、周りへランダムに攻撃を撒き散らす結果となってしまう。

「くそッ・・・! 光の鎖が発生してからじゃないと、狙ったところに向きを変えられないッ・・・」

回避することに手一杯になるシンへ、攻撃を仕掛け続けるシュトラールへ、背後から飛びかかるツクヨの一閃が向けられる。

だが、攻撃してくるのを知っていたかのように、実体化した光の剣で、その一撃を受け止めるシュトラール。

「ッ・・・!」

「気づいていないとでも思ったのか?」

「何故・・・シン君への攻撃が途絶えない・・・? 手はかざしていないだろうッ・・・!」

折れているのか、片腕をダラリとぶら下げたままにしているシュトラールは、片腕で戦うしかない筈。

「手をかざしてたのは、必要な動作だからではないのかッ・・・!?」

そんな疑問を抱えながら、絶え間なく動き続けるシン。

彼が考えたのは、追尾する攻撃やスキルは大抵、何かを探知して追いかけてくる場合が多い。

シュトラールの光の鎖も、自動で追尾してくるのであれば、シンの何かを探知しているに違いない。

「このままではシン君がッ・・・!」

「さぁ、彼は時期に避けきれなくなる。 その間にお前を始末してやる」

彼の始末するという言葉には、それを実現できるかのような重みがあり、そのプレッシャーを感じ取ったツクヨは、彼の光の剣を弾くと、その間合いから飛び退いた。

「お前に・・・私の相手が務まるのか・・・?」

額から流れた一雫の冷や汗が頬を伝い、顎先から地面へと落ちる。

その時、シュトラールが手にしていた光の剣が、瞬時にキラキラとした光の粒子となり消えると、ツクヨの周りに光の剣が複数本現れグルグルと彼を囲むように回りだす。

「これはッ!?」

剣先が全てツクヨの方を指していることから、彼はこれが自分に向かって飛んでくる攻撃なのだとすぐに理解した。

ならば上下に避けようと、後方に飛び上がるが、光の剣はツクヨとの距離を保ったまま追従し、剣先は角度を変え、彼を付け狙う。

シュトラールがその手を握ると、彼を囲う光の剣が彼を貫かんと次々に彼目掛けて発射される。

ツクヨは素早い剣捌きで、飛んでくる光の剣を撃ち落としていく。

そこへ、一気に距離を詰めてきたシュトラールが、彼に蹴りをお見舞いする。

「くッ・・・!!」

咄嗟に腕で防ぐも、とても剣士の蹴り技とは思えぬ威力で外壁へと吹き飛ばされる。

「がはッ・・・!」

激しく打ち付けられたツクヨは、飛びそうになる意識を辛うじて保とうとするが、舞い上がる土煙の中、歩み寄ってきたシュトラールによって、頭を鷲掴みにされる。

「うッ・・・ぁぁぁあああああッ!!」

ミシミシと彼の指が、ツクヨの頭蓋骨を締め付けていく。

「さて・・・、シャルロットが拾ってきた“外”なる者達・・・。 お前達には聞きたいことや調べたいことがある。 ・・・まぁ、肉体の持つ記憶があれば、生きていようがいまいが関係ないがな・・・」

トドメを刺さんとばかりに力を強めるシュトラール。

声にならない絶叫をあげるツクヨ。

そこへ、一発の銃弾が撃ち込まれる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

処理中です...