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神代 コウ

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海賊船への潜入

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 グレイスのクラスを知ったシンもまた、彼女に自身のクラスであるアサシンのスキルをいくつか披露した。世界の海を渡る彼女にしては意外にもアサシンのクラスを見て珍しいと、口にしていたことが少し気がかりだったが、それ以上にグレイスの裁定者の方が珍しいものであった為、それ程お互いに深く探るような会話はなかった。

 特に彼女が興味を示したのが、シンのスキル【潜影】だった。影に身を隠し、別の影から姿を表す、敵に見つからずに移動をするのに適したスキルで、今回の作戦にも大いに貢献できる。

 潜入経路とその手順を確認した二人は、作戦開始の時刻まで持ち場で待機することにした。暫くしてフーファンとシュユーから術を通して、術式設置の準備が整ったと連絡が入る。時刻はすっかり日も沈み、町では酒を呷る宴の声が風に乗って聞こえてくる。

 シンとグレイスの二人は、船着場からロッシュの海賊船に物資を運搬している小舟に不可視の黒衣を着込んで乗り込むと、荷物に紛れて海賊船の後方部にある海面の扉へと向かう。小舟は下見の時に確認していた経路で予定通り招かれると、ゆっくりその進行を緩めて海賊船の中へと吸い込まれていく。

 ロッシュ海賊船船底部、二人を乗せた運搬用の小舟が内部へ入り込み、見張りを担当している船員の他に、積み込み作業を行うロッシュの部下が小舟に乗り込み荷物を船内へと運び始める。

 シンとグレイスが紛れている荷物に掛けられた布を、船員が勢い良く剥がす。しかしそこに二人の姿は既になかった。勿論、船員も何かに気づいた様子もなく、ダルそうに荷物の運搬を続ける。

 布の下ではシンがスキル【潜影】を使用し、二人を影の中へと隠すと、海賊船の物影へと移動していたのだった。そのまま二人は音を立てることのないように、忍足で上の階層へ続く階段を目指す。

 その道中、何人かの船員が目の前を通るような息を飲む場面があったが、壁に張り付いたり、物陰に止まったりして上手くやり過ごしていく。不可視とは文字通り目に見えないだけで、船員に触れられれば当然何かにぶつかったと思われてしまう為、接触は禁物だ。

 海賊船内部は夜中ということもあり、船長であるロッシュと共に町に繰り出している者が殆どで、順番に見張りをする者や、積み込みをする者が定期的に船着場から乗り降りしているぐらいで、そこまで内部に忍ぶのは難しいことではなかった。

 事は順調に進み、中層から目的のものがある上層部への階段を進んでいく二人。このまま船長室に入り、アイテムの回収は呆気なく達成されるように思えた。が、ここで思わぬアクシデントに見舞われることになる。

 上層部は更に船員の往来が少なく、シンとグレイスの歩みも自然と早くなる。その時、船体の壁から青白い何かが擦り抜け、二人の目の前をゆっくりと通過していく。突然の出来事に、目を見開き思わず口を手で覆う二人。青白い何かは徐々に形を作り始めると、それは異形の骨の形をした淡く燃ゆる光を纏った死霊系のモンスターや人の怨霊のような上半身だけで漂う、海賊の衣類を纏った人骨のモンスターへと変わる。

 物体を擦り抜けながら漂うモンスター達は、何かを探すように辺りを見渡し、徘徊し始める。その中の一体が、グレイスの方へと振り向き、ゆっくりと近づいていく。死霊系のモンスターは視力で敵を捕らえる他に、気配を嗅ぎ分ける攻撃を仕掛けてくる。故に接近されれば、いくら不可視のエンチャントが施された装備を身に纏っていようとも、存在を探知されてしまう。

 流石のグレイスも想定外の出来事に、音を立てない様に後退りをするのが精一杯だった。徐々に縮まるモンスターとグレイスの距離に、最悪の事態を覚悟する彼女の額から伝う汗が顎へと滑り降り、床へと落ちた。

 すると突然モンスターは唸り声を上げ、別の通路の方へと振り向きそちらの方へと飛んでいってしまった。モンスターとの十分な距離が空いたグレイスは、思わず止めていた息を吐き出した。何故、急に別の方向へと進んでいったのか彼女は分からなかったが、シンの方を見るとどうやら彼が、モンスターを誘導してくれていた様だった。

 聖都にてイデアールとの戦いの中で目覚めたスキル【視影】を使って、モンスターに幻影を見せていたのだった。彼の機転に救われたグレイスは、シンに向かって一度頷くと、彼も同じく頷いて返事をする。二人は気を取り直し、死霊系モンスターの探知を掻い潜りながら、船長室へと向かう。



 その頃、酒場で宴を開いていたロッシュは何か不穏なものを感じ取っていた。

 「どうされたんですかい?船長」

 部下の者がロッシュの表情の変化を察すると、何事かと赤い顔で酔っ払ったへべれけ声で船長へ質問する。

 「ん?いや、船の方で何かあったのかと思ったが・・・、気のせいか・・・」

 「船長でも飲み過ぎることってあるんですねぇ~・・・。だってここから船までどれだけ離れてると思ってるんです?千里眼にでも開眼したんですかぁ~?」

 酒に酔って気分が良くなってしまった部下が、船長に馴れ馴れしいことを言ってしまったが、ロッシュはロロネーの様に恐ろしい真似はしない。だがそれは彼の懐の深さや、優しさからくるものではなく、ロッシュは部下を消耗品の様にしか思っていないからだった。

 無駄に殺すことはせず、必要な時に消費する命。恐ろしい程したたかで腹黒い彼の心の内は、部下であろうと知る由もない。
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