World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
166 / 1,646

詳細不明の投資

しおりを挟む
 「レース参加を迷っておられるのならば、明日のセレモニーを御覧になられた後でも遅くないと思いますよ?まぁ・・・海を渡る用意が出来ていればの話ですが・・・」

 あまり自分達の話をされるのが嫌なのか、シン達の方へと会話の主旨を挿げ替えるシュユー。参加の条件は難しいものではなく、海を渡って目標の場所まで辿り着ければ、乗り物は船に限らず何でも良いという。しかし、条件として海面や海中といった海に触れているモノでなくてはならない。

 参加できないモノとしては、飛行しているモノが代表例となる。あくまで海のレースという趣旨の元開かれているイベントなので、当然といえば当然と言えるだろう。

 「セレモニーは明日?それじゃぁレースって・・・?」

 セレモニーが開かれるとなれば開催は間近であることは何となく予想できるが、レースの内容や参加する者達の情報ばか聞いていたため、ここに来て彼らはそもそもレースがいつ行われるかについて耳にしていなかったのだ。

 「その翌日になります。つまり明後日‬、ですね」

 それを聞いて、どうしてツバキが自身の船に乗ってくれる者を焦って探していたのか合点がいった。しかしそれを聞いて尚更、少人数で参加を希望し、未だに何で海を渡るか決めていないチームなど見つかるはずも無いと思う一行。

 彼には悪いが、参加者を見つけてくるのは絶望的な状況であることに変わりない。ましてや自分達が参加をしようなんて、船に乗った経験すら無いシン達にとっては無謀にも程がある。ツバキには申し訳ないが、せめて正直に伝えるということで同意する三人。

 「そういえば・・・異変というにはあまりに小さな事ですが、スポンサーの飛び入り参加があったそうですよ?何でも、一国の王でもあるかのような巨額の資金と、珍しいアイテムを用意しているのだとか・・・」

 「確かに珍しい事だねぇ、今までこんなギリギリで投資してくるようなのはいなかったと思うけど・・・?」

 シュユーもグレイスも、そのスポンサーに対し同じ疑問を持っているようだった。賞金の分配や賞品、レース道中に散りばめるレアアイテムなど、事前に計画して行われるものであるため、いくら巨額の投資金だとはいえ、再度調整することになってしまい、開催日時が変わってしまってもおかしくないことだという。

 だが、レースは予定どおり日にちも時刻も、一切変わらずに開催されるのだそうだ。そんなに手際よく出来るものだろうかと、シュユーもグレイスも思っていた。それこそ、事前に飛び入り参加を知らされていない限り不可能ではないかと。

 そしてこの事は、酒場で会ったシー・ギャングのキングも言っていた事だ。レースに参加する有力者達がこぞって“変わった事”という話であげる飛び入り参加のスポンサー、小さなことなのだろうが見過ごせないことでもある。

 「その投資したスポンサーについて、何か知らないか?」

 少しでも情報を掻き集めようとするシンの問いに、シュユーもグレイスも難しい表情をして互いに知っているかといった様子で顔を見合わせる。その二人の様子から、有力な情報は期待出来ないだろうと確信したシンは、顔を下に向ける。

 すると、今まで料理に夢中で一切喋らなかったフーファンが気になることを話し始めた。

 「でも、そんなに沢山のお金を持った人なら、きっと国の偉い人か大きな組織の人ですよね?偉い人にしても強い人にしても、そういった人の周りには人が集まると思うんです。でも、グレイスさんや他の方々、それにあの方・・・って、もう伏せなくても良いですよね?チン様も知らないなんて、ちょっとおかしいと思うんですよ・・・」

 「確かに・・・。この町の情報通だと言っていたキングも、その人物については詳しく知らなかったようだった・・・」

 ただでさえ各国、各大陸の情報が集まる港町で、更に各方面各組織に顔が効くであろうキングでさえも素性を掴みきれずにいる。シュユーとフーファンの話から、彼らのボスであるチン・シーなる人物も多方面に顔が効くようだが、有力な情報はない。

 「キングも知らないとなれば、残す大きな組織は“エイヴリー”海賊団だけど・・・。結果は同じだと思うけどね、アタシは。情報通で言えばキングやチン・シーの方が有名だし、その二人が知らないんじゃ誰も知らないんじゃないかねぇ?」

 「エイヴリー海賊団に話を聞くことは出来ないだろうか?」

 望みは薄いのかもしれないが、それでも話を聞くことが可能であれば聞いておきたいと考え、船長本人ではないにしても、部下の誰かと連絡を取れないだろうかと尋ねるシンだったが、グレイスもシュユー達も、仲は悪いわけではないが、友好関係でもないらしい。

 「そういえばッ!先日、町でゴロツキに絡まれてたツバキを助けてくれた男が、エイヴリーのところの幹部だと聞いた。ツバキかウィリアムさんなら、彼らと繋がりがあるんじゃないか・・・?」

 ツクヨの提案は可能性としては大いにあり得るが、職人肌であるウィリアムが顧客の情報を話してくれるだろうかという疑問と、ツバキには面倒を見てもらっている上に、彼の願いを聞き入れられない身としては、これ以上ツバキにお願い事をするのは極めて気まずいと思ってしまうシンとミア。

 「へぇ~、ウィリアムってあの船大工のかい?あの爺さんは腕が立つからねぇ。アタシんところの船も昔見てもらったけど、あれはその界隈じゃ一番かもしれないね!」

 「私達の船もたまにメンテナンスをしてもらっています。あの御仁の仕事ぶりは繊細なところまで行き届きます故、贔屓にしておりますよ」

 どうやら彼らも、船を見てもらいにウィリアムのところをよく訪れているのだとか。しかし、その人気や繊細な仕事から、なかなか予約が取れないのだと言う。そこへ、会話を聞いていたフーファンが目をキラキラさせて声をあげる。

 「ウィリアムさんと知り合いなんですか!?シュユーさん!私もこの方々とウィリアムさんのところに行っても良いですか!?」

 「レース前なんですよ?あまり問題を起こさないと約束出来ますか?フーファン」

 「ハイッ!任せてください!」

 笑顔でシュユーに敬礼をするフーファン。どうやら彼女もシン達に付き添い、ウィリアムの元へと付いてくることに決定してしまったようだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

処理中です...