World of Fantasia

生命のアップデート

　夜も更けて、湊町特有の潮風が普段の夜風よりもより一層身体に北からの便りを運ぶ。しかしそれは体感の芯まで行き通るほどではなく、寧ろ波の音や間も無くやって来る祭りを慈しみ気持ちを昂れせ酒を呷る者達の声と共に、静けさや冷静さよりも彼らに高揚を運んでくるようだった。

　作戦の成功と互いの出会いに感謝し、喜びと少しの憂いを齎した宴を終え、一行は店を後にする。この後ツバキの家へと戻り、エイヴリー海賊団との会談を図るためウィリアムに会うことになったシン達一行と、事後の報告をチン・シーにするため、別の場所へと向かうグレイスとシュユーの二手に分かれることになる。

　「あまり遅くなってチン・シー様を憂慮させないように。貴方もあの方のそんな姿は望んでないでしょう」

　「了解です、少し顔を出したら戻りますのでシュユーさんもそんなに憂慮しないで下さいね？」

　少女を心配するシュユーを安心させるためか、彼の言葉をなぞって返すフーファンに溜め息を漏らすシュユーだったが、いつもの調子であることを確認するとそれ以上何をいうこともなく、その後の行動を彼女自身に委ねる。

　「この子も見た目ほど子供じゃないんだ。自分の身は自分で守れるだろう。それより、アタシらも遅くならないうちに報告してあげないとね。予定より早く終わったもんだからきっと驚くだろうよ！シン、アンタ達のことも話すことになるだろうけど大丈夫かい？」

　作戦の時短と成功に加担したとなれば、報告の中に彼らのことが含まれるのは必然のことだろう。だが何も敵対するようなことをしたわけではなく、寧ろ恩を売る形になったのは彼らにとっても有益なことだったに違いない。

　「あぁ、構わないよ。俺達こそこんなに珍しいアイテムを貰っちゃって・・・」

　チン・シーが作戦の成功報酬にシュユーに持たせたレアアイテム、布都御魂剣について触れるとそのワードに反応したシュユーが思い出したかのように、ある気になる話をした。

　「それに関してはお気になさらず。実際のところ希少なアイテムが故でしょうか・・・、我々が使ってみたところ真価を引き出せなかったのでしょうか、確かに強力な力を持っているようなのですが、他の武具に比べてみるとそれほど抜きんでた能力でもなかったのです」

　「真価を引き出せなかった・・・？」

　「えぇ・・・。魔力量は強大であるのですが、それに見合った力ではなかったのです。私達が力の引き出し方を解くことが出来なかっただけか、元よりこのような能力値であるだけなのかは分かりません」

　彼の話では、装備することで所持者の能力向上と悪気を祓う力が備わっていたのだという。それ以上にレアなモノを見てきた彼らだからだろうか、それだけの能力ではさしたる興味を惹かれなかったのだろう。

　「それでも能力値の向上は、その希少価値に見合うものになっているのでご安心下さい。そして何かのお力になれれば幸いです」

　WoFの世界では武器や防具といった装備品そのモノにステータスを向上させる　こうかが付与されたものがあり、主に上位装備でも珍しいものや伝説級の装備に良くある効果の一つ。ゲームであった頃のWoFでは見かけることも多々あったが、この異変に巻き込まれてからというものの、付与効果を持ったアイテムに出会うのが初めてだった三人にとっては、嬉しいものだった。

　「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」

　話を聞いていた、唯一その剣を装備できるツクヨがシュユーに礼を述べる。剣についての話はそこで終わり別れを告げると、彼らはそれぞれの場所へと向かってその場を後にした。

　結局熱く語られてしまったことに面を喰らった彼らは、何故フーファンがついて来るのかについて一切頭に入っていなかった。ウィイリアムの元へ向かう間、ツクヨが彼女の目的がなんなのか改めて聞いてみることにした。

　「君はウィリアムさんの元で、何を見ようって話だったんだっけ？」

　「そうですねぇ・・・簡潔に述べますと、ウィリアムさんの造る船のカタログと、最近の新しい技術が見たいのです。勿論チン・シー様へ情報を届け、私達の船に追加するかの案を提示する目的もあります。そして海を渡ったりレースに参加するにあたり、新しい兵器や武装、船の技術などを知らないというのは脅威にもなります。常に新しい情報の更新が必要になるということですよ！」

　要はシン達の世界でいうところの、システムのアップデートということだ。古くからある良いものはそのままに、時代の変化で進んだ技術や文化を取り入れていくことは、こちらの世界でも同じことだったようで、技術や時代の流れに乗っていくことは生きていく上で必要なことなのだ。

　より良いものより優れたものを必要とするのは、生き物であれば当然のことなのではないだろうか。その土地で食料が取れなくなれば、他の場所で取れる場所を探し移り住む、その繰り返しの中で知恵を持たされた人は、より多く食物を実らせる方法、より良い品質にする方法など、新しい段階への開拓を古の時代から本能でしてきた。

　その人の性を、WoFで生きるAIは学んで実行し、より人らしく真似ていく。その世界に入り込んだユーザー達が、そんなAI達の現実と見紛うほどの生活や反応を目の当たりにすることで、もう一つの世界を築き上げていき、彼らの新しい居場所とし移り住んでいく。

　まるで肉体という器を離れ、データの世界へと移住するかのように、技術や時代は新たなステージへと進んでいっている。