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世界に紛れた異物
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寝惚け眼を擦りながらリビングのモニター前に集まるシン達。そこには既にセレモニーに集まった来賓の者達が、一言ずつ挨拶をしているところだった。
「何か変わった様子は・・・?」
遅れて観だしたシンとツクヨは、冒頭の方で話していた者達のことについて尋ねる。ミアもセレモニーが開始されてからシン達を起こしにいったので、観だした時間帯は彼らと変わらない。
特に怪しい人物の紹介や挨拶はまだない様だと答えるミア。彼らの会話を耳にしていたツバキがその内容に違和感を覚えたのか、会話に割って入ってくる。
「お前ら何を言ってるんだ?変わったこと・・・?レースのセレモニーを観るのは初めてじゃないのかよ。初見で変わったことって、おかしくねぇか?」
彼の言う通り、初めて観るものに対し何か変わったことを探すというのはおかしなことだ。何と比較しての変わったことなのか、ツバキには知る由もない。シン達にとっての変わったこととは、セレモニーの変わったことではなく、この世界に起きている異変なのだから。
だが、シン達にとっても異変とは何か、明確な判断の付け方が分かっている訳ではない。ただ漠然とした“変わったこと”を注視して探さなければならない。通常のクエストでは有り得ないこと、受注条件、ある筈のない物の存在など、小さな手がかりを求めて。
「ありがとうございました。以上で来賓の方々の挨拶を終了致します。・・・さぁ、お集まりの皆々様。急遽ご支援頂いた今回最高額の投資をして下さりました特別ゲストの方より、挨拶があるそうです!
モニターから聞こえてきた司会の男の発言に、シンとツクヨの眠気が一気に覚める。彼らだけではない、ミアは勿論、別の場所で同じくセレモニーを観ていたグレイスやハオラン、チン・シーやキングにロロネーなど、レースに参加する名だたる物達が、その人物の存在に注目する。
今までにない例外を持ち込んだ人物。キングの情報網を持ってしても、一切の情報すらも漏れてこない、徹底された身隠し技術はイベント関係者であろうと、その者のことについて何も情報を掴んでいないというほどだ。
その人物が、いよいよ観衆の前に姿を表す。キングから聞いていた通り黒いコートに身を包み、フードを深く被り口の動きも分からないくらいに表情が見えない。
「レースが無事に開催されること、心より嬉しいく思う。急な話にも快く対応してくれた開催委員の者達には感謝している」
声は男のものと推測できる低い声色をし、落ち着いて坦々と何でもない良く聞くような挨拶とスピーチが始まる。その内容からはシン達が思うほどの情報は何一つ得られない。たまたま黒いコートを着た、何でもないただのNPCなのかという疑念が強まる彼らの元に、男の話に含まれる彼らにしか分からないであろうメッセージが込められた発言があった。
「資金の投資の他に、あるアイテムをレースの道中に置かせてもらった。私の投資した金額にも引けを取らない逸品であることを約束しよう。それは君達にとっても魅力的で興味深いものとなるだろう。希少価値も高い、長距離移動ポータルだ。しかもこれは時間や次元すらも超越した正に逸品・・・」
男の勿体ぶる煽りを受け、会場中がざわつき大いに盛り上がる。このレースにはシン達がシュユーから貰い受けたような、布都御魂剣に並び立つ代物も少なくない。個人の能力を問わず、それだけで強大な力が手に入る物も存在する。一攫千金と絶対的な力、両方が一片に手に入るのがこのレースの魅力でもあり、命を賭けてでも参加しようという気を引き立てる要因なのだ。
移動ポータルは、その利便性や手に入りにくさから高値で取引されており、位置や場所が既に登録されているものは比較的安く、移動可能な距離や質量が公開されているだけで、まだ移動場所の登録がされてないものに関しては相当な金額となる。男の謳っている長距離であることは勿論、時間や次元を超越したものというのが、この世界においても想像がつかないようで、一体どんな物であるのかという話で観衆の騒ぎが大きくなっている。
「このポータルは、異世界へと通じるポータルだ。一部の物達しか到達し得なかった世界へのチケットを、是非これを観ている君達の中の誰かに手に入れて欲しい」
男の言う異世界へのポータルなど、それだけ聞けば胡散臭い物であることは分かるだろう。それをきいた者達も恐らく、自ら使うのではなく、その移動ポータルという名前と効果使って転売の道具に使おうとするのが関の山だろう。
しかし、男の謳い文句は確かに一部の者達へ伝わっていた。それは他でもない、その異世界から来たシン達であった。もし男の言う通り、異世界へ通じるポータルであるならば、その移動先が彼らの世界である可能性が高い。いや、彼らにはそうであるとしか思えなかった。
「・・・異世界って・・・。こいつ今、この世界とは別の世界があるって言ったのか・・・?」
プレイヤーであった自分達の他に、WoFの世界とは別の世界が存在することを知る人物がいる。だがそれだけでは別段おかしい話でもなかった。現にシンはミアと出会い、このWoFの世界でツクヨというプレイヤーと遭遇している。この男もツクヨのようにプレイヤーとしてこの世界に迷い込み、同じ境遇の仲間を探しているとも考えられる。
それでも、シン達はこの男からそんな気配は感じられなかった。仲間を探すというよりも、この世界に入り込んだ異物を炙り出そうとしている、そう思えてしまい、自分達の身に迫る者を目の当たりにしているような恐怖が襲いかかってきたのだった。
「何か変わった様子は・・・?」
遅れて観だしたシンとツクヨは、冒頭の方で話していた者達のことについて尋ねる。ミアもセレモニーが開始されてからシン達を起こしにいったので、観だした時間帯は彼らと変わらない。
特に怪しい人物の紹介や挨拶はまだない様だと答えるミア。彼らの会話を耳にしていたツバキがその内容に違和感を覚えたのか、会話に割って入ってくる。
「お前ら何を言ってるんだ?変わったこと・・・?レースのセレモニーを観るのは初めてじゃないのかよ。初見で変わったことって、おかしくねぇか?」
彼の言う通り、初めて観るものに対し何か変わったことを探すというのはおかしなことだ。何と比較しての変わったことなのか、ツバキには知る由もない。シン達にとっての変わったこととは、セレモニーの変わったことではなく、この世界に起きている異変なのだから。
だが、シン達にとっても異変とは何か、明確な判断の付け方が分かっている訳ではない。ただ漠然とした“変わったこと”を注視して探さなければならない。通常のクエストでは有り得ないこと、受注条件、ある筈のない物の存在など、小さな手がかりを求めて。
「ありがとうございました。以上で来賓の方々の挨拶を終了致します。・・・さぁ、お集まりの皆々様。急遽ご支援頂いた今回最高額の投資をして下さりました特別ゲストの方より、挨拶があるそうです!
モニターから聞こえてきた司会の男の発言に、シンとツクヨの眠気が一気に覚める。彼らだけではない、ミアは勿論、別の場所で同じくセレモニーを観ていたグレイスやハオラン、チン・シーやキングにロロネーなど、レースに参加する名だたる物達が、その人物の存在に注目する。
今までにない例外を持ち込んだ人物。キングの情報網を持ってしても、一切の情報すらも漏れてこない、徹底された身隠し技術はイベント関係者であろうと、その者のことについて何も情報を掴んでいないというほどだ。
その人物が、いよいよ観衆の前に姿を表す。キングから聞いていた通り黒いコートに身を包み、フードを深く被り口の動きも分からないくらいに表情が見えない。
「レースが無事に開催されること、心より嬉しいく思う。急な話にも快く対応してくれた開催委員の者達には感謝している」
声は男のものと推測できる低い声色をし、落ち着いて坦々と何でもない良く聞くような挨拶とスピーチが始まる。その内容からはシン達が思うほどの情報は何一つ得られない。たまたま黒いコートを着た、何でもないただのNPCなのかという疑念が強まる彼らの元に、男の話に含まれる彼らにしか分からないであろうメッセージが込められた発言があった。
「資金の投資の他に、あるアイテムをレースの道中に置かせてもらった。私の投資した金額にも引けを取らない逸品であることを約束しよう。それは君達にとっても魅力的で興味深いものとなるだろう。希少価値も高い、長距離移動ポータルだ。しかもこれは時間や次元すらも超越した正に逸品・・・」
男の勿体ぶる煽りを受け、会場中がざわつき大いに盛り上がる。このレースにはシン達がシュユーから貰い受けたような、布都御魂剣に並び立つ代物も少なくない。個人の能力を問わず、それだけで強大な力が手に入る物も存在する。一攫千金と絶対的な力、両方が一片に手に入るのがこのレースの魅力でもあり、命を賭けてでも参加しようという気を引き立てる要因なのだ。
移動ポータルは、その利便性や手に入りにくさから高値で取引されており、位置や場所が既に登録されているものは比較的安く、移動可能な距離や質量が公開されているだけで、まだ移動場所の登録がされてないものに関しては相当な金額となる。男の謳っている長距離であることは勿論、時間や次元を超越したものというのが、この世界においても想像がつかないようで、一体どんな物であるのかという話で観衆の騒ぎが大きくなっている。
「このポータルは、異世界へと通じるポータルだ。一部の物達しか到達し得なかった世界へのチケットを、是非これを観ている君達の中の誰かに手に入れて欲しい」
男の言う異世界へのポータルなど、それだけ聞けば胡散臭い物であることは分かるだろう。それをきいた者達も恐らく、自ら使うのではなく、その移動ポータルという名前と効果使って転売の道具に使おうとするのが関の山だろう。
しかし、男の謳い文句は確かに一部の者達へ伝わっていた。それは他でもない、その異世界から来たシン達であった。もし男の言う通り、異世界へ通じるポータルであるならば、その移動先が彼らの世界である可能性が高い。いや、彼らにはそうであるとしか思えなかった。
「・・・異世界って・・・。こいつ今、この世界とは別の世界があるって言ったのか・・・?」
プレイヤーであった自分達の他に、WoFの世界とは別の世界が存在することを知る人物がいる。だがそれだけでは別段おかしい話でもなかった。現にシンはミアと出会い、このWoFの世界でツクヨというプレイヤーと遭遇している。この男もツクヨのようにプレイヤーとしてこの世界に迷い込み、同じ境遇の仲間を探しているとも考えられる。
それでも、シン達はこの男からそんな気配は感じられなかった。仲間を探すというよりも、この世界に入り込んだ異物を炙り出そうとしている、そう思えてしまい、自分達の身に迫る者を目の当たりにしているような恐怖が襲いかかってきたのだった。
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