World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
171 / 1,646

世界に紛れた異物

しおりを挟む
 寝惚け眼を擦りながらリビングのモニター前に集まるシン達。そこには既にセレモニーに集まった来賓の者達が、一言ずつ挨拶をしているところだった。

 「何か変わった様子は・・・?」

 遅れて観だしたシンとツクヨは、冒頭の方で話していた者達のことについて尋ねる。ミアもセレモニーが開始されてからシン達を起こしにいったので、観だした時間帯は彼らと変わらない。

 特に怪しい人物の紹介や挨拶はまだない様だと答えるミア。彼らの会話を耳にしていたツバキがその内容に違和感を覚えたのか、会話に割って入ってくる。

 「お前ら何を言ってるんだ?変わったこと・・・?レースのセレモニーを観るのは初めてじゃないのかよ。初見で変わったことって、おかしくねぇか?」

 彼の言う通り、初めて観るものに対し何か変わったことを探すというのはおかしなことだ。何と比較しての変わったことなのか、ツバキには知る由もない。シン達にとっての変わったこととは、セレモニーの変わったことではなく、この世界に起きている異変なのだから。

 だが、シン達にとっても異変とは何か、明確な判断の付け方が分かっている訳ではない。ただ漠然とした“変わったこと”を注視して探さなければならない。通常のクエストでは有り得ないこと、受注条件、ある筈のない物の存在など、小さな手がかりを求めて。

 「ありがとうございました。以上で来賓の方々の挨拶を終了致します。・・・さぁ、お集まりの皆々様。急遽ご支援頂いた今回最高額の投資をして下さりました特別ゲストの方より、挨拶があるそうです!

 モニターから聞こえてきた司会の男の発言に、シンとツクヨの眠気が一気に覚める。彼らだけではない、ミアは勿論、別の場所で同じくセレモニーを観ていたグレイスやハオラン、チン・シーやキングにロロネーなど、レースに参加する名だたる物達が、その人物の存在に注目する。

 今までにない例外を持ち込んだ人物。キングの情報網を持ってしても、一切の情報すらも漏れてこない、徹底された身隠し技術はイベント関係者であろうと、その者のことについて何も情報を掴んでいないというほどだ。

 その人物が、いよいよ観衆の前に姿を表す。キングから聞いていた通り黒いコートに身を包み、フードを深く被り口の動きも分からないくらいに表情が見えない。

 「レースが無事に開催されること、心より嬉しいく思う。急な話にも快く対応してくれた開催委員の者達には感謝している」

 声は男のものと推測できる低い声色をし、落ち着いて坦々と何でもない良く聞くような挨拶とスピーチが始まる。その内容からはシン達が思うほどの情報は何一つ得られない。たまたま黒いコートを着た、何でもないただのNPCなのかという疑念が強まる彼らの元に、男の話に含まれる彼らにしか分からないであろうメッセージが込められた発言があった。

 「資金の投資の他に、あるアイテムをレースの道中に置かせてもらった。私の投資した金額にも引けを取らない逸品であることを約束しよう。それは君達にとっても魅力的で興味深いものとなるだろう。希少価値も高い、長距離移動ポータルだ。しかもこれは時間や次元すらも超越した正に逸品・・・」

 男の勿体ぶる煽りを受け、会場中がざわつき大いに盛り上がる。このレースにはシン達がシュユーから貰い受けたような、布都御魂剣に並び立つ代物も少なくない。個人の能力を問わず、それだけで強大な力が手に入る物も存在する。一攫千金と絶対的な力、両方が一片に手に入るのがこのレースの魅力でもあり、命を賭けてでも参加しようという気を引き立てる要因なのだ。

 移動ポータルは、その利便性や手に入りにくさから高値で取引されており、位置や場所が既に登録されているものは比較的安く、移動可能な距離や質量が公開されているだけで、まだ移動場所の登録がされてないものに関しては相当な金額となる。男の謳っている長距離であることは勿論、時間や次元を超越したものというのが、この世界においても想像がつかないようで、一体どんな物であるのかという話で観衆の騒ぎが大きくなっている。

 「このポータルは、異世界へと通じるポータルだ。一部の物達しか到達し得なかった世界へのチケットを、是非これを観ている君達の中の誰かに手に入れて欲しい」

 男の言う異世界へのポータルなど、それだけ聞けば胡散臭い物であることは分かるだろう。それをきいた者達も恐らく、自ら使うのではなく、その移動ポータルという名前と効果使って転売の道具に使おうとするのが関の山だろう。

 しかし、男の謳い文句は確かに一部の者達へ伝わっていた。それは他でもない、その異世界から来たシン達であった。もし男の言う通り、異世界へ通じるポータルであるならば、その移動先が彼らの世界である可能性が高い。いや、彼らにはそうであるとしか思えなかった。

 「・・・異世界って・・・。こいつ今、この世界とは別の世界があるって言ったのか・・・?」

 プレイヤーであった自分達の他に、WoFの世界とは別の世界が存在することを知る人物がいる。だがそれだけでは別段おかしい話でもなかった。現にシンはミアと出会い、このWoFの世界でツクヨというプレイヤーと遭遇している。この男もツクヨのようにプレイヤーとしてこの世界に迷い込み、同じ境遇の仲間を探しているとも考えられる。

 それでも、シン達はこの男からそんな気配は感じられなかった。仲間を探すというよりも、この世界に入り込んだ異物を炙り出そうとしている、そう思えてしまい、自分達の身に迫る者を目の当たりにしているような恐怖が襲いかかってきたのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

異世界に流されて…!?

藤城満定
ファンタジー
東京発沖縄着の船で修学旅行に出港した都立東品川高等学校2年4組の生徒35人は出港して2時間が過ぎた頃に突然の嵐に巻き込まれてしまい、船が転覆してしまって海に投げ出されてしまった。男子生徒の宮間景太郎が目を覚ますと、そこはどこかの森の中だった。海に投げ出されたのに、何で森の中にいるんだ?不思議に思って呆然としていたら、森の奥から聞き覚えのある女子生徒達の悲鳴が聞こえてきた。考えるより先に体が動いた。足元にあった折れて先端が尖った木の枝と石コロを取って森の奥へと駆け出した。そこには3人の女子生徒が5匹の身長160cmくらいの緑色の肌色のバケモノに襲われていた。そのバケモノは異世界アニメやコミックでお馴染みのゴブリン?だった。距離は10mはある。短剣を持ったのと木製の棍棒を持ったゴブリンの内、棍棒を持ったのがソレを振り下ろすのを防ぐのは無理な距離。ならばと、拾っておいた石コロを全力投球投。全くの無警戒だった場所からかならの威力で投げられた石コロが頭に命中して、そのまま倒れてしまったので他のゴブリン共も動揺した。その隙に女子生徒達とゴブリン共の間に立ち塞がり、拾った木の枝(棒?)を振り回して距離を置き、斃したゴブリンから棍棒を拾ってそこからはタコ殴りに殴りまくった。棍棒や短剣を弾くと、頭、首、肩、腕、足と、それはもうフルボッコのボッコボコにして斃してから暫くして女子生徒達に「大丈夫か?」と声をかけると、3人ともポカーンと口を開けて呆然としていた。まあ、無理もない。何故なら景太郎はクラスでは寡黙で、いつも1人で行動しているそれは、ぶっちゃけて言うと、完全な『ボッチくん』だったからだ。そんな景太郎が自分達の命を助けてくれた。それも今まで誰も見た事のない熱く必死な戦い方でだ。これは謂わゆる『吊り橋効果』ではあるが、こうまで男らしい姿を見せられては惚れるなというほうが無理だろう。その瞬間から女子達による景太郎の取り合い合戦が始まった。 【毎週火曜日に投稿します】

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...