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戦線復帰
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倒れているのが何者であるか分かると、自然と身体が倒れる彼の身体を起こそうとしていた。身体を見る限り、負傷は片腕と片足。腕の方の出血が激しく、無数の銃弾による弾痕が見られるが、銃弾にしてはやけに小さい弾痕であることが気になった程度で、出血も致死量に至る前に間に合ったようだ。
「エッ・・・エリクッ!!どうしてアンタが表に出てきてんだよ・・・。何があっった?」
「シルヴィ・・・さん。貴方がここに居るってことは・・・船長は無事だったようですね・・・。じゃなきゃ、貴方が冷静でいるのは、おかしい・・・ですから」
いつもの扱いにくいキャラをした彼からは、想像も出来ないかけ離れた様子の彼の話を聞きながら止血を行うシルヴィ。一通りの応急処置をしゆっくり彼の身体を寝かせると、その場で立ち上がり今だ周囲を囲う黒煙を払うようにして腕を振るう。
「おいッ!医療班ッ!誰か来てくれッ!!」
煙が徐々に薄まり透過し始めると、グレイスの治療がひと段落ついた回復スキルを持つヒーラーが一人、シルヴィと倒れるエリクの元に駆け寄ってきた。彼女の名を呼びながら位置を確かめる船員が、手を振るシルヴィを見つける。
グレイスの容態を話しながら、エリクの治療に取り掛かる船員がグレイスの戦線への復帰は近いと判断したことに安心したシルヴィは、エリクを彼に任せその場を後にすると、船首へと赴く。
迫り来る敵船に戦斧を構える。その柄のは鎖が繋がれており、甲板へと垂れ下がるその鎖の反対側にはもう一つの戦斧がある。シルヴィは笑みを浮かべそれを頭上で振り回すと、初めは鎖鎌のようにして加速させると両手で回し始め、まるで棍棒でも回しているかのように扱い、踊るように身体の周りを回し更に加速させる。
辺りの風を巻き込むほどにまで強力な運動エネルギーを溜め込んだ戦斧を、ロッシュ軍で最も先頭を行くヴォルテルの乗る船へと投げる。低い体勢から放たれたそれは、海面スレスレを飛んでいき船の前で浮上する。
「へッ!そんな攻撃が・・・食らうかよッ!」
ヴォルテルが船首で盾を展開し前方に構えると、前進する船の前に彼の盾と同じように巨大な盾が出現すると、シルヴィの戦斧を弾き落とした。盾は役割を果たすとその幻影を消し、ヴォルテルは良き好敵手を見つけたといった様子で笑う。
だが、ロッシュは彼のそんな思いを知ってか知らずか、別の船を攻め落とすよう指示する。
「ヴォルテル、お前は最も武装された船を狙え。同じ手を食らうつもりはないが、残弾が残っていないとも限らない。その前に根底から攻め落とせ」
「いいんですかぃ?あの船には近接クラスのくせに投擲も出来る奴が乗ってるようですぜぇ?」
そう言ってシルヴィの乗る船を指差すヴォルテルだったが、ロッシュはあくまで武装された船に彼を向かわせ、シルヴィは物量で抑えるのだという。その間ロッシュはどうするのかと尋ねると、気になることが出来たと船内の方を振り返る。
「野郎ぉ・・・ッ!俺の最大出力を防ぎやがった。何つう防御力だよッ!」
シルヴィはグレイス一味の中で、最も攻撃力の高い人物であった。その彼女の攻撃を難なく防ぐということは、単純な火力ではロッシュ軍を打ち負かすことは出来ないということだ。今の攻撃で彼女もそれを理解したのだろう。
特殊な戦い方を出来るエリクが戦闘不能な上、まだグレイスの参戦も望めない中でどう戦えばいいのか、何よりもシルヴィ達にとって一番頭を悩ませる事態とは、敵船が接近戦に持ち込もうとしていることだ。
「ルシアンの奴はどうしてんだ?アイツまでやられたってことはねぇだろうが・・・」
直ぐにエリクと船員の元に戻ると、何処かへ消えたルシアンの行方について尋ねる。そこで初めて、シルヴィがグレイスの救助についてからの経緯を知る。いつも戦闘になると、後方に居座り文句を垂れるエリクが、前線で指示を出し見事劣勢を互角の戦いにまで持っていったことに一番驚いていた。
その後、ルシアンは彼の指示で別船に乗り囮りを買って出たことを知ると、直ぐに彼が乗って行ったとされる船を探し、大声で呼びかけた。
「ルシアンッ!!待たせたなッ!姉さんは大丈夫だ、こっから盛り返すぜぇッ!!」
グッと拳を上げるシルヴィに彼は口角を上げ、声を出して返事はしなかったものの彼女と同じく拳を上げて、これを返事とした。気負いしている様子もなく、まだ戦えるのだという意思を見せつける仲間の姿に、彼女は遅れた分を取り戻すため奮起する。
「エッ・・・エリクッ!!どうしてアンタが表に出てきてんだよ・・・。何があっった?」
「シルヴィ・・・さん。貴方がここに居るってことは・・・船長は無事だったようですね・・・。じゃなきゃ、貴方が冷静でいるのは、おかしい・・・ですから」
いつもの扱いにくいキャラをした彼からは、想像も出来ないかけ離れた様子の彼の話を聞きながら止血を行うシルヴィ。一通りの応急処置をしゆっくり彼の身体を寝かせると、その場で立ち上がり今だ周囲を囲う黒煙を払うようにして腕を振るう。
「おいッ!医療班ッ!誰か来てくれッ!!」
煙が徐々に薄まり透過し始めると、グレイスの治療がひと段落ついた回復スキルを持つヒーラーが一人、シルヴィと倒れるエリクの元に駆け寄ってきた。彼女の名を呼びながら位置を確かめる船員が、手を振るシルヴィを見つける。
グレイスの容態を話しながら、エリクの治療に取り掛かる船員がグレイスの戦線への復帰は近いと判断したことに安心したシルヴィは、エリクを彼に任せその場を後にすると、船首へと赴く。
迫り来る敵船に戦斧を構える。その柄のは鎖が繋がれており、甲板へと垂れ下がるその鎖の反対側にはもう一つの戦斧がある。シルヴィは笑みを浮かべそれを頭上で振り回すと、初めは鎖鎌のようにして加速させると両手で回し始め、まるで棍棒でも回しているかのように扱い、踊るように身体の周りを回し更に加速させる。
辺りの風を巻き込むほどにまで強力な運動エネルギーを溜め込んだ戦斧を、ロッシュ軍で最も先頭を行くヴォルテルの乗る船へと投げる。低い体勢から放たれたそれは、海面スレスレを飛んでいき船の前で浮上する。
「へッ!そんな攻撃が・・・食らうかよッ!」
ヴォルテルが船首で盾を展開し前方に構えると、前進する船の前に彼の盾と同じように巨大な盾が出現すると、シルヴィの戦斧を弾き落とした。盾は役割を果たすとその幻影を消し、ヴォルテルは良き好敵手を見つけたといった様子で笑う。
だが、ロッシュは彼のそんな思いを知ってか知らずか、別の船を攻め落とすよう指示する。
「ヴォルテル、お前は最も武装された船を狙え。同じ手を食らうつもりはないが、残弾が残っていないとも限らない。その前に根底から攻め落とせ」
「いいんですかぃ?あの船には近接クラスのくせに投擲も出来る奴が乗ってるようですぜぇ?」
そう言ってシルヴィの乗る船を指差すヴォルテルだったが、ロッシュはあくまで武装された船に彼を向かわせ、シルヴィは物量で抑えるのだという。その間ロッシュはどうするのかと尋ねると、気になることが出来たと船内の方を振り返る。
「野郎ぉ・・・ッ!俺の最大出力を防ぎやがった。何つう防御力だよッ!」
シルヴィはグレイス一味の中で、最も攻撃力の高い人物であった。その彼女の攻撃を難なく防ぐということは、単純な火力ではロッシュ軍を打ち負かすことは出来ないということだ。今の攻撃で彼女もそれを理解したのだろう。
特殊な戦い方を出来るエリクが戦闘不能な上、まだグレイスの参戦も望めない中でどう戦えばいいのか、何よりもシルヴィ達にとって一番頭を悩ませる事態とは、敵船が接近戦に持ち込もうとしていることだ。
「ルシアンの奴はどうしてんだ?アイツまでやられたってことはねぇだろうが・・・」
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