World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
212 / 1,646

枉尺直尋の心得

しおりを挟む
 外の光が届かない部屋で、聞こえて来るのはその大きな船体を動かすエンジンの音と、木材の軋む音だけ。ロッシュが何者かの手によって半ば強制的に入れられた部屋の中には、彼が送り込んだ光は既になかった。恐らくあの影によって全て消されてしまったのだろう。

 彼は身体から這い出るように生み出す光によって、その周囲の状況を確認していた。それが何の手掛かりもない真っ新な状態に戻されてしまったこの状況を脱する為、静かに腰を下ろし床に手を添える。

 音を立てないように、再度光を部屋に行き渡らせようとした時、背後の方から何かが飛んで来る気配がした。直ぐに横へ転げて避けると、そのまま床に光を送り出して行く。光は床にも這っているが、彼のからだじゅうにもいくつか這っているのが服の隙間から垣間見える。

 「無駄だぞ・・・俺にはお前の攻撃が見えている」

 ロッシュは姿の見えない相手を挑発する。だが、彼自身何者かの攻撃が見えている訳ではない。薄暗く見えづらい室内にて、死角から飛んで来る攻撃を避けれたのは、彼の身体を這う光があったからこそだった。

 彼を中心に光が這い周り始めると、何処かに潜む何者かの影を探す。ロッシュはその中から影の中に入ろうとする光を目で追って行った。何者かが潜んでいるとすれば影の中。そう踏んだロッシュは光を呑み込もうとする影の場所を特定しようとしていた。

 一つ二つと影の中に光が入って行く。そして三つ目の光が影に入り周辺を探し始めると、何かを嗅ぎ当てたかのように念入りに捜索する。その異変に気付いたロッシュは相手に気取られないように顔を向けず、視界の端に捉えながら様子を伺う。

 すると、自身の隠れる影に光が入ったことで、焦りからボロを出したのか影が濃くなりその光を呑み込もうとする。しかしまだ用心深いロッシュはまだ動かない。光が影に呑まれ始めた直後、彼は懐に隠していた投げナイフで影を穿つ。

 「そこだッ!!」

 放たれたナイフは影を射止め、その影を捉えるものだと思っていた。しかしナイフは影の中へと、底無し沼に呑み込まれるようにして入っていったのだ。

 「・・・うッ・・・!」

 一瞬、何処からか人の呻き声が聞こえた。ロッシュはその声を聞き漏らさなかった。空かさず周辺にばら撒いていた光を、声のした方へと勢い良く向かわせる。床や壁、天井などあらゆる場所から迫り来る光に対し、その声の主は姿を見せぬまま床に影の水溜りのようなものを、どんどんと拡大させて行く。

 影を取り囲む光は次々に影の中に飛び込んで行く。ずるずると呑み込まれて行く光を見てロッシュは、それまで目の前の敵に夢中で気付かなかったが、呑み込まれた光が消滅しているのではなく、離れた別の場所にいる気配を探知する。

 「ッ・・・!?反応が次々に遠くへ・・・?そうかッ!この影は呑みこみ消滅させるのではなく、何処かへ通じているのかッ!」

 影のカラクリに気付いた彼は、一瞬躊躇うも意を決して光が呑み込まれて行く影の中へ向かって走り出した。そしてあろうことか彼は、まともな神経をしているのなら決して恐ろしくて出来ないような奇行に出る。

 ロッシュは影の中に頭から飛び込んで行ったのだ。だが、常軌を逸した彼の行動には意味があり、生死のかかった戦いにおいてこの行動こそ、戦況を大きく覆す突破口となったのだ。

 「見えないところで相手を追い詰め、踏ん反り返っていられるのも今の内だ・・・。貴様に俺は見えているか!?俺に恐怖はない。戦闘においてセオリーに囚われないことこそが勝利への道なのだッ!」

 何処かへ通じる入り口があるなら、そこを通って出てくるところを相手が見ている可能性は高い。そんな中で足や身体から入ってしまえば、こちらが相手を視認するよりも先に相手に胴体を攻撃されてしまう。

 頭から移動して行くことが安全でないのは確かだが、より可能性を見出すのであればこれしかない。そう考えての行動だった。ロッシュの身体は影に当たった部分から床に沈んで行く。

 「ッ・・・!?」

 頭から勢い良く姿を現したロッシュに面食らった相手が、迎え撃つために構えていた身体を一瞬強張らせる。その刹那の時が、後手に回る筈だったロッシュに攻撃のチャンスを与えた。

 「そこだッ!!」

 何者かの気配を察したロッシュが、投げナイフを放るのと同時に相手も何かを投擲して来た。空中で投げられた物同士がぶつかり合い、甲高い金属音をその空間に響かせた。

 影を通り移動して来たロッシュの身体は宙に放り出され、重力によって落ちて行く。そこは先程の部屋よりも更に薄暗い場所であり、ハッキリと確認することは出来なかったが、迫り来る木目調の板に手や腕をついて受け身を取ると、直ぐに身体を起こし周囲を警戒する。

 如何やら彼の身体は、何処かの天井から移動してきたようで、床へと落下したのだ。見覚えのある室内に、そこが彼の海賊船内であることは直ぐに分かった。しかし、その暗さや光の反応が鈍かったことから、最初に戦っていた部屋の直ぐ下であるとは考えづらい。

 何者かの気配を探しつつ、此処が何処であるかを見渡す。エンジン音の聞こえ方がさっきの部屋よりも大きく聞こえ、他にも海を渡る波の音が鮮明に聞こえる。

 「船底部の部屋か・・・?」

 此処が何処であるか理解したところで、彼はある手掛かりを見つける。それは床に垂れた赤いドロッとした液体、血液だった。息を潜め、自身の腕や足を確認するが怪我をした覚えもなく痛みもないロッシュは、それが自分のものではないことを知り、滴る血の跡を目で追うと物陰の方へと続いていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...