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神代 コウ

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心に残る後悔

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 ローブの男が、前線に出ていたロッシュ軍の船で奮闘していたシルヴィを救出し、グレイスの元へ急いで向かっていた頃、そのグレイスを乗せた船ではある動きがあった。

 「船長が目を覚ましました!体調に異常はありません。何ヶ所か怪我をされていますが、戦闘には然程支障はないと思われます!」

 「了解。治療班は引き続き船長の回復を。狙撃班は砲撃の準備を!船長の容態に異常なしとのことだ、各班急ぎ準備に取り掛かれッ!」

 グレイス軍は、主戦力の将であるルシアンやエリク、シルヴィが不在の中での指揮系統を維持し、軍としての機能を保っていた。

 シルヴィの活躍により、ロッシュ軍の前線に出ていた二隻は大混乱。負傷者の手当てや損失した船内部の修復に追われ進軍を止めている。

 そして敵軍の大将であるロッシュを乗せた船も同様、ローブの男による襲撃を受けロッシュが海へと投げ出されそうになり、船を急停止させることに。

 戦況が一時的に穏やかになったのを見計らい、グレイス軍の一隻が前線へ向かい始める中、船長グレイスが遂に身体を動かせるまでに回復していた。

 「世話を焼かせちまったねぇ・・・ありがとよ、アンタ達!それで?戦況は今どうなっている、みんな無事かい?」

 「それが・・・」

 船員の一人が、グレイスが合流を目指し島を出発してから目覚めるまでの戦況を順々に報告していく。

 遠距離戦におけるエリクの奮闘。数で圧倒されていた戦況を見事に覆し、互角の状態にまで持ち込んだところで、ロッシュの放った小型戦闘機により戦闘不能に追いやられてしまった。

 その後、エリクの策を受け継いだルシアンが武装させた偽造船に乗り込み、敵の注意を引いて交戦中であること。

 シルヴィがグレイスを引き上げた後、敵船へ乗り込み大いに掻き乱したことで進軍を停止、及び遅延させることに成功。それにより回復班がグレイスの治療に専念することができ、当初の想定よりも早く戦線復帰出来るまでに回復させられた。

 グレイスの治療を行なっていた部屋に、同じく戦闘不能になっているエリクの姿があった。普段、前線を嫌い後方支援の役割に徹底していた彼が、その身体に複数の銃弾による負傷を抱えている様子から、心情を変えてまで仲間の為に戦おうとした彼の奮戦が伺える。

 「エリク・・・アンタそんなキャラじゃなかっただろうに・・・。よくやってくれたね、後はアタシらに任せて、ゆっくりお休み」

 そう言ってエリクの横たわるベットに赴き、そっと彼の頭を撫でるグレイス。ルシアンとシルヴィが共にどう言った状況下にあるかわからない為、無闇に敵軍への攻撃が叶わない。戦闘は接近戦になるだろうと、グレイスが次の戦闘に備えて考えを巡らせようとしたところで、敵船の動向を伺っていた船員からある報告が届く。

 「ほッ・・・報告ッ!敵船方面から、何かがこちらへ向かってきますッ!少人数用の小舟でしょうか・・・、更に速力を上げ接近中ッ!・・・あッあれはッ!」

 双眼鏡を覗くその視界に入った情報を、見たまま全て口にしていくといった様子で入る報告。だが、この状況においてロッシュの軍の者が少数でこちらに乗り込んで来るなんてことがあるだろうか。

 あるとするならば、ロッシュ本人か、余程腕に自信がある者だろう。相手側にこちらの状況がどれ程読み取られているのかは分からない。しかし、今までの戦闘からロッシュが無闇矢鱈に突撃させてくるようなタイプでないと予想したグレイスは、一度様子を見ることにし、報告を入れた船員に何を見つけたのかを問う。

 「近づかれた今、乗り込まれるのはやむを得ない。それより何を見つけた!?」

 「シッ・・・シルヴィさんですッ!それとローブを羽織った者が一人乗っています!それから乗り物ですが・・・ボード状の物の、見たことのない物に乗っています」

 シルヴィが戦線を離れ、仲間達の知らぬ何者かに連れられこちらに向かってきている。もしロッシュの者なら、シルヴィを捕らえた時点で始末するか人質にするだろう。わざわざ危険を冒してまで、単身送り届けるなどあり得ない。

 ならば一体誰が彼女を連れてこちらに向かって来るのか。グレイス軍でもロッシュ軍でもない第三勢力であるのなら、想像するに単独行動をしていたチン・シー軍の幹部ハオラン、或いはグラン・ヴァーグにて共に任務を共にしたシン達しかいない。

 「ボードが本船へ到着!シルヴィさんは意識を失っている模様!ローブの男が乗船させるよう要請してきています」

 グレイスは、その者が敵ではないという自身の感を信じ、乗船を許可する。そしてその者をここへ連れて来るよう伝えると、シルヴィとその者の到着を待った。

 暫くすると足音と共に、船員達に刃を向けられたシルヴィを抱えるローブの男が彼女の前に姿を現した。

 「グレイスッ!彼女を早く!」

 そこにはグレイスの予想していた通り、見覚えのある顔があった。だがまさかの援軍に彼女は大いに驚いた。

 「シン・・・!何故ここに・・・?アンタこれがレースの途中だってこと分かっているかい!?」

 「分かってるッ!話はハオランに聞いた。ロッシュ軍の援軍が来てマズイ状況になったと・・・。それにロロネーに不穏な動きがあった。恐らく奴はこうなることを知ってロッシュに何らかの助言か手助けをしている可能性が高い」

 ロッシュはこの島周辺に転移させられた時、相手が誰であるかを知らなかった。しかし、彼の協力者であるロロネーは、作戦が何者かによって妨害されたことを知り、一部情報を隠したまま、ロッシュに何かの準備をさせたのだった。

 つまりこの戦闘は、グレイスが望んで始めたことのように見せかけたロロネーの罠であるかもしれないということ。

 「それなら尚更だ・・・、アンタなんでこんな危険なところに・・・」

 グレイスは、この戦いにまだ何か秘密が隠されているということ知らせてくれたシンへ感謝する気持ちと共に、そんな危険を冒しレースを離れてまで来てくれた彼に対する心配の気持ちがあった。

 「アンタは俺達に、いろいろと良くしてくれただろ?もう他人なんかじゃないんだ・・・。そんなアンタに危険が迫っていると知ったら、行かない訳にはいかないだろ!・・・自分を優先して見て見ぬフリをするのは簡単だ・・・。でもそうやって俺はいつも後悔してきた。あの時こうしてたら、ああしてればって・・・。やらない後悔って言うのは、いつまでも自分の中に残るものなんだよ・・・」

 「シン・・・」

 「勿論レースを蔑ろには出来ない・・・、だから俺達が後悔しない為に俺が来た。手を貸すよ、グレイス」

 グレイスは彼の“他人ではない”と言う言葉に、思わず笑みをこぼした。

 海賊になり多くの人達と出会うことで、様々な人間の醜さや汚さを嫌と言うほど経験してきたグレイス。騙しや裏切りなんてものは日常茶飯事だった。そんな中で生きてきた彼女にとって、シンの言葉はなんと無垢で純粋な、まるで穢れを知らぬ子供のように真っ直ぐなことを、恥ずかしげもなく口にしている姿がおかしくて仕方がなかった。

 それと同時に、彼女は嬉しかったのだ。まだこんなことを言える人間がいるのかと、心が洗われるような気持ちになった。
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