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それぞれのストーリー
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息を飲む刹那の攻防を経て、暫くの間地に伏すヴォルテルの様子を伺うシルヴィとルシアン。彼らの中にあるのは、本当にこれで終わったのかという疑念だ。
瀕死の重傷を負っても尚、援軍でやって来たシルヴィとあれ程の戦闘をやってのけたのだ。ルシアンの援護がなかったら、今頃まだ戦っていたかもしれない。それどころか、ヴォルテルの一撃を貰っていたらタダでは済まなかっただろう。そこからの逆転劇も大いに想像できる。
気を張り詰めて息を殺す。辺りに聞こえるのは、船を覆う炎の盛る音のみ。男の身体はピクリとも動かず、流れ出る血液が甲板を伝いながら、ゆっくりとその範囲を拡大させていくだけ。
動く気配のないヴォルテルの様子を見て、漸く気を抜くことが出来たのかシルヴィは大きく息を吐き、思い出したかのように呼吸を再開すると、倒れているルシアンの元へ急ぎ肩を貸す。
「ったく・・・、俺に任せておけって言ったじゃねぇか・・・」
無茶をしてまでシルヴィを助けようと、援護攻撃をしたルシアンは彼女の言葉に自身の負傷のせいで心配をかけまいと、笑顔で返した。
「良い・・・腕前だったでしょ・・・?私もまだまだ現役ですよ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ・・・でも、ありがとな・・・助かったぜ。それで?他の死に損ないの野郎どもはどうした?全員脱出したのか?」
「どうでしょう・・・一応声はかけたのですが、どうなったのかは分かりません・・・」
ルシアン達がおかれていた状況を確認しながら、シンの待つボードの方へと歩いて行く二人。その間シンは彼女に言われた通り、船側にボードを着け待機していた。
シルヴィがヴォルテルと戦っている間、ただ待っているだけというのも忍びなく思い、船体に触れると影を伝いスキルを使う。影は船内へ忍び込むようにして浸食していくと、中の様子を探ろうと試みる。
しかしシンのスキルだけでは、ロッシュの光のような探索や五感の共有といった器用なことは出来ない。
そこでシンが用いたのは、現実世界で白獅から授かった“テュルプ・オーブ”と呼ばれる彼が創り出した変形する黒い球体。本来ならば現実世界の物を、WoFの世界へ持ち込むことは出来ないようだが、このアイテムはそれを可能にし、こちらの世界でシンが得た情報を現実世界にいる白獅の元へ、データとして送受信することが出来るのだという。
普段はシンの片目のデータとしてその姿を隠しているが、使用すると彼の目は黒いオーブへと変わり、カメラのような働きをする。
「これで本当に船内の様子を探ることが出来るのだろうか・・・」
疑心暗鬼になりながらも、もう片方の手でテュルプ・オーブの入った片目を覆い、真っ暗な影の中へと落とし込む。
《いつ使ってくれるのだろうと、心待にしていたところだぞ、シン。船内の様子が知りたいんだな?よしッ!俺が代わりに探ってやろう。テュルプ・オーブはそっちで視認したものをデータにして、俺の元へ送ることが出来る。・・・あぁ・・・うん、船内に彼ら以外の生体反応は無いようだ・・・》
何か引っかかるような言い方ではあったが、取り敢えずは逃げ遅れた者達はいないという報告結果に安堵する。シン達の乗って来たボードは小さい。あまりにも多くの者が居ようならどうしたものかと、胸中穏やかではなかった。
《生きていた者達の“残骸”なら幾つも見つかったがな・・・》
《残骸・・・?》
思わず聞き返すように言葉が出たが、シンの中では彼の言う“生きていた者達の残骸”の答えは既に出ていた。勿論、逃げ出せた者達もいるだろうが、“幾つも”見つかったということは、ルシアンと共にヴォルテルと戦った船員達は既に・・・。
《その・・・蘇生は可能なのか?》
シンはこの世界での疑問を彼に尋ねる。それは彼らにも起こりうることで、誰も深く追求しようとはしなかった、ゲームで言うところの所謂“戦闘不能”や“死亡”といった事柄だ。
WoFへ転移したシン達ユーザーが、この世界で命を落としたらどうなるのか。或いは白獅達のように、元の世界からシン達の言うところの現実世界へ転移した者が、現実世界で死亡したらどうなるのか。
《彼らの蘇生は不可能だ・・・。お前も薄々感づいているんじゃないのか?彼らの“死”は“イベントによる死”だ。彼らの命もまた、俺達の本来あるべき命の形と同じく、一つしかないものだ。もし蘇生が叶ってしまったら世界の流れを変え兼ねない一大事になるかもしれない・・・》
《世界の流れを変える・・・?》
白獅の言っていることはつまる所、ゲームでいうストーリーが変わってしまう事態になる可能性があるということ。そうなれば影響を受けるのは蘇生された者達だけではなくなるかもしれない。
《オンラインゲームで感じたことはないか?世界中にユーザーがいて、同じストーリー、同じイベントを重複して行なっているということを。要するに、村人にモンスター討伐を頼まれたユーザーがそのクエストを完了するが、他のユーザーがその村人の元へ向かえば、再び同じモンスター討伐を頼むということだ》
《彼らの死も、そのストーリーの一部だと?》
《ユーザーの一人一人に、そのレースというイベントクエストがあり、お前達は協力してそのクエストに挑んでいるということだ。いいか?今は深く考えるな。迷って真面に戦えなくなったでは、救える命も救えんだろ》
白獅の言葉に本来の目的を思い出すシン。船内の状況を確認し終えると、彼との通信を終了しテュルプ・オーブを覆っていた手を離す。
そしてシンの目が普段の物へと戻る。丁度通信を終えた頃、甲板の方でシルヴィの呼ぶ声がする。無事ルシアンを救出すると、三人は炎上し崩壊し始める囮船を離れ、グレイスの元へ戻って行く。
「なぁ、シン。待ってる間、他の船員達を見なかったか?声はかけたみてぇなんだが・・・」
「船内に人の気配はなかったよ。俺のスキルで中の様子を探ったけど、もう・・・いなかった・・・」
「おぅ、そうか・・・。んじゃぁみんな脱出できたんじゃねぇか?俺達もとっととズラかるぜッ!」
明るく前向きに振る舞うシルヴィに、シンは本当のことを話すことが出来なかった。
瀕死の重傷を負っても尚、援軍でやって来たシルヴィとあれ程の戦闘をやってのけたのだ。ルシアンの援護がなかったら、今頃まだ戦っていたかもしれない。それどころか、ヴォルテルの一撃を貰っていたらタダでは済まなかっただろう。そこからの逆転劇も大いに想像できる。
気を張り詰めて息を殺す。辺りに聞こえるのは、船を覆う炎の盛る音のみ。男の身体はピクリとも動かず、流れ出る血液が甲板を伝いながら、ゆっくりとその範囲を拡大させていくだけ。
動く気配のないヴォルテルの様子を見て、漸く気を抜くことが出来たのかシルヴィは大きく息を吐き、思い出したかのように呼吸を再開すると、倒れているルシアンの元へ急ぎ肩を貸す。
「ったく・・・、俺に任せておけって言ったじゃねぇか・・・」
無茶をしてまでシルヴィを助けようと、援護攻撃をしたルシアンは彼女の言葉に自身の負傷のせいで心配をかけまいと、笑顔で返した。
「良い・・・腕前だったでしょ・・・?私もまだまだ現役ですよ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ・・・でも、ありがとな・・・助かったぜ。それで?他の死に損ないの野郎どもはどうした?全員脱出したのか?」
「どうでしょう・・・一応声はかけたのですが、どうなったのかは分かりません・・・」
ルシアン達がおかれていた状況を確認しながら、シンの待つボードの方へと歩いて行く二人。その間シンは彼女に言われた通り、船側にボードを着け待機していた。
シルヴィがヴォルテルと戦っている間、ただ待っているだけというのも忍びなく思い、船体に触れると影を伝いスキルを使う。影は船内へ忍び込むようにして浸食していくと、中の様子を探ろうと試みる。
しかしシンのスキルだけでは、ロッシュの光のような探索や五感の共有といった器用なことは出来ない。
そこでシンが用いたのは、現実世界で白獅から授かった“テュルプ・オーブ”と呼ばれる彼が創り出した変形する黒い球体。本来ならば現実世界の物を、WoFの世界へ持ち込むことは出来ないようだが、このアイテムはそれを可能にし、こちらの世界でシンが得た情報を現実世界にいる白獅の元へ、データとして送受信することが出来るのだという。
普段はシンの片目のデータとしてその姿を隠しているが、使用すると彼の目は黒いオーブへと変わり、カメラのような働きをする。
「これで本当に船内の様子を探ることが出来るのだろうか・・・」
疑心暗鬼になりながらも、もう片方の手でテュルプ・オーブの入った片目を覆い、真っ暗な影の中へと落とし込む。
《いつ使ってくれるのだろうと、心待にしていたところだぞ、シン。船内の様子が知りたいんだな?よしッ!俺が代わりに探ってやろう。テュルプ・オーブはそっちで視認したものをデータにして、俺の元へ送ることが出来る。・・・あぁ・・・うん、船内に彼ら以外の生体反応は無いようだ・・・》
何か引っかかるような言い方ではあったが、取り敢えずは逃げ遅れた者達はいないという報告結果に安堵する。シン達の乗って来たボードは小さい。あまりにも多くの者が居ようならどうしたものかと、胸中穏やかではなかった。
《生きていた者達の“残骸”なら幾つも見つかったがな・・・》
《残骸・・・?》
思わず聞き返すように言葉が出たが、シンの中では彼の言う“生きていた者達の残骸”の答えは既に出ていた。勿論、逃げ出せた者達もいるだろうが、“幾つも”見つかったということは、ルシアンと共にヴォルテルと戦った船員達は既に・・・。
《その・・・蘇生は可能なのか?》
シンはこの世界での疑問を彼に尋ねる。それは彼らにも起こりうることで、誰も深く追求しようとはしなかった、ゲームで言うところの所謂“戦闘不能”や“死亡”といった事柄だ。
WoFへ転移したシン達ユーザーが、この世界で命を落としたらどうなるのか。或いは白獅達のように、元の世界からシン達の言うところの現実世界へ転移した者が、現実世界で死亡したらどうなるのか。
《彼らの蘇生は不可能だ・・・。お前も薄々感づいているんじゃないのか?彼らの“死”は“イベントによる死”だ。彼らの命もまた、俺達の本来あるべき命の形と同じく、一つしかないものだ。もし蘇生が叶ってしまったら世界の流れを変え兼ねない一大事になるかもしれない・・・》
《世界の流れを変える・・・?》
白獅の言っていることはつまる所、ゲームでいうストーリーが変わってしまう事態になる可能性があるということ。そうなれば影響を受けるのは蘇生された者達だけではなくなるかもしれない。
《オンラインゲームで感じたことはないか?世界中にユーザーがいて、同じストーリー、同じイベントを重複して行なっているということを。要するに、村人にモンスター討伐を頼まれたユーザーがそのクエストを完了するが、他のユーザーがその村人の元へ向かえば、再び同じモンスター討伐を頼むということだ》
《彼らの死も、そのストーリーの一部だと?》
《ユーザーの一人一人に、そのレースというイベントクエストがあり、お前達は協力してそのクエストに挑んでいるということだ。いいか?今は深く考えるな。迷って真面に戦えなくなったでは、救える命も救えんだろ》
白獅の言葉に本来の目的を思い出すシン。船内の状況を確認し終えると、彼との通信を終了しテュルプ・オーブを覆っていた手を離す。
そしてシンの目が普段の物へと戻る。丁度通信を終えた頃、甲板の方でシルヴィの呼ぶ声がする。無事ルシアンを救出すると、三人は炎上し崩壊し始める囮船を離れ、グレイスの元へ戻って行く。
「なぁ、シン。待ってる間、他の船員達を見なかったか?声はかけたみてぇなんだが・・・」
「船内に人の気配はなかったよ。俺のスキルで中の様子を探ったけど、もう・・・いなかった・・・」
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